第3話 賞金レースの開始 その1
※ この小説は2020年までに発売された銃しか登場しません。
だってアメリカ陸軍の次世代銃がまだ決まらないんだもん。
AAW2のリリース当日。
VRギアを被ってゲームを起動すると、俺は宇宙船の中から外の宇宙を見ていた。
そして、宇宙空間に何十隻もの宇宙船が並列で飛行する壮大な光景を見ているうちに、涙が込み上げてきた。
まるで実写SF映画を見ているかの様な美しいグラフィック。
前作ではなんちゃってフルダイブ式VRだったのが、現実と同じような質感のフルダイブ感覚。
「……俺は奇跡を見ているのか?」
この感動を表現するならば、貧乏生活の中で育てた息子の立派な晴れ姿を見ている親の心境だろう。
ああ、辛かった5年間を思い出す。
周りの連中は、大手ゲームのファンタジーMMOについて楽しく語り合い、時にはスクリーンショットを取ってSNSにあげて自慢する。
そして、AAWを調べもせずに過疎ゲーだと馬鹿にしてきた。
「今までの苦労が報われて良かったな」
宇宙を見ながら、心からの感謝と尊敬を開発した7人に送った。
涙をさっと拭いて気分を高揚させると、目の前にあるコンソールのボタンを押してログインする。
ブラックアウトすると、画面が変わってキャラ作成に入った。
まずはキャラネーム。
これは前作と同じで、スピード・キャットにした。
次に容姿作成。
VRでは性同一性障害になりやすいという理由で、性別の変更が禁止されていた。
うちのチームには既に性同一性障害者が1名居るが、彼女はVRなんて関係なくナチュラルにおカマさんだから関係ない。
容姿データを前作のAAWからインポートすると、中学生ぐらいのキャラが現れた。
「あらカワイイ。どこの子かしらって、俺でした」
現れたキャラを見て、思わず「あちゃー」と言いながら額に手を添えた。
5年前と言ったら、俺はまだまだカワイイ中学2年生。今は身長が178センチあるけど、背が伸び始めたのが中学3年の夏休みからだ。
今、目の前に居るキャラは、背が伸びる前に作った、身長153センチの当時の俺をコピーした少年だった。
動かないキャラの頬をツンツン突きながら悩む。
ワイルドキャット・カンパニーでの俺の役割は、
ポイントマンは常に分隊の先頭に立ち、敵の索敵をするのが役割だが、先頭に立つ分だけ撃たれる確率が高い。
このキャラを消して今の俺をキャプチャして作り直すと、背が高くなった分だけ隠れ辛くなるから、撃たれて死ぬ確率が上がる。それに、ゲームに慣れるまで時間も掛かりそう。
だけど、成人した男がショタっ子キャラをプレイしてるのは、何となくその手の性癖があると思われそうで嫌だなぁ……。
10分ほど考えた末に出した判断は、生存率を上げるため身長と恥を犠牲にして、少年のキャラをそのまま使う事にした。
次にクラスの選択。
アサルト兵 一般兵。スキル次第で色々な方面に成長できる。
ヘビーアサルト兵 機関銃を持つことが可能な火力の高い兵士。
メディック兵 初期から救急キットを使用する事が可能なアサルト兵。
スナイパー スナイパーライフル持つことが可能な遠距離向きの兵士。
以上、簡単な説明だけど全部で4種類。
これも前作と同様アサルト兵にした。
最後にスキルの選択。
キャラ作成で貰えるスキルポイントは5ポイント。これをキャラの特性に割り振る。
スキルリストに、攻撃力UP、防御力UP、命中率UPなどが表示されているが、これ等は全て罠だった。
ゲームのキャラ設計をしたのはチャーリーという野郎だが、コイツは性格が悪い。
例えば攻撃力UPだが、AAWの攻撃力は武器依存だ。つまり、特性で攻撃力UPしたところで、銃の性能が変わらなければ攻撃力だって変わらない。
では攻撃力UPとは何ぞやと問われれば、答えは銃床でぶん殴った時のダメージ力になる。それを知った時の怒りは、未だに消えていない。
しかも、無知なプレイヤーに罠スキルを取らせようと、必要なスキルポイントを低くして、さらにスキルの説明も「武器によるダメージが上がる」としか書かれていない。
もし、チャーリーの野郎が射撃で攻撃力を上げるスキルの説明を書くならば、「射撃によるダメージが上がる」と正確に書くだろう。
それに、射撃1発のダメージを上げるぐらいなら、無難にヘッドショットを狙った方が効率が良い。
と言う事で、罠スキルを全て無視して、リストを下にスクロールする。
そして、リストに現れた『インプラント(頭)』に全てのスキルポイントを投入して、キャラの作成を終了した。
キャラの作成が終わると、オープニングムービーが始まった。
突如現れた宇宙人バグネックス。彼等は地球侵略しようと軍隊を差し向けた。
それに抵抗する
彼等は苦難の末、バグネックスの侵攻を撃退する。
ここまでが前作AAWの紹介だ。
何となく、『僅かな』の部分が前作AAWのプレイヤーの少なさを表して強調されている気がするのは、俺だけか?
