第三話 〜海賊の手伝い〜
ある日、散歩をしていると、鼻歌を歌っている栞ちゃんに会った。
「あっ、風夏ちゃん」
「栞ちゃん、楽しそうだね。何かあったの?」
「これから、砂浜に行って貝殻を探すんだぁ」
「私も行ってもいい?」
「うん、いいよ」
一緒に海に行ってみよう。何か面白いものが流れてきているかもしれないし。
少し歩くと、海の独特な匂いがしてきた。
「今日は何が流れ着いているかな?」
「真珠とか
たまに宝石なようなものが落ちていることがある。
「貝殻とか真珠を見つけて、ブレスレットとかネックレスとかを作りたいの」
「見つけたら、あげるね」
「いいの? ありがとう!」
栞ちゃんと話していると、海が見えた。
「ねぇ、アレやらない? 『海だーっ』っていうの。一回やってみたかったんだ。友だちがあまりいなかったから、やったことなかったの」
「それなら、海まで走っていこう」
「体力あるかな? この前まで部屋に籠っていたし」
「栞ちゃんのペースに合わせるから大丈夫だよ」
栞ちゃんと一緒に走って海まで行く。
砂浜に入ってから、栞ちゃんに声をかける。
「それじゃあ、せーのっ」
「「海だぁ〰〰〰〰っ!」」
私たちはジャンプして叫んだ。
「はぁはぁ……楽しいね、風夏ちゃん」
「ふぁあ、楽しいね」
砂浜に座り、息を整える。
「貝殻はあるかな?」
「探せば見つかるよ。この砂浜は広いからね」
「よーし、絶対に見つけるぞぉ!」
栞ちゃんは張り切っている。
「私は向こうの方を探してくるね」
貝殻が落ちていないか探しながら、私は港の方に向かった。
「これは貝殻じゃないよね?」
たまに貝殻らしきものを発見したが、よく見ると貝殻に似た石だった。
「なんだろう、幽霊船かな?」
砂浜にボロボロになった大きな船らしきものが流れ着いている。鉄骨が露わになり、木製の部分はささくれができている。帆は破け、柱は折れている。
「今度、千尋ちゃんを誘って探検してみようかな」
千尋ちゃんなら喜んで来てくれそうだ。
引き続き、貝殻を探して歩く。
「あっ、砂浜の端まで来ちゃった」
貝殻を探しながら歩いていると、コンクリートの壁に阻まれた。
「戻りながら探そうかな」
栞ちゃんのところに戻ろうとした時、誰かの声が聞こえた。
「あぁ、仲間はいない。船もない。あるのは広大な海だけだ。私のものは全てあの嵐に奪われてしまった。あぁ、どうすればいいのだろう」
私に話しかけているのだろうか。
「……どうか、されたんですか?」
顔を
その男は黒い三角の帽子に茶色のコートを羽織り、黒いズボンを履いている。靴は茶色のブーツだ。暑くないのだろうか。
「小娘が一人で近づいてくるとはいい度胸だ。その勇気を認めて、特別に話してやろう」
どうして上から目線なのだろうか。
「いや、別にいいです」
「そう言うでない。話しかけたのなら、最後まで聞いていくがよい」
「あぁ、はい」
面倒くさい人に話しかけてしまったのかもしれない。
「俺はこれでも海賊をしている」
格好を見たときになんとなく察していた。
「そういや、俺を見ると普通の人なら近付かないのだが、小娘は海賊を知らない馬鹿なのか、それとも誰にでも優しい天使なのか?」
「別にどちらでもいいじゃないですか」
「まぁな。前者であるなら即このナイフで斬り伏せるところだが、俺様は困っている。だから、切り捨てる前に話ぐらいはしてやろうじゃないか」
困っているのにどうして上から目線なのだろうか。
「それで、何があったのですか?」
「最近、この辺りで嵐に見舞われた。その影響で船が破壊され、この島に漂着してしまったのだ」
確かにあの台風はすごかった。
「船ってことは仲間がいるのですよね? その仲間は今どこに?」
「そこに気がつくとは賢い小娘だ。それで仲間だが、海に投げ出されてから行方が分からないのだ。あいつらはこの砂浜に辿り着いているとは思うが、姿が見当たらない」
上から目線の態度を変えてくれるなら、助けてあげてもいいけどなぁ。
「この辺の土地は知っているから力になれると思いますけど、海賊さんは手伝わなくても見つけられますよね」
「……あぁ、もちろんだ。だが小娘よ、どうしても手伝いたいと言うのなら、許可してやらないこともない」
どうしても、上から目線の態度を変えるつもりはないらしい。
「もう、素直に手伝って欲しいと言ったらどうですか。困っているんでしょ?」
「い、いや、困ってなんかいないぞっ! 誰がそんなことを言ったのだ?」
話がややこしくなってきた。
「あなたが言っていたじゃないですか」
「そんなことを言った覚えはないぞ」
「困っていないなら、もう行きますね?」
私は踵を返し、栞ちゃんのところへ戻ろうとする。
「あっ、ちょっと待ってくれっ! 本当は困っているんだ。だから助けてくれ!」
「わかりました。仲間を探すのを手伝いますよ」
海賊の
「あっ、そうだ。手伝う代わりになんでも言うことを聞いてくれますよね?」
海賊をからかってみる。こんな体験は二度とできないだろう。
