第六話 エピソードタイトル未定[0.2版]
「ああどうもー♡ 昨日はありがとうございました♡」
さっきまでの不機嫌の欠片すら見せず、胸の前で手を握ってあざと可愛くそう挨拶する
俺もなんとか立ち上がって身なりを整えると、こちらの方への歩いてくる二人にペコリと頭を下げた。
「お蔭様で昨日は本当に助かりました。ありがとうございました」
そう改めてお礼を言うと、歩いて来た二人のうち一人──白衣の男性が満足そうに笑った。
「
白衣の男性──
二人が俺たちの傍まで来た時、
すぐさま
「結構腫れてきたね。そろそろ湿布変えないと」
痛くない程度に頭にある患部にそっと触れる
「いっ……」
しかし少しだけ痛みが走った為、つい声が漏れてしまうと、彼女は慌ててその手をひっこめた。
「ああ、ごめんね? 痛かった?」
「大丈夫ですっ!」
本当は結構痛かったけど、反射的にそう強がってしまった。
「……
伸びてない。伸びてないよ鼻の下。……多分。
「そうですね。ちょうどいいからここで場所を借りて湿布を変えましょうか」
白衣の男性──
「気持ちは嬉しいんですけど、ボクたち
やんわり
すると、何故か
「……
今度は俺たちが驚く番だった。
「え? でもここは『
「ああ、そうだね。今は『
「「えええええっ!?」」
俺と
***
「そんな苦労してウチを探してくれてたのかい! ごめんな記者さん! 村のみんなは昔からの『
全然すまなそうな顔をしていないこの温泉宿の年配のご主人が、ガハハと笑って
「余計に歩いちゃったよ。疲れたボク~」
……いや、あの顔は歩かされた事を不満に思ってるんじゃない。髪をぐしゃぐしゃにされたのか気に入らないんだ。俺には分かる。
本来、
でも何故か、年配の人たちは
前に「撫でられるの嫌なら帽子でも被ればいいのに」と進言したら、『
先ほど来た二人──診療所の
なんでも、ここにあの事件『連続昏睡事件』の一人がいるそうで。様子を見に来たとの事。
その被害者の一人というのが、この『
昏睡状態の患者の一人──
是非状態を見せてもらいたかったが、いきなり来た新聞記者においそれと会わせてもらえるワケもない。なので俺たちは、いつも通りまずは事件概要の情報を集める事にした。
「それで、二年前の大怪我したのってご主人なんですよね? どうなさったんですか? 何かの事故で?」
手帳を広げた俺は、通された共同休憩所でピシッと正座して取材体制完璧。
そそっと宿のご主人から少し距離をとった
今いる共同休憩所はこの『
お茶は飲み放題で、温泉からあがった後にのんびりと身体を休める事ができるようになっている。
既に温泉から上がった人等が、パラパラとそこで横になったりしていた。
俺たちも外を散々歩き回った後だったので喉が渇いていたから、いただいたお茶が物凄く美味しく感じた。
俺たちの目の前に置かれたお盆から、自分の分の湯飲みを手にしてズズッとお茶を
一息ついてから首をぐるりと巡らせて視線を上げて、記憶をまさぐっているかのようだった。
「事故っつーか。運悪く熊に出くわしてよ。殺されかけた。いやぁあん時ゃ流石に死んだと思ったね」
ヒィ! 想像しただけで怖いっ!!
俺がご主人の言葉に思わず首を
「凄いね! 熊と出会って生きて帰って来れたのっ!?」
小さく手をパチパチとさせて歓喜の声を上げる。
「いや、俺は覚えてないんだがな。知らせを聞いて飛んできた自警団の奴らが熊を追い払ってくれてよ。なんとか帰ってこれたってだけだ。
しかも、内臓飛び出るわなんやかんだで大変だったらしい」
ヒィィィィ! 俺グロイ話苦手っ……!
しかし、横では
「うわぁ~! じゃあどうやって!?」
「そこで助けてくれたのが、
まるで自分の功績をひけらかすかのように、宿のご主人が腕を組んで胸を張った。
その言葉を聞いて、俺と
思わぬ名前が出てきたからだ。
あの診療所の先生と、一緒にいる女の子の名前が。
「先生が俺の腹縫い合わせてくれてよ、
ご主人はその時の事を思い出したのか、自分のお腹をさすりつつ遠い目をする。
俺もイメージできた。
あの診療所で目が覚めた時の事を思い出したから。
優しい手で俺を労わってくれた可愛い女の子──
きっと、それはそれは献身的に介護したんだろうな。
「もうダメだってなってから、驚異的に回復してったんだとよ! 俺も捨てたもんじゃねぇなぁ!!」
そうガハハと笑うご主人を前に、俺と
これから調査する対象が決まった事を、お互いに認識しあった。
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