001-「ツンデレと暴力系は似て非なるもの」
「今から約千年前、世界中を揺らす超大型地震、特異大地震が起こった。これが千百年頃だと言われている。この後、日本では復興に二十年とかからなかったと言われている」
昼休み後の歴史の授業。ここまで眠くなることがあるだろうか。
春。まだまだ肌寒いとはいえ、窓は開いて無く、さっきまで居た人の呼気や体温で教室内の温度が上がっているためちょうどいい感じで眠くなる。
まあ、さっきまでも寝てたんだけど。
「この地震による被害の復興が早いのは一重に『特異者』の発見が大きいだろう」
んー、眠たい。日差しがいい感じに当たって更に眠い。
寝る子は育つと言うがあれはどこまでが『子』として認識されるのだろうか。やっぱり成長期の頃までなのか。しかし、一般的に男子の成長期は中学から高校まで……そうなると高校生は『子』なのか。いや、高校生は『子』ではないような……。
なんて、他が真面目な話をしていると下らない事を考えてしまうのは、俺だけだろうか。
しかし、腹も減ったなあ。腹が減っているのに眠い。
今日の夕飯は何だろう。
と、思考は次の事に飛んで行く。
「知っての通り、特異者とはこの地震の後特殊な能力を得た人達の事で、この特異者達によって人類は急速に復興、発展したわけだ。ちなみに能力を同時に2つ以上持っている人は今のところ確認されていない」
昨日はとんかつだったからな、多分焼きそばかなんかだな。
いや、今日の朝は米を炊いてあった筈だから炒飯やオムライスかもしれない。我が家は一升炊きなのだ。
が、5合位炊いても次の日にはいつの間にか無くなっている。……四人しかいないのに、昨夜はまだ残っていた筈なのに。家に帰ると米が既に無いかもしれない。
「そして、この特異者達は霊力と呼ばれる、これまた特殊な力を消費して能力を使う」
(あ、コンビニに寄って帰ろう。ハッシュドポテトが食べたい。……そういえば、どうしてハッシュドとフライドで分ける必要があるのだろうか。どちらも揚げているのに。やっぱり、調理法の違いなのか?)
「おい、暮木。私が物語的に大事な説明をしている最中だ。変なことを考えるな」
「先生こそ、最初からメタ的発言をしないでください」
何だこの教師は。
普通最初からメタ発言するやつがあるか。
そんなだからキャラ設定もまともに作ってもらえないんだ。名前すら考えられてないんだぞ。
「お前が話を聞いていないからだろうが。なんで俺がこの時間にまで残って教室にいるんだ、わけわからん」
「そりゃあ、俺が授業中に寝てた罰として放課後残れと言ったのは先生でしょ」
残れと言ったのは先生の方だ。まあ、今時義務教育でもないのに生徒を個人で残すようなやる気のある先生も珍しい。そうでなくとも、この学校は生徒の自主性が全てみたいなところなのに。
「まったく」
と、先生は何かを言おうとして急に辞める。
? なんだ?
「どうしたんですか?」
「ん? んー、いや、なに。私にもお前のような時代が有ったんだと思い出してな」
「おっさんか」
「そう、ただ昔を懐かしんでいるんだよ。いやあ、あの頃はよかったなあ。俺も色々遊んだもんだよ」
「へえ」
遊んだって、女か? 酒か? それともギャンブル……不良だったという線もあるな。不良が教師を目指すなんてよくある話だし。
そうでも無くとも、精々ゲーセンくらいか。
「うんうん。懐かしいなあ。ドロケイ、缶蹴り、めんこ。あとはおはじきなんかでも遊んだなあ」
「高校生が⁈」
それはどんな高校生だったんだ。そして全部一人でできない遊びであることを考えると、一緒に遊んでた人も存在している……!
