生前の天城辰子ちゃん――中学生編――

第2話 ヤマザキ春○パン祭り(前編)🍞

1 シールをあつめておさらもらおう☆


「え〜、またパンかよ〜。あさはごはん味噌汁みそしるざかないのにさ〜」

 おにいちゃんが文句もんくう。でも、その文句もんくJAROジャロっても、きっとダメじゃろ。

観念かんねんしなよ。いまはおまつ期間中きかんちゅうだからさ」

「あちゃ〜っ、もうはじまっちまったのかよ! なにがパンまつりだよ! 機関銃きかんじゅうをぶっぱなしたい気分きぶんだ」

「セーラー服着ふくきて、『か・い・か・ん♡』って?」

「はっ? 意味いみわからん」


 うちのおかあさんは、ヤ○ザキはるのパンまつりが大好だいすきである。毎年まいとしデザインがわるあのおさらあつめることに、並々なみなみならぬ情熱じょうねつやしている。

 おまつ期間中きかんちゅうは、朝食ちょうしょくすべからくパン。学校がっこうやすみのはおひるもパン。ごはんとラブコメラノベが大好だいすきなラブコメ人間にんげんのおにいちゃんは、おこめべられないとなげくのであるが、苦情くじょうべると学校がっこう成績せいせきのことでかえされるのでだまっている。

 わたしはパンでもごはんでもどっちでもなので問題もんだいはない。

今年ことしは10まい目標もくひょう頑張がんばるんだって!」

「まじかー。へこむな〜。おれ将来しょうらい科学者かがくしゃになって、タイムマシーンを完成かんせいさせるぞ! そして、パンを発明はつめいしたやつらを皆殺みなごろしにしてやる!」

 なにやら物騒ぶっそうなことをのたまあにであったが、

「おにいちゃん、理数系りすうけい苦手にがてだったよね? せいぜい頑張がんばって」

「そもそも、あのさら地面じめんにおもいっきりたたきつけてもれねえんだぜ。あんな頑丈がんじょうさら毎年まいとし毎年まいとしあつめて、どうするんだ? なあ?」

 などど、おにいちゃんの呪詛じゅそつづいたけれど、おかあさんがあらわれると、途端とたんくちつぐんだ。


2 応募台紙おうぼだいしにシールをって


応募台紙おうぼだいしにシールをって……っと、これでし! 辰子たつこたちはらないでしょうけれど、むかしはスーパーのポイントなんかも、全部ぜんぶこうやって方式ほうしきだったのよ?」

 おかあさんがぶっんだことをいだした。

「ポイントをる? ちょっと意味いみわかんない!」

「ふふっ♪ むかしは50えんにつき1まいとか、100えんにつき1まいとか、切手状きってじょうのポイントわりのスタンプをくれたのよ。うらみずをつけて、升目ますめわせて台紙だいしっていくの。一冊いっさつ全部ぜんぶえると、250円分えんぶんとか500円分えんぶんになったの。冊数さつすうおうじて、商品しょうひん交換こうかん出来できたりもしてね。『ブルーチョップ』とからない?」

名前なまえくらいはいたことあるけれど……。50えんに1まいって、税抜ぜいぬき? 税込ぜいこみ?」

税抜ぜいぬきね。そういえば、おかあさんがまだ幼少ようしょう時分じぶん消費税しょうひぜいってなかったのよ。まあ、そのころ記憶きおくはほとんどのこってないんだけれどね。ブルーチョップそのほかのスタンプは普段ふだんはこなかめておいてね。数ヶ月すうかげつ一度いちど、スタンプりをするの。税抜ぜいぬき1250円以上えんいじょうものをすると、25まいはなされていない切手きってシートじょうのシートがもらえて、それは台紙だいし一面いちめんにベタッ、っとけて。たてに5まいつながったヤツは一列いちれつにベタッとけて、みたいなかんじ?」

「『みたいなかんじ?』とかわれてもくわかんないよ? わかるのは、むかし面倒めんどくさかったんだな〜、ってことくらい」

面倒めんどくさい……か★ でもおかあさん、スタンプきだったのよね? テーポイントとかにわっていって、どんどんさみしくなっちゃった。この、『ヤマザキはるのパ○まつり』がきなのも、たんにおさらしいだけじゃなくて、こうやってシールをるのがきがいなのかも」

