第32話 運営
とある会社の一室にて……
「お、新たなステージが開放されましたよー」
「まじかー……まさかこの方法でクエストクリアするとはなー」
「ですね……山本さんせっかくゾロ目で用意してたのに」
そうだ……ゾロ目好きは俺だったりする。天籟の鐘を鳴らす以外にも次のステージの解放方法はあったが、まさかこれをやり遂げるとは。最前の街にいてモンスターを倒したことがないなんてほとんど無理なクエストだったはずなんだが。
せっかく俺がゾロ目でクエストクリア用意したのに……不発に終わっちまった。
「佐藤、まぁゾロ目はこれだけじゃないからな!安心しろ」
「はぁ……そういえばこのプレイヤーってあの子じゃないですか?ほら、遅咲きのラッキースター」
「ああ……あのプレイヤーか」
「はい、このクエストもそうですけど……まさか称号があるからってあのNPCにたどり着くとは思いませんでしたよ」
「まじっすよね!確率めっちゃ低いじゃないっすか」
そうなのだ。農家見習いは土地と小屋がゲットできるとはいえ、管理AIにより運やステータスを元にランダム配置するのだが大抵の場合、はじまりの街のどこかでスタートだ。それ以外の街や村、集落スタートの確率はかなり低い上にあのNPCへの元へたどり着く確率はさらに低く設定されていたはず。しかもあのNPCたちは本来なら好感度をじわじわとあげなければ相手にもしてくれない最難関NPCなのだが……簡単にクリアしてしまったようだ。しっかりログも確認したし、バグや不正行為もなかったんだけどな。
「まぁ、さすが福引でゲットできるだけのリアルラック持ちってことすかねー」
「あ、山本さんやばいです。このままだと田中が暴走します」
「なんだ、佐藤。どうした?」
「ラッキースターちゃん、その後どうするのかなーってモニタリングしてたら……転移陣のそばに落ちてた至誠のクリスタル拾ったまではいいんですけど……案山子に使われました」
ラッキースターちゃん?……ああ、称号か。
「なんだって?」
「しかも、ラッキースターちゃん地下から脱出するのに死に戻りを選んでるじゃないっすか!おもしれー」
「ん?確か脱出方法はちゃんと用意してあったよな?」
「はい。転移陣を使うか地下道を進むか、落ちた穴の地面に手で触れれば地面から階段が出現するはずですが……」
「バグは?」
「ありません」
「単純に薄暗くて見逃したんじゃないすか?」
「鈴木、調整してもう少しわかりやすくしておいてくれ」
「りょーかいっす!」
はぁ、万が一にも最難関NPCと仲良くなり更にクリスタルを拾うプレイヤーが現れるなんてあり得ないと高をくくっていたが見事に予想が外れちまった。
これじゃあ、あいつがせっかく用意したものが無駄になるじゃないか……噂をすれば扉が音を立てて開いた。
バーン!
「うわあぁぁ……案山子さんにはちゃんと別の用意してたのにー。わたしがスレパトロールしてる間になんてことを!あっ、でもこのプレイヤーって案山子さんに優しい良い人じゃないですかー。むむー……」
こいつはとあるところで有名な下っ端運営だ。具体的には情報をポロッと漏らしちまうって有名な……
クリスタルを使われたことに怒ればいいのか、丹精込めて作り上げた案山子に使われて喜べばいいのか葛藤中のところ悪いが
「田中……なんとかなりそうか?」
「うぅー……どうしましょう」
迷いの案山子、心のないマシンナリー、気弱な獅子の獣人……これはそうだ。あの物語風のNPCだ。ただ、商標など諸々あるのであくまで風だ。気付かれず進行しない可能性の方が高い隠し要素だ。これはあの物語が大好きな田中の熱意で実現にこぎつけた過去がある。
一応、そのNPCが揃えばイベントが起こるようにしてはあるが、初っ端からこれじゃ上手くいかないかもなー。
「これ、どーすんだ……」
「山本さん、助けてくださいよー」
「はぁー、田中。お前他のキャラを諦める気は……」
「ないです!せっかく部長にお願いしまくって許可を得たんですよ!」
食い気味だな……
「はぁ……」
「あー、あの時の田中はやばかったよね……」
「そうっすねー、部長も引いてましたからね」
「しかも、結構ギリギリの日数しかなかったですもんね」
ま、この会社はクセのあるやつが多いから部長もそこまで驚いてはなかっただろうけどな……許可をもらってからやる気ですべてをこなした田中もすごかったな。多少はチームで手伝ったけどな。
「はぁ……獅子はそのままでも問題ないな?」
「はい!マシンナリーが大問題ですけどっ!」
「さすがにマシンナリーに脳みそは必要ないし……かといってクリスタルは二番煎じ感があるよな」
「ですですっ!」
田中、お前丸投げしないで少しは考えてくれよ……
「いっそ壊れかけたマシンナリーにして、その部品を探してもらうってことにするか?」
「うーん、でもラッキースターちゃん何するかわからないですよね?間に合います?」
「そりゃ、佐藤と鈴木が手伝ってくれるらしいからな」
「「はぁ!?」」
「ま、昼飯おごるから頼むわ。俺も手伝うし」
「お願いしますっ!」
「……はぁ、わかりましたよ」
「わかったっす!でも、さっきも働いたんで、昼飯は高級焼肉でお願いするっす!」
昼飯代が高くつきそうだな……
ま、このラッキースターちゃんがこの先マシンナリーや獅子に会うとも限らないが、念のため時々動向はチェックしとくかー。
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