002ーパンはパンでも食べられないパンは?答えは作中に!
てれてれてれ てれてててー
コンビニに寄った俺と青華は各々好きな物を買い、帰路に付いていた。
「うめー」
「うまー」
結局、俺はハッシュドポテト。青華は大量に買い込んでいたエクレアを一つ頬張り口周りを汚していた。
ったく、ガキかこいつは。
「ほら、口拭けって。女の子がそんな顔してちゃいけません。お母さんそんな子に育てた覚えはないわ」
青華にテイッシュを手渡し、口周りを拭かせる。
しかし、エクレアってそんなに口周りを汚すような食べ物だったか?
「育てられた覚えもないわよ。でも、ま、ありがと」
口周りを拭き終わりテイッシュを返してきた青華は「ところで」と話を振ってきた。
「ところで」じゃねえよ。ゴミくらい自分で持って帰れや。
「あんた、明日のペアって決まってるの?」
「明日? ……あぁ、実戦形式訓練のことか」
「そう」
明日うちの学校は午前中いっぱい使ってペアでの実戦式の戦闘訓練を行う。
目的としては生徒の実力や才能センスまた、ペアにすることによりもお互いにどこまで考え、連携を取ることができるかを測るらしい。
うちの学校は「対特異犯罪組織」に所属できるだけの実力を持つ生徒の育成を目的としている。まあ、警察なんかにも行くやつは多いし、そういった組織以外にも普通の仕事や特異者による戦闘の大会なんかも在るから、選手になる奴も多い。
このような学校は日本には地方毎に一つずつある。そのため各学校にはその地方の様々な能力者が集まるため普通高校に比べ生徒数が多い。
「いや、別に決まってないけど」
決まってないというか、いざ決めようと思ったら、周りはもう皆決まってたんだよな。
「なら、私と組みましょう」
そう言ってきた。
はっきり言えば、驚いた。一瞬思考が停止した。別にこいつが俺と組みたい思うのが意外というわけではない。
だってこいつ俺以外に友達とかいねぇし。
それでも意外で、驚いたのはこいつが俺に自分からペアを組もうと誘ってきたことだ。
青華は体は小さいくせしてプライドだけはやけに高い。
「あぁ、いいぜ。お前俺以外に友達とかいねぇもんな」
「フンッ。あなただって私以外とはまともな交流ないくせに」
そんな俺の挑発とも取れる言い方に半ば開き直った用に返す青華に、俺は現実を教えてやる。
「いや、俺普通に友達いるし」
「ええ?!」
青華は驚愕を顕にし、口々に「嘘でしょ?!」「そんなわけ無い!」「嘘だ!」などと言っている。
俺が言っといて何だけど、こいつ知らなかったの?同じクラスなのに。
体が小さいと脳まで小さいのか?いや、脳より人としての器か。
「失礼なやつめ。聞いて驚くな。……いや、驚け。なんと高校に入ってから二人も友達ができた」
「むむっ……ねぇ、それって男? 女?」
「あ? ……男だけど」
「そう、良かった」
「へ?」
良かったって何? もしかしてアレか? こいつもしかして俺の事──
「いやぁ、遂にあんたまでリア充になってしまうのかと思ったわ。良かった良かった。おかげで拳を痛めずに済んだわ。ってか結局二人しかいないじゃない」
まあ、そんな希望なんて最初から欠片くらいしか持ってなかったけれども。いいじゃん。そういうの期待したって。俺だって健全な男の子なんだ。
そして二人だろうが何だろうが、お前に関しては一人もいねえじゃねえか。
「野郎ばっかで悪かったな。てか、それが男だろうが女だろうがお前には関係無ぇだろうが」
「有るわよ」
え?やっぱりこいつ、俺の事──
「だって私の生活よりもあなたの生活が充実しているなんて嫌じゃない」
もはや腹が立ってきた。単純な生活の充実度だったら青華の方が高い筈なのに。ブルジョアのくせしてなんて言い草だ。
「? 何崩れ落ちてるの? 踏んでほしいの?」
「そんなわけ無ぇだろうが」
どんな特殊性癖の持ち主だ。とんだ変態じゃないか。誰かの趣味を否定するつもりは無いが、俺はそんなのじゃ無い。
「え? あなたって凍らされたり、殴られたり、踏まれたりすると興奮して苦痛を快感に感じる人じゃないの?」
「ッ! ッ! ……違う! お前俺をそんな変態だと思ってたのか!?」
「ええ。てか最初の間は何よ。ほら」
とす。
未だに蹲っていた俺の後頭部に何かが乗せられる。
「青華さん、一体何をしているんだい?」
「ペアの報酬の先払い。嬉しいでしょ?」
「嬉しくねえよ!」
そして、俺の頭を踏むんじゃねぇ!
