プロローグ
それは生暖かい風が吹き、
小鳥の
今日は七月二十一日、時刻は午前七時。時計にそう表示されていた。
「ふあぁ〰〰」
一度伸びをして、ベッドから起き上がる。
そっか……今日から夏休みだ。学校は土日以外空いていて、図書館で本を読んだり、教室で自由に勉強したりすることができる。しかし、私は机で勉強すること以外の学習をこの夏休みでしたいし、ゆっくり休みたいからあまり学校に行くことはないだろう。私とは対照的に毎日学校に行く人もいて、その人はその人ですごいと思う。
部屋を一度、見渡してみる。毎日掃除をしているため、特に汚れているところはない。本棚には本やノート、教科書などが整列されている。机には日記帳と筆箱が端正に置かれ、消しカスなどは一つもない。クローゼットは閉まっていて中は見えないが、昨日整理したはずだから綺麗だろう。
部屋の確認を終え、リビングへと向かう。
「あっ、その前に顔を洗わないと」
起きてすぐに顔を洗わないと、寝惚けた一日を過ごすことになってしまう。
「えっ!」
洗面所の鏡に全身が真っ赤に染まった少女の姿が見えた気がしたが、瞬きをするといなくなっていた。
「今のは何だったんだろう?」
鏡には濃紺色の髪が少し跳ね、瞳は水色の可愛らしい少女の姿が映っていた。それは十四歳の私、
まず、蛇口を捻り手に水を溜め、顔を洗う。次に、跳ねた髪を直すために霧吹きで水をかけてドライヤーで乾かし、エメラルド色の花の装飾がついたピン留めを使って、ツーサイドアップテールにした。これで、身だしなみは大丈夫だ。
「これで、今度こそリビングに行けるね」
リビングに行くと、お母さんがいた。
「おはよう、風夏。食卓にごはんがあるから食べてね」
「おはよう、お母さん」
「そういえば、
「うん、ごはんを食べたら行ってくる」
食卓の椅子に座り、ごはんを食べる。
「お母さん、今日は仕事だよね?」
「そうよ。あっ、そろそろ出ないと遅れちゃうわ」
お母さんは時計を見ると、慌てて身支度を整えた。
「あっ、そうだ。風夏、これお小遣い。それから夏休みを楽しんでね。それじゃあ、行ってくるわね」
「ありがとう、行ってらっしゃい」
お母さんは仕事をしに行った。
「ごはんを食べ終わったら、空ちゃんの家に行かないと。確か、課題を持っていけばいいんだよね?」
--昨日、七月二十日--
「明日から夏休みだね」
「夏休みかぁ。遊んで、遊んで、遊び尽くすしかないっス!」
「お勉強もしっかりとやりましょうね?」
終業式が終わって、私は友だちの
「夏休みの始めの一週間は遊ばずに宿題をした方が後が楽だよね?」
「そうね、始めは課題からよね」
私は課題が残っていると気になって全力で遊べないため、早く終わらせてしまいたい。空ちゃんも早く終わらせたいのだろう。
「いや、遊ぶのが先っス!」
「そう言って夏休みの最終日に『課題が終わってないから、見せて〰〰』って言うんでしょう? だから、ダメよ」
「えぇ〰〰、そんなこと言わないよ。だから、遊ぼうよ!」
千尋ちゃんは上目遣い空ちゃんを見ている。
「そんな顔をしてもダメよ。課題が残っていると、気になって本気で遊べないでしょ?」
千尋ちゃんは諦めたようで、上目遣いをやめた。
「あっ、そうだ。課題をするなら、一緒にやらないっスか?」
「千尋ちゃん、そう言って遊ぶ気でしょ?」
「そんなことないっスよ?」
千尋ちゃんのことだから、絶対に遊ぶのが目的だろう。
「でも、いいんじゃないかしら? 一緒にやりましょう」
「いいの、空ちゃん? 千尋ちゃんは絶対に遊ぶよ」
「一緒にやらないと、きっと最後の日に『課題みせて! 一生のお願いっス〰〰!』って言われるわよ」
昨年の夏休みの最終日に千尋ちゃんに頼まれ、課題を手伝った記憶が蘇ってきた。今年も確かにありそうだ。
「そうだね。昨年もそうだったしね」
「えっ、そんなことしたっスか?」
千尋ちゃんは惚けている。
「それじゃあ、決まりね。明日は私の家で課題をやりましょう」
「いつ行ったらいい?」
「そうね……あまり遅いと課題が終わらなくなってしまうから、朝からやりましょう?」
ごはんを食べたら行けばいいかな。
「わかったっスよ。朝に行けばいいんスね?」
本当に千尋ちゃんは来るのだろうか。
「千尋ちゃんの家に寄ってから行くね」
「そうね、そうしてくれると助かるわ」
「私はどれだけ信用されてないんスか?」
「「全然信用してないけど?」」
空ちゃんと私の声が重なった。
「私、信用されてなかったんスね」
千尋ちゃんは突然立ち止まった。
「あっ、千尋ちゃんが拗ねちゃった」
「ほら、拗ねてないで行くわよ。何か買ってあげるから」
「本当っスか?」
千尋ちゃんは嬉しそうにしていた。
「あっ、そうだ。二人は『夏休みに起きる学校の噂』って知っているっスか?」
千尋ちゃんは声のトーンを落として言った。
「何それ?」
「それって怖い話かしら?」
「まぁ、少し怖いっスかね」
暑いはずなのに、背中に寒気がする。
「
「へぇ、そんな噂があるんだ。知らなかった」
「それって、ただの噂よね?」
「いや、本当の話だと思うっスよ。見た人はいないらしいので、真実は謎っスけど」
夕日に照らされ、私たちの黒い影が横に伸びている。
「もし、学校に行くことがあったら、気をつけた方がいいっスよ」
千尋ちゃんは楽しそうだが、空ちゃんの顔は少し青ざめている。
「私は自由研究のテーマとして、この噂を調べてみようと思うんスよ。二人は自由研究のテーマ、何か考えたっスか?」
「私は天体観測かな。星を見るの、好きだし」
「私もよ。風夏ちゃん、一緒にやりましょう?」
「いいよ、一緒にやろう」
「あれ、私だけ仲間はずれっスか?」
千尋ちゃんがまた拗ねそうだ。
「学校の屋上からじゃないと星が見えないと思うから、一緒に行く?」
「--いいんスかっ⁉︎」
「えぇ、もちろんよ」
自由研究は三人で行動することになった。
「あっ、もうすぐ家だね」
話しているうちに家に着いてしまった。空ちゃんの家は私の家の隣にあるが、千尋ちゃんの家はもう少し先にある。
「また明日ね」
「えぇ、また明日会いましょう」
「また明日っス」
私たちはそれぞれの方向に別れたのだった。
朝食を食べ終え、部屋に戻った私は空ちゃんの家に行くための準備をしていた。
「課題と筆記用具は持ったし、あとは着替えだけだね」
クローゼットを開き、服を選ぶ。
色とりどりの様々な種類の服がハンガーにかけられていた。
その中から白いシャツと水色のスカートを手に取り、部屋着を脱いで着替える。
課題と筆記用具を入れた青色の手提げを持って玄関へ行く。そして靴を履き、ドアを開けて外へ出た。
「まずは千尋ちゃんを呼びに行かないと」
空ちゃんの家を通り越し、千尋ちゃんの家に向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます