017・後編—異変の可能性

 学校から煙が立ち上る。これは一般に見て普通じゃない。

 自然じゃなくて、通常じゃない。

 不自然で、非常だ。

 常では無く、無常だ。

 非常で、無常で、異常だ。


 それは一般からかけ離れているうちの学校とて例外ではない。たしかに、珍しくはあるが爆発や炎を扱う特異者も居る、が、そもそも午前中に能力を使うようなことは無いし、もしあってもそんな火事みたいな事になる前に教師たちがそんなの速攻で消してしまう。


 その事実は、その実績は、あそこで起きていることが只のボヤ騒ぎではないという事を表している。ただのボヤ騒ぎだと思えたらどれだけよかっただろうか。

 そうでないということは、可能性はかなり絞られる。


 一つ、教師同士の喧嘩。

 二つ、教師の不在。

 三つ、テロの発生。


 一つ目に関してはありえなくはないが、あれで越えてはいけない一線は分かっている大人……だろうから、可能性は低い。

 二つ目は可能性として挙げたがまずないだろう。絶対に教師が最低でも五人常駐している学校だからな。

 そして最後の三つ目。考えたくはないがこれが一番可能性が高い。学校が襲撃にあった可能性。だが、あの狂人きょうし達に対処しながらテロを行う奴らが居るとかあんまり考えたくない。つまりもう何も考えたくない。


 いや、待てやっぱりあの黒煙は生徒や教師によるものかもしれない。襲撃者テロリストに対応した……。やっぱりテロじゃないかあ!

 どう考えてもテロにしか行きつかない。


 ドンッ!

 腹に響く轟音の後、立ち上る黒煙が増えた。


 「だあ! もうっ!」


 また一段階スピードを上げる。

 こんな自分の性格を恨む。

 今ならまだ戻れるというのに。それでも、あそこに青華や韓や筋太郎達が居ると思うと、不思議とやはり後ろの方へは足は動かない。


 目の前の角を曲がると海に挟まれた一本の道が学校まで伸びている。

 幅約二十五メートル、長さ五百メートルくらいの鉄橋。

 後はこれを突っ切れば校門に到着だ。


 しかし、このまま正面から行ってもいいものだろうか。もしも、もしも! 本当にテロリストに襲撃されていた場合、正面から突っ込むのは愚策だろう。

 が、残念なことに入り口は正面の一つしかない。真っすぐツッコむしかないのだ。


 急ぐ、急ぐ。

 急ぐが、スピードはだんだんと落としていく。飛ぶから跳ぶへ。跳ぶから走るへ。


 まあ、速すぎると急に止まれないからな。そして、なにやら—————

 目の前に明らかに突っ込んじゃあいけないタイプの人間が見えるんだよなあ。

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