005ー決戦は桶狭間!
俺の職員室行きが確定してそまったその後、無駄に広い敷地を疾走し本当に三分以内に体育館に着いてしまった。
中に入ればもう既に列を作り並んでいると思っていた生徒たちはまだ、ごちゃごちゃと友人知人と思い思いに会話を交わしている。
そんな中、俺達……俺に気づいて二人の男が近づいてきた。
「よう。遅かったじゃねえか。遅刻か? 逢引でもしてたのか?」
「……………」
古い。古いよ言葉が。おじいちゃんか。
近づいてきたのは正反対、両極端な二人組。
馴れ馴れしい肉の塊。筋骨隆々な偉丈夫。
こいつは能力名が『筋肉こそ力』なんて言うくらい筋肉バカだ。俺の数少ない友人の一人。筋肉バカだ。
そして、もう一人の無言のヒョロい奴。引きこもりに多い、不健康なほどに白い肌。
ぼっち気質、根暗、コミュ症という三拍子揃った天パの男。こいつも俺の友人の一人。中国人とのハーフらしい。
「何だ逢引って。言葉が古いよ。古すぎるよ。お前はいつの時代の人間だよ。違うから、そうだったら今頃ここにいないから」
「おう、分かってるさ」
じゃあ聞くなよ。と言いたくなるのを抑える。これがこいつなりの冗談だということが分かっているからなのだが……やはり突っ込んだほうがいいのだろうか。
「ねぇねぇ、鈴人。この人達は?」
「ん? あぁ。お前こいつらと話すのは初めてだっけ」
ヒソッと聞いてきた青華に対し普通の声量で返してやる。
流石の青華も相手に聞こえるように誰か聞くのは失礼だと思ったらしい。
「ちょ、バカッ」
「いいじゃねえか。話したことすら無いんだったら、名前なんて知らなくても仕方ねぇよ。てか、お前興味ない奴なんて存在すら記憶に無いくせに」
興味無いってか、話しかけられないもんなぁ。
青華は周りに対して高圧的な為に周りに話しかけられる事は疎か、自分から話しかけにも行かない。
「そうか。知らないのだったら、自己紹介だ。俺は
「……
どちらにせよツッコミどころ満載な自己紹介を意に介さず青華が自己紹介に入る。
「
「おう、まぁ知ってたがな。よろしく。だが、凍羽家かぁ。大変そうだな。なにせ言いにくい」
名門・凍羽家。特異者発生の当時から特異犯罪に対応し、対特異犯罪組織発足の六名家の一つ。言いにくさはともかく、名家と言うだけで確かに大変そうではある。銘菓ならいいんだけどな。
青華に関しては本当に名家のお嬢様なのか。いや、お嬢様だからこそあんなに我儘なのかもしれない。
「ま、凍羽家と言っても次女だから色々と自由にさせて貰ってるけどね」
「そんなことより、お前らはやっぱり二人でペア組んでんのか?」
「そんなこと⁈」
青華が話し終わったタイミングで割って入る。
そんなこと。疑問には思ったけど。
本当にお嬢様なのかよこいつ。自由にさせてもらってるにしても限度があるだろう。
「そうだ。こいつと俺は能力の相性か良いからな。それに、韓は俺以外に組むやついないだろうしな」
なるほど、と納得し軽く頷き、チラッと青華に目をやる。
「じゃあ、俺と一緒か」
能力の相性はともかくとして、相手がボッチだってのは一緒だ。
なんなら、韓も青華もある特定の人としか喋らない。韓の方は俺でさえ中々声すら聞かない。
「そのようだな。……ん? そろそろ並んだ方がいいんじゃないか? 皆もう並んでるぞ。韓もいつの間にか行ってしまっているし」
「「え?」」
筋太郎の言葉に二人分の声が重なる。
周りを見渡すと先程まで俺達と同じ様に話していた生徒達が列を作り、並んでいる。
そして韓はいつの間に、居なくなった? 忍者? ジャパニーズニンジャ?
