第30話 アイテム購入
暗い……
寒い……
剣を突き刺された痛みが消えていく……
僕の存在も消えていく……
怖い……寂しい……
これが死……
嫌だ……死にたくない……死にたく……
「うわあぁぁぁ! ハァハァハァ……あ……僕の部屋……」
帰ってこれた……僕は生きてる……
「ゆ、優夜!? どうしたの!? 」
「あ、ううん……ちょ、ちょっと悪い夢を……見たみたい」
僕は慌てた様子でリビングから部屋へ入ってきた母さんに、ベッドから身を起こした状態でそう説明した。
「悪い夢って……顔色がかなり悪いわよ? 今日は学校休みなさい。そんな状態で学校に行っても途中でまた貧血になるわ」
「え? 大丈夫だよ。少しすれば落ち着くと思うから」
「ダーメ! お母さんの言うことを聞きなさい。手もそんなに震えて……いいから横になってなさい」
「……うん」
心配する母さんに押され、僕は学校を休むことにした。
正直気分は最悪だった。死ぬということが、自分という存在が消えるということがあんなに恐ろしい物だったなんて……
僕は母さんが部屋を出たあと、布団の中で身を丸めながらしばらく震えていた。
大丈夫、僕は生きている。あれは夢の中での出来事だから。現実の僕の身体には神様の力で幻痛も無く、あるのは記憶だけだ。
そう、僕は目的を果たした。あの時、意識を失う寸前に確かにオークキングが消えるのを見た。
僕と先輩はオークキングの討伐に成功したんだ。
ハッ!? そうだ! ポイント!
僕は大事なことを思い出し、慌てて布団から出てドリームタブレットを手に取り起動した。
そしてカミヨムサイトの作者ページを開きポイントを確認し、そして固まった。
【総合pt 2014pt】
「え? ど、どういうこと? 寝る前は1104ptだったのに……倍近くになってる? 」
僕はあまりのポイントの多さに一瞬固まりつつも、その内訳を確認してみた。
フォローが60増えていて120pt。小説の評価を新たに7人がしてくれていて、これが25ptだから小説の評価は145pt。残り765ptは全部ドリームポイントだ。つまり僕が夢の世界で取った行動に対する評価……
今までは一晩でドリームタイムは100ptくらいの評価だったのに、それが一気に7倍以上に……
これに処女作のポイントをプラスすれば2204pt。つまり2204Gになる。召喚のアイテムが1800Gだから余裕で買える。
ランキングは……98位にまで上がって凌辱王を大きく突き放している。これなら先輩を救うことができる。
やった……僕はやりきったんだ!
ドリームポイントは170人の神様が今回の戦いを評価してくれたみたいだ。しかもみんな高評価だ。あっ! 感想もある! こんなの初めてだ!
僕がドリームポイントの内訳を見ながら、その評価人数と評価点数の高さに驚いていると、ふとドリームポイントの下の方に《感想があります》という表示があることに気付いた。
僕は初めてもらった感想にドキドキしつつも内容を確認した。
【感想一覧】
投稿者:ビビッと雷神
良いものを見せてもらった。好きなおなごを守るために身体を張るその姿に感銘を受けた。
投稿者:べんてんちゃん
痺れたわ。私もああやって守られたいわ。まあ色々勘違いしているみたいだけど……
投稿者:俺様はスサノオ
がははは! よくやった! それでこそ男だ! 悪いようにはしねえから安心しろ!
投稿者:ふーじん
うむ。良い戦いだった。色々勘違いをしておるようだが、終わり良ければというところか。これからも精進せよ。
投稿者:☆あまてらす☆
私はあなたを気に入りましたよ。幸せになりなさい。
「……なんというかユルキャラ? 多分神様なんだろうけど……でも勘違いってなんだろ? 」
僕は神様のユーザーネームにちょっと引きつつも、べんてんちゃん様とふーじん様の勘違いという言葉が気になった。
僕が何かを勘違いしているってこと? 先輩を助けようとした行動が何か間違っているとか?
