第41話 ミッション5-4 その7
戦闘開始と同時に、耳元で臭メタルが流れた!
ドラ 『うげっ!』
ボス 『ぐっ! これがあるのを忘れてた』
すぴねこ 『キースリー空気よめ!!』
ミケ 『せっかくの雰囲気が台無しよ!』
チビちゃん 『耳が壊れるぅ』
今回は最後だからなのか、壮大なクラッシックのバックミュージックに合わせず、下手糞が奏でる超絶技巧のギターが際立って喧しかった。せめて合わせろと言いたい。
アンダーソン『何だこりゃ!』
キースリーの音楽を初めて聞いたアンダーソンが、露骨に顔を顰めて大声で怒鳴る。
ちなみに、人工頭脳はというと、あまりの煩さに耳を押さえて蹲っていた。
ドラ 『最悪だろ。これ、ボス戦の時に毎回流れるんだぜ』
アンダーソン『俺はこんな酷いゲームのNPCだったのか……』
アンダーソンが、ショックを隠し切れず落ち込む。
ねえさん 『世紀末のデスメタルみたいで、私は好きよ』
ミケ 『ねえさんの音楽の趣味だけは、理解できないわ……』
全員が耳元を押さえていると、今度はキースリーのデスボイスが音楽に合わせず流れて来た。
もう一度言うが、音楽に合わせずノリと勢いだけで歌い始めた。
『戦場でお前が叫ぶ。ゴートゥーヘル! ゴートゥーヘル!! ここは血と硝煙に塗れたパーティーだ!! ファーーーーーーーーック!!』
日本語に翻訳するとこんな感じ。こっちがファ〇クだバカヤロウ!!
本気で人を不快にさせる雑音というのは、自殺願望を駆り立てると知った。
「ウルサーーイ!!」
とうとう我慢できなかったのか人工頭脳が大声で叫ぶと、音楽がピタリと止んだ。
さすがゲームを支配するだけあって、殺人BGMを消す事も出来るらしい。
「予想外の攻撃で驚いた」
人工頭脳が目をパチクリさせて勘違いしているが、俺達はまだ何もしていない。
「初手の攻撃にしては、効いたぞ」
だから、俺達は何もしていない。とばっちりだ。
「今度はこちらの攻撃だ」
人工頭脳はそう言うと、右手を俺達の前に突き出した。
ボス 『散開!!』
ボスの命令に全員が四方へ散る。
それと同時に、人工頭脳の右手から複数の電流が放電されて、俺達が居た場所でスパークが発生した。
火花が消えた跡地にはいくつもの焦げた跡があり、その威力に冷や汗が出る。
ミケとアンダーソンが反撃に銃を撃つが、弾丸は人工頭脳の体を通り過ぎて後方へ飛び去った。
ミケ 『攻撃が通じない!』
「言ったはずだ、私には体が無いと!」
人工頭脳が左腕を上げると、ドラの近くにあった人の大きさ程のサーバーラックが宙に浮かんだ。
そして、左腕を振り下ろすと同時に、サーバーラックが一直線にドラへ襲い掛かった。
慌てたドラが横へ飛び退いて回避。サーバーラックはドラが居た場所の床に喰い込んでから爆発した。
ドラ 『こんなキャッチボール、受けたら死ぬわ!』
今度は、一番遠くに離れているねえさんに視線を向ける。
ねえさん 『え? 私!?』
胸の前で両手をクロスしてから腕を振り払うとソニックブームが発生して、驚くねえさんに襲い掛かった。
左右に逃げられないと判断したねえさんが、サーバーラックに隠れて床に伏せる。
ソニックブームはサーバーラックを切断すると、彼女の頭上を通り過ぎた。
ねえさん 『気を付けて! 今の攻撃は隠れても無駄よ!!』
人工頭脳が直立姿勢のまま宙に浮かび上がる。
「今度はこれだ!」
両手を頭上にあげると、両手の間に青い球体が発生した。
すぴねこ 『嫌な予感がする。アイツから離れろ!!』
直感で叫ぶと、全員が走って人工頭脳から離れた。
人工頭脳が両手を下に降ろすと、彼女を中心に青い光が爆発した。
部屋の中央から光が溢れだす。ドーム状に広がった球体は、部屋の1/3を覆いつくした。
