第7話 ミッション1-1 その3

 ボス達と別れて、ミケとねえさんの2人と一緒に左のルートを進む。

 通路は掘られただけの塹壕で天井は無いが、林の下に掘られていたので薄暗かった。


 少し進むと通路は右へ曲がっていた。曲がり角の前で立ち止まると、インプラントを起動して顔を少しだけ出す。

 手前に高さが胸元ぐらいまでのスチール製コンテナが、通路の左右の二か所に積まれていて、隠れる場所としては丁度良い。

 そして、通路の奥に扉が見えるが、その手前ではドロント兵が4体コンテナの裏に隠れていた。

 インプラントが切れる前に再び隠れる。


すぴねこ 『手前にカバー遮蔽物2、エネミー4。グレネードを使うぞ』

ミケ   『了解、よろしく』

ねえさん 『狭いから私は拳銃でフォローするわ』


 ねえさんは塹壕に入ると同時にメイン武器のスナイパーライフルを背中に背負い、短銃を両手に持っていた。

 彼女はインプラントで視力を強化していて、一時的に望遠鏡を覗いている様に見えるから、攻撃力が低い短銃でもヘッドショットを楽に決める事ができた。


 壁から少し離れると、胸に付けていたグレネードのピンを抜いて、奥の壁に向かって投げる。

 投げた手榴弾が壁に当たって跳ね返り奥へと飛んで行った。


「ギシャァァァ!!」


 グレネードに慌てたドロント兵の声が聞こえたのと同時に、俺とミケが同時に飛び出した。

 ミケが手前のコンテナに身を隠してアサルトカービンを構え、俺はその先のコンテナまで移動してショットガンを構える。


 扉の前でグレネードが爆発して、ドロント兵の1体が吹き飛んだ。

 ドロント兵が反撃する前に攻撃を開始。それぞれが1体のドロント兵を銃撃して倒した。


ミケ   『クリア』

すぴねこ 『さて、扉の先は何があるかな?』


 話しながらショットガンをリロードして弾を装填する。


ミケ   『お宝じゃないのは確かね』

ねえさん 『すぴねこ、インプラントのリキャストは?』

すぴねこ 『4分以上あるぜ』

ねえさん 『やっぱりランク1のインプラントだとしょぼいわね』

すぴねこ 『そんなに褒めるなよ』

ミケ   『褒めてない、褒めてない』

ねえさん 『仕方ないわね。突っ込むよ。敵の攻撃力が防御力と同じで、ノーマルなのを祈りましょう』

すぴねこ&ミケ『『了解』』


 俺とねえさんが扉の横に配置、ミケがコンテナの後ろに隠れてアサルトカービンを構える。

 ねえさんが扉に向かって顎をしゃくるのと同時に頷き扉のボタンを押すと、横にスライドして扉が開いた。







 部屋の中は塹壕の通路ではなく、壁がコーティング強化されている近未来的な部屋だった。

 広さは学校の教室ぐらいあり、こちら側は少しだけ高くなっていて、防御壁が張られた手すりが付いていた。

 奥を見れば先に続く扉があったが、ドロント兵が6体にロボットの様な容姿をした敵が1体待ち構えて居た。


 新しい敵の名前はライトタンク。身長が2m50cmほどあり、全員を金属アーマーで覆っていた。

 武器は左手にアサルトライフル、右手は鋼鉄の金属ハンマーが付いていて、遠距離だとアサルトライフルを放ち、近距離だと左手の金属ハンマーで殴ってくる。

 コイツと正面から攻撃しても、与えるダメージが半減以下になって、倒せない事はないけど時間が掛かって面倒くさい。

 弱点は背後のジェネレーターで、それを破壊するとアーマーが崩れ落ちる。ちなみに、中の人はドロントさん。アーマーが取れたらただの雑魚。


すぴねこ 『コンタクト! エネミー6、ライト1!』


 俺が手すりの防御壁の裏に隠れるのと同時に、銃撃戦が始まった。

 敵の攻撃が部屋に入った俺に集中している間に、ねえさんが1体、ミケが2体のドロント兵を倒す。


 残り半数になると、ライトタンクを含む残り3体の敵が、攻撃方法を変えてこちらに向かってきた。

 彼等が移動を開始するのと同時に、俺も防御壁から飛び出した。


 敵のヘイトが、遮蔽物から飛び出した俺に向く。

 すぐ近くのドロント兵が自爆しようと俺に抱きつく前に、ショットガンで膝を撃ち抜き床に倒す。

 それをねえさんが狙撃して倒している間に、ミケがもう1体のドロント兵を始末していた。

 これで、敵はライトタンク1体のみ。


 ライトタンクがアサルトライフルを俺に向けて構える。

 撃たれる前に横へ走り出すと、走る後ろを弾丸が追い掛けてきた。

 目前の壁に向かって飛び上がり、壁を蹴って高くバク宙。弾丸の軌道ラインの上を飛び超え回避する。


ねえさん 『相変わらず、ほれぼれする動きね』

ミケ   『リアルでも同じ事ができるのよ。あれは人間の着ぐるみを着た猿ね』


 ねえさんとミケが俺にヤジを飛ばしながらも、ライトタンクに向けて攻撃を続ける。


すぴねこ 『誰が猿だ、ウキーッ!』


 ライトタンクがリロード中に走り寄ると、攻撃を接近に切り替えて、左手のハンマーで俺に向かって殴り掛かってきた。


 走る勢いを殺さず、相手の左側に向かってスライディング。ライトタンクの攻撃が空振りする。

 床を滑りながら敵の右足を掴んで勢いを止めて背後に回り、床の上で体を回転させる。

 そして、倒れたまま背中のジェネレーターにショットガンを放った。


 ショットガンの弾がジェネレーターに命中すると、ライトタンクの装甲が解除されてドロント兵が現れた。


「ギシャアイイ!!」


 丸裸にされたドロント兵が叫ぶ。翻訳すると多分「いやん」だと思う。


すぴねこ 『レスト・イン・ピース安らかに眠れ


 トドメを刺そうとしたら、その前にミケが側頭部にヘッドショットを決めて、ドロント兵を倒した。

 俺の決めセリフを返せ。







ミケ   『オールクリア』

ねえさん 『ドロップアイテムはなさそうね』

ミケ   『バグスの本拠地に、地球の武器なんてないと思う』

すぴねこ 『そうでもないらしいぞ。ほら、部屋の隅を見て見ろよ。出来立てほやほやの装備が落ちてるぜ』


 俺が顎をしゃくった先には、地球人の死体が倒れていて、その周りの床に彼の装備品が落ちていた。


ミケ   『うげっ、そう来たか……』


 落ちている装備から、アサルトの弾倉を拾ってミケに放る。


すぴねこ 『ほらよ。グレネードは俺が貰っとくぞ』

ミケ   『……どうも』


 ミケが腐った物を見る様な目で俺を睨むと、今の弾倉を銃から抜いて、受け取った弾倉を挿し込んだ。

 装備を漁っていると、シークレットミッションクリアのインフォメーションの文字が現れた。

 そのメッセージを見たねえさんが、ボス達と連絡を取り始めた。




ねえさん 『……今、向こうと連絡を取ったわ。どうやら向こうでもライトタンクを倒したみたいね。ボスの予想だとこっちと向こうのライトタンクを倒すのが条件っぽいって言ってたわ』

