第七話 エピソードタイトル未定[0.2版]
「ああ、そんな事もありましたね」
乾いた泥湿布を剥がして患部を見つつ、
往診が終わった
丁度良いタイミングだったので、さっき宿のご主人に聞いた話を当の本人に確認してみたところ、そんな素っ気ない感じの返事が返って来た。
「それほどの事ではありませんよ」
そう
「いやぁ先生様々だよっ! あとは、
脇に座るこの宿のご主人が腕をブンブン振って否定した。
「いえアタシは、ただ自分ができる事をしただけだから……」
少し困った笑顔でそう言うのは
「いやいや、
嬉しそうにそう話すご主人。
俺は今治療を受けている最中だからメモは取れなかった為、忘れないようにご主人の話を記憶しようと集中──
「あ痛ッ!!」
「ああ、申し訳ないです」
患部を確認する先生の指がグイっとメリ込んだ為、その突然の痛みに思わず声をあげてしまう。
先生は謝りつつも患部のまわりを少し押しつつ様子を見てから、サッと身を引いた。
「そんな奇跡のお医者様がいる温泉地なんて!
俺の後ろの方にいる
そういえば確かに。そんな大怪我が直せる医者のいる温泉。噂になって人が殺到しそうもんなのに。
「まぁ、先生が来てくれたのは三年前ぐらいからだったしな……でもだからこそだよ! 有名になるのはこれからなんだ! その為にウチも名前を変えたんだからなっ!!」
えっへん、という声が聞こえて来そうなぐらい胸を張る宿のご主人。
ん? どういう事?
「名前って、『
「そりゃな! ここの温泉には『若返りの効能』があるからだよっ!! その効能にあやかって『
若返り!?
なんか、ここに来て色んな話が出てきたぞ??
ヤバい、なんか頭爆発しそう。俺あんま記憶力良くないから混乱する……
「若返りッ!?」
この言葉に、食いついたのは俺だけではなかった。
「どういう事どういう事っ!? 温泉に入ると若返るのっ!?」
さっきまで俺の後ろで宿のご主人と距離をとっていたのに、ズズズイっと器用に正座のまま前に滑り込んで来て、キラキラした目でご主人を見上げていた。
「キヨ──……き、キヨちゃん? 若返るって言ったって、キヨちゃんには必要ないんじゃないかな……?」
人前では
「馬鹿
……百倍返しくらった……
「ははっ! 嬢ちゃんは面白なっ!」
宿の主人がガハハと笑う。笑いごとじゃないよ……
「まあ、若返り云々は置いとくとして。温泉に浸かる事は悪い事じゃないよ。血行が良くなって傷の治りも良くなるし」
さっき俺から外した包帯を巻き直している
そんな
「じゃあ入ろう! 早速今入って来よう!
「温泉に入るのは構いませんが、身体を温めると痛みが増しますからね。それだけは気を付けるように」
さっき身を引いて少し離れた場所に座っていた先生が、ゆっくり立ち上がりながらそう忠告してきてくれた。
確かに。気を付けないと……
「貼り替え用の泥湿布はここに置いておくからね。温泉からあがったらすぐ貼ってね」
宿から出ていく二人の背中を見送る。
俺は、手渡された泥湿布に視線を落としつつ、今聞いた情報で混乱する脳味噌を、なんとか落ち着かせようと静かに
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