ストーリーの後は、AAW時代の戦闘ムービーが流れ始めた。
ゲームのムービー担当はジョンという男だが、彼はアップグレードする度に毎回素晴らしいムービーを作成してくるから、ありがたいし努力だって凄いと思う。
だけど、手を抜いているのか何なのか知らないが、実際のプレイヤーキャラを許可なくムービーに登場させてくる問題点があった。
これが過疎ゲーだった頃ならば、まあ分かる。プレイヤーも「あ、俺が出てる」と言って喜ぶだろう。
先ほどから何を言っているのかと言うと……俺、ムービーに出演してるし、しかもご丁寧に顔出しで……。
昨日確認した情報だと、AAW2のパッケージダウンロード本数は300万ドルの賞金に惹かれて、すでに200万本を突破したらしい。
つまり、最低でも世界中で200万人以上がこのムービーを見る事になると。そして、これだけ話題になれば当然ニュースにもなり、下手すればTVに俺のキャラが登場する可能性もありえると……。
「承諾取れよーー!! 今までと違うんだから、せめて一言ぐらい言ってくれよーー!!」
そんな俺の叫びを無視してムービーの中の俺は、巨大な敵を前にしてスタイリッシュに背後へ回り側転しながらショットガンを放っていた。
ジョンの野郎、気合入ってるな。だけど、やっぱり一言ぐらい言って欲しかった。
派手な俺の登場が終わって、再びストーリーのムービーが始まった。
バグネックスの撃退に成功した地球人は侵略を阻止するため、彼等の母星へ兵士を送る事を決定する。
愛する家族に別れを告げて宇宙へ旅立つ兵士たち。
そして、彼等を乗せた船はバグネックスの母星へと向かった。
……これで終わりらしい。本当に終わり? これで終わりなの?
つまり、俺達は兵士になって、バグネックスの母星で戦争をしなきゃいけないらしい。
ゲームのミッション・ストーリー開発担当はケビンという男だが、コイツは最悪な戦争マニアだ。ちなみに7人のリーダーで会社の社長でもある。
この男の何が最悪なのかと言うと、戦争は戦死者が多ければ多いほど素晴らしいらしい。なにが素晴らしいのか俺には理解できない。
ちなみに、俺が『今度は難しくしろよ』とメールを送って『任せろ。今度のはバッチリだぜ』と返信してきたのがケビンだ。
そのバッチリがどうなったかと言うと、俺達はミッションレベル80を超えた辺りから、過去に激戦地と呼ばれているあらゆる戦場を、
あるときは、冬戦争をイメージしたシナリオで、4000匹のバグネックスと戦い、雪の降る白い大地を血で染め。
また、あるときは、キエフの戦いをイメージしたシナリオで、10万近いバグネックスの包囲網から逃げ出し。
また、あるときは、バルジの戦いをイメージしたシナリオで、ボスクラスのバグネックスと何度も戦った。
それを踏まえて、今見たAAW2のストーリーを思い出して欲しい。
ムービーだと、地球人の俺達はバグネックスの母星に侵攻をするという。そう、言い換えれば、侵攻前だ。
以上から俺が思いつく過去の戦争の激戦区はただ一つ。
ノルマンディー上陸作戦
それもケビンの事だから、ブラッディ・オマハと呼ばれるオマハ・ビーチが濃厚だろう。ヤツなら絶対にソイツをチョイスする。
つまり、俺達はゲーム開始の最初のミッションで、ノルマンディー上陸作戦を疑似体験させられる事が決定した。
色々と問題のあったムービーが終わると、俺は起動時に居た宇宙船の中に戻っていた。
やっと体を動かす事ができるらしい。
目の前にチュートリアルの画面が現れたから、その指示に従い宇宙船内にある訓練所へ行って、キャラの動きを確認した。
前作のAAWでキャラを動かすと、実際にキャラは動くのだが、何となく体幹だけが残ったままな感じがして違和感があった。
だけど、今作ではそれが無くなり、実際に動いている感じがしてキャラの動きが良くなった。
俺が何度もクレーム、いや、要望を出したから応じてくれたのだと思う。
次に備品ルームに行くと、態度の悪いNPCから支給品のスマートフォンを貰った。
NPCがスマホと武器についての説明をしている間にスマホを軽く弄れば、プレイヤー検索機能が付いていた。
そして、スマホを弄っている間に長ったらしいNPCの説明が終わって、武器の選択ができるようになった。
最初の武器は無料で支給される。ただし、初期装備の武器なので1990年代から2000年代初頭の型落ち品だった。
沢山ある武器の中で、グロック19MとレミントンM870 MCSを選択して受け取った。
グロック19Mは9mmパラベラム弾を使用する拳銃で、装弾数は15発。
もちろんアサルトライフルに比べれば攻撃力は低いから、サブウェポンだ。
だけど、サブマシンガンだって9mmパラベラム弾を使用しているのが存在するし、俺はそんなに弱いとは思っていない。
