第6話 ミッション1-1 その2
15秒以内に最初のクロスポイントを通過。
走る間に右手のトーチカからの銃撃が止んで、次のクロスポイントが開放された。
左手のトーチカからの銃撃が始まって後ろが気になるが、今は自分の事だけで精一杯だ。
2つ目のクロスポイントを通過。残り15、いや10秒以内にラインを抜けろ。
全力で走り砂浜を走り抜け、草原エリアに入る。
そのまま、近くの岩に身を伏せると同時に、中央の攻撃が始まった。
すぴねこ 『タッチダウン!』
俺の後から続々と皆が岩の裏に隠れる。
全員が草原エリアに入ると、トーチカからの攻撃はターゲットを砂浜のNPCに変えていた。
トーチカまで残り600m。
道は1本しかなく、その道も急な坂道になっていて、所々に岩の遮蔽物があった。
ボス 『全員無事か?』
ドラ 『……ボス、残念だけど全員無事みたいだぜ』
チビちゃん『疲れたーー!』
ねえさん 『このゲームって体力的に疲れるわね。一体、どうなってるの?』
ミケ 『皆、喋ってる暇はないみたい。バグスが出てきたわ』
ミケの声に岩から顔を出して前方を見れば、300m程先の左右の木々から人の姿をした敵が現れた。
敵の名前はドロント兵。元々は人間や他の惑星の兵士だったが、バグネックスに体を改造されて、脳に洗脳インプラントを埋め込まれた生物兵器だった。
どう改造されたかと言うと、彼等はステロイドを大量に注射されて筋肉が異常なほど盛り上がり、右腕が肘から切断されてアサルトライフルもしくはショットガンを直接付けられている。
弾は実弾ではなく、生体エネルギーを弾にして撃つ設定らしい。嫌な方向にバイオテクノロジーが発達していると思う。
そして、彼等に人間としての自我は既になく、前葉頭に埋め込まれたインプラントが受信する命令のみで動いていた。
とまあ、えげつな設定を考えたのはケビンだけど、それを気持ち悪くデザインしたのが、ゲームのクリーチャーデザイナー、兼、音楽担当のキースリーだった。
彼はH・R・ギーガーをこよなく愛し、クトゥルフを信仰し、粘着物質に興奮を感じる変態だ。
彼の手に架かれば、どんな美人だろうが気持ちの悪いクリーチャーとして描かれるだろう。
ちなみに、音楽担当になったのは、開発陣の中で一番カラオケが上手かったからだけらしい。
彼が好きなジャンルはヘビーメタル。しかも、北欧産の臭メタル。
ボス戦の最中に突然ギターの激しい音楽が流れ出すから、ねえさん以外の全員から不評を買っている。
チビちゃん『トーチカの攻撃が終わったら、今度はバグスが来ちゃった』
ボス 『問題はノーマル、暴走、どの状態かだな』
チビちゃん『クレイジーモードは?』
ボス 『クレイジーなら、すでに特攻している』
チビちゃん『そうだったね』
状態とは、見た目が同じ敵でも中身が違って、彼等の強さのランクを指している。
ノーマルは攻撃力と防御力がプレイヤーと同じぐらいで、普通に倒せる。
暴走とは、攻撃力も防御力が格段に上がって、プレイヤーの約5倍、下手すりゃ8倍。瀕死になると、こちらに向かって特攻を仕掛けて、近づいたら自爆する。
そして、最後のクレイジーとは、攻撃力と防御力が暴走モードなのに加えてシールド防御を持ち、最初から攻撃しながら自爆してくる。
こうなってくると、命令とは言え頭がおかしいとしか思えない。
クレイジーモードは、敵を見たらすぐに始末しないとあっという間に全滅する、まさに狂った仕様だった。
なので、現れてからこちらに特攻して来ない時点で、アイツ等はクレイジーモードの敵ではない。
俺達の前に現れたドロント兵は全部で15体。
各々が遮蔽物に身を隠すと、俺達を狙って銃撃を開始した。
ボス 『賞金が掛かってるんだ、ノーマルはあり得ない。すぴねこ、インプラントの準備は良いか?』
すぴねこ 『効果5秒5分チャージ。いつでもオッケー』
ボス 『それじゃ攻撃開始だ!』
ボスが同時に立ち上がって、ミニミ軽機関銃をドロント兵に向かって撃ち始めた。
