本編章
第一話 エピソードタイトル未定[0.7版]
人生で辛い事の最上位は何だと思う?
俺の場合はぶっちぎり『仲間からの裏切り』だよね。
さっきまで隣にいた仲間の
俺の人生、良い事なんて本当はないんじゃないかな……
***
俺たちは、この山を超えた先にある温泉地を目指していた。
蒸気機関車もない道中はかなりキツかった。乗合い馬車は仲間の
ある程度整備されてはいるものの、やはり踏み固められただけの道は足腰にくる……都会育ちなのに。
しかも、なぜか仲間の
あれ? おかしいな? なんか自然とそんな流れになったんだけど、旅の荷物を片方だけが持つって、これ自然? 違うよね??
当然、山道なので外灯もないし。だから、朝方山の麓の宿を出て今日中に山越えしてしまおうと思っていたのに。
日も落ち始めてそろそろ逢魔が時にさしかかろうとした段階で……
なんの因果か──物取りに遭遇してしまった。
俺たち、日頃の行いが悪いのかな。
え? 俺単品の日頃の行い? いや、まさか……そんな、わけ、ない……よね? 違うよね??
***
「金目のもんだしな。痛い目見たくないだろ?」
裾がほつれまくった上に薄汚れて元の色すら分からない着物のオッサンが刀を振り上げた状態のまま俺にそう尋ねてくる。
俺の後ろにも二人、それぞれ
詰んでる……詰んでるよこの状況。
金目のもんと言われても……路銀は仲間の
でもこの場には
オッサンたちの気配がした瞬間、
え? 目的果たす前に終わるの俺の人生?
「すみません……お金、持ってないです」
「そんなワケあるか!」
あるんだってば。
でも、俺の言い分なんて信じてくれるワケもなくオッサンたちは激昂。
俺は後ろから背中を蹴り飛ばされて、向かいに立つオッサンの足元の地面に突っ伏した。
すぐさま背中をギュッと踏みつけにされる。苦しくて足をどかそうとするが、余計強く踏みつけられて動く事は許されなかった。
「いっ……すみません、本当なんです……か、勘弁してください」
息苦しいままなんとか声を絞り出したが、余計にギリギリと踏みつけられる。
と、その瞬間、オッサンが何かに気が付いたのか何かを地面から拾い上げ──あっ! それはっ!!
「なんだこりゃ?」
オッサンは、地面から拾い上げた日本刀の
「返してください! ソレ、大事なモノなっ……」
俺はなんとか踏まれた足から逃げようと身体をくねらせるが、余計に強く踏みつけられただけで脱出は敵わず。肺の中の空気が押し出されて声も出せなくなった。
「刃もついてない
オッサンたちの姿も見る事ができず、声も出す事もできなくなり、俺は地面にギリギリと爪を立てる事しかできなかった。
高いものではない。全然高いものではない。
でも、俺にとっては本当に大切なものなのにっ……
全身に力を入れて、背中を踏みつけるオッサンの足を押し返す。
少し身体が浮いたところで、改めてゲシッと背中を踏みつけられてベシャリと潰された。
でもっ……
「返してくださいっ!!」
俺は渾身の力を振り絞って、俺の前に立つオッサンの足首を掴んで引き寄せた。
それによりバランスを崩したオッサンが、
その隙に素早く起き上がって
逃げなきゃ! 相手は普通の人だし手出しできない!!
オッサンたちの方には振り向きもせず全力で走る。
このまま速度を緩めなければ逃げ切れるかも──
そう思った瞬間、自分の頭の横を物凄い勢いで飛んでいく物体が。
驚いて大きく横に避けた瞬間、よろけてそのまま地面にすっころんだ。
勢いがありすぎて何回転かして身体が止まるとともに、後ろから勢いよく飛んできたものが地面に落下しているのが見えた。
斧だった。
「ヒィ!!」
斧が自分の頭の横を飛んでったという事実に肝が潰れる。股がひゅんってなった! ひゅんって!!
「てめぇふざけんなっ!!」
俺が立ち上がる前に、後ろから頭を何か硬いものでぶん殴られる。目の前が白黒に瞬いた。
「ぐぅっ!」
思わず頭を抱えてうずくまると、追いついて来たオッサンたちに蹴りや拳を何度も叩き込まれた。
もうダメだ──
そう覚悟した瞬間だった。
「こんな所に逃げ込んだって無駄だそ女っ!」
そんな怒号が
驚いてそちらを見ると、フワリとなびく長い黒髪と紫の振袖が見えた。
あれは──
「おおっ! 可愛いお嬢ちゃん。そんな泣きそうな顔して。美人が台無しだ。怖がらなくてもお嬢ちゃんには天国見せてやるから」
オッサンたちの
ああ、言葉の意味理解した。……想像しちゃったよ。気持ち悪い……
オッサンが木の影から腕を引っ張り出し、その腕の持ち主を引きずり出す。
「やだっ……やめてくださいっ……」
そんな怯えた様子で声の主がつんのめりつつ俺たちの前に出て来た。
口元に手を充てフルフルと震えている。
「小僧の連れか? ヨシ。いい事思いついた」
俺に向かって刀を振り上げていたオッサンが、腕を下ろして怯えた風のその子に近寄っていく。
そして、ひょいっとその身体を俵担ぎすると、先ほどまでその子が隠れていた木の根元まで歩いて行ってそこにドサリと下ろした。
「テメェはそこで、指咥えて見てろ」
オッサンは横目で俺に一瞥だけくれて、自分の帯に手をかけた。
え、まさか……
「あの……やめた方が──」
「ウルセェ! 先に死にてェのか!」
俺が止めようとした声を怒号で遮るオッサン。それを合図にか、後ろにいた二人が俺を羽交い締めにしてきた。……抵抗してないのに。
全裸になったオッサンは、木の根元で震えるその子の服に手を掛けようとして──
「
地獄からの悪魔の怒声に、その手を止めた。
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