011・前編—妹

 時間経過。

 その後は穏やか……とは言わないまでも、賑やかで楽しい時間が過ぎていった。

 殴られる事も、凍らされることもなく無事に帰宅する事に成功した。

 全く、今日はツイてない。殴られるし、顔面強打するし、変なゴスロリと遭遇するし、噛まれるし。いい事何もない。

 (それにしても、気になるのはそのゴスロリ……メデスとか言ったか?あいつだ。力とか王とか)


 「……あの時」


 あの時、もし青華が来なかったら自分は何と答えていたのだろうか。

 欲しいと、そう答えていただろうか。それとも要らないと言っていたのか。

 今更考えても仕方ないんだろうけど、気になるんだよな。こう、何ていうか、何か大変な事の前触れとかそんな不吉な。

 

 「なんて、まさかな」

 「何が?」

 「それがな? ……ん?」


 今、俺誰に?


 「うおお⁈ お前いつからそこに!」

 「たったつい、今さっき」

 「そうか」

 「そうだ」


 ビビったあ。今日訳の分からない事ばっかりでおかしくなったのかと心配になったじゃないか。

 我が家には子供が3人いる。5人家族で、3人兄弟。

 直ぐ真横から俺の呟きに反応していたのは、我が家の2人目、つまりは俺の妹の暮木弓良くれきゆらだった。

 名前の弓って言うのは弓良が生まれたときに走って来た親父が落ちていた弓に足を引っかけて転んだのを見てこいつが笑ったから。らしい。


 「それで、なにがまさかなの?」

 「いや、ちょっと考え事しててさ……」

 「何?エロいこと?」

 「ちがうわっ!」


 兄を何だと思ってんだ。


 「違うの?」

 「違うよ! お前は俺が考え事してる時はいつもエロいこと考えてるとでも思ってんのか!」

 「うん。いつも頭の中ピンク色なんだなって」

 「もっと色々考えてるわあ!!!」


 どうしたらモテるかとか、そろそろ勉強しなきゃなとか、でもこれキリの良いところまで読んだらーとか。

 色々考えてる。

 話を戻そう。


 「で、お前何しに来たんだよ」

 「何しにって、さっきから呼んでたのに来ないからわざわざ来てあげたんじゃん」

 「ん? そうだったのか」


 気づかなかったな。まあ、こいつに呼ばれてもいつも無視してるからあんまり悪いとも思わないが。

 

 「なんだ? 飯の時間にしては遅し、俺今日は外で食ベてきたから要らないって言ってあるけど」

 「いや、お風呂空いたから呼んでたの」


 よく見れば、弓良の髪はしっとりと湿っていて艶がある。

 やけにラフな格好をしているから、ブラは付けていないだろう。いつもより膨らみが大きい気がする。


 「ブラザーは? あの頭の悪いおバカちゃんは入ったのか?」

 「万年赤点ちゃんはもう入ったよ」

 「ん、じゃあ入ってくっかな」

 「あ、お兄ちゃん」

 「何」


 さっきまでのふざけた声音とは違った真剣な声に足を止める。

 弓良の双眸は一切の揺らぎなくこちらを見ている。


 「お風呂入る前にさ—————」

 「ゴクリ」

 

 固唾を飲む。

 その言葉には強い何かの意思が籠っているようにも思える。


 「—————私アイス食べたいから買ってきて」

 「……簡単に兄をパシらせんな!」

 

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