チビちゃん 『何あれ……』
アンダーソン『恐らく生態エネルギーを爆発させている。あれを喰らったら1発で死ぬぞ』
15秒ほどして光が消えると床にあったサーバーラックは全て消滅し、人工頭脳だけが爆心地の中央で立っていた。
今の攻撃から人工頭脳の攻撃は、中距離だと物理攻撃と電流攻撃、遠距離だとソニックブームを放ち、接近距離は自分を中心に生態エネルギーを爆発させる全体攻撃らしい。
だけど一番の問題は、こちらの攻撃が全く効かない事だった。
今も全員で人工頭脳を攻撃するが、彼女は無駄とばかりに鼻で笑うと、右手から電流を放った。
ミケ 『キャアァァァァ!!』
逃げ遅れたミケの足に電流が当たって、ミケが悲鳴を上げる。
すぴねこ 『ミケ!!』
ミケ 『痛い! 痛い!! 何で……』
痛覚設定を低くしてあるにも関わらず、ミケが脹脛を押さえて叫んだ。
「攻撃を受けても痛くなければ面白くないだろ。だから痛覚設定を上げた」
ドラ 『んなアホな……』
人工頭脳の口から発せられた内容に全員が驚くと、人工頭脳が笑みを浮かべた。
「本当にお前達が死んだら問題になるらしいからな。現実の1/4に留めておいた。安心してゲームを楽しめ」
ドラと人工頭脳が会話をしている隙に、俺はミケに駆け寄って肩に担ぐ。
ミケ 『すぴねこ……痛いよ……』
すぴねこ 『我慢しろ。離れるぞ』
涙を浮かべて痛みを訴えるミケを担いで、部屋の隅に運ぶ。
すぴねこ 『ここならソニックブームにさえ気を付ければ安全だ。チビちゃんが救援に来るまで待ってろ』
離れようとしたら、俺の腕をミケが掴んだ。
すぴねこ 『何だ?』
ミケ 『……どうやってアレに勝つの?』
すぴねこ 『そんなのまだ分からねえよ。そうだ。回復するまでの間、ここから様子を伺って何かヒントを見つけてくれ』
ミケ 『分かった。すぴねこも気を付けて』
泣き顔のミケに頷く……ん? 泣き顔?
改めてミケの顔を見れば、涙を流す奇麗な顔をした女の顔がそこにあった。
突然の事で何が何だか分からないが、どうやら認識障害を通り越して、ミケの顔が分かったらしい。
すぴねこ 『……ミケ』
ミケ 『何?』
ジッと見つめる俺に気付いたミケの顔が赤くなる。
すぴねこ 『お前って結構、美人だったんだな』
そう言うと、ミケの顔が一瞬で湯タコの様に真っ赤になった。
ミケ 『な……ば、馬鹿! 突然、何言ってるの』
慌てるミケのヘルメットを両手で掴むと、自分のヘルメットを合わせてコツンと鳴らした。
ミケ 『……あ』
すぴねこ 『行ってくる』
呆然とするミケをこの場に置いて、俺は再び人工頭脳と戦う事にした。
ドラ 『
すぴねこ 『ウルセェ、そんなんじゃねえよ。その汚ねえ笑顔はヤメロ』
ドラのニチャアと笑う気持ちの悪い顔を睨みつける。
ねえさん 『やっと進展したのね。おねえさんは安心したわ』
生物上、アンタはにいさんだろ。
チビちゃん 『認識障害だって知った時には諦めてたもんね。っと、回復回復』
チビちゃんはそう言うと、ミケの方へ走って行った。
ボス 『吊り橋効果で認識障害を克服したか? だけど、まずは目の前の敵だ!』
吊り橋効果に認識障害を克服する効力があるなんて、聞いたことない。
だけど、今はボスの言う通り、目の前の人工頭脳を相手にするのが優先だった。
その人工頭脳だが、絶えず攻撃を繰り返して、一撃すら与えられず防戦一方だった。
全体攻撃は自分を中心にしか出せないらしく、近づかなければ発動しないらしい。これだけが唯一の救いだった。
「どうした? もう終わりか?」
全く攻撃出来ない俺達に、人工頭脳が肩を竦める。
すぴねこ 『ウルセエ、このマザコン幼女。ママのオッパイでもしゃぶってろ』
ん? ……マザコン? あれ?
