第2話 過疎ゲームの6人 その2
さて、アニメマニアがウィキペディアに登場人物紹介を書くぐらい長い自己紹介も終わったし、そろそろ俺がここに来るまでの間に見た幻の正体を暴こうと思う。
「なあ、ここに来るまでの間にプレイヤーみたいな連中が居たけど、あれはサーバー終了に伴う
「馬鹿な人。あれは本物のプレイヤーよ」
ミケが汚物を見るような目で俺を見る。
人間をクソと見間違えるぐらい目が悪いらしい。眼科へ行け。
「ああ、確かにお前と話した俺が馬鹿だった。で、冗談が通じない馬鹿はほっといて、何でプレイヤーが居るわけ?」
「すぴねこはニュース見てないのか?」
「ニュース?」
ミケと何時ものやりとりの後、ボスの質問に首を傾げる。
「今も皆でその話をしていたんだが、1週間後にリリースするAAW2を最初にクリアしたパーティーは300万ドルの賞金が貰えるらしい。今日の昼に運営から公表されて、世界中のニュースになっているぞ」
マジ? 俺、開発者の7人と仲が良いけど、何も聞いてない。
「マジかよ。税金対策でSNSで100万あげると言って、広告費にしている連中と同じじゃねえか」
「それとは微妙に違う、いや、同じか。だけど本当だぜ。AAW2の公式サイトにデカデカと載ってるぞ」
驚く俺にドラが肩を竦める。
「開発は天才だけど経営がクソなあの会社連中に、そんな金なんてどこにもないだろう……いや、まて、思い出したぞ。確か2年ぐらい前にボビーがオクラホマのロトでビンゴしていたな。金額まで聞いてなかったけど、本当だったのか?」
ボビーとはAAWのデベロッパーの1人で、敵の強さのバランスを絶妙な仕上がりにするプロフェッショナルだ。
ただし、ミッションで敵を出現させるポイントがドッキリ風味なのと、ムカついている時は強敵を複数登場させるという問題点はある。
「どうやら本当らしいわよ。私も30億円ぐらい手に入れたって聞いたから、そのお金で新たにゲーム会社を作って、AAW2の開発資金にして、ユーザーを呼ぶために300万ドルの賞金を出したんじゃない?」
「ソイツはすげえ。そこまでゲームに課金した奴は初めて聞いたぜ。ギネス級だな」
教えてくれたねえさんに答えたら、彼女が「うふふふふ」とエロく笑った。
ああ、そうそう、言い忘れた。ねえさんから玉を取ったという自慢話を聞いてないから、まだ股間に付いてると思うけど、ねえさんを彼女と呼ぶことにする。
「後はもう分かると思うけど。世界中のプロ、アマ、普段ゲームをしない人達までが300万ドルを手に入れようと、AAW2が始まる前にゲーム情報を知りたくてログインしてるっぽいよ」
最後にチビちゃんが補足して説明終了。
全員の話を纏めると、AAW2は「中身で勝負せずに餌で稼ぐ卑怯なゲーム」と言う事だろう。
「だけど、ゲーム情報を知りたいと言ってもなぁ……」
「「だよねぇ……」」
俺の呟きに、ドラとミケが同じく呟いて、他の皆もウンウンと相槌を打った。
そう、俺達が訝しむのにも理由がある。
今、AAWはあまりにも新規のユーザーが来なくて、ゲームダウンロードサイトで課金なしのフリー販売されていた。
おまけに、今なら新規登録すれば、キャラ作成で貰えるスキルポイントが普通の4倍の20ポイント。
最初の所持金も1000Dが50倍の50000Dに増えている。ちなみに、このゲームの通貨単位は『D』。
お得だろ? だけどサーバーは3日後に閉じるんだぜ。
今から始めるプレイヤー達は、おまけ特典が付いてるから装備が充実してスキルも選びたい放題。最初の内はヌルゲーだと思うだろう。
だけど、それだけだ。
このゲームは発売して、もう5年の年月が経っている。
しかも、その間に何度もアップグレードを繰り返した結果、ミッションレベルが50を超えてから、ただのFPSにRPG要素が追加された。
どういう事かと言うと、FPSなのにタンク、アタッカー、ヒーラーみたいなポジションが必要になる。もはや別物ゲームと言っても良いだろう。
意味が分からないと思う。だけど、安心しろよ。俺も最初にレベル50ミッションをやったときは、7人の頭をカチ割って、その狂った脳みそを調べたいと思ったからな。
ちなみに、ミッションレベルが100を超えると、FPS+RPGに弾幕ゲーム要素が追加された。
俺達はそれを『クレイジーモード』と呼んでいる。クレイジーとはもちろんデベロッパー7人の事だ。アイツ等は、絶対に頭がおかしい。
そう、このAAWは過疎があまりにも酷すぎて、開発者が暴走したゲームだった。
その暴走した開発者7人が作ったAAW2。