ミケ   『と言う事は、やっぱり左右両方に進んで正解だったのね』

すぴねこ 『面倒なシークレットだな』

ねえさん 『さあ、話はそこまでにして先に進みましょ』

すぴねこ&ミケ『『了解』』


 身を隠して部屋の反対側の扉を開けると、扉の先は天井のある通路になっていた。

 移動中にドロント兵4体を倒して奥へ進み、次の部屋では待ち構えて居たドロント兵3体の戦闘中に、奥の扉から5体が現れて合計9体のドロント兵を倒した。

 さらに先へ進むと通路はそこで終了してエレベータを見つけた。エレベータに乗ろうとしたタイミングで、ボスから連絡が入る。


ボス   『エレベータを見つけた。そっちはどうだ?』

ねえさん 『こっちも見つけたわよ』

ボス   『恐らく登った先にトーチカがあるはずだ。そちらのインカムのチャンネルをこっちに合わせてくれ』

すぴねこ&ミケ&ねえさん 『『『了解』』』


 インカムの周波数を元に戻して、ボス達のインカムと接続する。


すぴねこ 『アーアーマイクテステス』

ドラ   『ヒデエノイズだな』

すぴねこ 『お前が掘られる時の声よりマシだぜ』

ドラ   『俺はまだ処女だバカヤロウ』

ねえさん 『2人とも相手になるわよ』

すぴねこ&ドラ『『すいませんでした!!』』


 ねえさん相手に下ネタは敵わない、反省。







 エレベータに乗って上へと移動する。


すぴねこ 『インプラント使うぜ』

ねえさん 『了解』


 エレベータのドアが開くとの同時にインプラントを起動して突入。

 出た先はトーチカの内部で、こちらに銃を構えたドロント兵が2体。奥の方では機銃を撃っているドロント兵と、それを補佐する1体が居た。


 ちなみに、機銃兵は見た目がドロント兵だけど、腹の部分から機関銃が飛び出ていて、両手が機銃に繋がっている、見た目がグロな敵だった。


 手前の2体が銃を撃つ前に、その間を抜けて奥へと向かう。

 俺に注目していた2体が、ミケとねえさんに脳天を撃たれて仰け反った。


 奥の1体がこちらに気付き、振り向くがソイツに向かってショットガンを放つ。

 そして、機銃を撃っていたドロント兵がミケとねえさんの銃撃を喰らって死亡した。


すぴねこ 『クリア』

ボス   『こっちもクリアだ』

ドラ   『後は中央だな』

チビちゃん『ねえさん、ねえさん。こっちからだと中央のトーチカが狙えそうなんだけど、そっちはどう?』

ねえさん 『あら? その発想はなかったわ。チョット待ってて』


 ねえさんがスナイパーライフルを取り出して、トーチカの窓にから中央のトーチカを狙う。


ねえさん 『……いけるわね』

ボス   『よし、ねえさんはそこで待機して俺の合図で狙撃してくれ。それと同時に突入する』

ねえさん 『了解』

すぴねこ 『俺とミケはどうする?』

ボス   『このミッションは、最初の地雷エリアさえ突破すれば余裕だから周回する。今回は来てくれ』

すぴねこ 『あのオープニングを毎回やらされるのは、嫌だけどな』

ボス   『そこはカットしてくれることを祈ろう』

ねえさん 『それじゃデートに行ってらっしゃい』

ミケ   『ねえさん、気持ち悪い』

すぴねこ 『オエーッ、オエーッ』


 ねえさんに文句を言いながら、俺とミケは中央のトーチカへ続く左のドアから外に出た。







 移動中にドロント兵3体と遭遇。

 俺が前に出て遮蔽物に隠れている間に、ミケが2体を狙撃して倒す。

 最後の1体は、相手のリロード中に俺がショットガンで倒した。


 ミケの俺を見る目は腐っているが、狙撃の腕はねえさんに続いて上手い。

