第3話

上司に恋心を抱くのに時間はかからなかった。


仕事ができて面白くて頼りがいがあって

なにより1番好きなのは目元の笑い皺。


30代前半にしてはしっかりと深く刻まれた皺。

陽気な性格も相まって、今までたくさん笑ってきたんだなと想像できる。


その上司には奥さんがいたし

私には同棲してる彼がいた。

(今の彼ではなく前の前の彼だ)


結婚を意識する歳になって

同い年で収入に安定感のない彼に不安を感じていた。

喧嘩も多くなっていたし気持ちが薄れてしまっていた。


上司は少々遊び人なところもあったが

結婚もして落ち着き始めたように見えていた。


私が良くなかった、と思う。


火遊びのような始まりで

最初こそは関係を拒んだものの

気がついたらのめり込んでいた。


仕事終わり、休日の早朝、会社行事の前など

お互いのスケジュールの合間を縫ってホテルへ行った。


忙しい毎日がもっと忙しくなった。


たったの1時間でも車の中で誰にも言えない

秘密の時間を過ごした。


気がついたら好きになって

それだけでいいと思っていたのに。


奥さんの元へ返したくない。


そんな気持ちが寝ても覚めても

心から消えなくなってしまった。


不倫ってこうして始まっていくんだ。


そんな始まりだった。


『もっと早く出会っていたらな』


ああそうか。


今じゃだめなんだ。


今、私じゃない、か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

じゃない女 @fuyu0219

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