第18話 独立国家日本復活

 作戦開始一ヶ月前の十一月五日、インドで二番目に大きな商業港チェンナイから積載重量三十万トンの超巨大コンテナ船二隻が出航した。超巨大コンテナ船二隻の積み荷は一万機の小型ドローン攻撃機。コンテナ船はインドがカモフラージュしたドローン運搬船だった。目的地は黄海、仁川沖。ロシア、中国の軍事施設と中国政府中枢に対してドローン攻撃をするのが目的だ。

 コンテナ船二隻からドローン攻撃機七千機が数十機から数百機ずつに分かれ、中国軍施設と政府中枢に向けて飛び立った。それから三十分後、日本時刻12月8日午前一時、ロシア海軍と中国海軍の艦船と潜水艦に向けて、海上自衛隊、イギリス海軍、オーストラリア海軍、ニュージーランド海軍、インド海軍、それにフランス海軍も加わった六十五艦から成る潜水艦連合艦隊から八百発の魚雷が十五分間で発射された。不意に向かってきた魚雷群にロシア海軍艦船、中国海軍艦船は為す術なくほとんどが撃沈されるか航行不能に至った。潜水艦連合艦隊が魚雷を発射してから十五分後、ドローン攻撃機が中国国内に打撃を与え始めた頃、「びしゃもん」は太平洋沖縄本島百キロ沖、「すさのお」は太平洋十勝沖百五十キロ沖の水深三十メートルまで浮上していた。

「発射」

飯島艦長から緊張の籠った低い声が指令所に発せられた。「すさのお」の垂直発射管から上空へと中距離巡航ミサイル「ジャベリン」が発射された。真上に向かっていた「ジャベリン」の弾頭は、海上に出ると一瞬でジウラジオストクに向きを変え一気に加速した。二分間で六発の「ジャベリン」が発射された。「びしゃもん」からも八発が発射された。「びしゃもん」の標的は中国軍事施設だ。


 作戦開始の三日前。イギリス政府はロシア政府と中国政府に対して通告をおこなっていた。通告の内容は「イギリス海軍、オーストラリア海軍、ニュージーランド海軍、インド海軍、大韓民国海軍はフィリピン海で合同軍事訓練を行う」だった。

 通告通り十二月七日のフィリピン海上には、四か国の軍艦約五十艦がルソン島の北北東五百キロ沖を中心とした半径五十キロ範囲に集結していた。その周辺海域には中国海軍の艦船五艦も監視目的に近づいてきていた。

 潜水艦連合艦隊から魚雷群が発射された同時刻、合同訓練監視をしていた中国軍艦の五艦に向けて連合艦隊から、対艦ミサイル、魚雷攻撃が一斉に始まった。攻撃と同時に全艦が日本沿岸に向けて北上を始めた。

 連合艦隊周囲をジェットエンジンの轟音が覆った。連合空軍の戦闘攻撃機三百機の轟音だ。鳴りやまない轟音は、夜明け前の厚い雲の下に数百キロに及ぶ帯となりロシア上空と中国上空に移動して行った。 

 

 ロシア、中国の軍艦のほとんどが戦闘不能となり、制空権も連合軍の手の内に入った午前二時三十分。大韓民国烏山オサン空軍基地をはじめ三か所の空軍基地から大型輸送機が次々に飛び立った。機内には顔を墨色に塗り無言で目を見開いている空挺連合部隊の兵士達がひしめいていた。空挺連合部隊兵士三千名は上空から駐留軍基地の奪還と「独立国家日本復活」を目指す。

 午前五時頃、連合軍空挺部隊兵士が暗闇に包まれている中国駐留軍重要拠点の岩国基地を取り囲むように降り立った。「独立国家日本復活作戦」の始まり「領土奪還作戦」の第一段階が始まった。次いで、ロシア駐留軍重要拠点の横田基地、北部拠点の新千歳基地を奪還する計画だ。重要拠点を押さえたあと全国十か所に散らばっている小規模駐留軍基地奪還へと作戦範囲を広げる。

 日本沿岸に作戦開始日の数日前から貨物船数十隻が「津波から避難するため」に停泊していた。

 空挺部隊が大韓民国から飛び立ったころ、日本沿岸に停泊していた貨物船から五千名の特殊戦部隊兵士がゴムボートと共に海上に降ろされた。五百艇のゴムボート群はゆっくりと横須賀基地や呉基地、佐世保基地などの駐留海軍基地近くに近づいていった。

 午前五時、基地周辺の海岸に身を潜めていた特殊戦部隊兵士が駐留海軍基地の強襲に動いた。


「空挺部隊、特殊戦部隊の兵士達が作戦を始めた頃です。日本政府から情報伝達網で伝えられた二つ目の指令…と言うより要請をエミリーに話します」

指令所の時計を見つめたまま順一がエミリーに話し始めた。

「要請は、元自衛官や予備自衛官三十万名に出されました。『独立国家日本復活に希望を持っている者は、十二月八日六時に最寄りの駐留軍基地前に集合して欲しい…』と言うような要請内容です。意味がよく分からず、命に関わるような感じを受けるメッセージでどのくらい集まってくれるのか…未知数ですが」

「そのメッセージは『戦闘に加わってくれ』と言う意味ですか…」

豊島艦長が大きく首を横に振った。

「集まった自衛官が戦闘に加わる事態は、ほぼ無いでしょう。空挺部隊や特殊戦部隊の兵士達で『かたが付いている』と我々は考えています。理由は二つ、一つは『士気が低い』ことです。得られた情報を分析すると『祖国民を守る訳でもないことに、命を懸けてまで必死に戦おう』とは思っていないようです。もう一つは、奪還作戦が始始まるころには『彼らの祖国は混乱し、中央政府は機能を失い、命令系統は寸断されている』でしょう。残されている道は『投降する』ことです」

 豊島艦長の言葉通り連合軍兵士と駐屯軍との戦闘は散発的に起こるだけだった。本国から入ってくる戦況情報が駐留軍指揮官の士気を一層下げたのは間違いなかった。


 十二月七日、モスクワ時刻午後10時00分。潜水艦連合艦隊から魚雷群が発射された時刻。モスクワ市内の各所から小型ドローンがクレムリンに向かって飛び立った。小型ドローンによる自爆攻撃が始まった。三千を超えるドローンがロシア政府中枢に襲い掛かった。クレムリンから炎が立ち昇り始めてから三分後、ドイツ国内からとバルト海に潜んでいた潜水艦から巡航ミサイルがロシア軍施設に向けて発射された。巡航ミサイル攻撃が一旦止まると、モスクワ周辺の軍施設にイギリス空軍、ドイツ空軍、フランス空軍の攻撃機による空爆が始まった。

 モスクワ市内、北京市内は反政府組織の市民数万名の猛攻も受けた。ロシア政府中枢機関、中国政府中枢機関は、作戦開始から一時間後には反政府組織に奪われていた。連合軍に反撃する命令系統はかなり早い段階で失われていた。


 全国の駐留軍基地のゲートは解放された。どこのゲート前にも緊張と笑顔が混ざった自衛官達が集まっていた。

 東の空が白み始めた。自衛官達は、連合軍兵士から自動小銃を受け取ると基地内へと一人一人進んで行った。

 駐留軍基地に集まった自衛官は十万名を超えた。独立国家日本が復活した。



 

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