第19話 菊地内閣総理大臣誕生
属国から解放されて一年が経った。街の通りに溢れていたロシア語と中国語は尽く抹消された。日本国民の日常会話や日本国内の報道一切にロシアと中国に関わる話しは無くなっていた。心の奥底に封じ込められた思い出したくない悪夢の半年間を記憶から永久に抹消したいのだろう。
独立国家日本復活一周年記念式典が行われた。
「二度と悲劇を繰り返さない為に日本は、他国に頼らない強固な防衛体制を構築し、強固な国造りを進めて行かなくてはなりません…一つは宇宙空間の防衛利用…もう一つは抑止力としての核兵器保有…」
属国になる前であれば長門総理の式典演説の内容は、非公式な場であっても間違いなく非難の集中砲火を浴びて進退問題になるような過激発言だったが、声高に異を唱える者はほとんどいなかった。逆に、属国から解放された日本国民には「そうすることは当然のこと」だと受け止められた。
「国権の発動による戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久に放棄する。」の文言は復活してから一年かからず無くなった。
年が明けると、長門総理は衆議院を解散した。
「北方領土の主権回復」と「憲法九条改正」二つの大きな公約を成し遂げた長門総理は、自らと菅原官房長官が政界から身を引くことを条件に、大物議員達をことごとく政界引退させ、与党候補者を一気に若返らせて総選挙に挑んだ。
総選挙の結果は、復活を成し遂げた功績と大幅な若返りが国民から圧倒的な支持となり政権与党の民公党が4分の3の議席を獲得するという圧勝だった。
民公党当選議員の四分の一が五十歳未満で初当選の新人議員となった。衆議院議場前列の新人議員が座る席には、順一と自衛隊を退官した飯島や豊島などの復活作戦の英雄たちの姿もあった。
内閣総理大臣には、順一と同年代で若き実力者の民公党総裁大泉孝之が指名された。
順一は長門総理からの信任もあり一年生議員にも関わらず、大泉総理から入閣の懇願を受け「北方領土・千島・樺太復興開発大臣」となり入閣した。飯島氏も防衛大臣となり入閣した。
大泉内閣が政権運営を始めて半年が経ったころ週刊誌に「大泉総理と中国政府の黒い関係」の見出しでスクープ記事が出た。
大泉総理が中国に留学していた際、当時は共産党青年部の若きリーダーで指導者候補の一人だった李国家主席と深い繋がりを持ち「李氏の信奉者だった」と言う内容だった。大泉総理は否定したが混乱の責任を取り総理の座を辞した。総裁後継に菊地順一を指名して。
順一は、当選一回で民公党総裁となり内閣総理大臣に就任した。政治経験に乏しい順一は、内閣を出来る限り身内で固めた。官房長官には大泉、防衛大臣には飯島など、復活作戦の英雄達を尽く要職に就けた。最大の目玉が外務大臣に就任したエミリーだった。復活後エミリーは日本にそのまま留まっていた。本人の希望と「日本復活に大きく貢献した」として国籍を直ぐに与えていた。
「青い目の日本国外務大臣」は世界的なニュースとなった。エミリーの美人外交で、日本政府が推し進める国防強化政策に対して批判する諸外国を軟化させるのに大変役に立った。
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