第一話 〜勉強会〜
今日はふうちゃんと
「もしもし、空です」
『はい、もしもし。あら、空ちゃん、どうしたの?』
「
『風夏ならまだ寝ているわよ』
やっぱり、寝ていたようだ。
「今日の午前から一緒に課題をする約束をしていて、忘れているのかもと思ったので電話しました」
『そうだったのね。朝食を食べさせたら、行くように言っておくわ』
「はい、お願いします……それでは失礼しますね」
電話を切り、次に小夏さんの家に電話をかけた。
「もしもし、同じクラスの
『はい、もしもし、小夏です。千尋に用があるのね。でも、まだ寝ているのよ。また後でかけてくれるかしら』
「はい、わかりました。かけなおします」
二人ともまだ寝ているようだ。二人が来るまでの間に部屋を綺麗にする。部屋が汚いままでは課題に集中できないかもしれない。特に小夏さんは近くにある物で遊び始める可能性があるから気をつけないといけない。
みんなが来るまでに時間が意外とあったから、部屋の掃除以外にも、お菓子や課題をして疲れた時に遊べるものを用意した。
千尋ちゃんの家に着き、インターホンを押す。
「おはようございます。夢乃です。千尋ちゃんはいますか?」
インターホンに向かって言うと、インターホンから声が返ってきた。
『ちょっと待っていてくれるかしら』
「はい」
外でしばらく待っていると、家の中からドタドタと足音が聞こえてきた。だんだんと足音が近くなり、玄関の戸が開く。
「おはっス、風夏。さぁ、行くっスよ!」
待っていたのに、千尋ちゃんは先に行ってしまう。
「何してるっスか?」
「いや、待ってたんだけど」
走って千尋ちゃんの横に並ぶ。
「千尋ちゃんはお菓子とか持ってきた?」
「いや、持ってきてないっスよ」
「やっぱり、買っていった方がいいよね?」
「いいんじゃないっスか、買わなくても。友だちの家に行くだけっスよ?」
「でも、やっぱり買った方が良くない?」
「そこまで言うなら、何か買っていくっスか」
空ちゃんの家に行く前にお菓子を買うことにしたが、何を買っていけばいいのかわからない。どうせなら、いつもと違う何か美味しいものを持っていきたい。同じようなものを持っていってもつまらないからね。
「この近くに美味しいお菓子が売っているお店ってないかな?」
「あぁ、確かこの近くの旅館に美味しいものが売っているって誰かから聞いたっスよ」
「それって本当?」
「本当に信用されてないっスね」
「今のはごめん」
「すぐそこの旅館っス」
千尋ちゃんの案内で、美味しいものが売っているらしい『ホウギョク』という旅館に着いた。旅館の古風な外観を眺めていると、千尋ちゃんが先に中に入ってしまったため、私も急いで中に入る。
「確か、これっスかね」
旅館の売店で、千尋ちゃんが手に取ったのは
「ここの水羊羹はみずみずしくて、上品な甘みと
「それって何の情報?」
「さっき思い出したっスけど、よく読む雑誌に書いてあったっス」
「そうなんだ」
それなら、本当に人気なのだろう。
「じゃあ、これを買っていこうか」
「ちょっと待つっス」
「どうしたの?」
レジに行こうとしていた私を千尋ちゃんが呼び止めた。千尋ちゃんが見ていたのは水羊羹の隣の棚だ。
「何かあったの?」
「私からのお菓子はこれに決めたっス!」
千尋ちゃんの手には、ロシアンクッキーと書かれた箱があった。
「……」
「十二枚中二枚が激辛のクッキーみたいっスね。これは面白くなりそうっス」
私が唖然としていると、千尋ちゃんはレジに行きロシアンクッキーを買ってしまった。
「私に当たらないといいな。空ちゃんにも」
私もレジを済ませ、それぞれお菓子を持って空ちゃんの家に向かう。
空ちゃんの家のインターホンを押す。
「風夏です」
『ちょっと待ってね』
インターホンから空ちゃんのお母さんの声が聞こえてきた。
少しすると、家のドアが開いた。中から出てきたのは、桃色のミディアムストレートヘアで赤いリボンがついた白いトップスにチェックの入った桃色のスカートを着ている少女、
「二人とも、お待たせ。中に入って」
空ちゃんはそう言うと家の中に入った。続いて私も空ちゃんの家に入る。
「お邪魔します」
