013・後編―話はどこで聞かれているか分からない
謎のゴスロリ少女がパンダの揺れる奴に乗って揺れながら何かカッコイイ事を言っていた。
スプリング遊具っていうんだっけ。あれ。
「……いや、なんでそれに乗ってんの?」
「なんとなく、かな」
なんとなくって、それのせいで一気に緊張感がなくなったんだけど。
あれじゃ、まるで子供みたいだ。
「これロッキング遊具っていうんだよ」
「いや、それの名称はどうでもいいんだよ。それより、昨日の返答って……」
「もちろん。『君はケバブになりたいかい』という問いに対する答えだよ」
「そんな質問じゃ無かっただろうが!」
どこから聞いていたんだ。会話筒抜けじゃん。恥ずかしい。
瞬間、アハハと笑いながら揺れているメデスが急に跳び、さっきまでメデスが乗っていたパンダが凍りついた。
「パ、パンダさんっ⁈」
「鈴人! あいつは危険よ!」
メデスの圧力にようやく慣れて(もしかしたら今の会話で緊張が解けたのかもしれない)動けるようになった青華は問答無用でメデスに攻撃を仕掛けていた。
あのパンダさんどうすんだよ。
「いきなり攻撃なんて酷いなあ。乱暴は嫌いだよ。それに僕はそんなことをする為にわざわざ出てきて、ここで待ってた訳じゃないんだよ?」
「昨日、殺し合いをしろなんていう奴の言い草とは思えないな」
やっぱり待ち伏せかよ。待ち伏せてここに居たのにどうやってケバブの話を聞いたのかは気になるがそんなことを聞ける雰囲気じゃ無くなってしまった。
メデスから先程の体感にしておよそ倍以上の霊力による圧を感じる。それによって、また青華は動けなくなってしまった。
――乱暴は嫌い―――メデスは確かにそう言ったのだ。昨日に殺し合いをしろと何でもないかのように言った、メデスが。そう、言ったのだ。
「うん、確かに僕は殺し合うように言った。でも別にそうしなくても良いんだ。やりたくないならやらなくていい。僕は参加するかしないかを聞きに出てきたんだから」
「そうか、なら――」
「別にやりたくないならやらなきゃいい。ただし、君は確実に殺されるけどね」
「――何?」
殺される、だって?
死ぬ、じゃなくて殺される。
それはつまり勝手に死ぬのではなくて、誰かに、人に、明確な、明らかな、確固たる殺意を持って殺されて、死ぬ。ということか。
「だってそうだろ? 誰だって敵が増えるのは嫌だし、最初は参加してなくても後から参加してくるかもしれない」
「じゃあ」
どうすれば、という俺の言葉は出てこなかった。
言わなくていい、とメデスは手で御している。
「殺されたくなければ、戦争に参加するしかない。逆に言えば参加すれば、殺されないかもしれないんだよ」
ここでやはり、俺はまた訳が分からなくなった。戦争に参加しないよりも参加した方が死なないって?
どういうことだ。
「君が一言、力が欲しいと言えば、僕が君の素質を、力を目覚めさせてあげる。まあ覚醒する力なんて王権の力に比べたら、世界から見たデュルビュイみたいなものだけど」
……なぜここでいらん小ボケを挟む。なんでシリアス壊しに来てんだよ。世界一小さな村なんて誰も知らねえよ。
が、敢えてツッコまない。
ツッコんだら本当にシリアスが壊れる。
「いくら小さくても人としては大きい、大きすぎる力だからね。簡単に殺されることはないさ」
「参加すれば、殺されないのか?」
「さあ、それは暮木鈴人君、君次第だよ。さて、どうする?今日は返事を貰いに出てきたんだけど別に返事は今じゃなくてもいい」
「……いや、今答えるよ」
「へえ」
いくら俺だって死にたい訳じゃない。やらなきゃ殺されるってんだったら、精々足掻いてやろうじゃないか。
と、意気込んだところで、またも俺が次の言葉を紡ぐことは無かった。
今度はメデスじゃない。青華だ。青華は俺を手で御して――なんて優しい方法ではなく、俺の脚を氷漬けにすることで止めたのだ。
「私を他所に勝手に話を進めないでもらえるかしら」
「青華。これ溶かしてくんない?」
「わあ、君はもう喋れないと思ってたんだけど、意外と肝が据わってるね。評価高いよ。プラス10点」
話を続けるんじゃない。
早く溶かしてもらわないと、そろそろ脚の感覚が無くなってくる頃だ。
「あんたはもっとよく考えてから発言しなさい。そんな怪しい話もっと余裕をもってしっかりと考えてから返事をするのよ」
「はい。まったくもってその通りなのですが、先にこの氷を溶かしてもらってもいいですか?」
「アハハハハ!その子の言うとおりだね。もっと用心深さを身に着けるべきだ。もっとよくあいてを観察しなきゃ」
こいつ……!ワザと話に入って俺の苦しみを楽しんでやがる。
性格悪っ!
「それじゃあ、その子の意見を尊重して今日は退散するよ。暮木鈴人君、君が呼べば僕はいつだって出てくるからね。もっとよく考えたら返事を頂戴。君が殺されるまで待ってるから」
「おい、ちょっと待て!」
こちらの静止の声を無視して消えていくメデスの表情は楽しそうに笑っていたのだった。
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