009-前編・笑われるとイラっときます。
氷が飛び、地面がえぐれ、バットが振られ、刀が振られる。
青華と羽重さんの闘いは、果たして青華の劣勢であった。
氷を飛ばしては、謎の力で落とされ、バットを振れば避けられる。
青華の攻撃は悉くが避けられ、その
「あ、あのう……」
「……………………………」
さて、それはともかくとして。こちらはこちらで大変だ。
俺の前には今一人のナイスバデー女子生徒がうつむいて立っている。つまり、羽重さんのペアの人なんだが。
どうしよう。この人何にも喋らないよ。
いや、戦うのだから別に喋らなくてもいいんだけど、ただそこに居るだけで襲ってきたりもしないし、まず動きもしないからどうしたものか。一応女の子だからこっちから攻撃するのもなんか……。
そして何よりも一番大変なのは……
(なんだあれはっ!でかい。なんてボリューム感なんだ!推定、E、いや、Fか? もしかしたらGかもしれない。 とにかくでかい! そう。まさに青華の平原とは違う。そう、富士山だ! まるであれは日本一の火山。富士山だ!)
なんて事だ! エベレストおっぱい! 素晴らしい。なんていい響きだ。
ん?待てよ。こちらから何しても無視されるのなら、何しても何も言われないって事か!? あのエベレストを揉んでいいってことか!? 揉みしだいていいって事なのかっ!?
なんて、考えだしたら止まらない。仕方ないじゃん! だって男の子なんだもん!
速足で近づく。
スタスタスタ。
ズズズズズ。
「?」
おや?これは…。
スタスタスタスタ。
ズズズズズズズ。
「やっぱり離れてんじゃねぇか!」
「ヒィ! ごめんなさい!」
返せよ! 俺の純情を返せよ!
ん? てか、今喋らなかったか?
それに、今の反応は……。
「なぁ、おい」
「ひゃ、はひ!」
ズザザザザ。更に後ろに下がって行く。
もしかしなくともコミュ障だ。しかも「はい」すらまともに言えないタイプのだ!本当にいたんだ。存在したんだ!こういう人。あ、いたな。
こういうタイプの人間にグイグイ行くのは悪手だ。そんな事するのは愚か者と呼ばれるやつだけだろう。
「ひゃっほーい!」
「嫌ぁ!」
「ヴェへへへへ」
愚か者だった。
よーし。どうしてやろうか。
揉むぞぉ。
揉むぞぉ。
揉みしだくぞぉ!
「来にゃいりぇくだしゃい!」
「ぶべらぁ!?」
しかし、そんな俺の邪な企みは、かみかみな言葉と共に突如出現した、ていうか頭上から降ってきた壁により阻まれてしまった。
いや、壁と言うよりは門の方がしっくりくる。鬼の、般若の顔が彫られた門。
鼻が痛い。毎回ぶつかった時の悲鳴変えるのも楽じゃ無いんだぞ!
そんな、文句はどこへ行くのか。少なくとも相手には伝わっておらず、更に後ろへ下がって行ってしまった。下がってもなお、胸元だけは大きく見える。何でだろう。
ぶつかったせいで鼻血を垂らしながら門の横を通り、相手に向かい合い、笑顔で笑いかける。
「ど、どうしてそんなに怖がるのかな? 大丈夫。何もしないよ。さぁ、こっちにおいで。おじさんといいことしよう」
「ひぃ」
怖がられてしまった。
今度は前だけでなく四方全てを囲まれてしまった。
そんなに怖いの? 鼻血か? 鼻血のせいだな。そうに違いない。
「よっと」
霊力ジャンプにより脱出。今度は最初から目の前に着地してやる。
今度こそ逃げられないぞぉ。グへへへへへ。
と、まぁ胸を揉むのは冗談にしてもこれは戦いだ。向き合った時から始まっている。
「だから、ごめんな」
一撃。
俺の拳がシールドを一枚砕き、その女生徒は衝撃で後ろに飛ばされる。
「うあっ!」
飛ばされた女生徒は苦悶の声をあげ、立ち上がれずにいる。
立ち上がろうとしても痛みでまた、体を倒してしまう。
よし。今がチャンスだ。すぐに追撃して倒してしまおう。可哀そうだから。
あと二撃と走り出した俺は、またしても頭上から落ちてきた大質量の物体。あの女生徒の能力により創り出されたであろう鬼の門に行く手を阻まれた。
何回もこんな鬼の顔を見せられてたら、たまったもんじゃ無い。
…壊すか。これ。毎回避けるのはなんか面倒くさい。
さて、今までの俺の移動やジャンプなどなんの説明もされて無いからなんぞや、と言う人も居たと思う。なので、今回は俺のパンチのプロセスを説明しよう。
一、霊力を腕の周りに纏わせて硬質化させて拳や腕が痛まないようにする。
二、肘などに霊力を溜める。
三、溜めた霊力を放出し、殴る。
目の前の門に拳を殴りつけた。それに後悔するのは、その直後だった。
「い、痛あぁ!」
「ええ!?」
痛い! 何これ超痛い! プロセス其の壱に何の意味も無かった!
あまりの痛さに悶絶し転げ回る。
俺のパンチは少なくとも人間を重症にするレベルの威力はあったはずだ。それに痛みを感じないように処置もしていたのに。
鉄か何か、他の金属を殴ったようだ(てか、殴った)。
いや、鉄はここまでは痛くなかったからもっと他の物だと思われる。
目の前の門には傷はおろか、へこみ一つない。
「ふ…ふっ」
「ん?」
ピタ。クルッ。
? 何か今笑い声みたいなのいが聞こえたような…。
でも、あの子は俯いてるだけだしなぁ。
う~む…。
「がぁぁぁぁ! 痛い! 痛いぃぃぃ!」
「ふふっ」
ピタ。
あ、今度こそ聞こえた。
やはり、あの子が笑っているようだった。俺の痛みに悶絶するという醜態を見て笑っているらしい。
そうかそうか。俺の醜態を見て、か。
そうかそうか。
「どうしてくれようか!」
怒った。心の底から怒った。
その胸に免じて手加減してたけど、もう許さん。
激おこぷんぷん丸だ。
今度はただ走るのでは無く、霊力を足に込めて走る。
女生徒が門を出すよりも早く懐へ入り込む。
入り込むと同時にガラスが割れるような破裂音。俺の拳がシールドを一枚叩き割る。
また衝撃で女生徒は飛ばされてしまうが、今回は間もなく追撃に入る。
悲鳴を上げる隙さえ許さず放たれた拳は三度目の破裂音を響かせた。
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