「そうだな……いいだろう。一つだけ何でも聞いてやろう。ただ、仲間を全員捜し出せたらだからな?」
「絶対、全員連れてきます!」
特に何か頼みたいことがあるわけではないが、全員を見つけるまでに考えておこう。
「特徴とかないですか? 服装や居そうなところとか、何かあれば教えてください」
「本当だったら、何もヒントを出さないところだが、仲間がいないと航海はできぬ。仕方がないから教えてやろう。人数は五人だ。四人は海賊の衣装を着ていると思うが、もう一人は変装が好きで、違う格好をしているかもしれん。そして、皆が居そうなところだが、二人はともに行動をしていて落ち着けるところにいるはずだ。一人は自然があるところだろうな。一人は酒好きだから、酒が売っているところか酔っ払ってどこかに行っていそうだな。最後の一人はさっきも言った変わり者で、どこにいるかわからん。ヒントは以上だ」
教えてもらったヒントを手帳に書き写す。
「これだけヒントがあれば、探すことができそうですね」
「あぁ、そうだろう。優しい海賊でよかったな」
頼んでいるのは海賊なのに、上から目線だ。そして、優しい海賊って何だろう。
「連絡って取ることはできますか?」
「連絡が取れないと、会えないからな。電話番号でも交換するか?」
「携帯電話を待っているんですか⁉︎」
海賊が電話を持っていることに驚いた。航海中に電話はできないはずだ。
「あぁ、もちろんだ。電話は海賊に必須のアイテムだからな」
「そ、そうなんですね。それでは、交換しましょうか」
ポケットからスマホを取り出し、電話番号を交換した。
「これで、連絡も取れるし大丈夫だな」
「私は
「俺は
「それでは探してきますね」
「あぁ、よろしくな」
海賊と一度別れ、栞ちゃんを探す。
海沿いを歩いていると、反対側の端に栞ちゃんはいた。
「風夏ちゃん、貝殻は見つかった?」
「貝殻はなかったよ」
海賊と話していて、すっかり忘れていた。
「栞ちゃん、用事ができたから帰るね」
「用事?」
「そう、用事。じゃあ、またね」
「うん、またね」
海賊に綺麗な真珠でもお願いしてみようかな。
「まずはどこから探そう?」
変わり者と酒好きは放っておくとして、落ち着けるところにいる二人組から探そうかな。
「落ち着けるところってどこだろう?」
図書館か旅館かな。
まずは図書館に行ってみる。
図書館は閑散としていて、数人しかいなかった。近くにいた女性に話しかけてみる。
「海賊を見かけませんでしたか?」
「か、海賊⁉︎ この町に海賊がいるの⁉︎」
「見てませんか?」
「ええ、見てないわよ⁉︎ それで、海賊はいるの⁉︎」
この町に海賊がいるなんて噂になったら、海賊も居づらいだろう。ここはいないということにして、落ち着いてもらおう。
「変なことを訊いて、すみませんでした」
お姉さんは不思議そうな顔をしていたが、大騒ぎになる前に図書館を後にした。
「変な噂が流れたらどうしよう」
まぁ、大丈夫だろう。
「次は旅館に行ってみよう」
旅館に行き、フロントにいる人に訊いてみる。
「二人で宿泊している方っていますか?」
「予約している代表の方のお名前は?」
「名前はわからないんですけど……教えてもらうことはできますか?」
「すみませんが、個人情報保護のため、お答えすることはできません」
「そ、そうですか……わかりました」
海賊がいるかどうかはわからなかったが、こうなったら一部屋ずつ回ってみよう。
一階のフロントに近い部屋の呼び鈴を鳴らす。
「……」
しばらく待ってみるが、中からの反応はない。
「また、最後に来てみよう」
諦めて次の部屋の呼び鈴を鳴らした。すると、ドアが開いて宿泊者が出てきた。
「はい、なんでしょうか?」
「あなたは海賊ではなさそうですね。失礼しました」
「……?」
「あっ、気にしないでください。それでは」
一階の部屋は開けてもらえないところ以外を確認してみたが、海賊らしき人はいなかった。
「二階にいるのかな?」
階段を上がり、二階の部屋を一部屋ずつまわってみる。
一つ目の部屋は違ったため、次の部屋へ行く。
二つ目の呼び鈴を鳴らすと、ドアが開いた。
「どなたかしら?」
出てきた人は黒い眼帯をつけ、赤い縞が入っているシャツに動きやすそうなパンツを履いている女性だった。
「あなたは海賊ですよね?」
「アタイが海賊だと知ってどうするのかしら? 宝を奪いに来たの?」
海賊の女性は腰の辺りから短剣を取り出した。
「おかしらが探していましたよ?」
「おかしらが⁉︎」
「はい」
「嘘じゃないでしょうね?」
海賊の女性は短剣を向けてきた。
「信じてください! ほ、本当の話です」
「何か証拠はあるのかしら?」
「証拠は……これです!」
私はおかしらの連絡先を見せた。
「確かにおかしらの電話番号で間違いないようね」
海賊の女性は短剣をしまってくれた。
おかしらと連絡先を交換しておいてよかった。
「おかしらと連絡はできますか?」
「ええ、もちろんよ。ありがとう」
海賊の女性は部屋の奥に行ってしまった。
廊下で少し待っていると、再び海賊の女性は出てきた。
