第29話 鬼は嗤いそして泣く……

 


「多いな……」


「はい。50匹以上はいますね……」


 僕たちは森から掘っ建て小屋が建ち並ぶオークの集落を見下ろし息を呑んでいた。




 バギーを失い全力で走って戦って逃げてを繰り返し、僕たちはやっと目的地であるオークの集落へと辿り着くことに成功した。


 この集落はゴブリンの集落と同じく、チュートリアル道から少し外れた窪地にある。


 オークの総数は設定通りなら、ウィザードとアーチャーを含むオークが40匹にオークナイトが10匹。そしてオークキングとその護衛のオークナイトが5匹ここにはいるはずだ。

 本来ならもっと良い装備にアイテムを揃えて、さらにあと二つ魔法を覚えてレベル25で勝てる設定だ。それが今の僕たちのレベルは……




 土御門 優夜


 Lv.19


 職業: 賢者


 HP: 87/114


 MP: 78/165


 力: 46


 防御: 43


 魔力: 51


 素早さ: 49


 SP: 8


 魔法: 生活魔法・火球・風刃・竜巻刃・暗視・プロテクション・ヒール・探知

 キュア・サーチ


 スキル: 空間収納(小)・MP消費減少・MP増加


 加護: 創造神の加護(神ショップ利用可能)





 鬼龍院 小夜子


 Lv.21


 職業: 侍


 HP: 120/147


 MP: 15/24


 力:63


 防御: 54


 魔力: 0


 素早さ: 116


 SP: 16


 職業スキル: 威圧・暗視・二連撃・飛刃・乱刃 ※クールタイム有り


 スキル: 空間収納(小)・身体強化(弱)・身体強化(中)・身体強化(大)・縮地 ※MP消費


 加護: 刀神の加護(刀神への昇格可能・HP減少時素早さ上昇)



 厳しい……想定はしていたけど明らかにレベルが足らない。もう少しレベルが上がると思っていたんだけど、時間短縮のためにオークの足を狙い先へ進むことを優先していたのが原因なんだろうな。


 結果的にはそれは正解であり不正解だった。時間内にここに来ることは成功したけど、レベルは足らないし戦い続けてきた僕たちは疲労も激しい。そのうえHPもMPも万全ではない。


 アイテムは初級ポーションが僕と先輩でそれぞれ2つずつ。MPポーションは僕が2つ。これだけだ。


 これは空間収納に入れずに腰にあるポーチに入っている。空間収納だと咄嗟に取り出せないからね。


 本当ならここで休んで少しでも疲労とMPを回復してから挑みたい。けどドリームタイムの時間は残り2時間ほどしかない。


 ここからは見えないけどオークキングは強くてタフだ。確かHP500の力100のパワータイプに設定したはず。


 倒すのに時間が掛かるし、それまでにこの集落にいるオークたちを倒さないといけない。一応集落のオークが残り少なくなってからキングが出てくる設定にしてあるけど、小説と同じようになる保証はない。


「もう昼だ。時間が無いのだろう? 」


「はい……恐らくあと2時間くらいだと思います」


「そうか……ならばオークキングを倒して活躍しなければな」


「はい。僕が囮になってオークたちを引きつけますから、先輩はその隙に背後から仕留めていってください」


 ここまで来れたんだ。これ以上先輩に頼ってはいられない。


 僕は作者だから死んでも多分大丈夫だけど、先輩はどうなるかはわからない。たとえ創られた先輩そっくりな女性だとしても、僕にとって先輩は先輩だ。死なせたくなんてない。


 でも現実の先輩を召喚したら、僕のために一緒に戦ってくれたこの世界の先輩は結局……駄目だ……考えちゃ駄目だ。現実世界の先輩に死を経験させないために、僕はここまで戦ってきたんだ。


 ごめんなさいこの世界の先輩。僕は貴女を利用しています。


 だからせめて僕に一番危険な役目をやらせてください。こんなことじゃ償えないかもしれませんけど、せめて先輩を守らせてください。


「気にするな。私がしたいと思ってしたことだ。それでどのような結果になろうとも、それは私の責任だよ。だから私を付き合わせたことへの罪悪感から無理をする必要はない。今まで通り私が前だ。私が移動しながらオークを引きつける。君はウィザードとアーチャーを後方から潰してくれ」


「で、でもこの数を相手にいくら先輩でも……」


「できるさ。私のスピードならオークを翻弄できる。それに私は楽しくて仕方ないんだよ。死ぬかもしれないと思えば思うほどにね。これも血なのだろうな……」


「血……」


 前もそんなことを言っていた。いったい血ってなんのことなんだろ? 


