『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~
水野 藍雷
第1章 過疎ゲームの6人
第1話 過疎ゲームの6人 その1
俺は、親、友人、学校の先生、それはもう多くの人達から、「性格が捻くれている」と言われてきた。
どこが変なのか尋ねると、全員が口をそろえて「一般人と考えが違う」と言う。
高校生ぐらいまでは彼等の言っている意味が分からなかったが、最近になって分かってきた。
彼らは、ただ単に協調性を求めているだけなのだろう。
世間では個性を伸ばせと言うけれど、本当は皆、同じ生き方を望んでいる。
誰も見た事のない世界を求めて何が悪い。他人の事を見る前に、まず自分を見つめなおせ。
とまあ、こんな考えをしているのが、捻くれていると言われる由縁なのだろう。
そんな捻くれた俺だけど、中学の頃から5年間、『
このゲームのジャンルを一行で言えば、フルダイブ式
ストーリーを簡単に語ると、地球を侵略しに来たバグネックスという宇宙人をぶっ飛ばす。そんな感じ。
このゲームは残念ながら日本では流行らなかった。
理由は色々あるけど、日本人のFPS遊戯人口が少なかった事に加えて、日本人に馴染みの薄いSFというのもダメな原因だったのだろう。何で日本人ってSFよりもファンタジーが好きなんだ?
少し話しが逸れたから元に戻すけど、このゲームの
ゲームの開発は低予算。しかも、元々テーブルトーク用のボードゲーム会社の社員が、たった7人で作ったゲーム。ある意味凄げえ。
そんな凄いデベロッパー7人が作ったゲームだけど、残念な事に彼等を仕切った
この馬鹿プロデューサーが勝手に発売日を決めて発売すると、珍しいジャンルで戦闘、ストーリー、バランスの全てが及第点を得たのか、予想していたよりもユーザーの登録数が多かったのだが……。
その一ケ月後に大手ゲームメーカー待望のMMORPGが販売されて、ユーザー全員がそっちに移籍した。
そのせいで予定していた収入はパー。結局サーバー維持も出来なくなり、開発元のゲーム会社はパブリッシャーのゲーム会社に吸収された。
と言うか、馬鹿が勝手に売り払って、手にした金を持ち逃げした。
このゲームの今の世間の評価は、発売日さえ間違えなかったら大ヒットしたと評されている。
普通のネットゲームだと、売れずに採算が取れなくなった時点で、サーバーをそっ閉じで「お疲れさまでした」となるだろう。
ところが、このデベロッパーの7人は、俺と同じぐらい捻くれた根性の持ち主なので、個人でレンタルサーバーを借りると、規模を縮小してゲームを維持し続けた。
しかも、半年に一度の割合でヴァージョンも上がり、1年に1回は必ずアップグレードで新エリアまでリリースする。
ありがとうございます。ありがとうございます。
デペロッパーからプレイヤー全員に『こんど新しいミッション作るからヨロシク』とメールが届いて、俺が冗談で『前のは簡単だったから、今度は難しくしろよ』と返信したら、『任せろ。今度のはバッチリだぜ』とメールが返って来た。フレンドリーすぎるでしょ。
ちなみに、そのミッションはガチの難易度で、プレイした全員が泣き、俺はプレイヤーの皆から叩かれた。
そんなゲームがもう5年。
ユーザーの全員が、いつデペロッパーの心がへし折れてゲームが終わるか心配していたら、今度『
しかも、驚くべきことにデベロッパーの7人は、新たに会社を設立してゲームを作っていた。懲りない連中だと思う。
その、『
2の販売で、このサーバーもあと3日で閉じると発表されたから、俺が所属しているチームは「最後にボスでも殺っとこうぜ」と集まる予定だった。
ログインすると、ゲームで借りているアパートのベッドの上で起き上がる。
低予算のゲームだからハウジングなんて作る予算はない。だから、ゲームリリースから今まで間取り10畳のアパートが俺の住家だ。
家の扉を開けて外に出たら驚いた。
人がいっぱい居る……いつもは誰も居ないゴーストタウンと化している街に、プレイヤーが溢れている。
これは、過疎ゲープレイヤーが最後まで夢見て、見果てぬ夢で終わる幻か?
