011・後編—弟
「ここ最近さあ、女の子からの告白が増えてきててさあ。大変なんだよね」
「……」
風呂に響く声替わり前の高いソプラノボイス。
眩しいくらいの短い金髪頭からシャンプーの泡が流れ落ちていく。
引き締まったその体からはスポーツが得意か好きなのだという事が良く分かる。
「それで、その子がさあ」
「……」
爽やかに笑うその顔はさぞおモテになる事でしょうな。それにさっきから女の話しかしてねえよ。こいつ。
「ねえ、聞いてる?」
「あ?うるせえよ。早く上がれよ。イケメンのくせにその上運動も得意で筋肉質な良い体してモテる奴はさっさと消えろ」
「はは、嫉妬か?そんなんだからいつまでも童貞なんだ」
「うるっせえ! 童貞は関係ねえだろ! てかお前中二だろ!」
「そんなに怒るなよブラザー。それに体だったら兄貴の方が良い体付きしてんじゃん」
「え?お前、俺をそんな風に見てたの?ちょっとそれは……」
「ぶっ飛ばすよ?」
ううむ。
体か。いつもあんま自分で見ないから分からないがそんなに良い体してるか?
「で、
「姉ちゃんにアイス買いに行かされてさ。まだ入って無かったんだよね」
あいつ、あわよくば二つ食うきだったのか。
後でどうしてくれようか。
「そして、そこのコンビニでアイスを買ってる父さんと会ったよ」
「何やっんてだ、親父も……」
大方、娘のご機嫌取りか電話で頼まれて断れなかったんだろうなあ。
哀れ、親父。
「てか、お前は断れなかったのか?」
「ははは、無理に決まってるだろ」
狛人の顔が青ざめていく。過去のトラウマを思い出してしまったんだろう。
やはり、下は上に喧嘩では勝てないらしい。
「そ、それじゃあ俺は上がるよ」
「お、おう。体冷ますなよ」
顔を青ざめ、震えながら出ていくその後ろ姿はチワワを連想させる。
流石に可哀そうに思えてくる。
「しっかし」
俺そんなに良い体してたかね。
……。
あ、
「そういえば、狛人のせいで体とか洗えてなかったな」
あいつやけに鏡の前に陣取るもんだから、体すら洗えてない。
中坊のくせして色気づきやがって。
こんど、思いっきり顔面に野球ボール投げつけてやろう。
(さて、どれどれ……お、確かに結構筋肉ついてたんだな。俺。腹筋とかもバキバキじゃ————)
「え?」
そこで俺は初めて気づいた。
忌々しい程に消えなかったあの
綺麗さっぱり。跡形もなく。
まるで最初から無かったかのように、無くなって居たのだ。
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