非公開だったから俺達もどんなゲームなのかは知らないが、間違いなくクレイジーモードになっているだろう。
しかも、賞金を出すことで難易度に対するクレームも無視できる。
それを今までクレームが来たらバランス調整して難易度を下げる様なゲームばかりしていた自称プロゲーマーの連中が、クリアできるとは思えなかった。
「今から3日間やっただけで、このゲームの闇の深さと開発者の怨念は分からないだろ」
「まあ、そうだろうな。ミッションレベル20、いや、もっと行くか。30ぐらいが関の山か」
「30だと……暴走なしのガーディアンが出てくるあたりか。すげー懐かしいな」
ドラとの会話でガーディアンの話題が出たから、チラッとミケを見る。
ミケはチームに入る前まではずっとソロでやっていて、と言うか、他にプレイヤーが居なかっただけなのだが、ガーディアンに勝てず、学校で俺に泣きついて来た過去がある。
「またその黒歴史をほじくり返すの?」
「まだ何も言ってねえし」
「その捻くれた目が物語ってるわ」
「目の悪口だけは、お前から言われたくねえな」
ミケと言い争っていると、ボスがパシンと手を叩いて俺達を止めた。
「本当にお前達は、周りが見ていてイラッとくるぐらい仲が良いな」
「うっ、吐き気が……ボス、やめて」
「吐きたいなら、寝ている親の顔面に吐いてこい。きっと心配して、お前を精神科医に連れてってくれるぜ」
俺達が止めに入ったボスを無視して喧嘩をしていると、彼だけではなく全員が肩を竦めた。
「誤って拳でフレンドリーファイアーしそうになるから、そろそろ大人しくしとけ」
要約すると「殴り殺すぞ」と冗談を言っているボスだが、その目は笑っていない。どうやら、大人しくした方がよさそうだ。
ボスは大人しくなった俺達に頷くと、この場の全員に話し始めた。
「ラスボスを殺る前に、300万ドルの賞金レースの話をするぞ」
全員が頷いて、話の続きを待つ。
「ここに居る全員がすでにAAW2を買っているのは確認している。再確認だが、2が始まっても俺達はチームを継続するという認識で良いな」
ボスの確認に、全員が頷く。
「俺は今日から始めた連中に負けるつもりはさらさらない。それは、お前たちもだろ」
「もちろんよ」
「プロゲーマー? ハッ。プロと名乗りたかったら、このゲームのクレイジーモードをクリアしてから名乗れ」
ボスにねえさんとドラが応じれば、他の皆も当然と言った様子で自称プロ連中を嘲笑っていた。
「よし、決定だ。俺達も300万ドルのレースに参加するぞ!」
「「「「「おーー!」」」」」
そのボスの発言に全員が拳を上げた。
はしゃぐ俺達が大人しくなった頃を見計らって、再びボスが話し掛ける。
「賞金レースに参加するチームで、俺が思い付くライバルは3チーム。鋼鉄パンツァー、暴走パトリオット、そして、オージーのクソだ」
今ボスが言った3チームは、俺達と同じくこのAAWをずっと続けてきたプレイヤー達だ。
自分で言うのもあれだが、コイツ等も頭がおかしい。と言う事で、それぞれのチームを説明するとしよう。
鋼鉄のパンツァーは、ドイツ人のチームでリーダーのプレイヤーネームはミカエル。
防御力に優れたパーティー構成をしているから、鉄壁だと自称している。
自称したところで過疎ゲーだから、彼等を尊敬するようなプレイヤーは居ないし、俺は冷めた目で見ている。
そして、リーダのミカエルだが、コイツの性格を一言で言えば、典型的なドイツ人のクソ野郎だ。
「ああ、それで?」
「話にならないな」
「放っとけ、そんなのクソどうでもいい」
「そいつは素晴らしい」
最後の「そいつは素晴らしい」は誉め言葉に聞こえるが、相手がヘマした時だけ言ってくるセリフだ。
この皮肉屋の口から出てくる、人をコケにした言葉の数々に、イラっとしないヤツは居ないだろう。
会話して3分間理性を保てれば、どんなクソ女と結婚しても死ぬまで耐えれる忍耐力の持ち主だと保証する。
ちなみに、ミカエルは、ねえさんを女と勘違いして、口説いた経歴がある。
次に紹介する暴走パトリオットは、アメリカのチームでリーダーのプレイヤーネームはロッド。
チーム名の由来はパトリオットミサイルから、名前通り遠距離攻撃が得意なチームだ。
俺の見立てだと、リーダーのロッドは自己愛性パーソナリティ障害だと思う。
本人だけは愛国主義者だと言っているが、酷い愛国主義者も居たもんだ。
とにかくロッドはアメリカが好き・好き・大好き。アメリカ人の自分も大・大・大好き。ついでに他国の人間を馬鹿にする差別主義者でもある。