「ほら、行くわよ! 早く行かないとおかしらの機嫌が悪くなってしまうわ!」
「ちょっと待ってくれ。いきなり言われてもだな、準備が全くできていないんだが」
おかしらが言っていたようにもう一人いるようだ。
「お待たせ。おかしらのところに行こう」
「ありがとね。かわいいお嬢ちゃん」
海賊の女性は微笑んだ。さっきまでの怖さはすっかりと消えていた。
海賊の二人は飛ぶように去っていった。
「まずは二人だね」
海賊の仲間は残り三人だ。
「次は誰を捜そうかな?」
手帳に書いたヒントを見て、暫し考える。
「自然があるところかぁ。
浮游海岸はおかしらと会い、端から端まで行ったけど、海賊らしき人は見当たらなかったから幽魂崖にいるのだろう。
「幽魂崖でおかしらを捜しているってことはあるかな?」
もしかしたら、高いところから捜している可能性もあると思ったが、誰もいなかった。幽魂崖から浮游海岸は見えるから、おかしらのところに行っているのかもしれない。
「あっ、おかしらに電話をしてみればいいんだ」
電話をしてみることにする。
「もしもし、仲間を捜している夢乃です」
『二人はこっちに来ているぞ』
「えっ、二人だけですか⁉︎」
『あぁ、二人だけだぞ』
自然があるところにいる海賊はまだおかしらと会えていないようだ。
「わかりました。引き続き捜します」
『あぁ、頼んだぞ』
電話を切った。
「ここじゃないなら、どこだろう?」
自然というと、水や木や火だろう。
「そういえば、この町の公園に自然があったような……」
町から北に行ったところに『
「木に囲まれているから涼しいなぁ」
この公園は避暑地で有名だから、人がたくさんいた。
「人が多いところに海賊っているのかな?」
海賊は人が多いところを避けるイメージがあるが、捜してみる。
「……いないなぁ」
やはり、人が多いところにはいないのか、海賊らしき人はいない。
歩いていると、公園の奥地に着いてしまった。
「いなかったなぁ。ここじゃないのかな?」
「お嬢さん、何をお探しで?」
木の裏から人が出てきた。
「ーーあっ、いた⁉︎」
「えっ、俺⁉︎」
「海賊ですよね?」
「……何のことかな?」
「おかしらさんが捜していましたよ」
海賊はそれを聞くと、慌ててどこかに行ってしまった。
「ちゃんとおかしらに会えるかな?」
少し不安だが、連絡できるみたいだし、大丈夫だろう。
「あとは二人か」
おかしらが言う『酒好き』と『変わり者』だ。
「この二人は難しそうだなぁ」
おかしらがどこにいるか見当もつかないらしいから、本当に困る。そして、変わり者の方は変装をしているため、身を隠すのがうまいのだろうな。
「海賊の服を着ているみたいだし、おかしらが言っていた『酒好き』を先に探そうかな?」
海賊の格好をしているだけ、見つけやすいだろう。
「お酒が売っているところかぁ」
未成年だし、お酒に詳しくないためよくわからない。
「とりあえず、捜していないところに行ってみようかな」
学校やこの辺りでは有名なミステリースポットとかかな。酔っていて、何も知らずにミステリースポットに入っていても不思議ではない。
「ミステリースポットは何があるかわからないから最後の手段として、学校から行ってみよう」
ミステリースポットには帰ってこなかった人が何人かいる危険な場所だ。居なくなった人の行方は誰も知らない。
学校に着き、海賊の格好をした人物を捜す。
「さすがに、校舎内は居ないよね」
校舎内にいた場合はもっと騒ぎになっているだろう。しかし、騒動は起こっていないから、校舎内にはいないだろう。
「校庭かな?」
まずは、学校の外周を回ってみる。
「あれ、あそこにいるのって海賊かな?」
学校のフェンスに沿って歩いていると、フェンスの向こう側に海賊らしき格好をした人物を発見した。
「あの、海賊さん!」
大きな声で呼んでみたが、気づいていないようだ。
「回ってくるしかないか」
校門から出て、海賊のところへ行く。
「あの、海賊ですよね?」
「えっ、俺かぁ?」
「はい、あなたです。と言うより、あなたしかいないですよね?」
今日は部活がないため、校庭には誰もいない。
「俺だったか、気がつかなくて悪かったなぁ」
「おかしらさんが捜していましたよ」
「お嬢ちゃんはお菓子らを探しているのかぁ。そのお菓子とはどんなお菓子なんだい?」
「お菓子じゃなくて『おかしらさん』です」
「お菓子が三つも食べたいのかぁ。ほれ、食べるかぁ?」
海賊はポケットから飴を三つ取り出した。
「いえ、お菓子ではなくてですね。あっ、でも、一ついただきます」
海賊から一つ飴を受け取った。
「飴ちゃんは美味しいぞぉ」
「おかしらに電話をした方がいいかも」
このままでは埒が明かないため、おかしらに電話をかけた。
「もしもし、仲間を捜している夢乃です」
『あぁ、どうだ、うまくいっているか? どうやら、三人は見つかったみたいだが』
「あなたが『酒好き』と呼んでいる方が見つかったのですが、話が噛み合わなくて……どうすればいいでしょうか?」
