サブストーリー

S1 新しさの模索

光龍月前節 13日 雨天


得意な点:回復魔法・防御魔法

     特に防御魔法については、実は扱える方が少ないので活かしていきたい


現状の課題:1人になると基本的に戦闘できない

目標:護身術程度の戦闘ができるようになる


方法1:自分に対して回復魔法をかけ続ける

問題点:長期戦になるほど多くの魔力が必要/別に攻撃手段が必要


方法2:相手に対して多重に防御魔法をかけ、過剰負荷状態にする

問題点:瞬間的に多くの魔法をコントロールする必要がある


方法3:目くらましをして逃げる

問題点:根本的解決ではない/目くらましの魔石は1回限り


方法4:体力強化などの魔法を習得する

問題点:全く分からない分野であり、新たに学習・習得が必要


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しとしとと雨の降り続く夜。夕食の終わった旅団ギルドでは、本格的な長旅の出発に向けて各々の得手不得手を再確認する者たちがいた。


「私、いざ闘うぞってなると怖いんです…。 この世界では能力なんか使えないですし、あるものといえばこの棺桶くらいなものですから…。」

例えば、棺を背負う異界の少女はこう語る。それに対して、皆がそれぞれの考えを示す。

「例えば、その頑丈な棺を囮に使うというのはどうでしょう?」

「盾で殴る!よくわかんないけど、かたいのは強い!」

「まぁ、棺が本体みたいなところあるし、それあれば生き残れる気もするし大丈夫でしょ……?」

自信がない者には、それとなくフォローしながら戦い方のスタイルを提案していく。


「ボクは拳ひとつあれば戦えるよ!なによりかっこいーし!」

例えば、武器を持たぬ食いしん坊の男児はこう語る。それに対して、皆がそれぞれの考えを示す。

「前線を張れるというのは、特にこの旅団では素晴らしいことです。しかし、殊更防御という点においては粗の目立つ部分がありますね。」

「体の強さだけでいえば、旅団随一だね…… 食費を考えなければ……」

「絶対私より戦闘向きです!加えるなら、技を増やすとか?例えば…パンチだけでなくキックとか?」

自信のある者には、弱点も提示しつつ別の視点からも考察を深めていく。


成果があるのかないのかはっきりしない会話だが、旅団員たちの気持ちは確実に長旅に向いているのがうかがえる。そして、話題の矛先がセリン自身に向くタイミングも確実に存在した。


「そういえば、セリンさんは結構器用ですね。防御系と回復系の魔法が両方扱えるのは、あまり多くは見かけませんね。」

そう言うのは、宝石魔法を得意とする紳士的な青年。もちろん、セリンも思うところは存在する。

「逆に、前衛の方がいないと一切戦えないんです。自分自身の護身すら危ういですし…」

旅団に所属する前を思い出しながら語る。もちろん、皆がそれぞれの考えを示す。

「例えば、敵に対して多重に防御魔法をかけるというのはどうでしょう? 魔法の種類にもよりますが、急激な状態の変化に身が持たないことがあるそうです。」

「自分を回復し続ければ、ずっと戦えたりするんじゃない……?」

「そういえば、この旅団でバフ持ちって珍しいですね。なんか新しい魔法も使えるんじゃないですか?」

「魔法はわかんないけど、セリンもいっぱい食べたら強くなるんじゃないか!?」

1人で考えているだけでは思いつきもしない考えが出てくるのが、話を交えることの大きな利点である。その日暮らし・孤独の身で旅をしていた時期があるからこそ、そのことはとても身に染みる。しばらくは止みそうにない雨夜の中、セリンの心には間違いなく灯がついていた。


「自分の得意分野は、しっかりと活かせるようにすべきだな。」

束の間の静寂を破ったのは、自室から出てきた威厳のある初老。または団長とも呼ばれる人物だった。

「かくし玉や変化球は、いつもは見せないからこそ意表を突けるのです。私が見てきた奇術師たちは、皆そうやって我々貴族を楽しませてくれるのですよ。」

そう続けるのは、威厳というよりかは高圧的という言葉が似合う仮面の男性。それでも、ここまで自分たちの得手不得手について話し合っていたからか、今日の言葉は珍しく腑に落ちる。

「この先は団体戦が主軸となってくるだろう。もちろん、これまでも複数人での行動はあっただろうが、これからは本当に旅団全体が一丸となって戦っていくこととなる。それは戦う者だけに留まらず、後方支援をする者や危険を察知する者、更にはキャンプ地や食事の確保なども入ってくる。もちろん手数は多いに越したことはないが、自分のできることは見失わないようにしてくれたまえ。」


団体戦。団長のその言葉は各々に深く刺さっただろう。異世界から迷い込んだ者、自分の出白を探す者、それどころか特に何も覚えていない者だっている。それでも、霧の影響で何か大切なことを思い出せないのは皆同じ。今の旅団には、自然と心地のいい連帯感が生まれていた。

信じられる仲間がいる。例えばセリンにとってはその事実がとてもうれしかった。その日暮らしを続けていると、時折騙され痛い目に遭う。でも今は違う。信じていいという事実は、経験は、間違いなく心を満たしてくれるものだった。たとえ雨がなかなか止まなくても、一緒に雨宿りしてくれる仲間がいる。今なら、自分でない誰かのために強くなれると確信した。


「ではそうだな、せっかくなのでこの【目くらましの魔石】を皆さんに配っておきましょう。私の"得意分野"ですから。」

「今のはどう考えても、ここで〆にする雰囲気だったよね……」

結局夜半の頃まで、人を入れ替えながらこの話は盛り上がってしまった。今日だけは、とんだ夜更かしさんになってしまった。



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登場人物

ハク by イルカニカ

フォルカー by Snow pulse

ダイクロ by hekiru_celaeno

クウェレ by BANET

ラディウス by あぱりす

フェイス by E-brush

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幻龍の旅団 附説韋編 -セリンの日記帳- @GlinT

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