「お邪魔しまーっス」
「こんにちは、風夏ちゃん、千尋ちゃん」
空ちゃんのお母さんが言った。
「こんにちは。お菓子を持ってきました」
空ちゃんのお母さんに水羊羹を渡す。千尋ちゃんはまだお菓子を持っていて、渡そうとしない。
「私の部屋はこっちよ」
空ちゃんは階段を二、三段上ったところで振り返った。
「うん、今行く」
空ちゃんの後に続き、私と千尋ちゃんは空ちゃんの部屋へ向かう。
「そうだ、先に部屋に行ってて。お茶を持っていくから」
空ちゃんは部屋を指差して言い、階段を駆け足で下りていった。
空ちゃんが示した扉を開けて中へ入り、中央の床に置かれた机の周りに私たちは正座する。
空ちゃんの部屋はカーペットが敷かれ、その上に小さな机が置かれている。部屋の隅にはクローゼット、本棚、学習机があった。学習机の横には学校にいつも持ってきている鞄が置いてあった。ベッドは布団が綺麗に敷かれている。遠くにある一本の大きな木が窓から見えた。
「空ちゃんの部屋、かわいい!」
「そうっスね。部屋も可愛いっスね」
家具の色は白と桃色で統一されていた。
「あっそうだ。千尋ちゃん、クッキーはどうするの?」
「さすがにお母さんがいるところでは出せないっスよ。機会を見て、みんなでやるっス」
千尋ちゃんと話していると、扉が開く音がした。扉の方を向くと、お茶が乗ったお盆を持って空ちゃんが戻ってきた。
「お待たせー。はい、お茶どうぞ」
空ちゃんは机に麦茶の入ったコップを置いた。
「早速だけど、課題を始めましょうか」
「うん、やろう!」
「まだ早くないっスか?」
「そんなことを言っていると、課題が終わらなくなるわよ」
「課題は持ってきたよね?」
「一応、持ってきたっス」
千尋ちゃんは渋々と机に課題を出している。
「課題を取ってくるから、先に始めていていいわよ」
空ちゃんは鞄を探し始めた。
私は手提げの中から課題と筆箱を取り出し、机の上に置く。
「あら、どこにもないわ? 課題を学校に忘れてしまったみたい!」
「空も人のこと言えないっスね」
「それじゃあ、どうする? 学校に取りに行く?」
「取りに行ってもいいかしら?」
「仕方ないっスね。付き合うっスよ」
「千尋ちゃんはやりたくないだけだよね?」
「そんなことないっスよ?」
私たちは空ちゃんの課題を取りに学校へ行くことになった。
学校には二十分ほどで着いた。
部活をやっている生徒はいるが、いつもに比べたら少ない。
「まさか、夏休み初日に学校に来るとは思わなかったっスね」
「ごめんなさいね、付き合わせてしまって」
「大丈夫だよ。人が少ない学校もいつもと違って楽しいし」
昇降口で上履きに履き替える。
「鍵を取りに行った方がいいかしら?」
「そうだね。誰も来ていないだろうから、開いてないよね」
まずは一階の端にある職員室に鍵を取りに行く。
職員室に入るときは、ノックを三回した後にドアを開け、クラスと名前を言ってから先生を呼ぶという決まりがある。
--コン、コン、コン。
ドアを三回ノックした。
『はい』
中から先生の声が聞こえてきたから、ドアを開けて職員室の中へ入る。
「二年四組の夢乃風夏です」
「同じく二年四組の涼風空です」
「小夏千尋っスー」
「
職員室の奥の方で先生が席を立つ音が聞こえた。
「紫陽先生じゃなくて、
「はい、わかりました。紫陽先生」
空ちゃんはいつものように訂正せずに言う。
「夏休みの初日に何の用だ?」
一度は訂正を求めるが、次からは何も言わない。
「教室に忘れ物をしてしまったので、鍵を取りにきました」
「教室の鍵だな。ちょっと待ってろ」
紫陽先生は全ての鍵がかかっているところに行き、二年四組の鍵を取って戻ってきた。
「小夏、またお前か」
「私じゃないっスよ。今日は空っス」
「本当にそうなのか?」
「私って本当に信用されてないっスね」
「涼風、次からは気をつけろよ」
「ありがとうございます」
空ちゃんは先生から鍵を受け取り、私たちは職員室から出た。
「良かったね、鍵をもらえて」
「あとは課題があればいいのだけれど」
「そんなに私って信用されてないのかなぁ」
