マジカル♡ミラクル❄魔女っ子☆ゆきちゃん

魔女っ子★ゆきちゃん

１　目覚（めざ）め

　目（め）が覚（さ）めた。今日（きょう）は四年（よねん）に一度（いちど）のうるう年（どし）か。事態（じたい）はわからないけれど、状況（じょうきょう）は良（よ）くわかっている。骨身（ほねみ）に沁（し）みて、嫌（いや）というほど★

２　事（こと）の発端（ほったん）

　あれは何年前（なんねんまえ）なのか？　きっと、あれが原因（げんいん）に違（ちが）いない。

　神（かみ）さまにお願（ねが）いした。神（かみ）さまは律儀（りちぎ）にも私（わたし）の願（ねが）いを叶（かな）えてくれた。

　これ以上（いじょう）ないという最悪（さいあく）のカタチで★

３　幼少時（ようしょうじ）の私（わたし）

　幼（おさな）い頃（ころ）から、人（ひと）が動物（どうぶつ）に食（た）べられる『獣害事件（じゅうがいじけん）』に興味（きょうみ）があった。

　トラ、ライオン、クマ、大蛇（だいじゃ）、ワニ、サメ、……。

　食（た）べられるっていうのは、どんな感（かん）じなんだろう？　きっと物凄（ものすご）く痛（いた）いんだろうな？

　もう絶対（ぜったい）に助（たす）からないという絶望的（ぜつぼうてき）な状況（じょうきょう）は、想像（そうぞう）するだけでゾクゾクした。

　一度（いちど）そういう場面（ばめん）を体験（たいけん）、体感（たいかん）してみたい。けれども、食（た）べられたらそれでおしまいだし、人生（じんせい）の最期（さいご）がそういうのも嫌（いや）だよね？　死（し）にたいわけではなくって、痛（いた）いのも嫌（いや）だし。

４　四年（よねん）に一度（いちど）のスペシャルデー

　話（はなし）は変（か）わるけれど、うるう年（どし）って特別（とくべつ）な日（ひ）って気（き）がしない？

　四年（よねん）に一度（いちど）しかないスペシャルデー。四年（よねん）に一日（いちにち）くらいは、自分（じぶん）の好（す）きなことや、やりたいことをおもいっきりやってみても良（い）いよね？

　但（ただ）し、一日（いちにち）ではホントにやりたいことをやりきれないから、前後数日（ぜんごすうじつ）の有給休暇（ゆうきゅうきゅうか）を合（あ）わせて取得（しゅとく）しておいた。

５　舞台（ぶたい）は実際（じっさい）に獣害事件（じゅうがいじけん）の発生（はっせい）した地（ち）

　そして私（わたし）は、その地（ち）に降（お）り立（た）った。日本（にほん）で実際（じっさい）に獣害事件（じゅうがいじけん）が発生（はっせい）した土地（とち）。現場や周囲を見て回るの（メ　イ　ン　プ　ロ　グ　ラ　ム）は、２月（がつ）29日（にち）のお楽（たの）しみにして、取（と）り敢（あ）えずは観光等（かんこうとう）をして、美味（おい）しいものを食（た）べてまわった。

　自分（じぶん）へのご褒美（ほうび）は大切（たいせつ）なのです☆

６　『羆嵐（くまあらし）』的（てき）な何（なに）か！

　２月（がつ）29日（にち）。いよいよ、旅（たび）の目的（もくてき）である事件現場付近の探索（メ　イ　ン　プ　ロ　グ　ラ　ム）だ🐻

　ところで、近年（きんねん）は野生動物（やせいどうぶつ）が人間（にんげん）の生息域（せいそくいき）にまで出没（しゅつぼつ）するということが多（おお）くなっているようだ。これは日本（にほん）に限（かぎ）らず世界的（せかいてき）な傾向（けいこう）だ。自然（しぜん）が開発（かいはつ）され、住処（すみか）を追（お）われた動物（どうぶつ）たちは、人間（にんげん）の生息域（せいそくいき）にまで踏（ふ）み入（い）らざるを得（え）ない。残（のこ）された自然（しぜん）だけでは生活（せいかつ）していけないのだ。