「ね、これってどういうふうに並んでるの?」
「クラスごとに身長順だな」
「そう」
何で分かんないだよ。
普通、分かるだろ。見れば。
ああ、いや、もしかしたら分かって聞いたのかもしれない。あの身長だから、背の順だと確実に先頭だ。それはプライドの高い青華からしたら面白くないだろう。それで凍らされるかもしれない俺もぞっとしない。
質問の答えを聞いた青華は不機嫌そうにさっさと列に加わりに行ってしまった。
女子の先頭に堂々と立つ青華の姿は他に何も言わせまいとこれでもかと威圧している。
それでも、それを意に介さない、気づきもしない奴らは青華の小ささに笑っている。小学生じゃないかという疑惑も上がっている。俺も気持ちは分る。
青華が目に見えて不機嫌になり始めた頃。体育館が暗くなり、それに比例しステージと照明が強くなる。
ステージには一人の女教師が立っていた。
「は〜い。今日の参加者が皆集まってから静かになるまで、五分もかかりました〜。先生は怒ってますよ〜?」
怒っているのか怒ってないのかよく分からない間延びした声が体育館に響く。
しかし、声音以外で怒っていることが分かる。
目が全く笑っておらず、先生の背後からは黒い霊子が飛んでいる。
「いいですかぁ? 『特警』たる者あらゆる行動は迅速に。そうで無ければ………」
次の一瞬。一瞬だけ、霊子の量が莫大に増大する。
そして、
「簡単に、死んでしまいますよぉ?」
そう、簡単に言い放った。
純然たる事実を。
学生には、
体育館が静寂に包まれ、何人かは恐怖で震えている。
今言う事でもないと思うが、油断していた。他の生徒達もそうだろう。巨乳でタレ目の先生だったら大体、気の弱い人だと思うだろう。
「さて、時間も押してますから~、進めましょうか。では、最初に校長先生からのお話を……へ⁈」
先生が話を進めようとした所で上から全身黒タイツで股間が若干モッコリした(恐らく)男が猫のように降りてくる。
それに先生まで驚いて跳ね上がる。
「フム……校長先生の話は無し? え〜、何でですかぁ? ……面倒くさいから? え〜?」
黒タイツからこっそり聞いているつもりなのだろうがマイクからダダ漏れである。
そして、やっぱりだ! あの先生はきっとドジっ子だ!
「え〜と、皆さん申し訳ありません。校長先生が私用の為来られないようですので、校長先生のお話を飛ばしてルールの説明に行かせてもらいますね〜」
いいのか。それでいいのか。まだ見た事もない校長。
しかしまぁ、先生の対応の仕方からいつもそんな感じなのだろうという事が分かる。
苦労人なんだなぁ。
「スタッフさ〜ん、画面つけて下さ〜い」
先生の呼び声にステージ横に居たスタッフ(他の先生)が壁に付いたパネルを操作し始める。
少しするとステージが暗くなりヴォンと画面が映し出される。
画面には「ドキドキ! 殺意だらけの戦闘訓練! 〜ポロリもあるかも⁈〜」
あまりにもふざけたタイトルに言葉も出ないが、
「ありがとうございま〜す。では、ルールの説明を始めます。スタッフさ〜んつ~ぎ~!」
先生の声にスタッフさんがアタフタしながらパネルを操作する。
次に映し出されたのは森や街、砂漠に氷雪地帯の画像。
「これらは学校が所有するフィールドでぇ、円形に半径五キロに広かっています。皆さんにはこれからペアの代表者にクジを引いてもらい、各フィールドに移動してもらいま〜す…あ、スタッフさ〜んつ〜ぎ〜」
スタッフさんはあわわとパネルを操作している。
機械苦手なんだな。
スタッフさんが「やった」とガッツポーズをした所で画面が切り替わり、銀色の腕輪が映される。
