009・後編ー約束よ!

「……驚いた」


 ようには見えないが本来ありえない事だけに本当に驚いているのだろう。

 もうちょっと表情に出してくれればいいんだけどな。なーんか反応しずらいっていうか。なあ。

 こんなにも反応に困る相手は初めてだ。


 「驚いたんならもっと驚いた反応しろよ」

 「わー」

 「馬鹿にしてんのか!」

 「?」

 「首傾げてんじゃねえよ! 俺かっ? 俺が悪いのかっ?」


 これは期待した俺が悪いのかっ?

 ……それにしても、どうする? こんな下らない話で時間を稼いだところでいい考えは浮かんでこない。

 いくら単純なパワーがこちらの方が上でも、もうさっきみたいな手は使えない。

 あの反応速度だと真正面からさっきと同じ事をやっても防ぐか、避けるかされるだけだ。

 羽重さんの反応速度より速く攻撃するか、また何かしらの方法で気を逸らすかしない。

 反応速度より速く……。

 ん?あれ?そういえば俺……!

 ふと、あることに思い当たり胸の内ポケットに手を当てる。

 有った! そうだよ! 俺、銃持って来てたじゃないか!

 そうと決まれば。直ぐさま大きく距離を取り、胸の内ポケットから銃を引き抜き構える。ちなみにこれは実弾じゃなくてゴム弾を打ち出す。


 「ただし! スピードは実弾並みだがなあー!」


 銃声。銃口からゴム弾が実弾と同じ速度で撃ち出され、直進していく。

 直進——した。直進したのだ。直進した。

 直進はしたが、当たることは無かた。

 銃弾は羽重さんの右に大きく外れ、見えなくなった。

 しかし、効果は有った。殴り飛ばしても、自分の能力が効かなかった時も眉一つ動く事の無かったその表情に一瞬、驚きの色が見えた。

 構えてから撃つまでの一瞬その間に表情が大きく変わったのだ!

 当たりはしなかった。だが、隙は作れた。

 今だ! 今を逃すともう恐らくチャンスは無い! 俺にはその確信が有る!

 

  「ふっ!」


 この隙は逃さない!

 足に霊力を溜め、一気に解き放つ。大きく前方に距離を詰めるがまだ足りない。撃つときに大きく距離を取り過ぎた!

 足りない分を走る。走る。靴が脱げたが気にしている暇は無い!

 ほんの数秒。僅か数秒だった。およそ1秒位の時間だった。

 それが10秒にも20秒にも感じた。不思議な感覚だった。この世のあらゆる物から切り離されたような感覚。この世が俺から離れたような感覚。

  後はこの勢いのまま、拳を振るうだけ。それだけだった。たった、それだけ。

 しかし、やはり距離が遠すぎた。僅か数秒、ほんの数秒。その間に羽重さんは硬直を解き対処に動きだしていた。

 間に合わない──!


 「っおお!」


 拳は止められなかった。いや、止めなかったのかもしれない。

 少なくとも、今! この拳を止めようなんて思わないっ!

 気温が下がった。

 分かる。この冷気が何なのかを。

 解る。この冷気をが発生させているのかを。

 青華!

 羽重さんが後ろから凍り付く。ただ、俺の拳の軌道の先と顔以外が。

 ガラスが割れるような澄んだ音が辺りの静寂しじまに響く。

 拳がシールドを破ったのだ。

 今頃は失格のブザーが氷の中で鳴っているだろう。


 「鈴人!」

 「青華!」


 青華がこちらに走って来る。

 今回は真面目に褒めてやろう。何せ今回のMVPだからな。

 青華は走ってそのままジャンプ……ジャンプ!?

 

 「鈴人! 食らええええ!」

 「何い!?」


 ゴチン!

 真っすぐに飛んできた青華の膝が額に衝突。そのまま後ろに倒れてしまった。

 もちろん地面はアスファルト。


 「痛ったあ! 何すんだこの野郎!」

 「何すんだはこっちのセリフよ! 人の事投げ飛ばしておいて! 何で一人で突っ走ってんのよ! 二人だったもっと楽に、あんたも私も余計な怪我を負わずに済んだかもしれないのに!」

 「いや、まあ、それは……ごめんなさい」


 実際、今回は俺が悪いので何も言えない。投げ飛ばした時も結構高めに投げたから、案外死ぬ思いだったかもしれない。


 「何よ……、そんなに素直じゃ張り合いがないじゃない」

 「お前……!」


 そんな事を思ってたのか……。

 なんか嬉しいような、こそばゆいような。


 「素直過ぎて、気持ち悪いわね」

 「お前、人の謝罪を何だと思って……」

 「でも。今回はあなたのおかげよ。私だけだったら倒せなかったもの。だから、これは二人の勝利よ。──だから、ナイスファイト。鈴人」


 青華がその小さな拳を突き出してくる。


 「っ……! おう」


 拳を突き出す。

 ゴチン。

 今度は、さっきと違い小さい音だった。

 さっきより響く、優しい音。

 青華の顔もまた優し気な微笑みを浮かべていた。

 そして、その微笑みは──


 「約束よ。今度、一人で勝手な事したら許さないんだから!」


 花が咲いたような笑顔へと変わった。

 約束しよう。


 「分かった、約束だ」


 この笑顔を守りたいから。


──────────────────

はい。はいはいはいはい。一年くらいカクヨムの方は放置してたんですけどね。しばらくぶりに投稿しましたよ。一気にいくつか。

この作品は「小説家になろう」様にて主に投稿していて今の所カクヨムの五倍近く投稿してありますので、そちらの方も応援よろしくお願いします。正直な話、このあたり──最初の方の自分の文章とか読んでいると何て幼稚なんだろうとか、面白くないとか、書き方おかしいとか色々思ってしまって手を付けていなかったんですよね。ま、しかし、その恥辱に耐えながらぼちぼちこちらでも投稿を再開するので、フォロー等々よろしくお願います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る