第三話 エピソードタイトル未定[0.3版]
「あーあ。こんなに埃まみれになっちゃった。返り血飛んでたらどうしよぅ〜」
着物をパタパタと叩きながら歩く
この姿だけを見てると、さっきまで鬼神の如き強さでオッサンたちを
俺は、物取りのオッサンたちにボッコボコにされた痛みで軋む身体を引きずって、さっきまでの光景が半ば嘘だったんじゃないかと思いつつヨロヨロと歩いていた。
物取りたちは、鬼神の如き
そりゃそうだ……あんな、徹底的にコテンパンにやられたら、もう手出しなんかしたくなくなるよ。分かるよ、分かる。
俺だって嫌だよ……
「あ~。それにしても怖かった~!」
「嘘つけ……」
白々しい嘘に思わずツッコミ。
あんな戦い方しといて怖いも何もないだろう……
「怖かったのはホントだよ? だってボクこんなに可愛くて可憐でか弱いから~」
どの口が言うんだ……か弱い女の子が、回し蹴り一発で大の男を吹き飛ばせるかって。
──そう。
こう見えて
女学生風の格好をしているけど、れっきとした男。その名も
「それよりさ……なんで最初逃げたの?
ちょっと疑問に思っていた事をふと尋ねてみる。
そうだよ。
「
少し頬をピンクに染めつつ、
……お巡りさん。ここに、マジモノの鬼が居ます。
物取りに襲われて余計な時間をくってしまった。もうすぐ日が沈む。早く里まで下りなければ、何に襲われるか分からない。
他の物取りも怖いし、熊も猪も、今ならただの野鳥も怖い。
いや、横を歩く
「でもさーあ? ホントにこんな物騒で
そう。
俺たちは、今いる山を降りた先にある
そこで、とある事件が発生したらしい。
『連続昏睡事件』
そこを訪れる人たちが、次々に謎の昏睡状態に陥る、という事件だ。
センセーショナル……というワケじゃなく、とある新聞の片隅に掲載された事件。
──といっても、新聞の記事をそのまま鵜呑みには出来ないけど。
新聞社の奴らは、ある事ない事好き勝手書くから。例えそれが小さな事件でも、勝手に尾ひれ背びれ胸びれ手足まで付け加えてしまう。その方が新聞が売れるしね。そうなると信憑性など二の次になる。
それに、どうせその場に確かめに行く酔狂なんぞ殆どいない。
……あ。
今、俺自分の事酔狂って言っちゃった……。
俺たちは、組織の密命を受けて、その事件が本当に発生してるのか、発生しているなら原因は何なのかを調査しに出向いていた。
そう、それが俺たちの使命。
何事にも優先させなければならない、俺たちがやらなければならない事。
「それを確かめるのが俺たちの使命だし」
そう言いつつ、今気づいた。
調査が使命なのに、それを前にして俺に怪我させるって何なの……?
「怪我したのは
「ぐぅ……」
可愛い声で放たれる鋭い言葉に、俺の胸がゴッツリ
そう、実は俺は特別な力の持ち主。
『意図したものだけを切り裂ける魔剣・
俺は、この特別な力の継承者ではあるものの、自在には使いこなせていなかった。
この、腰に吊るした刀の
これが
が、先ほどのような状況に陥っても、俺は
出て、さっきみたいな竹光とかたたら鉄がせいぜい。『意図したものだけを切り裂く』刀身なんて滅多出てこない。
出来るはずなんだけど……時々出てくるよ? 時々。稀に。ごくたまに。
「し……しょうがないじゃん。俺、まだ修行中だし」
「え?! 言い訳しちゃうの?! 最低! それって自分が
「……そこまで言う?」
「だってボクは資質ないんだよ?! 本来なら資質持ちの方が強いよね?! 強い筈だよね?! あれ? でも
「……やめて、心折れる……」
「大丈夫♡ 折ろうとしてる♡」
常に強い心を持ってないと、簡単に心を複雑骨折させられる、油断できない相手だ。
……いや、一応仲間だけど。
仲間、の筈なんだけどなぁ……やっぱり嫌われてるのかな、俺。
「そんなに弱くて、組織の『遊撃隊』なんて場所に所属できて……光栄だと思いなよ? ボクの相棒でいられるなんてさ、今生至上の幸せだよ?
ん? それとも、何かの間違い?」
「それを言わないでよ……」
「んふふ♪ 自覚あるから否定できないんでしょー? でも、
「本当に?」
「うん♪」
「何処?!」
「地味なと・こ・ろ♡」
「……」
「諜報活動するとしたらこれ以上ない資質だよー? 民衆の中に
「嬉しくない……」
「ホラ! それに比べてボクはさー。こんなに可愛いから、そんなつもりもないのに目立っちゃって。やっぱり天から与えられた可愛さは隠せないよね」
「……男の癖に」
「あー!! ソレ! この大正の世にまだそんな前時代的理論言っちゃうの?! 明治に帰れ!」
「それは無理……」
「可愛さはに性別は関係ありませんー! 男に生まれたからって、男らしくいなきゃいけないって事はないでしょ?」
「いや、日本男児たるもの──」
「化石っ!! そんな自分を『型』にハメて楽しいのー? 自分は自分。自分以外にはならないしなれないし、自分以外になる必要はないのっ!」
「でも──」
「そんな事言ってるから、いつまで経っても
「ふぐっ……」
痛いところを鋭角に突かれて、俺は二の句を告げなくなった。
トボトボと歩く事しか出来なくなる。
心……バッキバキに折られたよ……
「あ! 見えてきた!」
俺を一方的な
道に覆いかぶさるように繁っていた木々が切れた場所から、山の麓が見える。
モクモクと白石湯気が立ち上り、チラホラ灯りが見えた。
あれが
良かった……なんとか、なりそう。
目的地が見えると少しだけ気力が戻る。
俺は、体力を振り絞ってなんとか山道を下って行った。
──が。
無理をしすぎたのか。
村の入り口に辿り着いた時に、俺はバッタリとその場に倒れ込んでしまった。
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