 重要だからもう一度言うが、アイツが人を見る目は腐っている。だけど、彼女は狙撃の腕が良いから、俺も安心して前に出ることが出来た。


 中央のトーチカの前まで移動するのと同時にボスの声がインカムで流れた。


ボス   『こっちは配置についた』

すぴねこ 『こっちもオッケーだぜ』

ボス   『ねえさんは?』

ねえさん 『何時でもいいわよ』

ボス   『よし、狙撃と同時に突入するぞ』

すぴねこ 『なあ、グレネード投げね?』

ドラ   『そう言えばこっちも拾ったな』

ボス   『……ありだな』

ミケ   『鬼畜ね』

ボス   『作戦変更だ。狙撃と同時に、すぴねことドラはグレネードを投げろ』

すぴねこ&ドラ『『了解』』


 ボスの指示でねえさんの狙撃を待つ。

 数秒後、スナイパーライフルの銃撃音が聞こえた。


 ミケが扉を開けて、俺がグレネードのピンを抜きトーチカの中へ放り投げる。反対側の扉からもドラがグレネードを投げる姿が見えた。

 扉を閉めて様子を伺うと、トーチカの中でドロント兵が騒いでいると思ったら、爆発音が中から聞こえた。


 『ミッションクリア』


 爆発音と同時に現れたインフォメーションに、思わず苦笑い。

 どうやら中の敵は全滅したらしい。


ミケ   『最後はあっけなかったわね』

チビちゃん『最初のステージだから、エリアボスも居なかったみたい』

ドラ   『これ、1人グレネード2個持って6人で行けば、あっという間に終わるんじゃね?』

ボス   『だから、ライトタンクが居るんだろう』

ドラ   『なるほど』


 トーチカの中に入ると、グレネード2発の爆発でドロント兵の死体で溢れていた。

 ちなみに、ドロント兵の武器は腕に繋がっているから、取ろうとしても取れない。


ミケ   『咄嗟の思い付きだったけど、グレネードで対応して正解だったわね』


 ドロント兵の死体は全部で9体。狭い場所で戦うとなると、チョット面倒だったかもしれない。


チビちゃん『メディカルキッドがあったから貰うね。今回使ってないけど』

ドラ   『誰も使えないからどうぞー』







 トーチカから外を見れば、機銃の攻撃が止んだからか、地球人のNPCが次々と砂浜を超えてこちらに向かっていた。

 最初のミッションをやり遂げて、軽く息を吐く。


「久しぶりに、初期装備で戦ったけど、これはこれで面白いわね」


 外を見ていた俺にインカムを外したミケが話しかけてきた。


「とうとう、縛りプレイに目覚めたか。これでお前も本格的なFPSユーザーだな、可哀そうに……」

「バーカ」


 ミケは俺に一言だけ告げてスマホを弄り、ミッションエリアから消えていった。


「なんなんだアイツ」

「あなたは少し乙女心を理解しなさい」


 合流したねえさんから怒られた。

 だけど、今の会話でどうやって乙女心を理解しろと? 有名な心理学者でも無理じゃね?

 それに、ねえさんを見ていると、乙女心を理解したらゲイになりそうで、何となく嫌だわ。


 ねえさんに軽く肩を竦めて俺もログアウトすると、今回のステージの結果が表示された。

 今回の俺達の成績はSランクだった。




 結果

  クリアタイム  40分32秒

  死亡者数    0人

  シークレットミッション オールクリア


 判定

  Sランククリア


 報酬

  クリアボーナス       Sランク 10000D

  取得スキルポイント     Sランク 5ポイント(MAX)


  初回Sランククリアボーナス 5000D

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