第5話 ミッション1-1 その1
「ゴーゴーゴー、全員乗り込め!!」
NPCの軍曹が手を振って、一般兵士を煽る。
彼に煽られて、NPCの一般兵がいくつもの揚陸艦に乗り込んでいった。
俺達も軍隊の出撃の様に慌しい中、一隻の揚陸艦に乗り込む。
全員が乗るとハッチが閉じて、揚陸艦が浮かび上がり浮遊感を感じた。
そして、俺達を乗せた船は戦艦を離れると、目指すバグネックスの星に向かって宇宙を飛んだ。
ここまでオート進行。
俺は勝手に動く体を不気味に感じながら、ムービーで済ませろと思っていた。
「何か凄くリアルね」
「無駄にクオリティが高いわ」
「遊園地のアトラクションみたい」
ようやく口を開くことが出来て、3人の女子が話し始める。
「よし、お前達無事に乗り込んだな」
操縦席側のドアが開いて、NPCの軍曹が現れると俺達に話し掛けてきた。
「報告によると、バグネックスの反抗が激しくまだ制圧が出来ていないらしい。これから俺達はオハマビーチに向かって拠点を制圧する」
オマハじゃなくて、オハマ。どう考えても激戦区!
「俺からお前達に教える教訓は2つある。1つ、死んだ奴は役に立たん。2つは、まあ、あれだ……どうせ全員死ぬ」
「「「「「「オイ!!」」」」」」
全員が軍曹にツッコミを入れる。
だけど彼は俺達を無視して、再びドアの向こうへと消えていった。
「昔、このネタをどこかで見たぜ」
「どうせ人が大勢死ぬ映画かゲームだろ」
「……まあな」
ドラの呟きに応えると、鼻で笑い返された。
「あれがバグネックスの星? なんか赤くて火星みたいだね」
チビちゃんが窓に顔面をべたーっと押し付けてボスに話し掛ける。
「揚陸艦に窓を付けるとか、無知な兵士に恐怖を与えるサービスだな」
チビちゃんとボスの会話中、突然、船が揺れ始めた。
「ぬおっ!」
「もう始まったの!!」
慌てていると船内放送が流れる。
『バグネックスのミサイルが接近中だ。回避しながら大気圏に突っ込むぞ!!』
やべえ、ケビンがノリノリでストーリーを作ってやがる。しかもこの声はケビン本人の声だ。
俺が引き攣った笑いをしていると、揚陸艦が暴れるように揺れ始めた。
「「キャーー!」」
「ぬおっ!」
揚陸艦が揺れて女子の3人が悲鳴を上げる。
ただ、1人だけ本来の性別が出た気がするけど、聞かなかったことにした。
揚陸艦が上下左右に旋回して、2発のミサイルを避けながら大気圏に突入を開始。
1発のミサイルを回避したが、もう1発が命中して船の一部が爆発した。
大きく揚陸艦が揺れ、赤いテールランプが回り始めて艦内が赤くなる。
「ヤベエ、マジやばいって!!」
「これ、無事に着くの!?」
俺達が悲鳴を上げる中、揚陸艦は大気圏を突破。
バグネックスの星に入った揚陸艦は空を不安定な状態で飛び続けた。
「お前達、もうすぐ無事に到着するぞ」
「「「「「「無事じゃねえ!!」」」」」」
再び現れた軍曹に全員がツッコミを入れる。
「いいか。ビーチに着いたらひたすら走れ、立ち止まったら死ぬぞ」
「なあ、これどう思う?」
ドラが軍曹の話を聞いて質問してきたから、少し考える。そして、出た答えが……。
「まっさきに走ったら、地雷を踏むな」
「そう来るか……」
返答を聞いて、ドラが「あちゃー」と額に手を添え天を仰いだ。
普通はNPCが嘘を吐いてどうすると思うだろ。AAWはそんな親切なゲームじゃない。
揚陸艦が対空砲の被害を避けるため、海面すれすれを飛行する。
突然、隣で飛んでいた別の揚陸艦が爆発して海に落ちていった。おそらく中のNPCは全員は死亡しただろう。
窓から外を見上げれば、バグネックスの戦闘機が上空を飛び、次々と地球人の揚陸艦を撃墜していた。
そして、俺達が乗る揚陸艦も敵戦闘機からの攻撃で、機体が揺れ始める。
「これ、着くまでに落ちるんじゃない?」
「さすがにそれはないだろうけど、着くのと同時に殺しに来るのは確実だな」
「やだなぁ」
ミケとドラの会話を横で聞きながら、揺れる機体に身を任せ静かに到着を待った。
「そろそろだ。全員準備は良いか?」
軍曹の呼ぶ声に全員が頷く。
その時、俺達を乗せた揚陸艦が戦闘機の攻撃を受けて激しく揺れた。
『不時着する。何かに掴まれ!!』
アナウンスが入るのと同時に、機体が水面に叩きつけられ、何度もバウンドを繰り返す。
船内で悲鳴が飛び交う中、俺達を乗せた揚陸艦はオハマビーチに到着した。
浮遊感と頭痛で頭が揺れる中で意識を取り戻す。
皆も俺と同じように滅茶苦茶になった船内で起き上がるところだった。
そして、既に戦闘が始まっているのか、激しい銃撃音が外から聞こえていた。
「痛ったーーい。ゲームでここまでする?」
ミケが痛いと言うけれど、ゲームの痛覚設定は低く設定されているので実際は痛くない。
ただ、ゲームに対する不満を痛いと気持ちに挿げ替えて、叫んでいるだけだ。
「賞金を盾にやりたい放題ね」
「お前等全員、インカムは付けたか」
ミケとねえさんが文句を言っている横で、ボスの確認にインカムを耳に装着する。
すぴねこ 『あーあー。マイクテステス』
ドラ 『オッケー。雑音みてえな声が聞こえるぜ』