千尋ちゃんは少し落ち込んでいる。しかし、普段の生活から考えれば、先生から疑われても仕方ない気がする。
私たちは中央階段から三階に上がり、南西方向に進む。
「着いたね、二年四組の教室」
「なんか、不思議な感じね。昨日までみんながいて活気に満ちていた教室が今はすごく静かなのだもの」
空ちゃんは鍵を開けて中へ入ると、自分の机に行って課題を探している。
「ゆっくり探していいっスよ」
千尋ちゃんは黒板に落書きをしている。
私は特にすることもないから、空ちゃんが課題を探している間、閑散としている教室の中を歩き回ったり窓から外を眺めたりした。
「あったわ!」
空ちゃんが笑顔で課題を掲げた。
「良かったね。それじゃあ、課題をしに家に戻ろう!」
「もう見つかったんスか。案外早かったっスね」
教室の鍵を閉めて一階に降りようと歩き出すと、前から生徒が歩いてきた。
「あっ、
霊華ちゃんも忘れ物をしたのだろうか。
「あら、こんにちは、風夏さん、空さん、それに千尋さんも」
「霊華も忘れ物っスか? みんな忘れっぽいんスね」
「いえ、補習の前半が終わり休み時間になったので、お花を摘みに行きましたら、あなたたちがいましたので挨拶に参ったところですわ」
「えっ、トイレっスか⁉︎」
「トイレに⁉︎」
「お花を摘みに行ったの⁉︎」
私たちは互いに顔を見合わせた。
「はい、そうですが、どうかなさいましたの?」
「えっと……鏡は見た?」
「はい、少し髪が乱れているのが気になっていたもので」
霊華ちゃんが鏡に姿を映したということは--
「鏡に何かございますの? まさか盗撮されていましたとか⁉︎」
「いや、そうじゃないっスよ……今の話は気にしないでほしいっス」
「ここまで話して最後まで言わないんですの〰〰、気になりますわ!」
霊華ちゃんの顔は青ざめている。
「本当に気にしなくて大丈夫っスよ。この世界には知らない方がいいこともあるっス」
「そうだよ。きっと大丈夫だよ、霊華ちゃん」
霊華ちゃんを励ますが、虚しくも届かなかったようで「私、呪われましたの〰〰⁉︎」と叫んでどこかに走って行ってしまった。
「あの噂は本当なのかな?」
一階に下り、鍵を返すために職員室へ行く。
「紫陽先生はいますか?」
「お前たちか、鍵は閉めてきたか?」
「はい、閉めました」
先生に鍵を渡す。
「紫陽先生、夜に学校に来てもいいっスか?」
「夜の学校で肝試しでもするのか? それなら却下だ」
「本当にみんなから信用されてないなぁ。先生、肝試しではなくてですね、自由研究を学校でしたいので来てもいいっスか?」
「私たちも一緒に行くので」
「まぁ、お前たちが一緒ならいいか。だが、夜の学校は怖いぞ。黒い影がウロウロしているからな」
やっぱり、あの噂は本当だったのだろうか。
「先生も心霊現象を信じているんスね?」
「いや、信じていなかったのだが、見てしまったのだよ。この前の夜、誰もいない職員室で仕事をしていたことがあったんだがな。仕事が終わり、戸締りを確認していた時だった! 誰もいないことを確認した職員室に黒い影があったんだよ。あれは怖かった〰〰」
背筋に冷たいものが走った。
「それって、虫じゃなかったんですか? みんなが嫌う黒い虫」
隣のクラスの先生が来て、紫陽先生にプリントを渡した。
「あはは。まぁ、あの時はそうだったな」
「尾西先生、あまり生徒を怖がらせないように」
「はいはい。それじゃあ、気をつけて帰れよ」
「はい、紫陽先生、さようなら」
「あの噂って本当なのかな?」
課題を無事に取ってくることができ、空ちゃんの家に帰還した私たちは昼食を食べてから、夏季課題に取り組んでいた。
「それを解明するために私たちは行くっス」
「私たちは天体観測なんだけどね」
「本当に行くの?」
千尋ちゃんは楽しそうだが、空ちゃんは行きたくなさそうだ。
「空ちゃんってオバケが怖いの?」
「いえ、そんなことはないわよ」
「それなら、みんなで行くっス!」
千尋ちゃんは立ち上がって外へ出ようとするが、空ちゃんが千尋ちゃんの腕を掴んだ。
「今行ってもまだわからないわよ。それに課題が終わってからにしましょうね?」
空ちゃんは笑顔で言ったが、目は笑っていなかった。それを見た千尋ちゃんはすぐに机に戻る。