『話が噛み合わないのはいつものことだ。そうだな、俺は砂浜にいるから連れて来てくれないか?』
「来てくれるでしょうか?」
『あぁ、大丈夫だ。酔っているなら、何も考えずについてくるはずだ』
目の前にいるこの人は大丈夫なのだろうか。人として心配になってきた。
「やってみます」
『あぁ、頼むぞ。じゃあな』
「はい、ありがとうございました」
電話を切って、酒好きな海賊の方を振り返る。
酒好きな海賊は呑気に鼻歌を歌い、お酒を飲んでいる。
「あのぅ、少しついて来てくれませんか?」
「あぁ、いいぜ」
「こっちです」
私が歩き出すと、酒好きな海賊は後をついてくる。
「これで、本当にいいのかな?」
ありがたいのだが、もう少し疑った方がいいのではと思ってしまう。
「ここです」
おかしらがいるところに着いた。
「あっ、おかしらじゃないですかぁ!」
「コイツはどこにいたんだ?」
「学校のフェンスの辺りにいました」
「あぁ、そうか。コイツは海賊に向いていないんじゃないかと思う時がたまにある。どうして、人の集まるところにいるんだ」
おかしらは頭を抱えている。
「ここまで連れてきてくれてありがとな。こんな奴でも、頼りになるときは稀にある」
「おぉ、おかしらに褒められた」
「褒めてはいないぞ」
おかしらは呆れたように言った。二人のやりとりを見て、私は苦笑する。
「それでは、最後の一人を捜してきます」
「ちょっと待て。一つヒントをくれてやろう。アイツは変装がうまく、情報収集に長けている」
「情報収集ができるところにいるってことですか?」
「そうだな。人が多いところで情報を集めている可能性が高いだろう」
「わかりました。ありがとうございます」
私はおかしらの言葉をメモして、人が多く集まる町に向かう。
町にはたくさんの人がいて、賑わっていた。
「どこにいるかな?」
町を歩いて海賊のような人やおかしな人を捜すが、商人と話している人や立ち話をしている人がほとんどで怪しい人はいない。
「町人に姿を変えているとして、そんなにうまく変装できるのかな?」
もし、本当にそんなことができるのなら、私に捜すことは難しいのかもしれない。
「もう少し捜したら、おかしらと連絡を取ってみよう」
道を歩きながら独り言を呟いていると、どこからか声が聞こえきた。
「そこのお嬢さん、今『おかしら』と言わなかったかい?」
「ふぇ?」
おかしらという言葉に反応したということは海賊なのかもしれない。しかし、見た目は普通の町人だ。
「もしかして、海賊さんですか? 違ったらすみません」
「その通り僕は海賊さ。それで、おかしらとはどういう関係? 普通のお嬢さんのようだけど」
「仲間を捜してくるように頼まれただけですけど……」
「あの人が他人に力を求めるなんてね、本当にそれだけかい?」
顔を見つめられ、困惑する。思わず私は海賊から目を逸らす。
「へぇ、そうかい。まぁ、いいや。それで、おかしらはどこにいるのかな?」
「まだ砂浜にいると思います」
「そう、ありがとう。他のみんなはこれから捜すの?」
「いえ、あなたが最後です」
「それなら、一緒に行こうか。何か約束をしているんだろ?」
どうして、わかったんだろう。
「あれ、行かないのかい?」
海賊は振り向き、私を呼んだ。
「い、行きます」
さすがは情報を集めるプロだなぁと思った。
情報集めがうまい海賊と砂浜に戻ると、おかしらとその仲間が集まって話していた。
「見つけてきましたよ」
「助かった、ありがとう。まさか、本当に全員を見つけてきてくれるとはな」
「約束は覚えていますよね?」
おかしらが忘れていないか確認する。
「あぁ、覚えているとも。何にするか決まったのか?」
「やっぱり何かを約束していたみたいだね」
情報収集がうまい海賊が言った。
「そうだ。お願いを聞く前に、改めて自己紹介をしておこう。私はおかしらをしている、
おかしらの龍獅さんが礼をした。
「アタイはおかしらの助手をしている
ワインレッドカラーのロングヘアで黒い眼帯をつけ、赤い縞の入ったシャツを着ている背の高い女性が礼をした。
「次は僕ですね。この中で唯一頭がいい、策士の
黒髪で男性にしては髪が長く、青い縞が入ったバンダナを巻き、メガネをかけた西園寺さんが一礼する。
「自然に囲まれて一生を過ごす
青い縞が入ったバンダナを被っていて、オリーブカラーのショートヘアの男性は森にいた海賊だ。
「主に情報収集と操縦をしている
今はこの町の住人のような服を着ていて、茶色の短髪だ。
「最後は俺っス。俺は俺っスね。よろしくっス」
酔っているようで名前は教えてもらえなかったが、呼ぶことはないだろうからいいだろう。
「みんなの自己紹介が終わったところで、約束を果たそうではないか。どんなお願いでもいいぞ。俺は海賊だからな、叶えられないことなどない」
「綺麗な貝殻とかもらえますか?」
「……貝殻でいいのか? どんな願いでもいいんだぞ?」
「はい、綺麗な貝殻がいいです」
貝殻をもらったら、栞ちゃんにあげよう。
「おい、葵香、宝庫に綺麗な貝殻とか入っていたか?」
「おかしら、大変言いづらいのですが……」