　一方（いっぽう）で人間（にんげん）を学習（がくしゅう）し、『ニンゲン恐（おそ）るるに足（た）らず』と考（かんが）えた個体（こたい）は、むしろ積極的（せっきょくてき）に人間（にんげん）の生活圏（せいかつけん）に近付（ちかづ）いていく。それには、人食い動物（マンイーター）とされる生物（せいぶつ）も含（ふく）まれる。

　自然界（しぜんかい）では、老（お）いたり怪我（けが）をしていたり、といった弱（よわ）い個体（こたい）が、『組（く）みやすし』と人間（にんげん）を獲物（えもの）にするのだ。実際（じっさい）に人（ひと）を何十人（なんじゅうにん）も殺害（さつがい）したような個体（こたい）は、自然界（しぜんかい）では強者（きょうしゃ）とは呼（よ）べない者（もの）が多（おお）かった。

　判明（はんめい）しているだけで８年間（ねんかん）に436人（にん）を殺害（さつがい）しギネス記録（きろく）を持（も）つトラも、手負（てお）いであったという。

　獣害事件（じゅうがいじけん）のあった現場周辺（げんばしゅうへん）を探索（たんさく）し、充分（じゅうぶん）に雰囲気（ふんいき）を満喫（まんきつ）した帰（かえ）り、出遭（であ）ってしまった。『羆嵐（くまあらし）』的（てき）な個体（こたい）に。

７　死（し）んだふりは有効（ゆうこう）か否（いな）か？

　『クマと遭遇（そうぐう）したら死（し）んだふりをしろ』という。近年（きんねん）では、これはウソらしいとされている。

　さて、私見（しけん）で恐縮（きょうしゅく）であるが、私（わたし）の意見（いけん）を述（の）べさせてもらおう。

　過去（かこ）の獣害事件（じゅうがいじけん）の記録（きろく）を詳細（しょうさい）に観察（かんさつ）するに、必（かなら）ずしもウソとは言（い）い切（き）れないのではないか？　ヒグマは背（せ）を向（む）けて逃（に）げる者（もの）を追（お）う習性（しゅうせい）がある。実際（じっさい）にヒグマに襲（おそ）われて食（た）べられている最中（さいちゅう）に、別（べつ）の者（もの）が逃（に）げ出（だ）したため、ヒグマがその者（もの）を追（お）い掛（か）けていき、結果（けっか）助（たす）かったという人（ひと）もいる。

　つまり、こういうことだ。最大（さいだい）の愚行（ぐこう）は背（せ）を向（む）けて逃（に）げること。ヒグマは時速（じそく）50km以上（いじょう）、一説（いっせつ）には時速（じそく）65kmで走（はし）るともされている。100mを遅（おそ）くとも7.2秒（びょう）、速（はや）いと5.5秒（びょう）ほどで走（はし）るというのである。逃（に）げ切（き）れるものではない。

　であるから、クマに驚（おどろ）いて吾先（われさき）にと逃（に）げ出（だ）してしまうおっちょこちょいでかつ薄情（はくじょう）な同伴者（どうはんしゃ）がいる場合（ばあい）は、結果（けっか）として死（し）んだふりが有効（ゆうこう）になる可能性（かのうせい）はあり得（う）る。

　とはいえ、私（わたし）ひとりしかいない状況下（じょうきょうか）、死（し）んだふりをして、近付（ちかづ）いて来（こ）られては最悪（さいあく）である。

　ここは、よく言（い）われているように、クマと出遭（であ）ったら、視線（しせん）を逸（そ）らさずに後退（あとずさ）りする方法（ほうほう）で難（なん）を逃（のが）れよう。

　あれ？　ついてくるぞ？　距離（きょり）が近付（ちかづ）いてくる。当（あ）たり前（まえ）だのクラッカー🎉　後退（あとずさ）りしながら100mを５秒（びょう）で走（はし）るなんていうスキルは持（も）っていないのだ。