彼の威圧射撃で敵が遮蔽物に身を隠し、攻撃が一時的に停止する。
俺はボスが攻撃を開始するのと同時に岩の裏から飛び出して、前方へ走り出した。
走りながら背中のショットガンを抜き、ポンプを引いて弾を装填する。
ボスの威嚇射撃が終了するのと同時に、目の前の岩の遮蔽物に隠れていたドロント兵が銃を撃とうと上半身を露わにした。
近づく俺に目の前のドロント兵が左手の銃を向ける。同時に俺もインプラントを起動した。
ドロント兵が俺に向かって銃を撃った。
スローで近づいてくる弾丸を右ステップで躱すと、相手の前まで接近する。
敵が照準を再び合わせる前にショットガンをぶっ放すと、喰らったドロント兵が後方へ吹っ飛んだ。
岩の遮蔽物に身を隠したタイミングで、インプラントのスローモーションが終了。
同時にドロント兵達が一番近い場所に居る俺に向かって、集中攻撃を始めた。
すぴねこ 『ボス、てえへんだ。コイツ、1発でくたばったぞ!』
ボス 『いつもの事だろ?』
それは武器を強化していたからだ。
すぴねこ 『胴体に12ゲージのOOパックショットだぞ』
ボス 『それはあり得ないな』
すぴねこ 『だろ』
もし敵の中身が暴走モードだったら、胴体だと最低3発は当てないと死なない。
ミケ 『どういう事?』
ボス 『ターゲットがすぴねこに向いたからノーマルはあり得ない、これからそれを確かめる。ねえさん、ヘイトを取ってくれ』
ねえさん 『了解。殺るわよ』
ボスの命令で、ねえさんがスナイパーライフルのレミントンM700を岩に乗せて固定させる。
ドロント兵達は、一番手前で岩陰に隠れている俺に向かって当たらない攻撃を続けていて、彼女の行動に気付いていない。
ねえさんは狙いを定めると、ライフルのトリガーを引いて射撃を開始した。
放たれた弾は次々とドロント兵達の頭に命中。彼等はヘッドショットの一撃で死んでいった。
ねえさんが攻撃している間、俺とねえさん以外の皆が移動を開始。
近くの遮蔽物に身を隠して、敵の様子を伺っていた。
そして、ドロント兵が残り4人となった時、彼等は銃撃を止めてねえさんに向かって特攻を開始した。
ミケ 『やっぱりパターンが暴走モードだわ』
ボス 『そうか。なら、それで対応しよう。全員、攻撃開始』
ボスの命令でミケ、ドラ、チビちゃんが岩陰から身を出して銃撃を開始する。
ミケとチビちゃんの武器は、近距離から中距離、スコープを付ければ遠距離まで攻撃できるM4アサルトカービン。
ミケは几帳面な性格が表れて、3点バーストで正確にヘッドショットを決めていた。
ちなみに、3点バーストとは3発だけ撃って一旦停止してからまた3発撃つ、照準がぶれない撃ち方のこと。
チビちゃんも3点バーストで攻撃しているけど、彼女は撃つたびに「にゃ、にゃ、うにゃー」と声を出してチョットうるさい。
俺達はもう慣れたけど、最初の頃はどこかで猫が鳴いていると思っていた。
ドラの武器は近距離、辛うじて中距離も攻撃できるサブマシンガンのMP5。
AAWの時はアサルトライフルを使っていたけど、2になってメイン武器を変えたらしい。
彼もヘッドショットを狙ってドロント兵の頭を撃ち抜いていた。
俺とボスとねえさんは待機。
攻撃している3人の取りこぼしを始末する予定だったけど、ドロント兵は俺達が予想していたよりも装甲が弱くて簡単に全滅した。
ドラ 『オールクリア。なあ、
すぴねこ 『MP5ならKシリーズであったぞ。だけど、ずっとそれを使うのか? 同じ距離なら、P90にしろよ』
ドラ 『ああ、そうか。金貯めてそっちに変えるのも、ありっちゃありだな』
ミケ 『PDWなんてやめて、M4にしなさい』
すぴねこ 『でた、M4マニア』
ドラ 『M4がデカいからSMGに変えたのに、なんでまた戻すんだよ』
ミケ 『ドラが使ってたのってM4A1でしょ。
ドラ 『あーー、やべえ。すんげぇ魅力的に感じるわ』
すぴねこ 『洗脳されてんじゃねえよ』