実際に、遠距離メインのスナイパーのねえさんは、接近戦闘時だとライフルをしまって、拳銃で敵をバンバン倒していた。
レミントンM870 MCSはポンプアクションのショットガンで、俺が手にしたのは銃身が14インチ(35.56センチ)バレルのタイプだった。
MCSはレミントンM870にピカティニーレールを採用したモデルで、ダットサイトなどを取り付ける事が出来る。
支給された弾は、12ゲージのOOバックショット弾が30発。
ショットガンを知らない人が12ゲージのOOバックショットと聞いても、「何それ、食べ物?」と食べちゃいそうなので、ショットガンの弾について、長くなるけど説明しようと思う。
ショットガンの弾は大きく分けて3つ。
1つ目はバードショット。
細かい粒を詰めたペレット弾(散弾)で、射程は短く威力も弱い。
その代わり、弾の密度が高いので、鳥や小動物などの素早い相手に適している。スポーツ射撃で使う弾薬もこの弾薬。
さらに細かい粒を詰めた弾はビーンバッグ弾と呼ばれ、殺傷能力はないが顔面に当たると顔が滅茶苦茶になる。
2つ目はバックショット。
こちらは大き目の粒を詰めたペレット弾で、射程は短く貫通性はないけど威力が大きい。
粒はOOパックショット弾なら9粒、OOOパックショット弾なら6発入っている。
人に当たると、貫通せずに体内に弾が残る事から殺傷力が高く、これが威力が大きいと言われる理由だった。
だけど、やっぱり散弾なので射程と貫通力はなく、戦闘有効射程距離は30mぐらいが限界かなと思っている。
最後の3つ目はスラッグ弾。
これは薬莢に弾が1つだけ込められた弾薬で、射程は長く貫通力もあり、威力も大きい。
今は薬莢の中でライフリングされて、発射と同時に弾が回転するので射程が伸びたが、大昔はライフリングなんてなかったので、射程距離が短かったらしい。
確か日本だと、ライフリングは半分(ハーフライフリング)という規約があって、海外と比べて射程が短かかったと思う。
国は安全性と言うけれど、そこに狩猟者の安全はない。
スラッグ弾は俗に熊殺しと呼ばれて、とにかく貫通性があるから、熊や象などの大型の敵を倒すのに適していた。
これだけ見れば、スラッグ弾を使うのが一番良いと考えるのが普通だろう。
だけど、敢えて言わせてもらおう。ショットガンを使うぐらいなら他の銃を使え! 殺傷力の高さだけなら、アサルトライフルの方が高いに決まっている。
つまり何が言いたいのかと言うと、俺は捻くれているからアサルトライフルなんて使わずに、ショットガンを愛用して、殺傷力の一番高いバックショットを使うって事だ。
他にも用途によって色々な弾薬があるけど、全部を語ったら長くなるので、使う機会があった時に改めて説明しようと思う。
最後に射撃場へ行って、射撃テストをする。
突然だが、俺の婆さんが若かりし頃、モニター画面を前にキーボードとマウスを使用して、FPSのゲームにハマっていたらしい。本当に突然で申し訳ない。
婆さん曰く、今のフルダイブ式VRのFPSは、正しく銃を構えないと撃てないから難しいと言っていた。
昔のFPSゲームはマウスをポチっとするだけで、画面の中のキャラが銃を撃つから、構えなんて関係ないし、知る必要もなかった。
だけどフルダイブ式VRになってから、現実感を求める余りに正しく銃を撃たないと、物理演算が働いて撃った反動で体が吹っ飛んだ。無駄にリアリティを求めすぎなんじゃないかと思う。
しかも痛覚がないから、「銃を撃ったら何故か体が吹っ飛び地面に倒れていた、意味が分からない」というネタは、FPSユーザーなら誰もが通る道だった。
だからVRで銃を撃つときは、現実と同じ様にストックを肩に付けながら撃って、衝撃を後方へ逃すのが基本だけど、ショットガンは口径が広いので、普通に撃ったら反動で体が仰け反る。
なので、ショットガンを撃つ時は「プッシュプル」という独自の方法で構えろと、ネット動画でアメリカ人のおっさんが言っていた。
そのプッシュプルの持ち方は、グリップを持つ利き手を後ろへ引っ張り、フォアエンドを掴む反対側の手は前に押すようにして、前後に引っ張る様に構える。
そして、ストックは軽く肩に触れる程度にして、頬付けで安定させる。
その構えで撃つと、反動が後ろではなく上に行くので、仰け反る事なく連続で撃つことができた。
反動が上に行く理由は知らない。多分、てこの原理が絡んでいると思う。
と言う事で、射撃場で気が済むまでショットガンをガンガンに撃ってスッキリした後、俺は皆が待っている兵士サロンへ向かった。
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