　ううっ、『熊撃退（くまげきたい）スプレー』を買（か）っておけば良（よ）かったかな？　密（ひそ）かにこれ、ヤバいんじゃね？

　四年（よねん）に一度（いちど）のスペシャルデーが人生最期（じんせいさいご）の日（ひ）だなんて。やだヤダ嫌（や）だ。

　狭（せば）まる距離（きょり）。心臓（しんぞう）が激（はげ）しく脈打（みゃくう）つ。

　高校時代（こうこうじだい）、片想（かたおも）いの男子生徒（だんしせいと）と至近距離（しきんきょり）で見（み）つめ合（あ）ったときでも、こんなにドキドキはしなかったよ？

　もしかして、これは恋（こい）？

　違（ちが）います！　これは捕食者（ほしょくしゃ）と被捕食者（ひほしょくしゃ）の関係（かんけい）です。ぶっちゃけ、私（わたし）は餌（えさ）ってわけ。

　迫（せま）りくる恐怖（きょうふ）に耐（た）えかね、背（せ）を向（む）けて逃（に）げ出（だ）した。あっ、これ。一番（いちばん）やっちゃいけないヤツ。

　背中（せなか）に衝撃（しょうげき）💥　薙（な）ぎ倒（たお）されたらしい。地面（じめん）を転（ころ）がり、仰向（あおむ）けで止（と）まった。視線（しせん）を上（あ）げると見上（みあ）げるような巨大（きょだい）な体躯（たいく）のヒグマの姿（すがた）があった。

８　死（し）にたくないっ！

　ヒグマは私（わたし）の右足（みぎあし）から食（た）べ始（はじ）めた。痛（いた）みは……耐（た）えられないほどの激痛（げきつう）が襲（おそ）うのかと想像（そうぞう）していたのであるけれど、それほどでもなかった。

　恐（おそ）らく、極度（きょくど）の緊張（きんちょう）と興奮状態（こうふんじょうたい）で、アドレナリンやらエンドルフィンやらが、どぱどぱと大量放出（たいりょうほうしゅつ）されているからではないか？

　これによって痛覚（つうかく）が麻痺（まひ）して、本来（ほんらい）感（かん）じるはずの痛（いた）みを感（かん）じないのであろう。これを喜（よろこ）ぶべきか否（いな）か、である。あまりの激痛（げきつう）に気絶（きぜつ）してしまえば、自分（じぶん）が食（た）べられていく様子（ようす）を見（み）ないで済（す）む。

　そういえば、ロシアでヒグマに食（た）べられながら電話（でんわ）してきた女（おんな）の子（こ）がいたなあ。絶命（ぜつめい）するまでの一時間（いちじかん）ほどを、携帯電話（けいたいでんわ）で母親（ははおや）と会話（かいわ）を交（か）わしたという。2011年（ねん）の話（はなし）だ。

　私（わたし）もスマートフォンで誰（だれ）かに電話（でんわ）する？　それほど親（した）しい人（ひと）がいるわけでもなく、両親（りょうしん）も着信履歴（ちゃくしんりれき）に気付（きづ）いた頃（ころ）には、私（わたし）は生（い）きていないだろう。警察（けいさつ）に電話（でんわ）？

『ヒグマに食（た）べられています。助（たす）けて！』

　……なんて。ひょっとしたら命（いのち）は助（たす）かるかもしれない。けれども、足（あし）を失（うしな）った状態（じょうたい）で生（い）きていくの？

　ふいに、死（し）が恐（おそ）ろしくなった。こんなところで死（し）にたくない！　こんなカタチで死（し）にたくない！

　痛（いた）みこそ、それほど強（つよ）く感（かん）じていないとはいえ、ヒグマが自（みずか）らの身体（からだ）をむさぼり食（く）うさまを見（み）、音（おと）が聞（き）こえてくる。ヒグマの息遣（いきづか）いまで感（かん）じる距離（きょり）。まるで現実感（げんじつかん）を感（かん）じない。これが夢（ゆめ）であってくれたなら。