「フフフ……そうさ、鬼の血だよ。さて、いつまでもここにいても仕方あるまい。私が集落で暴れてくるから、君はウィザードとアーチャーを見つけて処理してくれ。では行ってくる! 」


「え? 鬼の血って……あっ! せ、先輩! 」


 僕は突然走り出した先輩を呼び止めたが、先輩は刀を抜きそのまま集落の入口へと駆けていってしまった。


 鬼の血ってなんのこと? 確か鬼心一刀流の開祖の侍は、戦場で千人斬りを成して鬼神と呼ばれている剣豪だったと聞いているけど……その血が流れているから?


 ハッ!? いけない! そんなことより先輩の援護をしないと! ウィザードとアーチャーをなんとかしないと! 前に出れないならせめて僕がヘイトを稼がなきゃ!


 集落の入口に立つオークへと斬りかかる先輩を見た僕は、慌てて杖を構えて先輩を狙うオークアーチャーへと火球を放った。


 そして集落の中をもの凄い速さで一撃離脱を繰り返しながら移動する先輩を、僕は集落の外側から援護していった。


「『炎槍』! ぐっ……『竜巻刃』! うぐっ……あぁぁ……『ヒール』 」


 僕が東に建つ小屋の上から先輩を狙うウィザードに向けて炎の槍を放つと、その瞬間西側から4本の矢が飛んできてそのうちの1本が僕の太ももに刺さった。


 僕は即座に反撃の魔法を放ち、太ももに突き刺さった矢を気合いで引き抜きヒールを掛けてからその場を離れた。


 痛い……めちゃくちゃ痛かった……やっぱり防具が初期装備レベルじゃキツイ!


 でもそれは先輩も同じだ。先輩より僕がヘイトを稼がないと、先輩の道着と袴じゃ矢と魔法は防げない。その証拠にここまで来るのに先輩の道着はボロボロだ。


 僕は集落の北側で袖が片側しかなく前もはだけ、サラシを剥き出しにして戦っている先輩を見ながら、もっとオークを引きつけなければと次々と魔法を放っていった。




 そして1時間ほど経過した頃。


 集落にいたオークウィザードとアーチャーはほとんど倒すことに成功し、残っているオークも15匹ほどとなった。


 ここまでうまくいったのは戦闘中にレベル20になり、その時に覚えた10分間素早さが1.5倍になる『ヘイスト』の魔法の効果が大きい。これにより先輩の殲滅速度は上がった。


 しかしその代償として僕のMPは残り3割を切り、所持していたMPポーションも全て使い切り途中隙を見て拾った魔石で買った1本だけだ。HPポーションもさっきMP切れになった時に負傷して咄嗟に使ってしまい、残り1本を残すのみだ。


 ヘイストは強力な補助魔法だけど、MPを20も消費する。MP消費2分1のスキルを持っていても10消費だ。残りMP50を切ってる状態でそうそう使えない。MPポーションはボス戦のために取っておきたい。


 僕は最後のウィザードを倒したあと、あまりの速さに見失っていた先輩を探した。


 すると先輩が集落の中央付近にある小屋の陰から、オーク6匹とオークナイト2匹を引き連れ現れた。


 先輩の四肢は血みどろで、上半身の道着は既に脱ぎ捨てサラシ姿となっていた。袴もボロボロで左足の太ももまで剥き出しだ。HPも半分を切っている。


「先輩! 『ヒール』『ヒール』! 『プロテクション』! 」


 僕は先輩の姿を見て慌てて森から集落へ降りていき、血だらけの先輩にヒールとプロテクションを掛けた。


 先輩は僕に一瞥もすることなく、目の前にいるオークとわらいながら戦っていた。


「ハァァァッ! そうだ……もっと! もっとだ! 」


「せ、先輩……くっ……『炎槍』! 」


 僕は先輩のHPを回復させたあと様子がおかしい先輩に声を掛けたが、僕たちを包囲しようと集まってくるほかのオークたちの存在に気付き炎槍を放った。


「はぁはぁはぁ……火照る! もっとだ! もっと私を熱くさせてくれ! この鬼の血を! 『乱刃』! 」


「先輩! 一旦移動を! 囲まれます! 『火球』『炎槍』! 」


 マズイ! 僕の声が届かない! 