「葵香、どうしたんだ?」
「船は嵐で壊れてしまい、宝も紛失しています!」
「そ、そうだった! アイツのバカが移ってしまったかもしれぬ」
おかしらは船がないことを忘れていたようだ。
「船はどうするんですか? 船がないと航海できないですよね?」
「船はあそこに流れ着いている壊れた船を修復する!」
龍獅さんが指差したのは砂浜で見つけた幽霊船だった。
「あの船って……幽霊船のことですか?」
「幽霊船じゃないぞ。確認したが、俺たちが乗っていた船で間違いねぇ。機械に大きな損傷はなさそうだ。少し修理すれば、治るだろう」
「帆はアタイが縫っておくわ」
「葵香、帆は頼んだぞ」
百鬼さんが帆を修復することになった。
「外見の修復には森の木を何本か使えばいいのではないでしょうか?」
「それはいいアイデアだな。さすがは自然が好きなだけあるな」
「勝手に切っても大丈夫でしょうか?」
その森は国が管理している。勝手に切ったら罪になるのではないだろうか。
「俺たちを誰だと思っているんだ。俺たちは泣く子も黙る海賊だ!」
海賊の仲間も歓声をあげる。
「おかしらが木を切り倒す必要はないですよ」
「それはどういうことだ?」
旅館にいた策士の西園寺さんが言うと、おかしらは首を捻った。
「確か、旅館に
「そうか。……しかし、下手に出るのは癪だな」
「それなら、助手であるアタイの出番のようね」
海賊が行っても協力してもらえないような気がする。
「私が行きましょうか?」
「いや、散々世話になったしな。これ以上頼るわけにはいかん」
「いや、私が行きますよ。もう一つ願いを聞いていただけるなら」
「追加を頼むとは商売上手だな。やはり、ここは葵香に頼もう」
「アタイよりその子に頼んだ方がいいと思うわ」
あれ、さっきは率先してやるって言っていたのに、どうしたのだろう。
「どうしてだ?」
「アタイたちは老若男女、誰もが
「それには賛成です。警察が絡む可能性が高いです」
「確かにその可能性はあるな」
警察沙汰になるのは嫌だろう。
「……仕方ないか。もう一つお願いを聞いてやろう。成功したらな」
「わかりました。任せてください!」
「旅館の二階、一番奥の部屋にいるはずです」
「ありがとうございます」
手帳に樵のいる場所をメモしておく。
「それでは行ってきます!」
「木材を集めることができたら連絡してくれ。俺らはその間に、損傷の確認と修理を進めておこう。それじゃあ、頼んだぞ!」
「はい」
船を修理するために木材を集めることになった。
旅館の二階、一番奥の部屋に辿り着いた。
「確かにここだよね?」
手帳のメモを確認し、ドアに一歩近づき、呼び鈴を鳴らす。
「
ドアを開けて出てきたのは元気そうな老人だった。ホテルマンではなかったからか、目を丸くしている。
「樵さんですよね?」
「あぁ、それがどうかしたのか?」
「森の木を切っていただけませんか?」
おかしらの頼みを伝える。
「あそこの木は国のものだ。私的な理由でわしに権利はない。だから、木を切ることはできん」
「私の友だちが漁師さんが、この前の台風で船が壊れてしまったようで、困っているんです!」
海賊だって魚を釣るだろうし、間違ってないよね。
「そう言われてもなぁ。わしに決める権利はない。他を当たってくれ」
「それなら、私が切るので斧を貸してください!」
「罪に問われても知らんぞ」
樵の老人はそう言って斧を持ってきた。
「いや、やっぱりダメだ。斧に名前が入っているから、飛び火を受ける可能性がある」
「被害が出ないように気をつけますから」
「ダメだ」
「そこをなんとか!」
「ダメだ!」
必死に懇願するが、聞いてもらえない。
「仕事を手伝うというのは、どうでしょうか?」
「……それなら、まぁいいだろう。腰が痛いし、若いもんが手伝ってくれるなら助かる。だが、力はあるのか?」
力仕事にはあまり自信がないが、海賊に借りを作るために頑張ろう。
「頑張ってみます!」
「やるだけやってみるがよい。その前に一つ頼みたいことがある」
「頼みって何ですか?」
「図書館から『樵の極意』という本を借りてきてほしいのだ。その本にはわしの全てが詰まっている。あれがなければ仕事を手伝わせるわけにはいかん」
「わかりました。借りてきます」
よし、許可が出た。
「その本を明日持ってきてくれ。わしはどこを切ったらいいか、訊かなくてはならんからな」
「わかりました。よろしくお願いします。それでは、また明日」
「あぁ、また明日」
私は樵の老人に一礼して、旅館を後にした。
「どこにあるんだろう?」
家に帰る前に、樵の老人から頼まれていた本を借りることにした。
樵の老人はこの図書館にその本があることを知っていたのだから、本棚まで教えてくれればよかったのに。
この図書館『プラネタリウム』には司書はいなくて全て機械が管理している。そのため、人に訊くことはできない。
「あっ、そうだ。栞ちゃんなら知っているかも」
最近は何度も来ているみたいだし、もしかしたら知っているかもしれない。
