第4話 賞金レースの開始 その2
兵士サロンは人で溢れていた。
300万ドルの餌という卑怯な手を使っただけあって、伊達に200万本は売ってない。
当然ながら、200万人を1か所に収めたらサーバーがパンクするので、このゲームは宇宙船1隻を1ルームと見立ててサーバーを分割していた。
そうなると知り合いを探すのも一苦労だが、対策としてチュートリアル中に支給されたスマホからプレイヤーを検索する事が出来るし、電話を掛ける事も可能だった。
と言う事で、スマホでボスに聞いていたIDで検索したら、彼は第126ルームに居るらしい。
そのまま画面に表示されたボスの名前をクリックして、電話を掛ける。
『ボスだ』
「すぴねこ参上」
『おう、早かったな』
「ムービー見たか? 俺は頭抱えたぞ」
そう言うと、電話の先でボスが爆笑した。
『俺もチビちゃんもバカウケだったぜ。こっちは126ルームに居るから来い』
「了解」
電話を切った後、移動ワープ装置に乗って第126ルームへ飛んだ。
まだ人の少ない第126兵士サロンでボスを探す。
最後に見たボスはサイボーグ化した黒人ハゲだったから、今のボスの顔がどれだけ酷いか分からなかった。
ルームを探せば該当する黒人ハゲが3人居たけど、その内のテーブル椅子に座っている黒人ハゲだけ隣にちっこい子が居たから、すぐにそれがボスだと分かった。
「ボスとチビちゃん?」
「……声からして、すぴねこか?」
俺とボスが、互いの全身を上から下まで見てから訝しむ。
「そんな酷いツラだったか?」
「それは整形前のボスにだけは言われたくねえな」
「ボスもすぴねこ君も、ずっとフルフェイスのヘルメットで顔を隠していたからね」
チビちゃんが俺達を見て「うぷぷ」と笑った。
「他のメンバーは?」
「もう居ると思うけど、連絡はないな。だけど、お前、どうやって俺を調べて電話をしたんだ?」
「アンタ等は、スマホ代理店で1時間説明しても理解できないご老人か何かか?」
ボスとチビちゃんにスマホの使い方を説明してから、2人をスマホに登録する。
それと、ブラックリスト機能を見つけたから、オージー野郎のチーム名を検索して、全員居たからブラックリストに突っ込んだ。
その様子を見ていたボスとチビちゃんが、何をしているのか聞いてきたから、ブラックリストの説明をする。
すぐに2人が、オージーの全員をブラックリストに入れていた。
ボスが全員と連絡を取っている間、俺とチビちゃんはスマホのショッピングアプリで商品を見て遊んでいた。
「なるほど。売店がなかったから不思議に思っていたんだけど、これで買えるんだね」
「最初の所持金は電子マネーで1万Dか。それと、受け取りはあっちらしいな」
ルームの隅を見れば受け取りカウンターがあり、そこではスマホで購入したらしきプレイヤーがアイテムを受け取っていた。
「あ、オークションもあるんだ」
「武器を買い換えたら、オークションで売れるな」
「だけど、インプラントの装着は医療室に行くっぽいね」
「ああ、忘れてた。まだインプラント買ってないや」
「買う前にただで付けてくれるか確認した方が良いんじゃない?」
「それもそうだな。チョイと確認してくる」
チビちゃんに断って医療室の前へ行くと、料金表が壁に貼られてあった。
その料金表を見れば、インプラント手術は有料らしい。ついでに見たサイボーグ手術も有料で手術費がクソ高かった。
金額を確認して戻ると、ミケとねえさんが来ていて、後はドラが来るのを待つだけだ。
「2人とも、お疲れ」
「……どこかで見た事があるような気がするけど、誰だっけ?」
俺が話し掛けると、ミケが眉を顰めて腐った汚物を見る様な目で俺を見た。
「うふふ。ミケ、彼はすぴねこよ」
チームの初期から居たねえさんは俺の顔を覚えていたらしい。彼女が俺の正体を教えると、ミケが驚きまじろいだ。
「思い出した。高校の時のすぴねこが少しだけ幼くなった感じに似てる」
「は?」
「嘘?」
「マジか?」
ミケがそう言うと、今度はチビちゃんとねえさんに加えて、電話中のボスまでが会話を止めて驚き、俺の顔をジロジロと見つめた。
「ねえねえ、ミケちゃん。すぴねこ君ってリアルでもこんなイケメン少年だったの?」
「そうですよ。高校の時は、うちの学校の全女子の高嶺の花でしたから」
「てっきりゲームの中だけのキャラだと思ってたわ……」
ミケの袖を引っ張り慌てた様子のチビちゃんにミケが答えると、それを聞いていたねえさんがため息を吐いた。
「本人を目の前にして失礼な人達だな」
「だって、顔がファンタジーなんだもん」
チビちゃん、君は自分が何を言っているのか分かっているのか?