すぴねこ 『お前が撃たれた時の泣き声よりましだろ』
他の皆もインカムを装着してテストを完了させて、現状を確認する。
後ろのハッチから顔だけ出して海岸を見れば、NPCの兵士達が次々と揚陸艦から出て砂浜へ向かうが、その大半は敵の機関銃で撃たれて海に浮かんでいた。
ボス 『あの墜落している揚陸艦まで走るぞ』
前方を見れば、砂浜の上に不時着している揚陸艦が横たわっていた。
すぴねこ 『了解。先行する』
チームの
ボス 『頼んだ』
チビちゃん『ボス、ボス、足が届かない! 助けてーー! ぶくぶくぶく……』
チビちゃんの半泣き声に振り返れば、彼女は海に飛び込んで顔まで水に沈んでいた。
ボス 『仕方がないな。捕まれ』
チビちゃん『はーい』
すぴねこ 『コイツ等、戦場でいちゃついてやがる』
ドラ 『俺、賞金を手に入れたら彼女と結婚するんだ』
すぴねこ 『人妻でドロ沼のフラグを立てるのヤメロ』
ドラ 『人妻じゃねえよ!』
ドラにツッコんでから、前方の揚陸艦まで移動を開始。
腰まで浸かる水の抵抗で走る事が出来ず、はやる気持ちとは逆に移動に時間が掛かった。
揚陸艦まであと少し、水が膝まで浸かっているところで、トーチカから放たれた機銃の弾が前方の水面に当たって水柱が上がった。
それを見た瞬間、動体視力インプラントを発動させる。スローな世界に変わる中、迫ってくる水柱を避けて左へ飛び込んだ。
水柱が俺が直前までいた場所を通り過ぎる。背後を見れば、他の皆も無事に避けたみたいだった。
トーチカからの攻撃はこの1回だけで済み、砂浜に不時着した揚陸艦の裏へと身を隠した。
他の皆も砂浜に到着すると、俺の近くで身を隠していた。
ボス 『どうだ?』
状況を尋ねられて、前を指さす。
その先では、NPCの地球人兵士が銃撃を避けて砂浜を走り、地雷を踏んで吹っ飛ばされていた。
すぴねこ 『何も考えずツッコめば、汚ねえ花火になるのは確実だな。だけど、ルートが無いわけではない』
ボス 『そんなのがあるのか?』
すぴねこ 『マップを作ったのはダニエルだ。ルートは必ずある』
ダニエルはゲームのエリア作成担当で、開発陣の中で一番性格が捻くれている。
前作のAAWでも、クリア目前でスタート地点の近くに秘密の部屋があるというヒントを出し、実際に戻って確認したらアサルトライフルの弾倉が1つだけポツンと床に置いてあった。その時はキレたが、俺よりもミケが本気でキレていた。
だけど、彼が作るエリアに攻略不可能な場所はなく、必ず何かしらのヒントが隠されていた。
そして、砂浜を見ている内に、ダニエルが隠したヒントが分かった。
すぴねこ 『分かった。ヒントはトーチカからの機銃だ』
ボス 『教えろ』
すぴねこ 『3か所のトーチカから銃撃はあるけど、よく見ればそのルートが決まっている。見ろよ、砂浜に銃痕が残ってる』
俺とボスが顔だけを出して確認すれば、トーチカの機銃で残った銃痕が中央に1ライン、左右から斜めに中央ラインを通って2つのライン存在していた。
ボス 『なるほど。確かにあるな』
すぴねこ 『地雷があったら機銃の衝撃で爆発している。だから、あの場所だけは地雷が設置されてない。後は、トーチカの機銃のリロードを待ってから、ラインに沿って走れば奥まで進める』
ボス 『分かった。全員聞いたな。すぴねこのタイミングで、全員前の岩場まで走るぞ』
ボスの命令に全員が「了解」と返答していた。
トーチカからの機銃攻撃が止むのを待つ。
今の場所から近いのは中央のラインだが、そのラインを左右のトーチカからの機銃ラインが斜めに通っているため、2か所危険なポイントがあった。
なので、3つのトーチカの機銃が同時に停止するタイミングを見計らっているのだが、その時が一向に訪れない。
これは、もしかして、タイミングがものすごくシビアなのか?
改めて観察すれば、左手のトーチカからの攻撃が止んで、その15秒後に中央のトーチカの攻撃が止む。それで手前のクロスしているポイントが通過可能になった。
さらに15秒後に右手のトーチカからの攻撃が止むと、奥のクロスしているポイントが通過可能になるのと同時に、左手のトーチカからの攻撃が開始されて手前のクロスポイントが塞がった。
これは途中で右手のラインに曲がった方が時間的に余裕があるのか?
いや、斜めに走る分だけ移動距離が長くなるし、到着した先に隠れる場所がないから、直進ラインの方が良いだろう。
すぴねこ 『オッケー、タイミングが分かった。攻撃は止まないけど、突っ込むぞ』
ミケ 『大丈夫なの?』
すぴねこ 『ロードランナーもビックリのタッチダウンを決めれば余裕だぜ』
ドラ&チビちゃん『『みっみっ!!』』
すぴねこ 『……今だ、ゴー!!』
左手のトーチカに続いて、中央のトーチカの攻撃が停止するのと同時に揚陸艦の裏から飛び出した。
他の皆も、合図と同時に俺の後を追って走り出す。
ゴールまで200m。生きるか死ぬかの全力疾走が始まった。
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