006・前編ーバットを使って良いのは不良だけと昔からきまってる


 決戦場(笑)が青華から発表された後、現在、俺達は支給品である腕輪や武器を受け取り、同じフィールドの奴らとでかい車で輸送されている。

 我が校の訓練フィールド、また校舎、学校の敷地、そして一つの街が全て海上に作られている。かつて近くの土地などを開発した際に出た土等を使い埋め立てて島を造ったらしいそれは、街が一つあるだけあってそれなりの面積を誇る。比較的新しくできた土地であるくせに昔ながらの商店街然とした商店街を造ったのはなぜか、小さい頃からの疑問である。


 「なあ、この学校の教師って結構危ないことやってるのに問題にならねえのかな」

 「何の問題にもなって無いんだから大丈夫なんじゃない? 少し考えれば分かるでしょ? そんなんだからアンタはいつまで経っても馬鹿なのよ」

 「なんか俺への当たりが酷くないか⁈」


ふと、思った事を聞いただけなのにものすっごく貶されたんだけど。


 「馬鹿なのは馬鹿でしょう。ホントの事言って何が悪いの?」

 「もうちょっと人に優しくなろうぜ⁈」

 「あら? 私は人には優しいわ」

 「俺は人ですらないと?」


 なんて酷い。

 天上天下唯我独尊をその身で表しているような、体言するかのような青華に俺はどう言い返せば勝てるのだろうか。

  最早、踏まれたり土下座させられたりして喜ぶMでもなれと言うのか。


「あぁ、もう。馬鹿とかそういうのはどうでもいいや。そんなことよりお互いに装備品のでも紹介でもしようぜ」


  既に言い返す事も出来無くなり、強引に話を逸す。

 だって仕方ないじゃん。口じゃ絶対に勝てないし。

 しかし。しかしそれはそれとして、戦闘に置いて味方の装備を把握しておくことはそれなりに重要であることも確かである。


「俺は銃にその弾が三十発。一応ナイフに包帯とかの応急処置セット……だけだな」


 銃は日本製の9mm拳銃。ナイフは刃を落とした刃渡り二十センチ程度のサバイバルナイフ(何の意味があるのか)。

 また、俺達には護霊の腕輪が支給されているけれど、あくまで発動するのは重傷などの強い攻撃を受けそうになった時のみ。それ以外は自分達で処置をする必要がある。

 青華は話を無理矢理逸して勝手に進めた事に不服そうにするが、流石に名家の令嬢と言うだけあってか本人の頭の良さ故か、装備把握の重要性は理解しているらしい。


「私はナイフ、消毒液に絆創膏。それからバット」

「バット」


 思わぬ言葉に流石の俺も面白みのない返答にならざるをえなかった。

  バットを武器にする。何が名家の令嬢だ。只の不良じゃねぇか。


 「そうよ、バット。だってナイフでチクチクやるより氷漬けにするか、バットで思いっきりぶん殴った方が早いじゃない」

 「いや、バットって。お前はいつの時代の不良なんだよ! 何だその脳筋思考! 筋太郎じゃねぇんだぞ!」


 何を隠そう。さっきの肉だるま──坂巻筋太郎──は何でも筋肉でどうにかなると本気で思っている脳筋。本人曰く筋肉の使徒である。


 「はぁ? あんな肉の塊と一緒にしないで頂戴。私は脳筋じゃなくて効率を求めているのよ。えぇ、どんなゲームも三ターン周回を心掛けているわ」

 「あぁ、確かに肉は無いよな。それどころか………」


 視線を青華の顔から少し下へ向ける。小さく服の上からでは僅かな膨らみすら分からないような慎ましやかな物に。憐れみすら感じられる。

 俺の視線の先を察した青華は顔を真っ赤にし僅かに震える。


 「この……! どこを見て言ってのよ! それは私にケンカ売ってるって事でいいのよね! ええそうだわ!」

 

 ひすてりぃ。

  青華が拳を構える。

 あれ? これ少しヤバいんじゃないか?

 背筋に汗が伝うのを肌で感じる。いつも感じる悪寒。これは──


 「おい、青華? ちょっと待て。話せばわかる……いや、悪かった! 俺が悪かった!」

 「フー……フー……!」


 ──暴力の気配!


 「ここまでか……」


 最期の希望と周りを見回す。


 「うわ、あの人サイテー」

 「そういう、コンプレックスに付いて触れるとか」


 周りは女子が完全に敵に回り、男も動く気は無い。


「こ、ここここ、っここの……」


 一歩、また一歩。

 後退を繰り返す。が距離は依然変わらない。こちらが下がる度に彼女も距離を確実に詰めてきているのだ。


 「くっ……!」


 後ろにやっていた手がひやりと冷たい感触。

 もう後がない。

 逃げ場を無くした俺は、既に何も言えなくなっていた。

 遂に青華がその拳を引く。


 「この、エロ助──!」


 もう駄目だ。

 青華の声と共に拳がこちらに向かってくる。

 そしてまさに、青華の突き出した拳が俺に当たる直前だった。

 ──俺と青華の間に何かが割り込んできた。

目に入ったのは、白とも見間違うような綺麗な、束ねられた銀髪。俺を守ってくれたのは、白銀色の少女だった。

 女子に護られてしまった……!


 「あ、アンタ……!」


 青華は驚愕に目を開き、掴まれた手を急いで引き戻す。


 「何で邪魔するのよ、羽重はねおもし


 羽重、と呼ばれたその人は抑揚の無い声で答える。どうやら青華と彼女は旧知の仲らしい。


 「目の前で恐怖して殴られる寸前の人がいたら、助けるのは当然」

 「殴られるのはそいつが悪いのよ。ケンカ売ってきたのはそいつなんだから」


 完全に、とは言わなくとも、こちらが悪いのは確実なので俺は何も言え無い。

 ちなみに今の俺の状態は、女子の後ろで守られながら情けなく座り込んでいる、の図だ。

 しかし、そんな青華の言い分にも羽重はいいえ、と否定を返す。


 「いいえ、殴り掛かろうとしたのは貴女。殴られそうになったのは彼。被害者と加害者はハッキリしている。こちらが正義でそちらが悪。簡単。一目瞭然」


羽重さんの言葉に明らかに青華がイラつき始める。顔は引き攣り、こめかみがピクピクしている。


 「へ、へぇ。悪、ねぇ。やけにそいつの肩を持つじゃない。そいつは紛れもない変態よ」

 「俺は変態じゃ……」

 「ちょっと黙ってなさい」

 「ごめんなさい」


 ギロッと睨みつけられ萎縮し小さくなる。超こあい。

 そんな俺を無視して羽重さんはやはり、青華を一蹴した。


 「そんな事は関係ない。こちらが正義で貴方が悪。正しいことを成しているだけ。私は正義に従っている。だから、私は彼の方に付いている」


何だろうか。守って貰って何だが、彼女の言葉には何か違和感を感じる。何か窮屈な……。


 「正義正義って、そんなつまらないものであんたは昔からっ……!」

 「お、おいっ!」


 マズイ、先に俺が煽っていた分青華の沸点が低くなってる。


 「えっと、羽重? も助けてくれたのは本当に感謝してるけど……そろそろ……」

 「ただ」

 「へ?」


 俺の静止の声を無視して羽重さんは


 「ただ、正義を抜きにして私が彼の肩を持つのは」


 表情一つ変えることなく、ただ機械的に淡々と言い放つ。


 「凍羽青華。私があなたの事が嫌いだから」


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