もしかして召喚のアイテムでは凌辱王から先輩を救えない? でも終わり良ければとも言ってるし、スサノオ様も悪いようにはしないって言ってる。
だったらちゃんと先輩を凌辱王から救えるはず。
僕は多少の不安を抱えつつカミヨムショップを開いた。
そして【召喚】のアイテムをタップしようと手を伸ばした。
これを押せば夢の中の先輩は消えてしまうかもしれない。恐らく自我が消えて、現実世界の先輩が乗り移る形になる可能性が高い。あの先輩が……短い間だったけど、現実世界の先輩より長い時間を一緒に過ごした先輩が……
僕は夢の中の先輩が作ってくれた料理や色々な話をしたこと、一緒にトランプをして遊んだことや冒険をしたことを思い返しタップしようとする指を止まった。
こうなることは覚悟していた。戦闘中も何度も悩んだ。けれど先輩を……現実世界の先輩に僕が体験したあの死を経験させるなんて嫌だ。好きな子にあんな恐ろしい経験をさせることなんて僕は絶対に嫌だ。
だから……
夢の中の先輩ごめんなさい。
そしてありがとうございました。先輩のおかげで僕は大切な人を守れます。
本当にごめんなさい。先輩と過ごした日々は忘れません。
「ごめん……なさい……さよなら……夢の中の優しい先輩……」
僕は頬を伝う涙をそのままに、召喚のアイテムをタップした。
すると画面には【購入しますか? はい いいえ】との最終確認の表示が現れ、僕は【はい】とタップした。その瞬間所持Gが404Gに減り購入が完了したことがわかった。
購入後、画面には続いて使用しますかとの表示が現れた。僕はすぐに使用しようと思い、そこでも使用するを選択した。次に召喚する人物を思い浮かべながらフルネームを記入してくださいと表示が現れたので、僕は先輩を思い浮かべながら『鬼龍院 小夜子』と入力した。
僕が先輩の名前の入力を終えると、【召喚します。召喚結果は次のドリームタイム時に確認できます】という表示が現れた。
「え!? 確実に召喚できるわけじゃないの!? 」
僕は召喚結果が次のドリームタイム時にわかるという表示を見て、一気に不安になった。
てっきり確実に召喚できるものだと思ってた。それが不確実的な物に思え僕は焦った。
もしかして運営さんによる審査があるとか? それなら召喚できなかったとしても目的は達成できそうだからいいんだけど……
確かにショップのアイテムによって現実世界に悪影響があった場合は、アイテムの効果を取り消すとは書いてあった。けど文面からそれは事後。つまり現実世界に悪影響が起こってから判断されるものだと思っていた。
それが事前に審査されるなら安心といえば安心だ。どう考えても凌辱王の世界が事前審査を通るとは思えないし。
うん、大丈夫。神様も悪いようにはしないって言ってたし。僕は神様を信じる。
僕は不安な気持ちを抱きつつも、そう思うようにしてドリームタブレットを閉じた。
これで今夜、現実世界の先輩が僕の夢の世界に現れるはず。そしたらまた一緒に冒険をして、30位ほどつき放した凌辱王をさらにつき放す。そうすればずっと先輩と一緒にいられる。
今日僕は学校休んじゃったけど、先輩も無理せずちゃんと休んでくれてるかな? 次に眠った時は大丈夫だと伝えたいけど、召喚が成功するのかどうかわからない状態じゃ僕も言えない。
先輩が僕の夢の世界に召喚されたらどうなるんだろ。
先輩は……困惑すると思う。僕は先輩に正直に全てを話すことになるだろう。このドリームタブレットの存在のことも。やっぱ先輩の夢に干渉したことを怒るかな? 凌辱王に嫌な夢を見させられてるわけだし……僕が同じことができると知ったら嫌悪されるかも……気味悪がられるかな? でも先輩を守るためだと説明しなきゃ。先輩に死を経験させたくないんだって……先輩ならわかってくれるはず。
僕が不安になりながらも夢の世界で先輩に会った時のことをつらつらと考えていると、母さんが朝食を持って様子を見にきた。
僕は心配する母さんに大丈夫だよと伝え、朝食を食べてから小説の続きを書こうとした。しかしなかなか筆が進まなかったので、机の前でボーッと動画を見て過ごした。そしてお昼過ぎになった頃。僕は急に睡魔に襲われ、そのまま机の上に伏せるようにして眠りについたのだった。
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