本編没章 改定前のヤツを比較の為に残してある。読む必要なし。

第一話 エピソードタイトル未定[0.5版](※比較の為に残してあるだけ)

 人生で辛い事の最上位は何だと思う?


 俺の場合はぶっちぎり『仲間からの裏切り』


 そう、今まさに、俺は仲間から見捨てられた。

 ──正確に言うと、捨てられてはいないけど……


 清輝キヨテルめっ……


 俺たちは、この山を超えた先にある温泉地を目指していた。

 鉄道などはなく移動は徒歩のみ。ある程度整備されてはいるものの、やはり踏み固められただけの道は足腰にくる。

 当然、山道なので外灯もない為、朝方山の麓の宿を出て今日中に山越えしてしまおうと思っていたのに。

 日も落ち始めてそろそろ逢魔が時にさしかかろうとした段階で……

 なんの因果か──物取りに遭遇しまうとはっ……!

 俺たち、日頃の行いが悪いのかな。

 え? 俺のせい? いや、まさか……そんな、わけ、ない……よね?


 俺から少し離れた道端の木の根元の所には、しゃがみ込んで顔を半分手で覆い、ウルウルと潤んだ目で俺を見ている春日カスガの姿が。

 黒く長い真っ直ぐな髪をサラサラと揺らし、紫の振袖に袴とブーツを着込んだ身体を縮こませて、物取りの一人を目の前にして小さく震えていた。


 俺は、別の物取り三人に囲まれている。

 そいつらは鉈ナタや日本刀を手にしているが、いずれも欠けたり錆びたりした粗末な得物であった。

 対して俺は──丸腰。

 いや、正確には違うんだけど……でもまぁ、では丸腰には違いないし……


 明確に向けられる殺意に、俺の額からはダラダラと冷や汗が。膝もガックガクに震えてる。これは、怖いんじゃない。山越えで足が疲れたから。疲労による震えであって、断じて恐怖からではない。 ないよ! ないはずだきっと! ……多分。


 俺は慌てて、腰に吊るした刀の柄を両手に取ってしっかり握り締めた。

 その様子を見て、物取りの一人が一瞬ポカンと目をまん丸にしたかと思うと、盛大に腹を抱えて笑い出す。

「お前! それなんの冗談だ?!」

 それに合わせて、他の物取りたちも俺に向かってこれでもかという程の侮蔑と嘲笑を浴びせかけてきた。


刀でどうやって戦うつもりだよ!」

 物取りのその言葉に、顔が真っ赤に茹で上がるのを自分でも感じた。

 そんなに大爆笑しなくても……


 そう。

 俺が持つ唯一の武器には刀身が付いてない。

 ただの柄だ。

 しょうがないじゃん! 今だとなんだから!!


「そっ……そんなに馬鹿にしてると、いいい痛い目を見るぞっ……」

 頑張ってそう声を張り上げようと思ったけれど、引きって裏返ってカスれてた。

 余計に恥ずかしくなって更に嫌な汗が出てきた……


 物取りの一人、俺の向かいに立つ男が、手にした錆びた日本刀を俺に突きつけてヘラヘラと笑う。

「痛い目ねぇ。やれるもんならやってみろや」

 ユラユラ揺れるその切っ先より先、俺は男の顔を真っ直ぐに見──れないから首元を見ていた。

 どうしようどうしようどうしよう?!

 この場をどうやって切り抜けるか……

 怪我をせずに、そして向こうにもさせずに切り抜けるには?!


 ……思いつかない……ははっ。

 どうしたらいいんだよ??

 でももう、やるしかないのかっ!


「や……やぁ!」

 俺は手にした柄を両手で振り上げ、向かいの相手との間合いを──げふっ!!


 後ろから衝撃を受けて、俺は地面に顔面から着地。

 目の前に星が飛んだっ……!