図書館を出て、栞ちゃんの家に行ってみる。
「あら、風夏さん。栞に会いに来たの?」
「はい」
インターホンを押すと、栞ちゃんの母が出てきた。
「栞なら部屋にいるけど、呼んできましょうか?」
「お願いします」
栞ちゃんが出てくるまで、しばらく待つ。
「風夏ちゃん、どうしたの?」
数分して、栞ちゃんが出てきた。
「最近、図書館によく行ってるよね?」
「うん。あれから毎日行ってるよ」
「『樵の極意』っていう本がどこにあるか知ってる?」
本の名前を聞いて、栞ちゃんは考えているようだった。
「多分なんだけど、一番奥の中央の棚にあると思うよ。その辺りの棚は専門書がたくさん置いてあるから。もしわからなかったら、図書館に検索機があるから調べてみるといいよ」
「わかった。ありがとう」
検索機があることを忘れていた。
図書館に行く途中に空を見上げると、空は暗くなり始め太陽が沈もうとしている。この町の図書館は厳重なセンサーによって盗難を防止しているため、二十四時間営業だ。だから、閉まってしまうことはない。しかし、親が心配するため、早く帰らないと。
図書館に着き、栞ちゃんが教えてくれた棚に行くと、言っていた通り専門書がたくさん並んでいた。
「あった、これだ!」
上から二段目の左側に『樵の極意』という本があった。
「これを明日、樵の老人さんに渡せばいいんだよね」
貸出機で本を借りて、家に帰った。
「寝る前に少し読んでおこうかな」
明日は木を切ることになりそうだし、読んでおいて損はないだろう。
本の一部を読んでみた。
「まぁ、安全に注意してやれば大丈夫だよね」
明日は力仕事をするため、早く寝ておこう。
翌日、樵の老人の元を訪ねた。樵の老人は椅子に座り、手で椅子に座るように合図した。私は指示されたように椅子に座る。
「本は持ってきたんだろうな?」
「はい、持ってきました。これ、ですよね?」
トートバッグから『樵の極意』という本を取り出した。
「そうそう、この本だ。これがあれば、斧を使わせてやれる。斧を持ってくるから、少し待ってろ」
樵の老人は席を立ち、壁際に置かれている二つの斧のうち一つを持ってきた。
「斧がほしかったんだよな?」
「あっ、はい」
「ちょうど二つあったんだ。一つを嬢ちゃんに貸してやる。場所は公園のもう少し先にある森だ。そこなら、どの木を切っても問題ないそうだ」
「ありがとうございます」
樵の老人から斧を貸してもらった。
「それじゃあ、行くぞ!」
「はい!」
樵の老人の案内で、公園の先の木が生い茂ったところに行く。周りにいる人も木を切っているため、ここで木を切るのだろう。
「言い忘れていたが、大きな木を切り倒す時は気をつけるんだぞ。傾いて倒れてくることがあるからな。大きな木の下敷きにでもなったら、生きて帰れるかどうかわからん」
「はい、わかりました」
「それと、持ってきてもらった本だが、それを参考に木を切れば大丈夫だろう。わしも木を切っているから、わからないことがあれば聞きにこい」
「はい」
斧を持って人がいないところに行く。
「全身を使い周囲に気をつけて、木を切るんだよね」
本を確認しながら、素振りを何度か試してみる。
「おっ、昨日言っていた新入りか。頑張れよー!」
近くで木を切っていた人に話しかけられた。
「今日だけですが、よろしくお願いします!」
私も挨拶をしておく。
「ーーえいっ!」
枝に向かって斧を振り下ろした。しかし、斧は虚空を切り裂き、地面に刺さった。衝撃で腕に痺れが走る。
「あれ、おかしいな?」
「それじゃあ、切れないよ、お嬢ちゃん。もっと枝をよく見て、全身を使って切らないと」
「ありがとうございます」
枝をよく見て、振り下ろす。
「ーーえいっ!」
今度は枝に命中し、小気味良い音がした。しかし、枝の先に当たり、思ったより短くなってしまった。
「難しいなー」
何回かやっているうちにコツを掴み、うまく切れるようになってきた。
「やったーっ!」
色々なサイズの枝や木材が集まったから、これで船が作れるだろう。
「斧の扱い方を教えていただきありがとうございました」
「またやる時は声をかけてくれよー!」
「本当にありがとうございましたー!」
樵の老人にも挨拶と一つ頼みごとをしに行く。
「今日はありがとうございました。一つ頼みたいことがあるのですが……」
「なんだ?」
「明日、木材を浮游海岸まで運んでいただけないでしょうか?」
「あぁ、わかった。明日の朝、持っていくよ」
「ありがとうございます!」
樵の老人に後でお礼をしないと。
「今日は本当にありがとうございました!」
「あぁ、気をつけて帰るんだぞ」
太陽が西に傾いてきているから、急いで家に帰らないと。
「ただいまー」
玄関の戸を開けて家の中へ入ると、お母さんが出迎えてくれた。
「おかえり。お風呂湧いてるから入っていいわよ」
「ありがとう」
部屋に行って荷物を置いてくると、お風呂に入ることにした。
服を脱いで、浴室のドアを開ける。前にある鏡を見ると、育ち盛りの少女の姿が映っていた。
