第46話 転移の先には……

 眩しかった光もだんだんと落ち着き周囲が見えるようになってきた。

 さっきと同じような部屋だった。一瞬、転移に失敗したかと思ったけど……部屋の中に明らかに違う部分があるのでどうやら転移は成功したみたい。


 「成功……だね」

 「ああ。そうだな」

 「それよりアレ……」

 「うん」


ピコン!

 《ワールドニュース:初めて転移陣が使用されました。これにより転移陣を開放します》


ピコン!

 〈条件を満たしたため称号が付与されました〉



 「おっ!称号だってよ!」

 「わーい」


 今回ゲットした称号は……


*****


 称号:転移陣を初めて使用した者

 効果:スキルポイント+3、転移陣使用時のMP消費が10%カットされる。

 取得条件:転移陣を全プレイヤーの中で初めて使用すること。


*****


 「ふーん……これまた長い称号だなー」

 「だね。初回限りっぽいからリリーに教えてもらってラッキーだったね」

 「えへへ」


 どうやら今回開放された転移陣というものが運営主催の販売所(これは前からあった)に開放されたらしく、今のところは自分の拠点に設置できるものが買えるとのこと。うん、早速アリッサが調べて教えてくれたの。


 「こりゃ便利だよなー」

 「うん」

 「後でメンバーと相談して購入しよ」

 「だなー」


 街々に拠点があれば転移陣で移動が簡単にできるらしいけど、転移陣はかなり価格が高いみたい……まー、わたしには関係なさそうだね。


 「さて、アレどう思う?」

 「アレねぇ……」

 「んー……ゲートキーパーとか?」

 「おー、それっぽいよな」


 警戒して観察していたら案山子さんがぴょんぴょんと近づいていってしまった。


 「あっ、案山子さん待って!」

 「リリー、ウゴイテルヨ」

 「「「「「「えっ」」」」」」


 てっきり朽ち果てているのかと思っていただけに驚きだ。そろーりと近づいて


 「えっと……こんにちは」

 「…………」

 

 反応がないなー?


 「……ガガ……我ハ門番」

 「おー、喋った」

 「……ヨウコ、ソ……ガガ……機械島アミュライトへ」

 「機械島アミュライト?聞いたことないな?」

 「うん。もしかして、新しいフィールドってこと?」

 「まじか!わくわくすんなー」

 

 おお、みんな興奮してロボット?を取り囲んだ。


 「我ハ、ST-1453」

 「マシンナリーですか?」

 「……ガガ、ソウダ」

 「おおー、やっぱいるんだなー」


 マシンナリー?あ、ロボットのことそういうのかー。


 「わたしはリリーです」

 「ボクハ、カカシイチゴウダヨ」

 「……ガガ、オマエ……クリスタル持ッテイルナ」

 「な、なんでクリスタルのこと知ってるのっ!」

 「「「「「「クリスタル?」」」」」」

 「ねぇ、リリー……クリスタルって何のこと?」

 「あれ、言ってなかったけ?前に向こうの転移陣のそばで至誠のクリスタルっていうのを拾ってね」

 「ガガ……至誠ノクリスタル……」

 「案山子さんのコアにはめる穴があったから入れてみたら案山子さん、喋れるようになったんだよー」

 「ソウダヨ、リリーノオカゲ」

 「「「「「「へー」」」」」」

 「これ、リリーやっちまったパターンじゃね?」

 「たしかに……」

 「今からその事実を知るわけね」

 「どうすんだろーな?」


 あれ?なんかマシンナリーさんの様子が……


 「ソレ、我ノクリスタル……」

 「えっ?」

 「エッ、ソウダッタノ……ゴメンネ」

 「どうしよう……」

 「きっと本来はこのマシンナリーに使わせたかったんだろうな」

 「だよね」


 みんなの視線が冷たいよー……


 「……ガガ……ツケテシマッタナラ仕方ガナイ。ソレヲ外サレルノハ苦痛デシカナイカラナ」

 「どういうことですか?痛いってこと?」

 「ソウ、デハナイ……ガガ……」


 こうしてマシンナリーさんが語り出した……


 かつて、この機械島はたくさんの街と交流のある平穏な国だった。

 しかし、人々との寿命の違いからか徐々に交流が減っていった。

 それでも長命の種族と交流したり、こっそりとかつての友人の子孫の様子を見ていたそうだ……

 きっかけはとあるマシンナリーがある少女に恋したことだという。

 なぜ、マシンナリーに感情があるかといえばすべてはクリスタルのおかげだという。至誠のクリスタル、叡智のクリスタルとあり、それを生命のコアへはめ込むことで成り立っていたらしい。