　目（め）を覚（さ）ませば、いつもの日常（にちじょう）があって、憂（うれ）いなく過（す）ごしていけたのなら。涙（なみだ）が出（で）てきた。

　神（かみ）さま、私（わたし）はこんなことで死（し）にたくありません。目（め）が覚（さ）めたら、いつもの日常（にちじょう）が続（つづ）いていることを切（せつ）に希望（きぼう）します。

　ヒグマの息遣（いきづか）いがさらに近（ちか）くなった。その鋭（するど）い爪（つめ）が私（わたし）の腹部（ふくぶ）を裂（さ）き、内臓（ないぞう）が引（ひ）き摺（ず）り出（だ）される。

　これは夢（ゆめ）、これは夢（ゆめ）、ただの悪夢（あくむ）。目（め）が覚（さ）めたら、いつものかわり映（ば）えしない日常（にちじょう）が待（ま）ち受（う）けている。それが証拠（しょうこ）に痛（いた）みが……痛（いた）い、痛（いた）い。どうして今（いま）になって、痛（いた）みが増（ま）してくるの？　死（し）ぬ間際（まぎわ）は痛覚（つうかく）が薄（うす）れて何（なに）も感（かん）じなくなるんだよね？

　助（たす）からないんなら早（はや）く殺（ころ）して！　足（あし）もお腹（なか）も食（た）べられて、どうして私（わたし）は生（い）きているの？　お願（ねが）い、早（はや）く、早（はや）く殺（ころ）して！

　――急速（きゅうそく）に意識（いしき）が薄（うす）れていく。もう……最（さい）……期（ご）……なのか……な。

９　叶（かな）えられた願（ねが）い

　――天城（あまじょう）辰子（たつこ）よ。余（よ）はうるう年（どし）の神（かみ）、うるうど神（しん）じゃ。四年（よねん）に一日（いちにち）のチカラしかもたぬ身（み）じゃが、そなたの願（ねが）いを叶（かな）えて進（しん）ぜよう。

『こんなところで死（し）にたくない！　こんなカタチで死（し）にたくない！』

　良（よ）かろう。現実（げんじつ）の世界（せかい）で生（い）きながらえさせることは出来（でき）ぬが、魂（たましい）は余（よ）が管理（かんり）し、四年（よねん）に一日（いちにち）だけ、そなたの望（のぞ）むスペシャルな一日（いちにち）を用意（ようい）してやろう。

10　うるう年（どし）の度（たび）に繰（く）り返（かえ）される特別な一日（スペシャルデー）

　長（なが）く眠（ねむ）っていたようだった。

　今日（きょう）は待（ま）ちに待（ま）った四年（よねん）に一度（いちど）のスペシャルデー。今回（こんかい）はアナコンダを見（み）に来（き）たのだ――。

　ジャングルの奥地（おくち）にてアナコンダに遭遇（そうぐう）。あれ？　アナコンダに出遭（であ）ったら、どうすれば良（い）いんだっけ？

　などと考（かんが）えるまもなく、アナコンダに全身（ぜんしん）を締（し）め付（つ）けられた。身体中（からだじゅう）の骨（ほね）が粉砕（ふんさい）される。意識（いしき）が喪失（そうしつ）する寸前（すんぜん）、口（くち）の中（なか）に頭（あたま）が飲（の）み込（こ）まれていった――。

――――

――

　長（なが）い夢（ゆめ）から覚（さ）めたような気分（きぶん）。今日（きょう）はトラを見（み）にインドまでやって来（き）たのである。もちろん、ここまでやってきたからには、安全（あんぜん）な場所（ばしょ）で見（み）ているなんてわけにはいかない。私（わたし）が見（み）たいのは、動物園（どうぶつえん）のトラじゃなくて、人（ひと）を殺（ころ）して食（た）べてしまうような野生（やせい）のトラなのだ。そしてそれと対峙（たいじ）するゾクゾク感（かん）も味（あじ）わいたいと……☆