「どけぇ!」
「きゃあ!」
急に頭を上げたからか青華が大きく脚を上げる。
青華は上手くバランスを取っており倒れそうで倒れない。
しかしそんな俺はすげえバランス感覚よりも別のことに驚いていた。いやもう驚愕だ。俺は驚愕している。
「……まさか黒でも白でもましてやうさぎさんプリントでもなくピンクだなんて、予想だにしていなかったな」
「なぁ⁈」
前述の通り、青華は脚を大きく上げている。するとどうなるだろうか。そう、スカートがめくれ上がり、まるで見せつけるかのように下着を公開することになる。
キャラ……体型に合わない色のデザインに驚愕したのだ。
勘違いしないでほしいのだか、俺はロリコンじゃない。ましてや踏まれたりして興奮するマゾでもない。
しかしどうだろう。男子諸君。君たちは目の前にパンツを見てくださいと言わんばかりに脚を上げている子がいたとしたら君たちはそれを故意にだろうが無かろうが見てしまうのでは無いかな?しかも私は(何故か一人称が私になっている)頭を上げたらそこに楽園エデンが広がっていたのだ。これで見ない男がいるだろうか。いや、ない。(反語)
「いいいい、いつまで見てんのよ」
怒りからか羞恥からか、震えた青華の声にハッとして視線をずらし機敏に立ち上がる。
「い、いや、すまん! わざとじゃ無いんだ!」
バッチリ見させては貰いましたがね。思ってた事からの意外性まで説明しましたがね。
「へ、へぇ。しっかり見た上に、思ってたことからのい、いい意外性まで説明したのに。わわ、わざとじゃ無いんだぁ? わざとじゃないんだあ!」
やばい。また怒らせてしまった。声が普通じゃありえないレベルで震えてる。
どうしよう。逆に褒めてみたら許されたりしないか?
「あ、いや、まぁいいセンスじゃないか? ほら、ぴんくってかわいくない?」
「なな、な、なぁ?!」
俺のセクハラに対し顔をま元々赤くなっていた顔を真っ赤にした青華はワナワナと震える。
あ、ダメだこれ。
「こ、この……バカ────っ⁈」
青華が俺に殴り掛かろうとした次の瞬間、夕日が何かに反射したのが見えたと同時、バスッと買い物袋が何かに貫かれる。
ビニール袋を貫いたそれは必然、そのままの勢いで地面へと流れていく。道路に流れたそれは、道路を大きく黒く染める。いや、これはどちらかと言えば雨の降った後のような──
「み、水?」
一瞬間を置いてその正体を認識する。俺の買い物袋は水によって貫かれていた。
突然の事にどうにか思考を回していると、突然、地面を氷が伝い、そのまま目の前に壁を造る。
「何呆けてるの! 襲撃よ!」
怒りと羞恥から瞬時に切り替えた青華が展開した氷の壁が水による攻撃をを防いでいる。
ガリガリと壁が削られる度に直しては削られるという作業の応酬。俺はただ壁の中で小さくなっているだけ……心の中では青華に“やっちまえ”とエールを送る。気だけは大きいのだ。
少しの間そうした状況に痺れを切らしたのか、青華が俺に声をかける。
「早く行ってあいつこっちまで飛ばしてきて!」
「あ、へぁ、はい!」
痺れを切らすの速すぎだろ、とも思ったが、ただ守られていただけの俺に拒否する権限などあるはずもない。
まったく、やれやれ、青華も我儘だ。
青華の言うとおりに敵に接近するために、俺は霊力を足の裏に集め一気に放出する。
霊力とは特異者が能力を発動するときに使うエネルギーでものすごく細かい粒子自体がエネルギーを持っている。生き物を構築する最小の粒子がこれであるとされ、『魂』と言われることもある。青華の氷もこの霊力の粒……霊子によって構築される。
まあつまりすごいエネルギーなのだ。万能ではないが。
物凄い勢いで風のごとく跳び出した俺は前方に制服を着た一人の男を発見する。
「うあおっ⁉」
男は急に飛んできた俺に対して目を見開き悲鳴を上げる。俺は男の横を通り過ぎ、直ぐに後ろで急停止する。ちなみに、男の横を通り過ぎたのはわざとではない。止まれなかったのだ。
「ハァッ!」
男の背に手を置き、こちらに跳んできたときのように霊力を使って男を吹き飛ばす。
「へ、あひ、ひぃいやぁぁぁぁ!」
五メートルくらいなら飛ばされた事あるけど、三十メートル近く飛ばされるのはどんな気分なんだろうか。
男が飛ばされた先には青華が男を凍らせる為にスタンバっている。
青華の周囲に青い霊子が吹き荒れ、周囲の気温が一気に下がる。青華が手を上げたその瞬間、パキィ!と、男の顔以外が青く凍りついた。
「対特異能力者対処法に則りあんたを捕縛する」
形式的なセリフを青華が言い終わったところで俺が戻ってくる。
毎回思うけど中二臭いよなこれ。
で、
「捕まえたは良いけど、こいつどうすんだ? 抵抗はできないだろうけど」
「もちろん情報を聞き出すわよ。何でこんなことをしたかー、とか」
そう言い、青華はもう抵抗を諦めている男に向き直る。
目が怖い、目が。
「おい、先に言っておくけど、その氷に触れている間あんたは霊力を一切使えないわ。じゃあ、まずはあんたの名前から聞かせてもらおうかしら」
