006・後編ーシリアスは続かない

羽重が放ったその言葉に俺を含め周りが言葉を失い、静まり返る。

しかし、そんな中でも青華だけは一瞬動きが止まるが、それでも言い返す。


「嫌い? そう。えぇ。そうね。嫌い。私もあなたが嫌いよ」


こちらもこちらで爆弾だった。紛う事無き爆弾だった。しかも特大のC4だこれ!


「本っ当昔から嫌いだったのよ。自分の意志で何かする事もなくただ教え込まれた他人の正義でしか動けない。正義がなきゃいつまでもうじうじして。ウザったいのよ」

「あなたの、あなたのその自由奔放さが私は……私は……」

「お、おいっ」


(マズイ。このままでは言い争いが喧嘩になっちまう。どうにかして……あぁ! もうカレーの精でも何でもいいから降ってこない? 500円で解決できない?)

そろそろ必殺にして伝説の土下座を使おうか悩み始めたころ、カレーの精ではないが頭上から声が降ってきた。


「間もなく、フィールドに到着します。それぞれ準備をしておくように」

「あ、ほら! もうすぐ着くらしいから準備しようぜ!」

「あ、え、ちょっと押すなぁ!」


放送を聞いて直ぐに青華を押して準備に行くように促し自分も移動する。その時に羽重さんへのフォローも忘れない。


「羽重もほら、急いだほうがいいって。あ。助けてくれたのは本当に感謝してる!」


そうしてその場を離れた俺は急いで青華の方へ移動する。


「ぶへっ」


急に車が止まりバランスを崩して転ぶ。どうやら、俺が痛い目に遭うのは避けられないらしい。




〇△□


「………………………」

「………………………」


気まずい。

車を降りて訓練が開始されたが、その後青華は一言も喋っていない。

(何か、何か話題は…)


「あ、さっきの羽重さんって知り合いか?なんか昔からの知り合いっぽいけど……」

「………えぇ。家の都合でね。羽重家はうちと同じ六名家よ。その集まりとかで面識があったって、えぇそれだけ。それだけよ」

「なわけ。それだけでお互いにあんな険悪になるかよ」


カツカツとアスファルトを叩く音が一人分減る。


「……そうね。それだけじゃないわ。けど、そんなのあんたには関係ないわ」

「そう、だな」


関係ない。その言葉は案外深く突き刺さる。友達ダチにこういう事言われたら思いの外傷つくものだ。それも相手がどうか知らないが親友とも言えるような相手だ。それなりに理解しているつもりでいたし、あっちも理解してくれていると思う。だが、それでも俺が知らないことはあって、それが今回の事であっただけなのだ。


「ま、あいつの事なんて気にしていてもなんの得もしないわ。気にせず敵を屠りましょう。そろそろビル街に入るわ………っ! 止まって! ほら、あそこ」


 果たして、青華の差した方向には二人の男女の二人組。


「あいつらを軽く捻って幸先の良いスタートを切るのよ!」

「おう! って、勝てなかったらどちらにせよ終わりだろ」

「いいのよそんな事は。細かい男はモテないわよ」

「なに?」


何? そうなのか?!

先程の心の傷なんて気にならなくなった。てか、そんな事は無かった!


「じゃあ、鈴人は最初一人で突っ込んでね」

「馬鹿じゃねえの?」



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