 顔を上げる間も無く、雨あられの如く蹴りが降り注ぎ始めた。

「大人しく有り金全部出しゃあ痛い目見なくてすんだのによっ!」

 物取りたちのそんな声が聞こえる。

 しかし、俺は頭と顔を守るので精一杯。

 地面に転がりながら、俺は蹴られる痛みに耐えつつ頭を抱えてうずくまる事しか出来なかった。


 清輝キヨテルさえ、清輝キヨテルさえ裏切らなければっ……


 なんとか片目を開けて視線を這わす。


 木の根本に縮こまる春日カスガと目があった。

 口元に両手を当てて、フルフルと小刻みに震えている。


 その手元が少し開き──


 ニンマリと笑っている口元が覗いた。


 思いっきり腹を蹴り上げられ、喉から込み上げるモノが出ないように口を抑えて転がった。

 そんな俺に追撃しようと、更に大きく足を振りかぶった男の──動きが止まる。

 一瞬にして、その場にシンと緊張した空気が充満した。


「はーい、いい子にしてね? 動くと頭に穴が開いて、とぉっても風通し良くなっちゃうよ♡」

 鈴が転がるかのような可愛らしい声がする。


 恐る恐る視線を上げると、立ち尽くす男のコメカミに銃を突きつけた、先ほどまで小さくなっていた春日カスガが。

 可愛らしい顔にドス黒い笑顔を浮かべて、銃口を物取りの頭にグリグリしていた。


 先ほどまで春日カスガのそばに居た男はどうしたのかと首を持ち上げると、いつの間にか物取りの一人が地面に伏して昏倒している姿が目に入った。


「いい子のみんな〜! 有り金全部置いて消えてくれるかな?」

 さも楽しげにそういいつつ、春日カスガは撃鉄をゆっくり起こす。

 声とは裏腹に、鉄の重い音。


 その不穏すぎる音を聞いて、物取りたちは手にした武器やら何やらを放り投げて逃げて行ってしまった。

 逃げ足早ーい……


「さてと」

 そうわざとらしく言いつつ、転がる俺の前にチョコンとしゃがみ込み、輝かしい笑顔で俺を見下ろしてくる春日カスガを、俺は苦々しくめ上げた。


「……春日カスガ清輝キヨテル! なんでもっと早く助けてくんないんだよっ!!」

 俺は節々痛む身体をさすりながら身体を起こした。


 すると、俺を裏切った仲間──春日カスガ清輝キヨテルが、真っ黒サラサラな髪をシャラリと掻き上げて、天使のような微笑みを投げかけてきた。

ついでに紫の振袖が揺れる。

「あっれー? それが命の恩人に対する言葉ー?」

 何言ってんだか!

 俺を物取りに真っ先に突き出して自分は道の端まで速攻で逃げたくせにっ!!

「助けてくれたのはありがとうっ!! でももっと早く助けられたよね?! 隙をうかがうにしても、俺がボコボコにされるまで待つ必要なかったよね?!」


「えー? そんな事ないよ? むしろ、八雲ヤクモがリンチされてるの待ってたの♡ 泣き顔が見たくって♡」

 少し頬をピンクに染めつつ、春日カスガ──いや、清輝キヨテルが美少女にほどの愛らしい笑顔で、そう笑った。


 春日カスガ清輝キヨテル

 俺の旅の同行者にして仲間(だった筈だけど、もしかしてそれは俺独りがそう思ってるだけなのかな?)。

 紫の振袖に袴とブーツ。黒い真っ直ぐな長い髪と、まばたきしたら風が起こりそうな程長い睫毛に縁取られたクリクリの茶色の瞳。

 二丁の回転式銃リボルバーを両手に持って振り回す、天使のような可愛らしい姿をした──男。


 俺の事を、平気で見捨てる鬼。


 ……お巡りさん。ここに、マジモノの鬼が居ます。


 ところが、安心したのも束の間。

 バタバタという足音と怒号をあげつつ、先ほど逃げて行った物取りたちが援軍を連れて戻って来るのが見えた。

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