閑話 〜宝探し〜

 海賊と別れた日から数日が経ったある日、私は散歩していた。

「ふぁあ〰〰」

 今日はいい天気で、いつもより少し涼しく過ごしやすい気候だ。

「お姉ちゃん、眠いの?」

 希星あかりちゃんに欠伸あくびをしているところを見られてしまった。

「もしかして、まだ治ってないの?」

「もう大丈夫だよ。この前は少し疲れていたみたい」

「そうなんだ。それなら、今日は遊べる?」

「遊べるよ」

 今日はしっかりと寝たし、体調は大丈夫だ。

「それじゃあ、宝探しを始めよう?」

「……宝探し?」

「そう、宝探し。この町と砂浜、崖、森、お姉ちゃんの学校、ミステリースポットにお宝を一つずつ隠したから見つけてね」

 希星ちゃんは一体どんなお宝を隠したのだろうか。

「どこから行こうかなぁ?」

 迷っていると、希星ちゃんが提案してくれた。

「崖はどうかな? 隠せそうな場所が少ないから簡単かもよ?」

「そうだね。崖から行ってみよっか」

 私たちは幽魂崖ゆうこんがけに移動した。

「怪しそうな木箱が置いてあるね」

「あの箱の中にお宝があるの?」

「さぁ、どうかなー?」

 希星ちゃんは教えてくれないようだ。

「木の箱に何か書いてあるね」

 木箱には黒く太い文字で『危険!』と書かれていた。

「この箱の中にあるの?」

「ズルしちゃダメだよ、お姉ちゃん。私の方を見ないで、自分で考えて探さなきゃ」

「それもそうだね。開けても大丈夫かな?」

 もしかしたら違う人が置いたかもしれないし、箱の中には本当に危ないものが入っている可能性もある。もし危険物だった場合は警察に対処してもらう必要がある。

「希星ちゃんが置いたんだよね?」

「さぁ、どうでしょう?」

 希星ちゃんは答えてくれなかった。

「やっぱりこの箱は違うんじゃないかな? 他を探してみよう?」

 私が木の箱から一歩離れると、希星ちゃんが慌てて言った。

「一応、この箱も開けてみたらどうかな?」

「希星ちゃんがそう言うなら、開けてみるよ」

 私は『危険!』と書かれている木箱の蓋を取った。

「紙と石が入ってるね」

 何が入っているか知っているはずなのに、希星ちゃんは知らなかったかのように言った。

 紙には『これは復活の神から授かった宝の石だ。大事にせよ』と書いてあった。

「神様がくれた石なんだ。それじゃあ、大切にしないと!」

 希星ちゃんがわかりやすい演技をしている。

「この石はポケットにしまっておくね」

 私がスカートのポケットに仕舞おうとすると、希星ちゃんが慌てて言った。

「あっ、ポケットなんかに入れたらなくなっちゃうかもしれないよ。だから、これに入れたらどうかな?」

 希星ちゃんは鞄から、木の箱を取り出した。

「これに入れるの?」

「そう、石をこれに入れてみて」

 希星ちゃんから木の箱を受け取り、木の箱を開けた。

「七個穴があるけど、どこに石をめたらいいの?」

「ここならこの石が嵌まるんじゃないかな?」

 希星ちゃんは右上の穴を指差した。私はその穴に石を嵌めてみる。

「あっ、嵌まった」

「一個目のお宝ゲットだね」

「次はどこを探そう?」

「さっきこんな紙を見つけたんだ。この謎を解けば、ある場所がわかるかも」

 希星ちゃんは鞄から紙を取り出した。私はその紙を受け取る。

 その紙にはお宝のある場所のヒントが書かれていた。

『みんなが集う場所の宝は文字が書かれた木の下にある。船が行き交う場所にある宝は流木の紙に従って探せ。高い岩の上の宝は危険なところにある。木々に囲まれた場所にある宝は水面に浮かんだ箱にある。賑やかな場所の宝はお花が咲いた箱の中にある。謎に包まれし場所の宝は中央の像の下にある』