コイツと会話すると、アメリカの自慢から始まって、アメリカ人の自慢を挟み、アメリカ軍の自慢で終わる。ピザでも食ってろデブ野郎。
ちなみに、ロッドも、ねえさんを女と勘違いして口説いた経歴がある。
男なのに魔性の女。それがねえさんだ。
そして、最後にボスがオージーのクソと呼んだのは、オーストラリアチームのフライングホエールで、リーダーはマッド。
チーム名の由来は、クジラが好きすぎて頭のネジがぶっ飛び、クジラを鳥と勘違いして空を飛ぶ生物だと思い込んでいるからだと思っている。
ボスが彼等をチーム名で言わずに貶したのにも理由がある。
コイツ等は本当に自分勝手で、人の話を聞かず、騒ぐし、暴れるし、ケンカを売るしで、存在自体がクソ野郎で馬鹿野郎。
映画のマッド〇ックスは、フィクションではなくノンフィクションだと、コイツ等を見て知った。
そして、GMに訴えたくても、このゲームは過疎ゲーだからGMなんて誰も居ねえ。だから暴れたい放題だ。
しかも、日本とオーストラリアはコアタイムが同一だから、時々俺達にも絡んでくる。
特にリーダーのマッドは、どうやらうちのボスと同じでペドフィリアらしい。
チビちゃんを見つける度に馴れ馴れしく話し掛けてくるから、毎回ボスがキレている。
彼等のプレイスタイル? さあね。俺はあいつらがまともにミッションを受けてるところを見た事がないから知らないが、偶にプレイに付き合うねえさんは、彼等の戦いを見ていたら宇宙人のバグネックスがかわいく見えてくるぐらい酷かった、と言っていた。
他にも数チームがプレイしているけど、最終ミッションをクリアしたのは、俺達を入れてこの4チームだけだった。
以上、チームの説明が終わったところで、ボスの話に戻る。
「俺達の実力だったら誰よりも突っ走って先に進めるだろう。だけど、それは下策だ。俺は戦国武将からそれを学んでいる」
「その学んだ武将の名前は?」
「武田勝頼」
「おい、長篠で突っ込んでボッコボコにされてんじゃねえか!!」
ドラの質問を真面目に答えたボスに、思わずツッコミを入れる。
「だから反面教師にしている」
「だけど、AAW2もMOよ。MMOとは違うから邪魔なんて出来ないわ」
「チビちゃん。それは甘い、激甘よ」
首を傾げるチビちゃんに、ミケが指先を左右に振ってその考え否定する。
「ミケの言う通り甘く見たらダメだ。俺達の敵はプレイヤーじゃない、あの
ボスが言った敵の名前を聞いて、チビちゃんが「なるほど」と呟く。
「あの連中の事だ。必ず先行しているチームのデータを分析して、対策してくるだろう」
ボスの考えに、全員が大きく頷いた。
「そこで、俺達は2番手をキープする事にする」
「そうすることで7人を騙すのね」
「その通りだ」
ねえさんの確認にボスが頷く。
「俺の予想だとドイツの皮肉屋は俺と同じ慎重派だから、先行しないと踏んでいる。だから真っ先に先行するのはパトリオットだろう」
「まあ、あいつ等は常に1番じゃねえと、自分も相手も許せねえ性格だからな。それで、オージー野郎はどうするんだ?」
俺が質問すると、ボスが鼻で笑い返した。
「2は今と違ってGMが居る。奴らは今までGMが居ないのを良い事に素行が酷過ぎた。知恵のある人間だったら大人しくするけど、アイツ等は生まれたときにママの体内に脳みそを忘れてきたからな。今までと同じ様にロビーで暴れる。俺の勘だが、アイツ等は2が始まってすぐに垢BANで自滅だ」
ボスの話を聞いて、全員がものすごーーく納得していた。
「でも今のパトリオットはロケランとグレネードの遠距離プレイだけど、最初からそんな武器は手に入らないわ。どうするのかしら?」
「アイツ等も最初はスナイパーライフルだったぞ」
「そうなの?」
「元々アメリカ南部のハンティング仲間だったらしいぜ。聞きたくもねえのに、自慢されたから間違いねえ」
ミケの質問にドラが肩を竦めて答える。
「と言う事だ。開発者達は2のリリースの1カ月以内に、遠距離対策をしてくるだろう。そこで俺達は最初の内は近距離と中距離を強化する。すぴねこ、ミケ、ドラ、チビちゃんはそのつもりでいてくれ」
「「「「りょーかい」」」」
名前を言われた俺達が答えたのを聞いて、ボスが立ち上がる。
「会議は終わりだ。仕事に行くぞ」
「「「「「了解!」」」」」
ボスの後に続いて、全員が立ち上がる。
そして、賞金300万ドルの使い道を語りながら、AAW最後の仕事に向かった。
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