「あ〜っ! おかあさんはそんなひとかも。で、早速さっそくその一枚目いちまいめ交換こうかんするんでしょ? 『パ○まつりは最初さいしょのおさら一枚いちまいれてはじめてスタート地点ちてんつ』って、毎年まいとしってるもんね。普通ふつうはそこがゴールなんだけれど。いよ、わたしっててあげる。TSUTANYAツタニャ本買ほんかいにくから、ついでにってくる」

なん本買ほんかうの? おかあさんもきそうなほんならおかねしてあげても……」

「ホント♡ 『有毒生物ゆうどくせいぶつ どくつよさランキング』ってほんなんだぁ♪ ってる? キングコブラよりもヤマカガシのほうどくとしてはつよいんだよ☆ それでね……」

「はいはい。それじゃあ、ってきてね。くるまをつけるのよ! あとへんおとこひとについていかないようにね?」

「もう中学生ちゅうがくせいだよっ! 子供こどもじゃないしっ! へんおとこひとは、おにいちゃんひとりでってますぅ!」


3 そしておさら姿すがたえた


「ふおおおおーっ! このほんすげーっ! ためになるーっ! コモドオオトカゲにどくがあるのはらんかったー! これは、いえってかえって熟読じゅくどくせねば! 『どく』のほんだけにね」

 レジにまえに、たなをざっとながめると、『有毒生物ゆうどくせいぶつ読本どくほん』『有毒植物ゆうどくしょくぶつ読本どくほん』という二冊にさつ毒々どくどくしいほんはいった。ってぱらぱらとめくってみる。

 し、これはモエスキーなおにいちゃんの琴線きんせんれるイラストだ。うまいことたぶらかしてわせよう!

 個人的こじんてきに、えはご所望しょもうでないが、えイラストきのほんあによろこんでうのだ。そしてってるだけで満足まんぞくし、ほぼまない。んでいるとこたことない

 そういうほんわたしりてむのである。あに本棚ほんだなおさまっているものの、実質的じっしつてきにはわたしほんである。

 会計かいけいませていえかえけて、おもとどまる。おさら交換こうかんしてかえらなくっちゃ!

 スーパーのサービスカウンターにくと、

「もうあつめたの? すごいわね。今年ことし一番乗いちばんのりよ?」

感心かんしんされた。

 まあ、おかあさんは、このおまつりのプロだから。普通ふつう主婦等しゅふなどがマラソンの市民しみんランナーだとしたら、はは大会たいかいレコードとオリピック代表入だいひょういりをねらうトップクラスだから。

 スーパーをあるいていると、

「わーっ! ごめん! けてけて!」

こえこえてきた。

 くと、出前でまえ自転車じてんしゃわたし目掛めがけてんでるではないか!

 大慌おおあわてでしりもちをついてかわしたのだが……。

 ガシャン!


「うわ〜ん!」

 そう、その頑丈がんじょうなはずの、それこそ地面じめんたたきつけてもれないはずのしろ陶器製とうきせい物体ぶったいは、るも無残むざん姿すがたへと変貌へんぼうげていた。

 おろおろする出前持でまえもちのラーメン店員てんいんさん🍜

 なんでも、スマートフォンをようとして、ハンドル操作そうさあやまったのだとか。

「ごめんよ、ごめんよ」

あやまられても、どうにもならない。

 これは事故じこだし、おかあさんもわたしおこったりはしないだろうけれど。

 ○ンまつ終了後しゅうりょうご

一枚いちまい二枚にまい三枚さんまい……八枚はちまい九枚きゅうまい……。一枚いちまいりないわ。よよよ……」

毎晩まいばん番町皿屋敷ばんちょうさらやしき状態じょうたいなげははおもうとなみだまらない。ていうか、ちょっとしたホラーである。

「ごめん、わりといってはなんだけれど……」

 そうってかれ手渡てわたしてきたのは。

「これ、うちのラーメンチェーンのお食事券しょくじけん

汚職おしょく……事件じけん? 賄賂わいろ?」

「いや、汚職おしょく……事件じけんじゃなくって、お食事しょくじ……けん。2000円分えんぶん。これで勘弁かんべんしてもらえないかな? おれ配達はいたつのこっているし、きみがけてくれたおかげでこっちは無事ぶじだったから。そのおさらもこっちで処分しょぶんしとくし」

 いておさらもともどわけじゃないし、このおにいさんのかうさきには、『出前でまえはまだか、まだなのか』とはらペコ家族かぞくくびなが〜くしてっているのであろう。

 わたし了解りょうかいして、お食事券しょくじけん2000円分えんぶんった。

🐣シール台紙だいし→おさら→お食事券しょくじけん2000円分えんぶん


 つづく

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