「どこが一番簡単かな?」

「海にいるし、砂浜に行ってみたら?」

「そうだね。近くからやっていこうか」

 二番目のお宝を探すため、浮游ふゆう海岸に来た。

「ここのお宝は『流木の紙に従い探せ』だから、まずは紙を探せばいいんだね」

「そういうこと」

 紙を探す私たちだったが、流木はたくさんあるため、どの流木の近くにヒントの紙が落ちているかわからない。

「どこの流木かな?」

「さぁ、どこだろうね」

 ここからは自分の力で探さないといけないようだ。

「あまりにもヒントが少なくない?」

「そんなことないよ。これ以上あったら簡単すぎると思うなぁ」

「一つ一つ探していくしかないのかな」

 流木を一つ一つ見ていくことにした。

「どんなところに紙があるんだろう?」

「流木の中じゃないかな? 外にあると飛んでいっちゃうし」

「隠した人がそこまで考えているなら、波打ち際にもないよね」

「どうして、そう思ったの?」

「水が来るところだと、濡れて読めなくなるから」

「そこまでわかったなら、きっと見つかるよ」

 希星ちゃんは嬉しそうに言った。

「あっ、これはどうかな?」

 波が来ないところにある流木で、紙が入りそうな大きさの流木は一つしかなかった。

「これなら、紙が入っているかも」

 流木の隙間を見ると、折りたたまれた紙があった。

「えぇと『この下を掘れ!』だって。この下って、流木の下?」

「そう、流木の下」

 希星ちゃんは流木を持ち上げた。

「早く掘って! 意外と重たいから」

「わかった」

 私は流木があったところを手で掘っていく。

「硬くて手が痛いんだけど」

「あっ、ちょっと待って」

 希星ちゃんは流木を置いて、鞄から小さなシャベルを取り出した。

「これ使って」

「あ、ありがとう」

 希星ちゃんの鞄には一体何が入っているのだろう。

「あれ、何か硬いものがある?」

 流木の下を掘っていると、何かが阻んでいて掘ることができない。

「掘り出してみたら?」

 希星ちゃんに言われ、掘って硬いものの正体を暴く。

「木の箱?」

「開けてみたら?」

「そうだね」

 木の箱を開けると、また折りたたまれた紙と石が入っていた。

 紙を開くと『これは口寄せの神から授かった宝の石だ。大切に保管せよ』と書かれていた。

「神様の種類が違うんだ。どういう意味なの?」

「これを作ったのは私じゃないよ?」

「本当に?」

「さて、石を仕舞って次に行こう」

 希星ちゃんは誤魔化した。

「次はどこに行こうか?」

「学校に行ってみようよ」

 木の箱に石を嵌めて、次のお宝を探す。

「学校のお宝は『賑やかな場所のお宝』かな?」

「そうだよ。部活したり話したりしていて賑やかな場所」

 学校に着いた私たちはヒントを確認する。

「『お花が咲いた箱の中』ってどこだろう?」

「学校の中を回ってみたらわかるんじゃない?」

「そっか。それがあるんだもんね」

 実際にあるものを見たら、わかるかもしれない。

「校舎の中かな?」

「校舎の中にはないよ」

「もしかして、入りたくなかったの?」

「そういうわけじゃないよ?」

「それじゃあ、噂を信じているの?」

「とにかく、中にはないから外を探そう?」

 希星ちゃんははぐらかした。

「外にあるものっていうと、花壇ぐらいしかないけど……」

「それじゃあ、花壇を探してみたら?」

 花壇は校舎の裏にあった。

「シャベルは持ってるよね?」

「持ってるよ。もしかして、使うの?」

「あっ、ヤバッ……えぇと、使うかもしれないし使わないかもしれないよ?」

 花壇に植えられていたのは造花だった。かなり似ているため、近づくまで気づかなかった。

「この花壇を掘ればいいの?」

「とりあえず、掘ってみなよ」