「この腕輪は護霊の腕輪といってですねぇ、霊力電池が内蔵されていて〜、致命傷または重傷になるような攻撃に反応してシールドを発生させるようになっていま〜す。このシールドが三回発動した時点て失格になるので、気を付けて下さいね〜。ええと、じゃあ次……呼ぶの面倒くさいですねぇ。えいっ」
ピ、機械音。画面が切り替わり何かの表が映される。
「え」、とスタッフさんと俺の声が重なる。
そっちで切り替えられるのかよ!スタッフさんだって「えー」てなるよそりゃ。
そして、あの壇上の先生はドジっ子でS《サド》だという事が判明した。
「そしてぇ最後に、この訓練ではぁ皆さんに個人順位を付けさせてもらいま〜す。そして〜、高順位に入った人にはぁ、授業の単位優遇や〜学食の無料券などの特典が付きま〜す」
先生の多くの生徒が固唾を飲み、ざわめき立つ。
それを気にする様子も無く、話を続ける。
「また〜、それとは別に入試などの結果から特典とはなんの関係も無い、それぞれの能力値からぁランクを付けさせてもらいま〜す。こっちの五角形の方を見てくださ〜い」
表の隣には五角形のグラフが映されている。
つーかでけえ。多分皆表より隣のでかい五角形の法に目が行ってたよ。
隣の五角形だ。
「ランクは『能力』『霊力量』『放出量』『体力』『学力』の五項目ではんだんされま〜す。下から〜、E、D、C、B、A の〜六段階で示されま〜す」
「っくしょん!」
画面が消え、体育館が急に明るくなる。
急に明るくなったからか俺を含め、何人かがくしゃみをした。光反射くしゃみと言うらしいが四人に一人居ると言う割にはそんなにいないよな。
くしゃみのせいで集まった視線も先生が話し始めれば直ぐに無くなった。
「これで、ルールの説明を終わりま〜す。それではぁ、ペア代表の人は〜前に三人のスタッフさんを置いておくので、クジを引きに来てくださ〜い」
どちらが代表なのか、そう疑問に思い女子列先頭に居たはずの青華を探したが既にいなかった。
クジを引きに行ったのか。どうやら勝手に自分を代表にしていたらしい。いや、この代表と言うのがあらかじめ設定しておくものなのか、自分たちでその場で決める物なのかは分からないけれど。
体育館の端に移動し座り込む。
流石にずっと立ちっぱなしじゃ疲れる。
しかし、人数が多いな。これで一学年か。百なんてモンじゃないぞ。……暇だし数えてみるか。
そして、青華が俺の所に来たのは3度程数え直してようやく100を超えた頃だった。
走って来たのか若干息が上がっている。
「鈴人! やっと見つけたわ。あんたもっと分かりやすい所に居なさいよ。むしろあんたが私の所に来るべきよね」
「いや、結構分かりやすいだろ。端っこだし。それより、フィールドどこになったんだ」
青華はまだ何か言いたいようだが、少し堪えるようにして、大きく息する。
「はあ。もういいわよ。仕方ないからあんたが私の口からど〜しても聞きたいって言うんだったら教えてあげてもいいわ」
めちゃくちゃ上からだった。お前は女王様かなんかなのか。
「ほら。言いなさいよ。どうか無知な私めにお美しい青華様のお口から決戦の地をお教え下さいと。言ってみなさい。土下座して」
「ぐっ!」
そんなことしたくないと思いながらも何故か膝を付いてしまう。
な、何故だ。何故なんだ!
体もぷるぷると震えている。
「ど、どうか、むむむ無知な私めに、くぅっ。お美しい青華様のお口からけ決戦の地をお教え下さい!」
悔しい! でも、何故かやっちゃう!
「うわ、本当にやったわ、こいつ。ま、まあいいわ。──決戦は……無人都市よ!」
そんな桶狭間みたいな……。
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