「死ね」
言い返しにイラっと来た人工頭脳が、俺に向かってスパークを放ったから慌てて回避。
続けてソニックブームが飛んで来たから、今度は攻撃が届く前に倒れているサーバーラックに乗ってからジャンプすると、その下をソニックブームが通り過ぎた。
すぴねこ 『ヘイヘイ、ノーコンピッチャー。こっちは体があるのに、全然当たらねえぞ』
「小癪な!!」
ムキになった人工頭脳が左手の能力でサーバーラックを宙に浮かした。
すぴねこ 『
自分のケツをペシペシ叩いて煽り左へ走ると、人工頭脳が一瞬ビクッと戸惑ったが、直ぐにサーバーラックを投げて来た。
すぴねこ 『はい、ハズレ。攻撃ってのはこうやって当てるんだよ』
サーバーラックを避けた後、反撃にKSGのトリガーを引いて人工頭脳にヘッドショットを決める。
当然、弾丸は人工頭脳の頭を通り抜けて後方に消え去った。
「そう言うのはダメージを与えてからほざけ!」
言い返す人工頭脳を無視してミケの状況を確認する。
ミケはチビちゃんのメディカルキッドで全快していたが、それでも感電した箇所が痛いのか、足を引き摺っていた。
ミケが回復するまでの時間を十分に稼いだから、ボスにアイコンタクトを送る。
ボスは頷くと、俺と替わって人工頭脳に攻撃を仕掛けてヘイトを稼ぎ始めた。
ボスと交代してから、人工頭脳を眺めて思考に耽る。サボっているとも言う。
実は先ほど攻撃を避けながら何かが気になって、それが頭の中から離れなかった。
気になった単語は、マザコン。
別に人工頭脳がマザコンだと思ったわけではない。そもそもコイツを作ったビショップは男だ。
俺が思い付いたのは、人工頭脳はゲームの設定上だとマザーコンピューターという事。
そして、俺達が戦っているこの部屋は、マザーコンピュータールームだ。
そこまで考えると問題のパズルが解けたから、インカムを通して小声で全員に話し掛ける。
すぴねこ 『皆、聞け。アイツは実体がないと言ったが、この部屋はマザーコンピュータールームだ。後は分かるな』
チビちゃん 『そうか、あれってマザーコンユ―ターだったね。つまり、この部屋のどこかにギミックが仕掛けられているって事?』
すぴねこ 『
ねえさん 『でもこの広い部屋でどうやって探せば……』
すぴねこ 『それも何となく分かってる。さっきの攻撃でアイツが一瞬だけ躊躇した場所がある。北東だ、そこを探せ』
そう説明すると、驚いた様子のアンダーソンが話し掛けて来た。
アンダーソン『もしかして先ほど煽ったのは、それを探すためだったのか?』
すぴねこ 『うんにゃ。あれは煽りたかったから煽った』
アンダーソン『…………』
ドラ 『アンダーソン。コイツはこういう奴なんだ。過度な期待はやめておけ』
ボス 『ねえさん、ミケ、チビちゃん。3人でヒントを探せ。俺と残りは3人が気付かれない様に派手に暴れろ』
全員が了承して、行動を開始する。
防戦一方だった俺達だったが、ほんの僅かな反撃の糸口が見えていた。
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