 花壇を掘ってみると、硬いものが埋まっていた。

「また木箱があったよ」

 木箱の中には石と紙が入っていた。

 紙には『教育の神から授かった宝の石だ。大事に保管せよ』と書かれていた。

「今度は教育の神なんだ」

「そう、教育の神だよ。ここは学校だからね」

 さっきは教えてくれなかったが、希星ちゃんは普通に答えている。

 木の箱に石をしまい、次のお宝を探すことにする。

「次は近いから町にしようかな?」

「町にするの?」

「何か良くないこととかあるの?」

「いや、ないよ。町の宝を探しに行こう」

 一瞬、希星ちゃんの表情に不安が見られたが、すぐにいつもの調子に戻った。

「確か町のお宝は看板の下だよね?」

「どうしてわかったの?」

「文字が書いてある木といったら看板しかないから」

「簡単すぎた?」

「……ちょうどいいかな?」

「それなら良かった」

 どの看板かはわからないし、その辺は少しわかりづらい気もする。

「看板ということはわかったけど、この町に看板っていっぱいあるよね? その辺のヒントはあるの?」

「えぇと…………」

「もしかして、考えてなかった?」

「いや、ちゃんと考えてあるよ。だけど、このヒントは使わないで見つけてほしいな」

 希星ちゃんは考えていなかったというより、これでわかると思っていたのかもしれない。

「一つずつ試していくしかないかな」

「ちょっと待って、思いついたから」

 希星ちゃんはヒントを思いついたようだ。

「えっと……行き先がわかる……いや、これじゃあ分かり易すぎるし、あっこれだ」

「ヒントはまとまった?」

 希星ちゃんは頷いた。

「ヒントはね『みんなが集う場所の宝は文字が書かれた木の下にある。そして、その木には全ての行き先が書かれている』だよ。これでわかるんじゃないかな?」

 希星ちゃんはわかるようなわからないような絶妙なヒントを出してきた。

「うーん、全部の行き先が書かれた看板かぁ。どこかの案内板か、町の中心にある町の案内と隣接する五つの方向が書かれた看板か。それとも、希星ちゃんが立てた看板かな?」

「あっ、自分で看板を立てることもできたんだ!」

 希星ちゃんが看板を立てたということはなさそうだ。

「それじゃあ、町の中心にある看板に行ってみようかな」

 希星ちゃんは口を押さえて余計なことを言わないようにしていた。

 私たちは町の中心にある看板に着いた。

「ここを掘ればいいの?」

「ヒントは『文字が書かれた看板の下』だよ」

 看板の前の土を掘ってみる。

「あれ、何もないってことはハズレかな?」

「ここかどうかはわからないけど、もう少し深くに埋めてあるよ」

「そうなんだ。じゃあ、もう少し掘ってみるね」

 掘っていると、下から風が吹いてくるような感じがした。

「どうして、下から風が?」

 不思議に思いつつも掘っていくと、急に足場が崩れた。

「ーーうわぁあ〰〰!」

 地面に吸い込まれていくような気がした。


「ここはどこ、だろう?」

 空高くに光が見える。

「……看板の下を掘っていたら、地面が崩れて穴に落ちたんだっけ」

 立ち上がり確認するが、どこも怪我していなかった。

「どうやってここから出ようかな?」

 この穴は直径約三メートル程のようだ。

「あれ、何か踏んだ?」

 大きな石かと思ったが、踏んだものは小さな箱だった。

「もしかして、希星ちゃんがこの穴を掘ったの〰〰⁉︎」

 上に向かって叫んだ。

「希星ちゃん、いるの〰〰⁉︎」

「お姉ちゃん、大丈夫〰〰?」

 希星ちゃんの笑いを含んだ声が上から聞こえた。

「笑ってないで助けてよ〰〰!」

「あっ、そうだ。お宝は見つかったの〰〰?」

 箱を拾い上げ、中身を見た。