「そこまでイケメンだったら、モテたでしょ」
ねえさんの質問に頭を左右にブンブン振る。
「なんか色々と声は掛けられたけど、AAWしてたから知らない」
「ダメだ。すぴねこ君、残念なイケメン君だ」
「最悪ですよ。学校中の女子全員を振ったんですから」
俺の様子にチビちゃんとミケが呆れていた。
「遅くなってメンゴメンゴ」
ドラが謝りながら俺達が居るテーブルに現れた。
「遅かったね」
「チョット彼女と電話が長引いてね、ログインが遅くなった」
几帳面な性格のミケにチクリと言われた彼は、気にした様子を見せずに空いているテーブル席に座った。
「バーチャル人妻は元気か?」
「だから、バーチャルじゃねえよ! ってお前、すぴねこか? 久しぶりに顔を見たけど、ヒデエツラだな」
「彼女の顔ばかり見ていて、とうとう美的センスが無くなったか。哀れだな」
適当に言い返して、医療室前で見た金額を報告する。
「ボス、吉報だ。サイボーグ整形代10万Dするぞ」
「マジかよ!!」
「しかもパーツ代は自腹だ」
「最悪だ」
「しばらくの間、その酷いすっぴんハゲを見る事になる俺達の方が最悪だぜ」
最後にドラが冗談を言って、ボス以外の全員が笑った。
「インプランド代が1000Dで、こっちも泣きそうだけどな」
「なあ、買い物したいんだけど、店はどこにあるんだ?」
「スマホアプリ」
「なるほど」
スマホの機能を知らないメンバーに使い方を教えながら、全員を連絡先に登録する。
ついでに、来たばかりの3人にオージーの件を話したら、全員がブラックリストに入れていた。
「グループ
「メール、掲示板、スクショ、録画、オプション、ログアウト、全部スマホ1つで出来るみたいだけど、コレなくしたらどうするのかしら?」
「なくしても自動で戻るみたいだぞ」
ねえさんが呟いた後に、ミケがスマホを紛失した場合について疑問を口にすると、スマホの説明書を読んでいたドラが、その質問に答えた。
「ドラ君、ちょっとスマホを置いて離れてみてよ」
「了解」
チビちゃんに言われて、ドラがテーブルにスマホを置いて20m離れると、テーブル上のスマホが突然消えた。
「胸ポケットに入ったぜ。便利だけど気味悪いな」
「スマホ画面の反射で自分の顔が映ったか?」
ドラに冗談を言いながらスマホで商品を検索して、目当ての「動体視力向上インプラントチップ」を見つけた。
この動体視力向上インプラントチップを脳のインプラントスロットに埋め込むと、僅かな間だけ世界がゆっくりと動いている様な感覚を得ることが出来た。
一番安いチップの詳細を見れば、駆動時間5秒でリキャスト5分と、安いだけあってゴミな性能。
しかも、お値段6000D。手術代を入れれば合計7000D。無いよりマシだと思って購入した。
他に1000DでM67破片手榴弾、通称アップルグレネードを2つ購入してから、ショットガンに付けるウェポンライトを1000Dで購入した。
「皆、インカム買っといてくれ。1000Dの安いやつでいいから」
残りの金でスラッグ弾を買おうとしたら、ドラが全員に話し掛けて来た。
「何で?」
「どうやらAAWと違って、今回はデフォルトでチームチャットがなくて、インカムがチームチャットの替わりらしい」
「本当か?」
ミケの質問にドラが理由を説明すると、ボスが驚き声を出した。
チームチャットがなければ、ミッション中に距離が離れている仲間に指示が出せなくなる。ボスが驚くのも当然だろう。
「インカムの説明にそれっぽいのが書いてある」
「危なかった。後少しでスコープを買って全額使うところだったわ」
戦闘中、仲間と一番距離が離れる事が多いねえさんがホッとした様にため息を吐いて、再びスマホを操作し始めた。
俺も商品を検索して一番安い1000Dのインカムを購入。これで所持金が手術代の1000Dだけになった。
商品受け取りカウンターに行く。
カウンターで認証識別装置にスマホをかざすと、NPCが無言で荷物をドンッと置いた。
商品を受け取って、そのまま医務室の中へ行く。
医務室の中は手術室みたく、部屋の中央に手術台があるだけの部屋だった。
