第19話 初収穫


 いつも通り水などの準備を済ませログイン……


 ちなみに学校で茉由ちゃんに方向音痴の称号を報告したら爆笑された。これは狙って取得できるものではないらしい。茉由ちゃんは昨日の電話の後、無事挑戦者の称号を手に入れたとのこと。うん、称号よりもスキルポイントゲットに喜んでたよねー……


 アイテムボックスから麦わら帽子と軍手を出し身につけ畑に出る。


 「……あれ?案山子さん移動してない?」

 「ああ、それはの収穫間近になると鳥が狙うじゃろ?作物を守るために勝手に移動するんじゃ」


 わっ、グランツさんいつのまに……


 「へー……すごいなぁ」

 「うむ、収穫時期もわかるし便利だぞ?」

 「ほー……案山子さん!わたしの畑も収穫時期になったらお願いしますね!」

 「……案山子に話しかけるとは面白いの」

 「え、グランツさんは話しかけないんですか?」


 案山子さん、こんなに手伝ってくれてるのに……じー


 「うむ……ご苦労」


 グランツさんはそう言うと倉庫から古びた麦わら帽子を持ってきて案山子さんにかぶせた。


 「わたしとお揃いだねー……グランツさん、これで暑い日も大丈夫ですね!」

 「……あ、ああ」


 心なしか案山子さんも嬉しそうな気がする。


 「そうじゃ。リリーが水をやった畑もそろそろ収穫できる頃じゃ。手伝ってみるかの?」

 「はい!ぜひ!」


 グランツさんに教えてもらいながら丁寧ににんじんときゅうりを収穫する。ほんとは朝早く収穫するみたいなんだけど、グランツさん口には出さないけどわたしのこと待っててくれたみたい。頑張って収穫しないと!

 ゲームだけあって、しっかりと世話をすれば時期に関係なく収穫できるみたい。ただし、旬の時期でないものは少し品質が落ちるんだって。


 無事に収穫が終わると案山子さんはすでに違う場所へ移動していた……あれ、わたしの畑の近くだ。


 「ん?でもまだ収穫できるようなものないはずだけど……」

 「うむ、もしかしたら案山子はリリーのことを気に入ったのかもしれんな……この案山子は製作者がこだわって作ったらしく、他の案山子はこれのコピー品ぐらいに性能が違うらしい。わしはあまり違いを感じんのだがなぁ。わしらにも知らない何かがあるのかもしれないの……」

 「ほぇー……」


 案山子さんを観察してみる……うーん、体や顔は木と藁でできてて、手を広げた1本足。服も着てるし、顔もある。

 わたしにも2号さんや3号さんとの違いはよくわからないなー。あっ、着てる服は違う。あと、3号さんは女の子の服を着てるってくらいかな。


 「リリー、収穫を手伝ってくれたから野菜を分けてやろう」

 「いいんですか?」

 「うむ、そのまま食べるなり農業ギルドに売るなり好きにしたらいい」

 「……農業ギルドに売るって?」

 「ん?知らんのか?農業ギルドに持っていけば買い取りもしてくれるしクエストを受ければ中には追加報酬がもらえるものもあるぞ?わしは今から納品に行くんじゃが、リリーも行くか?」


 クエストかぁ……グランツさんについていけば勉強になりそう。


 「はい!一緒に行きますっ!」


 グランツさんが荷台に野菜を積み込むのを手伝い、農業ギルドへ向かう……グランツさんたちはアイテムボックスは使えないみたい。

 でも、マジックバッグっていうものは存在してて、レア度や品質によって容量は違うけどアイテムボックスとほぼ同じように使えるらしい。中身の時間経過はレア度によるみたい。

 グランツさんもマジックバッグを持ってはいるけど、時間経過するから筋トレも兼ねて荷車を引いているんだって……だからムキムキなのかー。


 「グランツさん、農業ギルドってこの前もらった地図に載ってない道からも行けたりしますか?」

 「うむ、距離的にはたいして変わらん抜け道ならあるにはあるが……たいして変わらんから皆大通りを通るんじゃ」

 「そうなんですね。実は地図スキルを手に入れたんです……迷子防止に」


 迷子防止にっていうか……迷子になったから手に入れることのできたスキルですけどねー。


 「そうか、それで地図に載ってない場所を歩いて覚えたいということじゃな?」

 「はい……お願いしてもいいですか?」

 「うむ、構わんぞ」

 「ありがとうございますっ!」


 バーバラさんに見送られ、グランツさんと話しながら歩いていたらあっという間に農業ギルドに到着した。

 グランツさんと通った道は抜け道だけあって細い路地を進んだんだけど……これわたし1人なら絶対に避けるような道だったからすごくありがたい。

 地図も埋められたし、迷子にもならなかったしグランツさん様々だね!

 この方法いいなー……今度、茉由ちゃんと会えたら路地だけでもお願いしてみよーかな?


 「リリー、こっちじゃ」

 「はい!」


 グランツさんとともに農業ギルドへ入ると手の空いている職員の方々が一斉にグランツさんの元へやってきた……なにごと?


 「「「グランツさんっ!」」」

 「なんじゃ、騒々しい」

 「申し訳ありません。ギルマス……」


 奥からやってきたのはタンクトップのむきむきのおじさんだ。長靴を履いてるから農業ギルドの人だとは思う……多分。


 「わしはもうギルマスじゃないぞ。お主が継いだだろうが」

 「そうですけど……私にとってギルマスはグランツさんなので。ところで……」

 「うむ、こやつはわしの弟子のリリーじゃ」

 「「「弟子っ!?」」」


 ん?……グランツさんがギルマス?いや、今はこのおじさんがギルマスだから元ギルマス?グランツさん、そんなすごい人だったの?

 

 「ギルマスが弟子……」

 「グランツさん、弟子は取らないんじゃ……」

 「ちがうわ、以前は弟子がいたのよ。でもそいつがグランツさんのノウハウを他に売ろうとした奴、野菜を盗もうとして案山子に吹き飛ばされた奴もいたわね……」

 「それで一切受け付けなくなったのか……」

 「 ギルマスが弟子……」

 「あの、ディランさんが固まってますけど」

 「ああ、ギルマスはグランツさんに憧れてるから……ほんとは弟子になりたかったんでしょうね。私がグランツさんの紹介状を持った子が来ましたって報告したのに信じなかったぐらいだから」

 「「「ああ……ギルマスならあり得ますね」」」



 なんか、騒がしいような……あれ、なんでみんなの視線が私に注目してるのっ!?


 「ほれ、リリー……挨拶」

 「あ、はい!はじめましてリリーです。農家見習いです」

 「……農業ギルドのギルマスをしている。ディランだ」

 「よろしくお願いします」

 「あ、ああ……」

 「……ってかグランツさんて元ギルマスなんですかっ?」

 「うむ、そうじゃ。今はしがない老人に過ぎんわ」


 いやー、周りの皆さん首を横に振ってますけど……


 「ディラン、わしは納品に来たんじゃが?」

 「そうですか……こちらへどうぞ」

 「リリー……帰りは1人で平気か?わしは長引きそうじゃ」

 「はい、大丈夫です!」

 「ではまた後での」

 「はい!」

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