「……石と紙だけか。紙には『この石は引き寄せの神から授かった宝の石だ。大切に保存せよ』って書いてあるけど、出るための方法は書かれてないし」

 紙を眺めていると、風がこないはずなのにどこからか風が吹いた。

「どこかに繋がっているのかな?」

 風の方向を辿ると、壁に亀裂が入っていた。

「シャベルで岩を壊せば、通れるかな?」

 シャベルに力を込めて勢いよく叩きつけると、脆い岩だったのかすぐに砕け、大きな洞窟が姿を現した。

「希星ちゃん、洞窟も掘ったの〰〰?」

「えっ、洞窟は知らないよ〰〰⁉︎」

 ここから上に上がる方法はないし、洞窟を進むしかなさそうだ。

「行くしかないか」

 洞窟の中は真っ暗で、周りの様子は全くわからない。

「これ、どこに繋がっているんだろう? 空ちゃんと千尋ちゃんとの肝試しを思い出すなぁ。あの地下の時も怖かったけど、同じくらいの怖さがあるよ」

 後ろを振り返ると、カーブしているのか、入り口の光は見えなくなっていた。

「懐中電灯があっただけ、学校の時は良かったなぁ」

 しばらく進んでいると、広いところに出た気がした。暗くて何も見えないが。

「どこに出たのかな? 何か来たことがあるような気もするけど」

 なぜか最近も来ているような気がした。

「もしかして、ミステリースポットかな?」

 この真っ暗な闇と、ヒンヤリとした空気感。そして、不気味で不思議な雰囲気が似ている気がした。

「ここがミステリースポットなら必ず出口があるはずだから、きっと町に帰れるよね?」

 話していれば怖さが少し和らぐと思ったが、そんなに変わらなかった。

「壁を伝って、外側を歩いていけば、いつか出られるかな?」

 もし、出口に繋がっているなら、出ることができるはずだ。

 しばらく壁を伝って歩いていたが、外に出ることはできなかった。

「もしかして、外に繋がってないのかな?」

 風が吹いてきたから外に繋がっていると思ったが、上昇気流や突然のことで背筋に冷たいものが走っただけなのかもしれない。

「あれ、ここも風が通っている気がする」

 今度は前からそよ風が吹いてきた。

「この先に何かあるのかな?」

 先に歩いていくと壁があるだけだった。壁に触れてみると風を感じ、少し触っただけで岩が砕けた。

「この壁の向こうから、風が吹いているみたいだね。この壁も壊せるかな?」

 シャベルで壁を強く叩いてみる。

「あっ、簡単に崩れた」

 強い衝撃を加えると壁は崩れ、先に行けるようになった。

「やっぱり、この洞窟は外に繋がっていたんだ⁉︎」

 奥に進み、壁を伝って出口を探す。

「またどこかに通路が隠されているのかな?」

 風がどこから吹いているのかを探していく。

「あれ、今度は上かな?」

 上を見るが、暗くて全くわからない。

「上にどうやっていくんだろう?」

 上が空洞だとしても、何もなければ上がることはできない。

「ーーイタッ!」

 何かに足を引っ掛けて転びそうになる。金属の音が辺りに響いた。

「こんなところに何があるの?」

 手探りで何があるのかを調べていく。

「これは金属……パイプのようなものかな? もしかして、梯子はしご?」

 パイプのような金属は左右に二本あり、その二本の間に足掛かりとなりそうなものがある。

「これで上に行けるかな?」

 金属の梯子を登り、上層へ行く。上に着いたが、暗くて周りは見えない。

「これって落ちることはないのかな?」

 突然、穴に落ちる可能性がある。注意して進もう。

 穴に気をつけ、壁を伝って進んでいくと、光が見えてきた。

「あっ、出口かも」

 光のもとへ行くと出口ではなく、洞窟の上に穴が空いていて光が差し込んでいた。光は銅像を照らしている。

「出口じゃないんだ」

 銅像の傍に行き、座って休む。

