012・前編-取材は実際にされてる人を見かける事はほとんど無い
新しい朝が来た。
こんなことを言うのはやはり昨夜から俺に希望が溢れてきたからだろう。
そのせいか、昨夜は一睡もしていないが目の下に隈ができることも、眠気が襲って来る事もない。脳から何か怪しい物質でも出てるんじゃないか。
とにかく、胸のアザが突如消えて無くなったから俺の気分は最高にハイってやつなのだ。
寝てないから今日は遅刻のしようも無かったし青華に殴られることも無かった。
希望って凄いものなのかもしれない。
「あんた、歩きながらニヤニヤするのやめなさいよね。気持ち悪い」
「お、おお。すまん」
どうやら知らない間に随分と表情筋がダルンダルンになっていたようだ。
ダルンダルンにもなるだろう。
長年の悩みの種とも言えた者が消えたのだ。
「なあ、青華」
「何?」
「夏休みに入ったらさ、一緒にプールでも行こうか」
「ぷぷぷ、プール⁈ いいい一緒に⁈」
「ああ。筋太郎達も誘ってさ」
「な、なあっ?」
? 何急に赤面してんだ?こいつ。
……ああ!
「なんだお前、一緒にって二人でだと思ったのか!」
「そ、そんなんじゃないわよっ!」
ははーん。こりゃ図星だな
そういう、恋愛絡みの事に耐性の無い青華じゃあこうもなるか。
「何なら本当に二人で行くか?」
「だから、そんなんじゃ無いって言ってんでしょ!」
今、俺は青華に気持ち悪いと言われたときより、ニヤニヤしているだろう。
やばい、楽しい。
しかし、楽しい中でも油断はしてない。
何せ相手はいつも大した理由もなく、踏んだり蹴ったりバット振り回りてきたり凍らせてくるおちゃめな青華ちゃんだ。
いつ拳が飛んできてもおかしくない。
実は今度は氷でバットでも創るんじゃないかと予想してる。
「でも、プールね。いいんじゃない?」
「じゃあ、そのうち計画でも何となく立ててみようか」
そんな事を話しながら、俺たちは今購買に向かっている。
昼飯は午後のために必要なエネルギー源だ。確保に失敗すると職員室コース一直線。俺はそんな同志達を沢山見てきた。
俺はああはなりたくないと思いながら皆購買に駆け込むのだ。
言ってみればこれから俺たちが向かうのは購買ではないのかもしれない。
そう。そこはまるで、————戦場だ。
青華が急げと袖を引っ張ってくる。
心配するな。青華。
昼休みは長いのだから。
喧噪の中心に、俺は居た。
大量の男どもに押され流されめんそーれー。
5分以上の格闘の末、ついに昼食を買うことに成功した。
「むぐむぐ」
「もぐもぐ」
「ばくばく」
「ばきばき」
「おい、ちょっと待て。最後のはおかしいだろ」
ばきばきは無いだろ。青華が食ってるのはエクレアだぞ。
エクレアを食べていて何かが割れるような音がするのはおかしい。
「うるっさいわね。少しは静かにしてられないの?」
「今の俺が悪いのか?」
そうよ。と一切の間もなく肯定してくる。
この暴君め……!
「あのー、このクラスに
俺と青華が楽しい(?)お話をしていると、教室の入り口から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
女の子だ。
クラスメイトの一人がこちらを指さをす。
女の子はタタタとこちらに駆け寄ってくる。
「えっと、暮木鈴人さんですね」
「は、はあ」
「私、新聞部の
どうやら目の前の女の子……霧崎さんはこの学校始まって以来の唯一の無能力者である俺に取材に来たという。
取材ねえ。
チラ、と横の青華に目をやる。
取材なんてこいつが黙って聞いてるわけないよな。だって青華だし。
「では、暮木さんは無能力者という事なんですけど、本当ですか?」
「えーと、まあ、はい」
「それで、どうやって戦うんですか?」
「こう、霊力をギュっドンっと」
「へえ、そんな使い方して霊力持つんですか?普通なら2,3回で霊力がすっからかんですけど」
こ、こいつ。想像以上にできる……!
俺の適当な説明にも着いてきやがった。
「それで、暮木さん」
「ああ、暮木さんなんて呼ばなくいいぞ。同級生なんだろ?」
「あ、そうですか?じゃあ、暮木」
「いきなり呼び捨て⁈」
すっごいフレンドリーだな。
(そしてなんか近くないか?最初の位置から随分と移動してないか?)
「同級生だからいいって言われたから……。あ、私の事も霧島、でいいですよ」
「俺はそう呼ばせてもらうけどさ。もうちょっと有ったじゃん?暮木君とかさあ」
「分かりました。暮木君」
ニコっと、元気な笑顔で名前を呼ばれる。
うん。かわいい。
そして、またズイッっと、距離が近くなったような気がする。
(いや、気のせいじゃねえ!確実に近づいて来てる!)
ズズズっと。
「……ちょっと近いんじゃないのあんた達」
「っ⁈」
予想外に静かにしていた青華が注意する。
今回ばかりは青華に感謝だ。
無意識だったのだろう。近づいていることにも気づいて無かったっぽいし。
青華の注意に距離が近いことに気づいた霧島さんは赤面しながら後ろに飛びのいた。
「すみません。私、話していると相手に近づいちゃう癖があって」
「いや、大丈夫だ。気にしてない」
一応、気にかけて無い、とその意は伝えておく。
「それで、何だっけ。霊力が持つか、だったか」
「はい! そうです」
「うん。持つよ。普通に」
「普通に?」
「普通に」
納得しかねるという感じの表情だ。
あたりまえか。こんなの前代未聞のことの筈だから。
「つまり、暮木君は霊力が桁外れに多いと」
「そうだな」
「……普通ですか?」
「……普通じゃないね」
騙せなかったか……と心の中で舌打ちする。
それよりもさっきから青華がやけに静かなのが気になる。
(静かだな。青華のことだからもっと口出ししてくるかと思ってたのに……)
いつもの青華だったらある事無い事言いそうなものだ。
それこそ普通に。
「って、あれ?」
「どうしました?」
「青華が居ない」
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