ミケ 『それに、P90ってマガジンの弾数が50あるからリロードは少なくて済むけど、その反面重いし、持ち運びが邪魔になるわよ』
ドラ 『リアリティあり過ぎだろ……』
銃について会話していると、ボスが今の敵の強さについて俺に質問してきた。
ボス 『すぴねこ、今の敵をどう見る?』
すぴねこ 『ん? AIは暴走モードと同じだな。まあ、あれだ。最初からクソ固い敵と戦っても、プレイヤーのフラストレーションが溜まるだけだし、ボビーがバランス調整したんじゃねえの?』
ボス 『確かに初期装備でミッションレベル50の敵はキツイな』
さて、ここで今の俺達の戦いについて説明しようと思う。
前にも少しだけ触れたけど、ミッションレベルが50になってから、敵の動きに変化が現れた。
それまでの敵は適当なプレイヤーに攻撃して、ダメージを喰らうと反撃するという単純なAIだった。
それが、レベル50を超えたら敵に自爆が追加されて、それに伴いAIも少しだけ変わった。
どう変わったのかを分かりやすく、ヘイト順に並べると……。
1 遮蔽物に隠れていないプレイヤー
2 キルが一番多いプレイヤー
3 一番近くのプレイヤー
4 ダメージを与えたプレイヤー
という順になって、敵が少しだけお利口になった。
と言う事で、今の戦闘で詳しく説明すると……。
最初にボスが威嚇射撃をしている間に、俺が最前線に移動して岩陰に隠れる。
すると、3番目のヘイトが適応されて、敵の全員が俺を向く。
次にねえさんが敵の総数に対して3分の1ぐらい倒すと、2番目のヘイトが適応されてヘイトが彼女へ移動する。
だけど、ねえさんは一番遠くで攻撃しているから、敵の攻撃は運が悪くない限り当たらないし、敵にスナイパーが居ても彼女は優先的に攻撃するから、ヘイトが変わる頃には彼女は安全な状態になっている。
もし敵の数が多かったら、ヘイトがねえさんに向いている間に他の皆も攻撃に加わって敵の数を減らすし、敵が固かったり接近専用だったりした時は、俺が対応する。
そして、敵のAIは残り人数が少なくなると、全員が自爆覚悟で一番ヘイトの高いプレイヤーに向かって特攻を開始する。
今回の場合はねえさんがターゲットだ。
そうなると、敵の防御が固いかこちらの攻撃力が高いかの勝負になって、最後は総力戦で勝負が着いた。
ファンタジー系のMMORPGだと、タンクが敵のヘイトを取って、アタッカーが攻撃して、ヒーラーが回復する。
それが固定パターンとして定着しているが、俺達がやっているのもそれに似ていると思う。
AAWの時の俺達のチームは、他のチームと違ってこれと言った特徴はなかったけど、どのチームよりも安定した成績を残していた。
ドロント兵をせん滅後、岩の陰に身を隠しながら前進する。
そして、トーチカまで残り300mになると前方に隠れられる岩が無くなり、トーチカの機銃が俺達を狙い始めた。
すぴねこ 『ボス、これ以上は無理だ。近づけねえ!』
ボス 『ドロントが出てきた道を行くぞ』
ドラ 『右と左どっちだ?』
ボス 『両方だ』
ミケ 『二手に別れるの?』
ボス 『このミッションをクリアしたパーティーは、全員シークレットミッションをクリアしていない。俺の勘だが、シークレットミッションは左右のルートそれぞれにあると踏んだ』
ねえさん 『そうね。その通りだわ』
ボスの勘に全員が同意する。
ボス 『右は俺とチビちゃんとドラで行く。左はねえさんが指揮を取れ』
ねえさん 『了解』
ドラ 『そうだ。安物のインカムでもスイッチで回線を切り替えられるぜ。他チャンネルは聞き取れねえけどな』
ボス 『と言う事だ。別れたらそっちが回線を切り替えろ』
すぴねこ&ミケ&ねえさん『『『了解』』』
ボス 『じゃあな、また後で会おう』
ねえさん 『先に行って待ってるわ』
そして、俺達はトーチカからの銃撃を避けながら二手に別れて、ドロント兵が現れた道を別々に進む事にした。
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