抵抗できない、霊力を使えないと言う理由は青華の能力にある。
俺の事や目の前の男を凍らせた事から解る通り、青華は氷を操る特異者だ。
ただし、青華が使うのは只の氷では無い。霊力の込められた青・い・氷・。これは込めた霊力以下の量の霊力を封じる事ができる、霊力封じの青い氷。
まさに対特異者用の能力としては強力な能力だろう。
その特性から≪寒獄≫と名付けられたこの能力は世界的にも数が少ない希少な能力だそうな。
もちろん、普通の無色透明な氷も扱うことができる。
青華の質問—————詰問に男は少し間を置いて答える。置いた少しの間は、青華の変わりように驚いているようだった。
「平坂塞造……です」
「そう。能力は?」
「水矢、です」
青華は次々と質問し、歳や誕生日、血液型さらには十二星座まで聴取する。
平坂塞造。15歳。1月5日生まれの山羊座。血液型はB型。お気に入りのパンツの柄はイチゴ柄。
そして──
「じゃあ、何で私達を襲ったの?」
その質問が来た時、今まで次々と質問に答えていた平坂が口籠もる。
「何か言いにくいことなの?」
「そ、それは……」
いやに歯切りが悪い。確かに襲った理由が言いやすい訳がないのだが、ここまで来たらもう言ってしまったほうが楽だろう。
「……明日、ペアでの戦闘訓練授業があるだろう、そこでは生徒の能力によって順位が付けられるんだよ」
「初耳ね」
「しかも、上位の者は今後の普通教科を含め、様々な授業での成績や単位などが優遇され、更には学食の無料券まで貰えるという」
マジか。特に成績の優遇なんて普通は無い。
訓練による単位ならともかく、今後の成績にまで影響を及ぼせるというのが凄い。が、学生としては学食の無料券も魅力的だ。
「そして、凄いのは最後だ」
「何? これ以上に凄い物なんて有るのか?」
もうここまでで俺的には十分凄いし魅力的で明日は一日がんばるぞい!的にやる気が出てきたところだが。
しかし、平阪の言うとおり最後が凄かった。
「なんとな……上位者は例年ひっじょ────にモテるんだ」
「おおおおおおお!?」
雄叫びを上げた。この世全ての益荒男の集合体の様な雄叫びを。
「上級生に俺の中学の先輩が居てな。その先輩が言っていたんだ、ランク上位者はモテると。ちなみにその理由は調査中らしい」
「おぉ!」
青華は呆れたようにやれやれと首を振っている。
「これだから男って……。はぁ、もういいわ」
そう言い青華は氷を溶かしていく。
溶かす、とは言うが溶けた氷は液体として解けるのではなく、気化して消えていく。
「いい? 今回は見逃してあげるけど、次やったら全身氷漬けにして警察に突き出してやるんだから。分かった?」
氷を溶かしながら最後にもうやらないように、と念を押す。
「は、はい」
うん、と満足気に頷いた青華は男に背を向け歩き出す。
それについて行こうとしたところで後ろから呼び止められる。
「おい、暮木」
はい。実は全体を通して初めて名前を呼ばれました。どうも。暮木鈴人です。
青華と俺に対する態度が違いすぎないか君。
「お前達は俺が狙ったのを『私達』と言ったけど、勘違いするなよ。俺が狙ったのはお前じゃない、凍羽青華の方だけだからな」
「……ツンデレ?」
「違う──何故かと言えば、お前よりあっちの方が脅威だと思っていたからだ」
実際は違ったけどね。と、平坂は自虐的に言う。
「……お前、俺の名前知ってたんだな」
「勿論」
平坂は右の親指を立てて軽く笑う。
「俺は既に学年の全ての女子とその直ぐそばに居るやつを記憶している」
「マジで⁈ すげぇ!」
あぁ、やっぱりな。こいつは根は良い奴なんだろう。そんな気はしてたんだ。出会い方が違えば良い友達になれだろう。いや、今すぐにでもなりたい。なりたいけど
「すげぇ、すげぇよお前。俺にはそんなことは出来やしない。でも、でもさ、何でそれをもっと他に活かせないんだよ。もっとその頭を使えば明日だって上位に行けたかもしれないのに。勿体ねぇよ」
「あぁ、かも、しれない。本当にすまなかったと思っている」
恐らく、平坂がこんなことをしたのはただモテたいだけじゃないんだと思う。なにかそうしなければいけない理由が有ったんだろう。
恐らく本気で悪いと思っているのだろう。だが、謝ったからといって反省した証拠にはならない。
それに、平坂が俺達を襲ったという事実は消えることはない。これから平坂は行動で反省を俺達に示さなければならない。
「じゃあな、明日頑張れよ」
そう言い平坂に背を向け歩き出す。
反省を示した訳でもないし、何か償った訳でもないが、俺はもう平坂には怒っていない。
だが、襲われたという事実に恐怖を覚えている。
許しているわけではない。
けど、まぁ。
これから女子の情報をくれるって言うのなら、許してやらんことも無い。
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