髪をシャンプーとコンディショナーを使い洗って、次に石鹸で体を洗う。シャワーで体を流してから、湯船に浸かった。
「ふわぁ、気持ちいい」
熱くもなくぬるくもない適度な温度で、本当に気持ちいい。
「今日は大変だったなぁ」
隣のおじさんに助けてもらえて良かった。
「明日は龍獅さんに木材を渡して、船を一緒に作れたらいいなぁー。またお願いを頼んでみようかな。二つで十分だけど」
龍獅さんのことだから、手伝わなくていいって言うだろうな。
「揶揄い甲斐があって、本当に楽しい」
細かい水滴が宙を舞っている。
「そろそろ、温まったし出ようかな」
浴室から出て、バスタオルでよく拭く。
お母さんが持ってきてくれたのか、パジャマが置いてあった。
「あっ、そうだ。龍獅さんに連絡しないと!」
着替えを済まし、部屋に行ってスマホを手に取り、龍獅さんに電話をする。
「もしもし、夢乃風夏です」
『どうしたんだ、こんな時間に?』
「明日は空いていますか?」
『木材が集まったのか?』
「はい、集まりました。なので、明日会えますか?」
『あぁ、明日は朝から海にいるから、砂浜まで持ってきてくれるか?』
龍獅さんの方も準備が進んでいるのかな。
「はい、わかりました。それでは、また明日」
『また明日な。木材を忘れるなよ!』
「はい」
次の日、龍獅さんに会うために砂浜を訪れた。
「おう、風夏、こっちだ!」
龍獅さんはゆう……海賊船の修理をしていた。
「修理は進んでいますか?」
「あぁ、順調に進んでいるぞ。それで、木材は持ってきてくれたか?」
「もう少しで来ると思います」
「……そうか」
龍獅さんと話していると、樵の老人が港の方から歩いてきた。
「運んで来たが、重くてここまでは運べんぞ」
「あっ、私がやります!」
「いや、風夏はやらなくていいぞ」
龍獅さんは仲間に向かって呼びかける。
「おい、野郎ども、木材を運ぶぞ!」
仲間たちは大きな声でおかしらに応える。
「若いもんは元気があっていいもんだ」
樵の老人はそう言うと、おかしらたちを案内しに行った。
「百鬼さん、何か手伝いましょうか?」
百鬼さんは黙々と帆を縫っている。
「ありがとう。それじゃあ、こっちを縫ってもらえるかしら?」
百鬼さんから針と糸を受け取り、指示されたところを縫っていく。
「こんなに持ってきてくれたのか、ありがとな。これだけあれば修理することができるだろう」
龍獅さんは私が手伝っていることに気づいた。
「どうして、風夏を手伝わせているんだ⁉︎」
「手伝ってくれるって言ってくれたからよ」
「……まぁ、いいか。お礼は葵香からもらってくれ」
龍獅さんは頭を抱えていた。
「それが終わったら帰っていいぞ。あとは力仕事だろうからな」
「……わかりました」
百鬼さんと一緒に帆を修復した。
「終わったー」
「手伝ってくれてありがとう。おかげで早く終わったわ」
「他に何か手伝うことはありますか?」
「もうないわ、帰っていいわよ」
龍獅さんにもう一度訊きにいく。
「何か手伝えることはありますか?」
「さっきも言ったが、力仕事だからなぁ。今日は帰っていいぞ」
「それじゃあ、また明日……?」
「あぁ、また明日な。今日と同じくらいの時間に来てくれれば出来上がっているだろう。早ければ夕方に出来上がる予定だ」
「では、終わったら連絡してください」
船の修理は海賊たちに任せて、一度町に戻る。
「……何をしよう?」
予定が狂ったため、何をしようか迷う。
「あっ、夢乃さん」
近寄ってきたのは
「こんにちは、天宮くんと
天宮くんの後ろに希星ちゃんもいた。
「お姉ちゃんも一緒に遊ぼっ」
希星ちゃんが前に出てきて言った。特にすることもないしいいかな。
「どこで遊ぶ?」
「公園がいい!」
希星ちゃんが飛び跳ねて言った。
「それじゃあ、公園に移動しよっか」
みんなで公園に移動する。
「何して遊ぶ?」
「鬼ごっこ! お姉ちゃんが鬼ね!」
希星ちゃんは私にタッチした。
「捕まえちゃうぞー!」
希星ちゃんを追いかける。
「あっ、ぼ、僕も入れてよー」
なぜか、天宮くんは私を追いかけている。
「なんで天宮くんに追いかけられているの? 私が鬼だよー!」
「夢乃さん、今度は僕が鬼になって希星ちゃんを追いかけるよ」
「わかった」
天宮くんに鬼を譲る。
「はい、頑張って!」
「夢乃さんも逃げて」
「あっ、そうだった」
天宮くんが逃げないから私は参加できないのかもと思ったけど、逃げていいようだ。
「希星ちゃん、一緒に逃げよう!」
「うんっ!」
希星ちゃんと一緒に逃げる。
「ーー希星ちゃん、危ないっ⁉︎」
突然、前方上空に大きな岩が見えた。岩はだんだんと近づいてきている。私は希星ちゃんを抱きしめた。
「お姉ちゃん、痛いよ。あと、みんなが見てる」
周りにいた人から変な目で見られている。
「夢乃さん、大丈夫? もしかして、ボール恐怖症?」
天宮くんが駆け寄ってきた。
「あれ、何もなかったみたいだね。えへへ、ごめんね」
確かに岩が飛んできた気がしたが、ボールみたいだ。
「お姉ちゃん、具合悪い?」
「いや、大丈夫だよ。続きやろうか」