というか売ってたのか、めんこ。
「うん。空き地に四、五人で集まってねえ……」
「ドラえもんかよ!」
それかキテレツ大百科。
「と、雑談はいいとして、今日はここまでだ。さっさと用意して帰れ。寄り道なんてするなよ」
「なにのび太君が先生みたいなこと言ってんすか」
「私は先生だ。のび太君じゃない」
少なくとも俺が知ってる教師は寝てる生徒を起こす為に他の生徒に半身氷漬けにさせたりはしない。そして、高校時代に昭和の小学生みたいな遊びはしない。
(凍らせる方も凍らせる方で、その行動に疑問を持って欲しい。あれ、結構本気で死ぬかと思うから。あ、チキンも買おう)
注意なんて関係なく寄り道する気満々だった。
──よしよし。準備できたし帰るか。
本当に教師かどうか疑わしい教師(仮)──生徒を凍らせる教師は(仮)で十分だ──を他所に帰ろうとしたそのとき、急に教室の温度が下がり先程の暖かさは何処かに消え去った。
「──やっと終わったの?」
「うおっ!」
急に後ろから声を掛けられる。気の強く、幼いようなアニメ声。
てか、心臓出るかと思った。心臓がバクバクいってる。
心臓バックバクだ。
振り返ると、後ろには一人の女の子が居た。
長いふんわりとした黒髪に可愛らしい童顔。それに全体的に小さな体躯……140も無い身長。胸もない。それでもかなりの美少女だ。
というか少女だ。
振り返ると後ろに居たのは少女だった。
「チッサ」
「はあ?」
しまった。
思わず思ったことを口に出してしまった。
やはり美を付けるべきだったか。論点はそこではないけれど。
少女──青華せいかの周りに青い粒子が浮いている。
周囲の気温がまた下がる。空気中の水蒸気が氷に変わりキラキラと陽光を反射させている。
「ごめんなさい、すいません、痛くしないで」
小さいと言ったことに対してご立腹らしい。
だって仕方ないじゃん。本当の事なんだから。
悪びれもなくそう思っていると、やがてその感覚は一気に襲ってきた。
「ちょっ、つめたっ、冷たい! 足冷たい! 足の感覚が無くなってきたからぁ!」
俺の脚が凍りついている。
さっきの俺の半身を凍らせたというのはここまでで分かる通りこいつである。本人は仕方なくやったと言っていたが、見ていた奴の話では嬉々としてやっていたという。
きっとそうだったんだろうなあ、と俺も思う。
「はぁ、まぁいいわ小さいって言ったことは許してあげる。私は器の大きい人間だから。私は大きい人間だから」
氷が解けていく。
何が寛大だ、既に足凍らせておいて寛大もなにもあってたまるか。
なんて、思っても口に出してはいけない。
が、上から目線はイラっとくる
そして女の子が舌打ちとかするんじゃない。
「けど、私を待たせた罪は重いわ」
「へっ? あ、いや待ってたことすら知らなかったし、居るのにも気づかなかった──」
「それは小さくて眼中になかったということかぁ!」
体がくの字に曲がって、視線が自然と(人為的に)下がる。拳が腹にめり込んでいる。この光景ももう見慣れたものである。
完全に安心しきっていた俺には寝耳に水も同然の出来事で、言い訳とか弁明とか言い逃れとかそういうのを行う前には殴られていた。
まさに一瞬。ギリギリ目で追えるかどうかという速度で繰り出された拳が俺を吹き飛ばす。
「べふぅ!」
「フンッ、まあ、いいわ。今日はこれで勘弁してあげるわ」
感謝しなさいよねと、言い俺を見下ろしてるこいつは(名前だけはさっき出したが覚えている人はいるかな?)、凍羽青華とううせいか。
中学からの付き合いで、もしかしたら親友と呼べるかもしれない。一応、こいつは名家のお嬢様なんだが、次女で姉も兄も居るってんで最低限の教育だけして後は自由にさせられてたらしい。
娘の教育(躾?)くらいきちんとして欲しいものである。
「感謝って、お前。しかも何かスルーしてたけど、飛ばされたよ! 俺、飛んでたぞ! 五メートル位!」
人って只の何の細工もないパンチで飛ばされるの⁈
世界を目指せるぞ。
てか目指そう。
「人は飛ぶものよ。さ、いきましょ」
「なにっ⁈ 人って飛べたのかっ⁈ ──って行くって、何処に」
「コンビニに寄るんでしょ?」
……なぜ、お前がそれを知っている。
「勘違いしないでよね、別にあんたのためとかじゃなくて、私がエクレア食べたいだけなんだからね」
「……いや、お前はツンデレじゃなくて暴力系だとおも……」
「は?」
「なんでもございません!」
イエスマム! 我が命は貴女のために!
殴られたくないが為に頭を下げ恭順(笑)を示す。
プライド? 知ったことか。
「あ、いや気持ち悪いからやめて頂戴」
マジトーンで言われた。結構マジな真顔で底冷えする様なマジトーンで言われた。
結構傷つくなあ。
「早く行くわよ」
「チョットマッテクダサイ!」
扉を開けて出ていく青華についていく。
あまりに傷ついたせいでカタコトになった。
「うるさい!」
ガンッと一気に扉を閉められ激突する。
痛え。鼻血とか出てないだろうか。
「うう…」
情けない声を上げて前方の小さな背中を追いかけて行く。
一方で、
「……完全に忘れられてたよなぁ」
という30代後半の教師のつぶやきは誰にも聞かれることは無かった。
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