「上はもうなさそうだし、壁を伝っていけば出られるのかな?」

 ミステリースポットを出るための方法を考えていると、銅像の足元に何かがあることに気づいた。

「これは木の箱だね」

 銅像の足元には木箱があった。

「これって希星ちゃんが隠した宝箱かな?」

 小さな木箱を拾って中を見ると、石と折りたたまれた紙が入っていた。

 紙を開いて内容を読むと『真実の神から授かった宝の石だ。大事に保存せよ』と書かれていた。

「やっぱり、希星ちゃんが隠した宝だ。出口はすぐ近くかも」

 希星ちゃんがミステリースポットの奥深くに隠すとも思えないし、出口はすぐ近くにあるのだろう。

「ーーあっ⁉︎」

 横からそよ風が吹いてきた。

「今度こそ出口だよね?」

 そよ風をたどっていくと、やがて光が見えた。

「やっと出られる〰〰!」

 小走りをしていくと、外に出ることができた。


「お姉ちゃん、大丈夫だった?」

 ミステリースポットから出て少し歩いていると、希星ちゃんは待っていた。

「あれ、あの洞窟がどこに繋がっているか知っていたの?」

「いや、知らないよ? だけど、ここかなと思って」

 希星ちゃんは悪戯な笑みを浮かべている。何か隠しているのだろうか。

「お姉ちゃん、ミステリースポットのお宝は見つかったの?」

「うん、見つかったよ」

 小さな木箱から石を取り出し、保存用の木箱に石をしまう。同様に穴に落ちた時に拾った石もしまった。

「あとは森だけだね」

「あれ、あと二つじゃないの?」

「最後の一つは他の六つを集めないとわからないんだ」

「そうなんだ。それなら、森の宝を探さないとだね」

 私たちは森に移動した。

「森の宝のヒントってどんなのだったかな?」

「あれ、忘れちゃったの?」

「ごめん、ミステリースポットで出口を必死に探していたら、忘れちゃった」

「そっか、それなら仕方ないね」

 希星ちゃんはそう言って、ヒントを教えてくれた。

「ヒントは『木々に囲まれた場所にある宝は水面に浮かんだ箱にある』だよ」

「水面に浮かんでいる箱かぁ。水の上ということは、湖かな?」

 森を通り抜け、湖に行った。湖には大きな葉が浮かんでいる。

「湖の上に箱が浮いているんだよね?」

「水面に浮かんだ箱だよ」

 地上から箱が浮かんでいないか見てみるが、そんな簡単に見つからないようだ。

「葉っぱの上を歩くから、希星ちゃん、気をつけてね」

「うん、お姉ちゃんもね」

 大きな葉の上を駆け足で、通っていく。乗った瞬間に葉が少し沈む感じが面白い。

「どこにあるのかな?」

 見渡していると、葉と同じ色の箱が岸から伸びる木の枝に括り付けられて浮かんだいた。

「ーーあっ、止まれない!」

 箱のところまで辿り着いたが、勢いを止めると湖に落ちてしまうため、止まることができなかった。そして、箱の先に葉はない。

「どうしたらいいの〰〰⁉︎」

 箱を掴むと、一か八か木の枝に飛び乗った。箱と枝を繋いでいた紐は引っ張ると千切れた。

「このまま岸まで!」

 細い木の枝をバランスを取りながら走っていく。木の枝は足を着くたびに揺れ、バランスを崩しそうになる。そして、木の枝はあちこち濡れているところがあるため滑りそうだ。

「ーーあっ⁉︎」

 木の枝に足を着いた瞬間、足が滑って着水し、そのまま水の中へと沈んでいく。

「ーープハッ!」

 水面から顔を出すと、岸から笑う声がした。

「くふっ、お姉ちゃん大丈夫ー?」

「希星ちゃん、もしかしてこれが目的だったの?」

「それより、早く上がってきなよ、夏っていっても寒いでしょ?」

 希星ちゃんは誤魔化して、岸に上がるように促した。

「はぁ、災難だった〰〰」

「お疲れ、それで箱は持ってきた?」

「うん、あるよ」