「お姉ちゃん、本当に大丈夫なの?」
「無理しなくていいよ」
希星ちゃんと天宮くんから言われ、気を遣わせるのも悪いし帰ることにした。
「疲れてるみたいだから先に帰るね」
「うん、お大事に」
「お姉ちゃん、元気になったらまた遊ぼう!」
家に帰ってゆっくり休むことにする。
「ただいまー」
「おかえり。今日は早いのね」
「なんか少し体調が悪いから帰ってきた」
「風夏、大丈夫?」
「自分ではなんともないんだけど……」
「ゆっくり休んで」
自分の部屋で疲れを取ることにした。
「暇だなぁ」
昼寝をしようと思ってベッドに横になってみたが、眠れなかった。
「あっ、そうだ。この前、借りてきた本を読んでみよう」
鞄から古ぼけた本を取り出して、この前の続きから読む。
『博覧強記の少年の知恵を借り、作戦を立てた二人は再び幻影の守護者に立ち向かいました。二人が立てた作戦とは幻影の守護者の前後に分かれ、攻撃するというものでした。
しかし、その作戦は幻影の守護者が幻影を大量に出したことで崩壊し、再び窮地に追い込まれてしまいました。
どうにかして逃げることに成功した二人は、もう一度作戦を立て直します。この時に策士がいてくれたらどれだけ助かったでしょうか。二人の知恵を振り絞り、勝機がありそうな作戦を練ります。ですが、何度考えても良い案は浮かんできませんでした。
幻影の守護者も二人が作戦を立てるまで待っていてくれるわけではありません。早く作戦を立てなければ見つかってしまい、見つかれば生きていられる保証はないでしょう。そのことをわかっている二人は余計に焦ってしまいます』
「やっぱり知っている気がする」
お母さんに訊いてみたらわかるかもしれない。
「後で訊いてみよう。ふわぁあ〰〰」
本を横に置いて、一休みしよう。
「ここはどこだろう?」
気がつくと真っ暗な空間にただ一人立っている。
「みんな、どこに行っちゃったの?」
呼びかけてみるが返事はない。
一歩、二歩と歩いてみるが、特に何も起きなかった。さらに進んでみる。
「ここは外なの? それとも屋内?」
光や風、音、匂いなど何も感じない。ただ暗い空間が続いている。ここが屋内だとするならば壁があるはずだが、どれだけ歩いても壁はない。
「ここは外かな?」
壁がないってことは外になるのだろう。
「ここは何か違う?」
少しだけ何かが変わったような気がした。何もない真っ暗な世界で感覚が研ぎ澄まされているのだろう。
「ここには光があるの?」
何もかもが黒いから光があったとしても黒いのかもしれない。
「そこに誰か、いるの?」
何かの気配を感じ、呼びかけてみる。
『……見つかってしまったか。ならば、仕方ない』
「あなたは誰ですか?」
『……まだ真実を知る時ではない。もう少し眠っていなさい』
聞いたことのある声がしたが、わからなかった。
「どういうこと?」
『ほら、もう少しだけ夢を楽しんでいなさい。まだこっちの世界に戻っても通用しない』
「何を言っているの?」
『さぁ、戻りなさい』
「あれ、ここは私の部屋?」
本を読んだ後、寝たんだった。
「あの夢はなんだったんだろう?」
真実がどうとか言っていたけど、記憶が曖昧で思い出すことができない。
「あっそうだ。この本のことをお母さんに訊いてみるんだった」
リビングに行くと、お母さんはキッチンで晩御飯の支度をしていた。
「ねぇ、この本って知ってる?」
「ちょっと待っていて頂戴」
お母さんの調理がひと段落するのを待つ。
「どの本?」
お母さんに本を見せる。
「随分と古そうな本ね。どこで見つけたの?」
「図書館だよ」
「こんな本が置いてあるのね」
お母さんは本を捲り確かめている。
「どう、何か知っていることってある?」
「知らないわねぇ」
「そうなんだ。ありがとう」
「この本がどうかしたの?」
「何か知っている話な気がして……どこかで読んだことがあるのかな?」
お母さんが知らないってことは家の本棚にはないだろうし、図書館で読んだってことも考えられないし、本当にどこで読んだ本なのだろう。
「あと、どれくらいでできる?」
「三十分はかかると思うわ」
「わかった」
自室に戻り、調べてみることにする。
「ネット検索っと」
本のタイトルを入れようと思って本を見たが、タイトルはどこにも書かれていなかった。
「何で書かれてないの?」
何度探しても見つからない。
「どうなっているの?」
何となくこの本には関わってはいけないような気がした。
「この本は最後まで読んだら絶対に元の場所に戻そう」
そうしないと、呪われるような気がする。
「あれ、龍獅さんからメッセージが届いてたんだ。気付かなかった」
届いた時間を見ると、眠っていた時刻だった。
「船の修理が終わったから、明日砂浜に行けばいいんだね」
船ができたし、龍獅さんは航海に出てしまうのだろうか。
「少し寂しいな」
「風夏、ご飯よー!」
お母さんに呼ばれたから、晩御飯を食べるためにリビングに行った。
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