第二話 エピソードタイトル未定[0.2版] ※没保存版

「やだ♡ 怖い♡」

 そうシナを作って、俺の傍から飛びのいた清輝キヨテルは、すかさず道脇の木の陰に隠れる。

 ええっ……また俺の事見捨てた?


 俺はなんとか立ち上がって応戦しようと身構えたが、戻って来た物取りのオッサンたちは逃げた清輝キヨテルの方への進路を変える。

「あの女を先に倒せ! 銃を持ってるぞ! 取り上げろ!」

 今度は奴らは武器ではなく、手に手にクワスキやらを携えていた。

「ちょっと! 可憐でか弱い女の子の方から倒せってどういう事っ!?」

 自分に殺到しつつあるオッサンたちの手をかわす為、清輝キヨテルは木の陰から飛び出してすかさず俺の後ろへと回り込む。

 ……って……俺を盾にしようとしてる!?

「さぁ八雲ヤクモ! やっておしまい!」

「んな無茶なッ……」

 でも、後ろからガッチリ清輝キヨテルに掴まれているので逃げられない。


 俺は地面に転がっていたつかを拾い上げた。

 もうこの際仕方がない。刀身がない状態じゃマトモに戦う事もできない。

 だって、俺弱いしっ……


 だから、念じる。

 両手で掴んだつかを自分の腕の延長のように考えて、ありったけの力を注ぎこむ。


 刀身よ! 出ろッ!!


 俺のその必死の呼びかけに呼応し、柄がビリビリと振動する。

 そして──


 竹の刀身が現れた。

 俗にいう、竹光たけみつ


「ガッカリだよっ!!」

 俺の耳元でそう叫んだ清輝キヨテルが、俺から手を放して姿を消した。

 ええっ!? 本気でまた見捨てるのっ!?


 清輝キヨテルを見失った物取りたちは俺に殺到。

 手にしたクワスキなどを思いっきり振り上げてきた。

 やるしかないっ……


 俺は、手にした刀(※竹光)で相手の振り下ろしたクワを受け止めると、その腹にすかさず前蹴りを叩きこんで身体を吹き飛ばす。

 相手が倒れるのを見届ける暇もなく、俺の右側から横薙ぎに振るわれたスキを跳んでしてかわした。

 片足で着地してそのまま地面を蹴り、スキを持つその手に一撃を叩きこむ。

「ぎゃあっ!」

 悲鳴を上げた相手は、スキを取り落として叩かれた手を握り込み、ゴロゴロと地面に転がった。


 視界の左端に誰かの動きが見える。

 俺は自分に迫るソレを竹光で叩き落とした。

 音を立てて転がったのは木の棒。誰かが俺を殴ろうと振りかぶったのだろう。

 恐らく持ち主と思われる人間が驚いて木の棒の行方を目で追っている隙に、俺はすかさず竹光を振り上げて、躊躇ちゅうちょなくその頭への振り下ろし──


 ──ココデ鋼ニ変ワッテシマッタラドウシヨウ──


 そんな思いがふと頭に浮かんできてしまい、竹光が相手の頭に届く前にその手を止めてしまった。

 俺のそんな一瞬の躊躇を見逃さなかった物取りが、俺の顔面を思いっきり殴り飛ばす。

 激しい衝撃が俺の左側頭部に走り、目の前が白黒に瞬いた。


 あまりの痛さにその場に膝をつくと、容赦ない誰かの蹴りが俺の背中にめり込んだ。

 手をついて地面に突っ伏すのは防げたが、今度はがら空きとなった脇に誰かの蹴りが炸裂。俺は溜まらず地面に転がった。

 慌てて頭を抱え込んで身体を丸める。

 そこに、また容赦なく沢山の蹴りや拳が降り注いだ。


 もうダメだっ……


 そう覚悟した瞬間。

 激しい破裂音がコダマした。


「うわぁ!!」

 誰かが悲鳴を上げて地面に倒れこんだ音がする。

 恐る恐る顔を上げると、物取りの一人が耳を抑えて尻もちをついていた。

 指の間から、赤いものが滴っている。


八雲ヤクモ弱すぎィ。もう、せっかく綺麗なお着物だったから戦うの嫌だったのになぁ~」

 そんな緊張感のない声がどこからともなく響いてくる。

 声の方向に目をやると、いつの間にか太い木の上に足を組んで座っている清輝キヨテルが見えた。

 いつの間にあんな所に……


 清輝キヨテルは、右手に持つ回転式銃リボルバーの銃口から立ち上る硝煙をフッと吹く。

 そして、形の良い桃色の唇をニンマリと引き上げ、毒々しい笑いを下から見上げる物取りたちに浴びせかけた。

「この代償は、高いよ?」

 そう清輝キヨテルが言うのとほぼ同時に、物取りたちが彼がいる木の根元への殺到する。

 しかし、焦りなど欠片カケラも感じさせない顔で、清輝キヨテルは振袖を髪をなびかせて木から飛び降りた。


 その勢いのまま、清輝キヨテルは一番そばにいた物取りを蹴り飛ばす。

 そしてそのままクルリと身をひるがえして、右手に持った銃のグリップで横にいた男の側頭部を殴りつけた。

「このぉ!」

 激高した男が、手に持ったクワを振り上げたが──

「邪魔」

 そんな言葉をかき消す発砲音。

 次の瞬間には、無残にを打ち抜かれたクワの先端が宙を舞う。

 無効化された武器を手にした男は、あえなく清輝キヨテルの回し蹴りを食らって横に吹き飛んで行った。

 清輝キヨテルが左手に持つ銃からまだ煙が立ち上っている間に、もう一人の男の胸にグリップの一撃を叩きこんだ。


 二丁の拳銃を手に紫の振袖をひらめかせて、黒く艶やかな長い髪を舞い広げながら、清輝キヨテルは踊るように戦っていた。


 その様子を、俺はただ茫然と見ている事しか出来なかった。

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