 箱を開けてみると、幸い中の紙と石は濡れていなかった。

「紙には何が書いてあったの?」

 折りたたまれている紙を開いて内容を読む。

「えぇと『この石は捜索の神から授かった宝の石だ。大切に持っておくように』だって」

「これで、六つの宝の石が集まったね」

「七つ目のお宝はどこにあるの?」

 七つ目ののヒントは希星ちゃんから教えてもらっていなかった。

「七つ目のヒントはある人が持っているんだよ」

「ある人って?」

「あぁ、待って。人じゃないかも」

「人じゃないの?」

 人じゃないなら誰が持っているのだろう。

「えぇと……神の使いだよ」

「神の使い?」

「そう、神の使い」

 神の使いって誰だろう。

「神の使いって、狐とか巫女とか?」

「そんな感じ」

「居場所のヒントは?」

「えぇと、ヒントはね……みんなが集う場所」

「このヒントってお宝の時にもあったよね?」

「そうだよ」

 確かみんなが集う場所は町だったはず。

「町に行ってみるね」

 私たちは町に移動し、神の使いを探す。

「神の使いって、見たらわかるのかな?」

「多分、わかると思うよ。それに、自分でも天使だって言っていたし」

「あっ、天使なんだ」

「えっ……あっ、違うよ。神の使いだよ?」

 希星ちゃんはすぐに訂正するが、既に遅い。

 海に行く方の道に、背中から翼が生え、頭に輪をつけた少年がいた。

「あの人は天使かな? それとも、ただのコスプレかな?」

「天使かどうかはわからないけど、神の使いっぽいかもね」

 天使っぽい少年に話しかけてみる。

「あのぅ、あなたは天使ですか?」

「はい、天使です。何かお困りですか?」

 やっぱり天使だった。

「天使さん、宝の石をください!」

「六つの宝の石を見せてくれますか?」

「はい、どうぞ」

 木箱を開けて六つの宝の石を見せる。

「六つの石を集めたあなたに最後の宝の石をあげましょう。そして、この宝の石は『夢の神』から授かったものです。全ての宝の石は大切に持っておくといいでしょう」

「ありがとうございます」

 天使から宝の石と宝について書かれた紙を受け取った。

「お姉ちゃん、これで全部の石が集まったね」

「うん、終わったぁ。結構楽しかったよ」

「お姉ちゃん、私も楽しかった」

 希星ちゃんはいつも一人でいるのだろうか。

「希星ちゃん、お父さんの様子はどうなの?」

 希星ちゃんは一瞬顔を曇らせたが、すぐにいつもの楽しそうな表情をした。

「前とあまり変わってないよ。あまりじゃないね、全くだよ」

「そうなんだ。希星ちゃんは大丈夫なの?」

「一人で遊ぶこともあるけど、お姉ちゃんやお兄ちゃんが遊んでくれることもあるし、大丈夫だよ」

 お父さんの話をしてから、希星ちゃんの表情が硬くなった気がした。

「希星ちゃん、寂しい?」

 希星ちゃんから笑顔が消えた。瞳は揺れ、手は少し震えている。

「いいんだよ、無理しなくて。頼ってくれていいんだよ。助けて欲しかったら言ってね」

 私に何ができるかわからないが、希星ちゃんが幸せになれるなら、力になってあげたい。

「……お願いしてもいいの?」

「うん、いいよ」

「それじゃあ、お父さんを元気にしてあげて」

 やっと、希星ちゃんの本音を聞くことができた。

「私にできるかはわからないけど。できるところまでやってみるね」

「うん、お願い。お父さんは旅館の一号室にいるよ。鍵は掛かっていないと思う。私が入れるように開けておいてくれているんだ」

「行ってくるね。できるかぎり、お父さんを元気づけてみるよ」

 私は希星ちゃんに手を振って旅館に向かった。

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