「課題が終わってからにするっス!」
「日が暮れる前に終わらせてしまいましょう」
夏季課題は漢字練習と数学の問題集、自由研究だ。一日では終わらないが、後のためにもできるだけ終わらせておきたい。
「そろそろおやつの時間ね、少し休憩しましょうか」
「疲れたー」
「もうやりたくないっス〰〰」
鉛筆を置き、伸びをする。横を見ると、千尋ちゃんは床に寝転んでいた。
「それじゃあ、お母さんが作ってくれたお菓子もあるし、下に行きましょう」
私たちはリビングに行き、食卓に置いてあるお菓子を食べる。
「風夏ちゃんが持ってきてくれたお菓子も食べていいかしら?」
「いいよ」
空ちゃんが水羊羹を切ってお皿に盛りつけてくれる。
「あっ、そうっス。これも食べるっスか?」
千尋ちゃんは
「本当にやるの?」
「それは何かしら?」
「ロシアンクッキーっス」
「ロシアンってことは辛いのよね?」
「辛いのは十二枚中二枚っスよ。確率は約十六パーセントっスね。
千尋ちゃんだけは楽しそうだ。
「見た目はどれも変わらないのね」
「そうだね、普通だね」
見た目はどれも美味しそうなクッキーだ。
「私から取ってもいいかしら。小夏さんからだと、ズルしそうだから」
「本当に信用されてないっスね。私は最後でいいっスよ」
「空ちゃんの次は私だね」
空ちゃん、私、千尋ちゃんの順でクッキーを選んでいく。
「私はこれにするわ」
「私はこれで」
「それじゃあ、これっスね。余り物には福きたるっていうっスからね、当たるはずっス」
それぞれ、三枚ずつ取りお皿にのせる。
「みんなで一斉に食べるっス」
辺りは緊張感に包まれる。
「せーのっス」
千尋ちゃんの合図で私は一枚目を口に入れた。みんなも一枚目を食べている。
「おいしい。普通のクッキーよりもおいしいかも」
「確かにおいしいわね」
「誰も入っていなかったみたいっスね。次にいくっス」
続いて二枚目を食べるが、今度も美味しかった。
「う、うぅ〰〰〰〰」
空ちゃんが唸っている。
「大丈夫、空ちゃん?」
「み、水を頂戴!」
「はいっス」
千尋ちゃんが水を渡した。空ちゃんは水を一気に飲み干す。
「すっごく辛いわ。まだ口の中がヒリヒリする〰〰。わさびをどれだけ入れたらこんなに辛くなるのよっ⁉︎」
「このクッキーに入っているのって、唐辛子っスよ?」
「大丈夫、空ちゃん?」
「次は甘いはずよね」
「もう一枚が空のところになければっスね」
三枚目を口に入れる。私のところには辛いのは入っていなかった。
「これ、超辛いっスね」
「本当に辛いの? あまり辛そうじゃないけど」
「私、辛いものが得意な方なので。今日の運勢は良さそうっスね」
空ちゃんを見ると、三枚目のクッキーを美味しそうに食べている。
お菓子を食べ終え一休みをしていると、空ちゃんが言った。
「課題に戻る? それとも少し遊んでからにする?」
「せっかく来たんだし、少し遊ぼう?」
「私もそれに賛成っス!」
「それなら、何にしましょうか。テレビゲームとかカードゲームとか、仮装とかあるけど?」
「仮装はまだ早くない? ハロウィンまであと三ヶ月くらいあるよ」
「テレビゲームをやるっス!」
食器を洗って、遊ぶ準備に取り掛かる。
千尋ちゃんの提案でテレビゲームをすることになった。
そのテレビゲームは町にインクを塗っていき、相手のチームより自分のチームが多く塗った方が勝利というゲームだ。つまり、インクを使った陣取りゲームだ。相手をインクで倒すこともできる。
「あっ、塗ってないところ発見した」
「えっ、上から攻撃されてお亡くなりになりました⁉︎」
「よっしゃあ、一人倒したっス!」
私たちは同じチームで対戦している。
盛り上がってしまい、気づいた時には午後四時になっていた。
「そろそろやめて、課題に戻ろうよ。続きは課題が全部終わってからにしよう?」
「そうね。課題が終わらなくなってしまうものね」
「あと一戦だけやるっス」
「わかったわ。あと一戦だけよ」
あと一回だけやることになった。
「あぁー、負けたー!」
「さぁ、課題に戻りましょう」
「負けて終わるのって悔しくないっスか? もう一戦やるっス」
