第二話 エピソードタイトル未定[0.3版]

 ガチリ。


 そんな重たい金属音がコダマした。

 俺は聞き覚えがあってすぐに何の音か見当がつく。

 しかし、俺を囲むオッサンたちにはその音がなんなのか分からなかったようだ。

 全裸になったオッサンが突然動かなくなったので、他の物取りたちは不思議に思ったようでそちらの注目していた。


 木の根元に座り込んだ子がゆっくり起き上がるのと同時に、全裸のオッサンが震える膝でジリジリと後ろへと下がった。

 その時、他の面子メンツにも音の正体が初めて見えたんだろう。

 全員の間に一気に緊張が走った。


 その子が持つ──回転式銃リボルバーに。


 真っ黒でサラサラな髪を風になびかせ、紫の振袖に袴とブーツという女子学生の格好。黒目がちで可愛らしい顔には、ドス黒い悪魔の形相。

 回転式銃リボルバーを全裸のオッサンに突き付けたその子──俺を見捨てて真っ先に逃げたハズの仲間の清輝キヨテルが、苦々しい顔で口を開いた。

「大人しくしてりゃあ調子乗りやがって。いつもこうかアァ? 脳味噌ねぇのかお前ら。ないならその頭いらねぇよなぁ? なくしてやろうか?」

 ……悪魔より口が悪いよね。

「ああ、でも人殺しにはなりたくないんだよね。だからさ。オイタできないように去勢だけにしといてやるわ。ソレなくてもさ。別に生きていけるじゃん? なければ真っ当に生きられるだろ? 更生の為に手を貸してあげるんだから、ありがたいと思えよ?」

 清輝キヨテルは手をゆっくりと下げた。

 ヤバい、これはヤバい。あの雰囲気だと、マジ切れだ……っ!


清輝キヨテル!!」

 に流石にやりすぎだろうと俺が声を上げた瞬間、本当に一瞬だけ清輝キヨテルの視線が俺の方への向けられる。

 それを全裸のオッサンは見逃さなかった。

「オラぁ!!」

 オッサンが清輝キヨテルの右手を弾いて銃口をそらす。その衝撃で一発発砲された。


 鼓膜をつんざく破裂音に、その場に充満していた緊張の空気が破壊された。

 俺を羽交い絞めにしていたオッサンたちも、手に手に武器を掲げて清輝キヨテルの方へと殺到していった。


「邪魔しないでよ八雲ヤクモっ!!」

 清輝キヨテルがそう文句を叫びつつ、全裸のオッサンが放った横殴りの一撃をしゃがんでかわす。その勢いのまま横に転がってオッサンたちと距離をとった。

「だって! 止めないと撃ってたでしょ!?」

「それの何が悪いのっ!?」

「悪いよ!」

 去勢ってつまり手にした銃で──うわ怖ッ! 想像しちゃったよ!

 今度こそちゃんと戦わないと。じゃないと清輝キヨテルがオッサンたちを蜂の巣にしかねない。

 俺は、つかだけの日本刀を握りしめて、それが自分の腕の延長だと感じるように集中する。

 そして全身全霊を込めて、念じた。


 出ろ、と。


 俺のその必死の呼びかけに呼応し、柄がビリビリと振動する。

 そして──


 竹の刀身が現れた。

 俗にいう、竹光たけみつ


「ガッカリだよっ!!」

 次々に放たれるオッサンたちからの攻撃を綺麗にかわす清輝キヨテルから、そんな罵詈ばりが放たれる。

 そんな事言われたってっ……これが今の俺の限界だしっ……


 清輝キヨテルの声に気が付いたのか、日本刀を手にしたオッサンが俺の方へと振り向く。そして、俺がいつの間にか竹光を手に持っている事に気が付いたようだった。

「お前ッ!!」

 すかさず身を翻して俺への斬りかかって来た。


 竹光では、いくら錆て欠けてるとはいえ鋼の刀身は受け止められない。

 俺は痛みに軋む身体をなんとか制御し、一歩踏み込んで一気に相手との距離を詰める。振り下ろされた一撃を横に紙一重でかわした。

 そして、相手の手に竹光の一撃を食らわせる。

「ぐぅっ!!」

 オッサンは呻いて刀を取り落とした。

 俺はチャンスとばかりにオッサンの刀を遠くに蹴り飛ばそうとして──油断した横っ面に肘鉄を入れられた。


 あまりの痛さに横に転がる俺。頭を押さえて立ち上がろうとした瞬間、空いた脇腹に振りかぶったオッサンの蹴りが炸裂し、さらに地面を転がされた。

「調子乗ってんじゃねぇよっ……」

 苦々しく吐き捨てられたオッサンの言葉にそちらの方へ顔を向けると、刀を拾ったオッサンが俺を暗い目で見降ろしていた。


 やられるっ……


 そう思った瞬間──


 ガチンッ!!


 金属同士がぶつかる音がして、オッサンが手にした刀が弾き飛ばされた。

 驚いて振り返るオッサンと俺。

 その視線に先には、左手にした回転式銃リボルバーの銃口から煙を立ち上らせた清輝キヨテルがいた。

 他のオッサンたちの攻撃をかわしながら、こっちを助けてくれたんだ……清輝キヨテル優しいっ……

八雲ヤクモ、使えない」

 放たれた言葉は冷たかった。一瞬見直した俺が馬鹿だったのかな……いや、助けてくれたのは事実だし。

「もういいよ。せっかくだから八雲ヤクモに花を持たせてあげようと思ってたのに~。八雲ヤクモ弱すぎダメすぎ使えなさすぎ。もう端っこで小さく死にかけの虫ケラみたいにうずくまって泣いてなよ」

 そこまで言う??


 しかし。

 そこからは本人の言う通り、清輝キヨテルの独壇場だった。


 清輝キヨテルはまず、向かいに立つ全裸のオッサンからのナタの一撃を華麗にかわすと、そのこめかみに回転式銃リボルバーのグリップを叩き込む。相手身体がよろけた瞬間、肘で相手の顎を打ち上げてからクルリと一回転。

 その美しい舞のような動きから放たれた激しい回し蹴りでオッサンの身体を後ろへと吹き飛ばした。

「このぉっ!!」

 背中を向けている清輝キヨテルへと、もう一人のオッサンが一撃を食らわせようと、手にした斧を振りかぶった。

 破裂音一発。

 オッサンの耳があった場所から赤い飛沫しぶきがあがった。

「ぎゃあああ!」

 オッサンは斧を取り落として耳があった場所を押さえて膝をつく。

 清輝キヨテルの、自分越しに腕をまわして脇から顔を出す銃口から煙が立ち上っているのが見えた。

 その煙に尾を引かせつつフワリと一瞬飛んで身体をひるがえした清輝キヨテルは、猛烈な勢いの蹴りをオッサンの顔面へと炸裂させる。


 二丁の拳銃を手に紫の振袖をひらめかせて、黒く艶やかな長い髪を舞い広げながら、清輝キヨテルは美しくも危険に舞い踊りつつ、たった一人で全員のオッサンを制圧していってしまった。

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