手術台に座ると、手術台の横に備わっているメニュー表と受け皿がウィーンと機械音を出しながら、俺の目の前に現れた。
メニューリストから脳のインプラント手術を選択してスマホで料金を払う。
そして、ガイダンスに従って、受け皿に動体視力向上インプラントチップを乗せた。
突然、手術台の脇から金具が飛び出して俺を束縛して、台に縛り付ける。
「へ?」
驚く俺を無視して、頭上から手術道具が備え付けられた機械アームが降りてきた。
近づく手術道具の尖った先端が怖い。
「チョッ、待て、オイ馬鹿ヤメ……うぎゃーー!!」
メスが目の前まで近づくと視野がブラックアウトして、気づいたら医務室の前に立っていた。
「酷かったわ……」
隣を見れば、俺と同じく脳のインプラント手術をしたねえさんが、よろよろと医務室から出てくるところだった。
「ねえさんは視力向上?」
「ええ、そうよ。すぴねこは動体視力?」
「正解。インプラントを埋める度にアレをやられると思うと、ゾっとするな」
「本当ね……」
俺とねえさんは互いの顔を見ると、同時にため息を吐いてガックリと肩を落とした。
皆と合流して、チームカウンターに向かう。
ここではチームの結成、解散、今はまだ無理だけどチームハウスの契約が出来た。
ボスが代表してチームを結成、全員がスマホで承諾する。これでAAW2にも『ワイルドキャット・カンパニー』が誕生した。
「さてミッションだけど、どんな感じなのかな?」
チビちゃんがスマホでゲームの状況を確認するのを見て、全員がスマホを弄る。
俺も確認するが、ゲームが開始されて3時間経っているのに、最初のミッション1-1をクリアしたのは、たったの3パーティーでクリアランクもCが最高だった。
ちなみに、クリアランクの詳細は次の通り。
Dクリア 制限時間内にクリア
Cクリア 目標時間内にクリア
Bクリア シークレットミッションを全てクリア
Aクリア B+目標時間以内にクリア
Sクリア A+誰も死なずにクリア
つまり、現在は誰もシークレットミッションをクリアしていないらしい。
「ねえ、100万人以上居て3時間経ってるのに、クリアしたのがたったの3パーティーっておかしくない?」
「300万ドルだぜ、別におかしくねえよ。ケビンとボビーの野郎、賞金を餌にしてプレイヤーを殺しにきてやがる」
「ユーザーのクレームも、賞金が掛かってるから難易度上げてますって言っちゃえば、ぐうの音も出ないわね」
「ぐぬぬ、卑怯な……」
ミケの疑問に答えると、それを聞いていたねえさんとチビちゃんも会話に加わった。
ぐうの音も出ないと言ったそばから、チビちゃんがぐうの音を出しているのはご愛敬。
その時、ミッションゲートから、ミッションを終えたプレイヤーがボロボロになって帰ってきた。
「何なんだよあれ! 弾丸の嵐じゃねえか、あんなのクリア出来るわけねえだろ」
「トーチカのマシンガンはガチでヤバいぜ」
「あれをSクリアは無理」
英語で言ってるけど、翻訳するとこんな感じ。汚いスラングも混じってたけど、それはカット。
彼等は次々とゲームに対する文句を言いながら、去って行った。
「トーチカか……やっぱりな」
どうやら嫌な予感は当たったらしい。
「すぴねこ、何か知ってるのか?」
ボスの質問に頷く。
「オープニングムービーを見ただろ、今は侵攻前だ。そして、今トーチカというワードが聞こえた。つまり……」
言葉を貯めると、全員が息をのむ。
「諸君。今日がD-dayだ」
ノルマンディー上陸作戦の機密ワードを言った途端、全員が頭を抱えた。
それから俺達は、ミッションカウンターでミッションを受注。
AAW2のミッションはシナリオ形式で進行するらしく、俺達が受けたのはシナリオ1のミッション1。制限時間90分。目標時間は60分。
シナリオ名は『初陣』。内容は突入拠点の制圧。
俺達はバグネックスの星で戦艦の着地地点を確保するために、先に揚陸艦で星に降り、安全の確保をする任務が与えられた。
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