こんなのはリリース直後の時しか……いや、リリース直後でも日本時間コアタイムだと見た事がない。
驚きながらもチームハウスへ向かう。
行きかう人達は、武器がどうのこうの敵の強さがどうのこうのと情報を交わしていた。だけど、このゲーム、後3日で閉鎖するんだぜ。
そんな光景を不思議に思いながらチームハウスへ入ると、俺以外のメンバーが既に揃っていた。
「遅かったな」
「あれ? 時間通りじゃね?」
俺に話し掛けてきたのは、20歳ぐらいのイケメンだけど顔面詐欺。彼のプレイヤーネームはドラねこ。通称はドラ。
どこかの青タヌキとは違ってこっちは無能だ。
クラスはアサルト兵。だけど、銃撃よりも地雷のスキルと通信兵スキルを上げる陰キャ野郎。
本人曰く、年上の彼女が居るらしい。俺は写真すら見た事がないから、彼女の正体は18禁VRのヴァーチャル人妻だと思っている。
「時間を見なさい。10分遅れてるわ」
「そう言えば、電車が10分遅延していたらしいな。乗ってねえけど」
俺に文句を言って逆に言い返された女が、三毛猫。通称はミケ。
ツンでもデレでもヤンでもないが、時折腐った汚物でも見るような目で俺を見る。
クラスはアサルト兵。本人曰く、「私の彼氏はM4よ。はーと」……無機物、しかもアサルトカービン銃をこよなく愛する残念女だ。
ミケは俺が高校2年の時の同じクラスで、その時はゲーム好きを隠したクラスの女子の中心的なパリピ女だった。
だけど、ある日、有名なMMORPGのギルドで、後から入って来た同じクラスの姫ちゃんプレイヤーに追い出されたらしい。プッ。おっと腐った物を見るような目で睨まれた。
それでネトゲ難民になっていたところを、教室で俺と友人がこのゲームの話をしていた時に横で聞いていたらしく、暫く1人になりたいと言ってゲームを始めた。
俺は1人になりたくて、マルチプレイのネットゲームを始める思考が理解できない。
そして、このゲームを始めたらガチで1人だったので、俺に泣きついて来たという経緯からチームに入った。過疎ゲーを舐めんな。
高校生の頃はパリピだったミケは、今では立派な陰キャ女になり果てている。
「二人ともその辺にしておけ」
「そうよ。このゲームも後3日なんだから、仲良くね」
俺とミケが言い争う前に止めたのが、元黒人ハゲで、今は全身サイボーグな黒人ハゲのボスキャット。通称はボス。俺は彼ほど黒人ハゲが似合う日本人を見た事がない。
クラスはヘビーアサルト兵。武器は機関銃で、敵を一掃する。
だから、気分的に面倒くせぇと思っている時は、彼に頼むことにしている。
ボスは名前の通りこのチームのリーダー。ボスという名前でリーダーじゃなかったら、ただの缶コーヒー好きな黒人ハゲだろう。
そして、先ほどボスの後に発言したのが見た目幼女な主婦でチビねこ。通称はチビちゃん。
クラスはメディック兵。ケガをした時に回復させるクラスだ。
一応アサルト兵でもスキルを大量に消費すれば回復はできるけど、回復量はメディック兵の1/3。つまり、開発者が仕掛けた罠スキルだ。
彼女は性格も色物チームで一番まともだから、スピリチュアル的に回復もする。
ただし、この色物ゲームをプレイしている時点で、9割方まともではない。
その証拠に、戦闘時の彼女は敵にグレネードランチャーを撃って、笑みを浮かべながら死体を量産している。
チビちゃんは見た目が幼女、微妙に少女。チビちゃんと付き合ったらペドかロリと呼ばれるだろう。
そして、先ほどチラっと言った通り、このチビちゃんは旦那持ちだ。そして、その旦那がボス。つまり、ボスは黒人ハゲのペド野郎。
ボスにそれを言うと、絶対に背後から機銃で撃たれるから言わないが、俺の中ではそう位置付けている。
「相変わらず仲が良いわね」
「ねえさんやめて、鳥肌が立ったわ」
「性格ブース、ブース」
少しだけ長い金髪をかきあげ、美しく妖艶に笑うカマ野郎が、砂ねこ。通称はねえさん。
名前の由来はスナイパーの砂。あだ名はねこの頭文字の「ね」を伸ばして「ねえさん」と呼んでとカマが言ったから。以前にカマさんと言ったら睨まれた。
クラスはスナイパー。たまに芋虫スナイパー(匍匐スナイパー)略して芋砂しているから、気づかないで踏んでるときがある。だって痛覚設定チョットしかないんだもん。
この人、ネカマだと思うだろ? リアルでもカマなんだぜ。
初めて見た時、凄い美人だと思ってドキドキしていた俺を返せと未だに思っている。
そして、最後に俺がスピードキャット。通称すぴねこ、もしくはスピード。
俺が煽ってムカつかれた時はクソ野郎と呼ばれる時もある。一度、ドラの野郎に捻じクソ野郎と呼ばれた時は、背後からフレンドリーファイアーでぶっ殺した。
クラスはアサルト兵。ただし、アサルト銃を背負わずに、使えない武器として馬鹿にされているショットガンを使っている。
「FPSでショットガン? 突撃ファンタジー脳ですか?」
「あらやだ、この人ショットガンなんて持ってるわよ。あ、ごめんなさい、近寄らないでもらいます」
「やっぱり性格が捻くれてるから、武器も捻くれたのが好きなんですね」
などなど陰で色々言われているが、俺は捻くれた性格なので、時々殺してやろうかと思うぐらいで別に気にしていない。
この俺を含めた6人が、昨日まで『
仕事内容は、近所迷惑な宇宙人をお掃除してお礼とお金を貰うだけの、どこにでもある清掃業者だ。
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