「負けたまま終わるわけにはいかないよ」
「そうね、もう一度だけやりましょうか」
もう一度やるが、惜しくもまた負けてしまった。
「もう、何で残り三十秒で逆転されるの⁉︎」
「もう一回やるっス」
もう一戦するが負けてしまい、さらに繰り返すこと数回。時計を見ると、五時を回っていた。
「あれから一時間が経っちゃったね」
「相手が強いのがいけないっス。もう一回やるっス」
「これで何度目よ。もう終わりにして、課題をやりましょう。また今度、続きをしましょう、ね?」
「もう一戦だけやるっス。本当にこれで最後にするからぁ〰〰」
千尋ちゃんが駄々をこねている。
「風夏ちゃん、ゲームを終わりにしてくれるかしら? 小夏さんを押さえておくから」
私たちはゲームをやめて、課題をするために空ちゃんの部屋に戻った。
課題は順調に進み、外は夕日に照らされ茜色に染まっていた。
「どのくらい進んだ?」
鉛筆を置いて、カーペットに寝転がる。
「漢字はあと二ページよ」
「えっ、二十ページもあったのにもうそんなに終わったの⁉︎ 千尋ちゃんは?」
「あと八ページっス」
「風夏ちゃんはどうかしら?」
起き上がり、ノートと漢字ドリルを見る。
「あと五ページだぁ」
「今日中に漢字は終わらせたいわね。あと少しよ、やってしまいましょう」
「そうだね。残りは四分の一で、三時間くらいやったから……あと一時間くらいだぁ」
「風夏はまだマシな方じゃないっスか。私なんか、もっとあるっスよ」
「それが終わったら、ちょっと休憩して、自由研究をしに行きましょう」
引き続き、課題に取り組む。
しばらくして、空ちゃんが鉛筆を置いた。
「あともう少しよ、頑張って、風夏ちゃん、小夏さん」
「もしかして、空ちゃん、終わったの?」
「終わったなら手伝ってくださいよ」
空ちゃんは微笑んだ。
「終わるまで見守っているわね」
もしかして、終わるまで家に帰してもらえない⁉︎
「空ちゃんは鬼だぁ」
「本当に頭が硬いっスね」
「はいはい、喋ってないで手を動かそうね」
空ちゃんに言われ、漢字を書いていく。
--それから、三十分後。
「やったー、終わったよ、空ちゃん!」
「おめでとう。それじゃあ、私と一緒に小夏さんを見守りましょうか」
空ちゃんはお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう」
空ちゃんからお茶を受け取る。
「千尋ちゃん、頑張って!」
「もうやめたいっス〰〰! どうして、休みなのに課題をしなきゃいけないんスか。休むための休みでしょうに」
「ほら、手も動かす」
空ちゃんは手が止まっている千尋ちゃんに言った。
--数十分後。
「やっと終わったっスー。それじゃあ、心霊現象を調べに行くっス」
「私たちは天体観測ね」
私たちは再び学校へと向かった。
「何か不気味ね」
「職員室は明るいけどね」
「ワクワクするっスね」
一人だけ楽しんでいる。
夜の学校は職員室以外、防犯用の青白いライトが点いている。
「まずは職員室で屋上の鍵をもらわないとだね」
「そうね、行きましょう」
怪しい雰囲気を
ノックを三回し、紫陽先生を呼んだ。
「おっ、本当に来たんだな。はい、屋上の鍵だ。それと、午後五時以降になると、なぜか職員室以外の電気が消えてしまうという現象が最近起きているんだ。だから、これを持っていけ。電気以外にもおかしな現象が起きているらしいから気をつけろよ」
「面白くなってきたっスね」
「小夏はあまりはしゃぐなよ」
「はーい」
先生から懐中電灯を受け取った。
「紫陽先生は何時までいらっしゃいますか?」
「そうだな……九時くらいまでならいると思うぞ」
今は七時だから、あと二時間だ。
「わかりました。それまでには戻ってきます」
「もし、それまでに戻ってこなかったら、職員室の前に置いてある箱の中に入れておいてくれ。頼んだぞ」
「はい」
「もう一つ言い忘れていたが、今夜は暑くなるそうだ。熱中症にも気をつけろよ」
私たちは懐中電灯を握りしめ、職員室を後にした。
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