013・前編―関係
さて、突然ではあるが、ここで俺と青華の関係についてハッキリとさせておきたいと思う。果たしてそんな話に興味があるような人がいるかはさて置いて、お付き合い願いたい。
そもそもが一言でいえば霧島さんにも言った通り『友人』なのだが、もしかしたら、『親友』なのかもしれない。青華とは中学からの関係であり、俺にとっても青華にとっても唯一と言ってもいい程の親しい仲だ。故に『親友』。そんな事、本人に言えばマッハで否定されるだろう。
「違うわ、あんたなんか精々私の下僕よっ!」
とこんな具合に。
が、そんな風に言っても青華はいつもと変わらずに接してくるだろう。もちろん。俺だってそう言われたっていつもと変わらずに接する。
だから、俺と青華の間に、霧島さんが期待していたような関係は無い。
ただ、それでも言えるのは、俺と青華が『友人』以上の何かであるという事だろう。
傲慢で、我儘で、自分勝手で、自己中で、凶暴で、凶悪で、小さくて、冷たいような奴だが、それでも俺にとっては、強くて、優しくて、面倒見が良くて、大きくて、熱い、憧れのようでそうでない、『友人』以上の何かなのだ。
いくら凍らされても、蹴られても殴られても変わらない。変わらない。変えられない。
そして、そんな関係も、俺は―――嫌いじゃない。嫌いになれない。
あんな奴でも、内面を、あいつの背負っている物を、あの小さな体で抱えているものを、知ってしまっているから。
だから俺はあいつのことが嫌いじゃないし、『親友』だとも言えると思う。
だが、それは言えるだけで、思えるだけで結局そうは
青華の背負っているものが、抱えているものが大きすぎて、青華に他人にそれを一緒に背負わせる覚悟がないから。俺にそれを背負うだけの覚悟が無いから。なりたくても、なれない。
だから、今は『友人以上の何か』と言っておこう。
共に、背負える日が来ることを願いながら。
「なあ青華」
その日の放課後。
昼休みが終わり普通に戻ってきていた青華と夕日が差し始めた夕方の帰り道を歩いていた。
「何?」
「俺たちの関係って何だと思う?」
「は、はあ? 何言ってんの?」
「いや、ほら、俺たちって中学からの仲じゃん」
「そうね」
「そして、俺もお前もお互いに親しい友人なんていなかったから、唯一無二の友だろ? ということは友人どころか親友なんじゃないか?」
「違うわ、あんたなんか精々私の下僕よっ!」
うわ、すげえ!一言一句予想と同じだ。
ほんとに下僕だった。
夕日が反射しているからか青華の顔は若干赤みを帯びているように見える。
そして、本当に下僕とか言われると想像以上に傷つく!
「あんたなんかケバブで十分よ」
「トルコ料理な上にそんなに語感も似てない!」
俺はいつからローストされていたんだ。
別に野菜でも魚でも無いよ。肉ではあるけどな。
「そんな事分かってるわよ。黙りなさい毛虫」
……毛虫でもねえよ。
さては下僕となんとなく語感が似てりゃいいと思ってるな。似てないけど。
「あんたは大人しく私に付き従って、回ってればいいのよ」
「結局ケバブじゃねえか!」
そして話は回帰した。
なんだこの茶番。
こんな茶番の間にも俺たちの歩みは進み、いつの間にか近所の公園の入り口に差し掛かり、横切ろうとしていた。
横切ろうとした、のだ。
「ん?」
この公園になにか違和感を感じる。
今は、四時から五時の間位だろうか。それにしては人が、子供が少ない、いや
いつもならここで騒がしい程に遊んでいる小学生も、小さい子供とそれを見守りながら談笑する奥様方も。
誰も。
それになんだか―――寒い。
「……鈴人」
青華が小声で注意を促してくる。
青華も感じ取っているのだ。この寒気を。この
澄み切った冷水のような存在感。
一言俺を呼んだきり青華は黙ってしまった。息が詰まる思いだろう。
しかし存在感の主はこちらの思いなど露知らず話しかけてきた。
「やあ。暮木鈴人君。昨日の返答を聞きに来たよ」
声の主は、やはりと言うべきか分かっていたと言うべきか。
謎のゴスロリ少女メデスだった。
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