 生命のコアには3つはめ込む穴があり、叡智のクリスタルを3つはめ込んだ頭脳派や至誠のクリスタルを入れたマシンナリーらしくない個体や宝珠と呼ばれる宝石を差し込み処理能力を上げたり、生命のコアの研究をしてクリスタルの穴を増やそうとしていた者など、ひと口にマシンナリーといっても様々で個性的な者も多かったそう。


 しかし、その恋は寿命の差により悲恋として終わってしまった。

 そのマシンナリーは至誠のクリスタルを3つはめ込んだ心優しい者だった……が、彼女を失った喪失感で壊れてしまったのだという。

 そして、言い出したのだ。至誠のクリスタルなんかがあるからだって……そこに元からいた過激派が入り込み、それからはあっという間だったという。


 「仲間ダト思ッテイタヤツラに無理矢理クリスタルヲ抜カレ、抵抗シタガ……破壊サレタ」

 「そんなっ」

 「ひどいな……」

 「彼ラハスデニ……クリスタルヲ抜カレ、命令二従ッテイタダケダッタ……ガガ……我モ破壊サレナケレバ……同ジ運命ダッタハズ」


 役に立たないと思われて転移陣の場を封鎖した時放置されていたらしい。

 

 「他ノモノタチハドウシテイル、カワカラナイ……ガガ……我ハ長イ間ココ二閉ジ、込メラレテイル……パーツガ足リナイカラ動ケナイノダ……」


 そして、さっきの苦痛っていうのは感情があった頃の記憶もあるのでクリスタルを諦めきれないからなんだって……


 「チカラヲ貸シテホシイ……ガガ……至誠ノクリスタルヲ探シテ」

 「わたしにできることなら……」

 「俺たちも!な!」

 「「「「「もちろん!」」」」」


ピコン!

 《ワールドニュース:ゲリライベント開催のお知らせ。本日リアル時間の夜8:00スタートです!詳細はウィンドウをご覧ください》


 「ゲリライベントって?」

 「事前予告がない、もしくは短時間の予告しかないイベントだよ!」

 「へー、そうなんだ?」

 「多分、俺たちがトリガーだな」

 「ああ、イベントの詳細もそれっぽいぞ」



 ウインドウのイベントの詳細はこうだった。


*****


 ゲリライベント

 内容:今回のイベントは探索型です。転移先のフィールドに散らばるクリスタルやコアを集めよう!クリスタルは1ポイント、コアは3ポイントとして集計されイベント終了後スキルや装備品などに交換出来ます。さらに上位入賞者には特典もあるので頑張ってください。

 期間はゲーム内で1日、スタートはリアル時間の夜8:00です。


*****


 「おー、まさしく今から探そうと思ってたやつ……」

 「だね……なんてタイミング……まるで見てたみたいね」

 「たしかに」

 「だね~」

 「このゲリライベントって案山子さんは参加できるのかな?」


ピコン!

 〈残念ながらNPCは参加できません〉


 「なんか、案山子さんは参加できないってお知らせが来たんだけど」

 「リリー、マジで見張られてるじゃん」

 「えへ」


 リアル時間の夜8:00スタートなのは、イベントがスタートしてから1度ログアウトしたら参加できなくなるのでログイン制限などで強制ログアウトされないように時間を指定したらしい。優しい運営さん。そしてゲーム内時間1日と言ってもログイン制限ギリギリってわけじゃなくて多少余裕を持って終了予定なんだって……イベントが始まれば残り時間がウィンドウ上に表示されるらしいので安心だね。

 まー、わたしは徹夜ですねー。

 クリスタルたくさん集めなくちゃいけないし、余ったらルミエルさんに献上しなきゃだし、案山子さんにも使いたいしねー。わーい、夏休みでよかったー!


 以前にもゲリライベント自体はあったらしいので他のメンバーに動揺はない。

 プレイヤーの中でも参加できたらラッキーらしい……もちろん文句を言うプレイヤーもいるけど通常イベントより上位入賞の可能性が上がることもありそこまで問題になっていないんだって。


 「クリスタル集めて戻ってくるので待っててくださいね!」

 「有難ウ……」

 「じゃ、一旦戻ってイベントの準備するかー」

 「だね」

 「あれ、これって帰りもMP消費するのかな?」

 「ん?俺たち全員が称号持ってたらどうなるんだ?」

 「MP消費200の10%カットだからMPが180消費されるか……」

 「全員が称号持ってたらMP消費60で済むのか……ってこと?」


 後は可能性としてはMP消費95ってのもあるらしい……よくわかんないけど。シュウやアリッサが言うんだからそうなんだろう……


 「ま、やってみればいいんじゃね?」

 「ええ」

 「だね~」

 「そうだな」


 結果、MP消費60で転移できましたよ……うん、称号ばんざーい。

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