 僕はオークナイトの持つ剣や槍の攻撃を潜り抜け、一心不乱に剣を振る先輩へ一旦移動するように言った。しかし何かに取り憑かれたように刀を振るう先輩には僕の声が届かなかった。


 どうする!? もうすぐオークキングとその護衛のオークナイトが現れる。


 ここは一旦下がって仕切り直しをする必要がある。このままボス戦に突入するのは危険だ!


 でも先輩に僕の声が届いていない。僕じゃ先輩の身体に触れることすら難しい。いったいどうしたら……


 《ブゴオォォォォォン! 》


「しまった! 先輩! オークキングです! 一旦距離を! 遠距離で攻撃をしながら数を減らさないと! 」


 僕は100mほど先にある大きな小屋付近から、突然聞こえてきた雄叫びに目を向けた。するとそこには全身に鉄の鎧をまとい、大剣を手に持った巨体のオークキングと、その周囲を固めるオークナイト5体が立っていた。


 最悪のアイミングで現れたオークキングに、僕は再度先輩に下がるようにと叫んだ。


「フフフ、大物が現れたか! アレと戦えば私は……鬼心一刀流 鬼龍院小夜子……参る! 」


「き、鬼龍院先輩! 駄目です! くっ……『ヘイスト』『竜巻刃』! あがっ! 」


 僕は目の前のオークナイトを斬り捨てたあと、相対していたオーク3体を残しオークキングへと駆け出す先輩を引き止めようとした。しかし例の如く僕の声は先輩には届かなかった。僕はやむなくヘイストの魔法を先輩へと掛け、そのあとオークキングの横にいるオークナイト3体に向けて牽制の魔法を放った。


 しかし魔法を放つことに精一杯だった僕は、先輩が残していったオークの棍棒での攻撃を側面から受け吹っ飛ばされた。


 周囲からは新たに5体のオークと2体のオークナイトが集まってきている。


 僕は脇腹の痛みに耐えつつ転げながら立ち上がり、追撃をかけようと襲い掛かってきたオーク3体に至近距離で炎槍を放ち炎の槍を突き刺した。そして先輩を追いかけようとする新手のオークとオークナイトへと、竜巻刃を追加で放った。


 これは運良くオーク2体を巻き込み、先輩を追いかけていたオークナイトの足を止めることに成功した。


 これでMPはもう無くなった。


「来いっ! お前たちの相手は僕だ! 先輩の邪魔はさせない! 『炎槍』! 『炎槍』! 」


 僕は最後のMPポーションとHPポーションを飲み、竜巻刃の前で立ち止まっているオークナイトとオークへ向け炎槍を放った。


【残りMP52】


  


 僕の放った6本の炎の槍は、オーク3体の胸を突き刺しオークナイト2体の腹部に命中した。


 次に魔法から逃れた無傷のオーク2体と、その横で炎槍の副次効果である炎に包まれている2体のオークナイトへと向けて再び炎槍を連続発動し放った。


 そうして放たれた炎の槍は二本がオークの胸を貫き、残り四本は2体のオークナイトの首と顔に突き刺さった。


 その結果オークナイトは鎧に守られていない首と顔に炎槍を受け、大ダメージを負って消えていった。


【残りMP36】


 そしてオークナイトが消え一安心した僕の目に、オークキングの剣を受け止めている先輩の姿が映り込んだ。周囲には2体のオークナイトが膝をついている。


 どうやら3体のオークナイトを既に倒し、2体にダメージを負わせオークキングと一騎打ちをしているようだった。


 僕は先輩の援護をするべく、膝をついているオークナイトに向け炎槍を発動しようとした。


 しかしその時。


 片膝をついていた一体のオークナイトが、手に持っていた槍を先輩の背中へ向け投擲した。


「なっ!? 鬼龍院先輩後ろ! 」


「うぐっ……ぐはっ……」


「先輩!! 『炎槍』! 『ヒール』! 『ヒール』! 先輩から離れろぉぉぉ! 『火球』『火球』! 」


 先輩はオークナイトの槍により脇腹を貫かれつつも、辛うじてオークキングの剣を受け流すことに成功していた。しかしその瞬間オークキングに腹部を蹴り上げられ、5mほど吹き飛ばされた。


 その姿を目にした僕は発動中の炎槍を、槍を投げたオークナイトとオークキングへと撃ち込んだ。そして先輩のもとへ駆け寄りながらヒールを発動した。


 オークナイトはHPが残り少なかったのだろう。僕の魔法が直撃し消えていったが、オークキングは炎槍を避け先輩にトドメを差そうと近づいていった。それに対し僕は、オークキングを先輩に近づけさせないよう火球を放ち牽制した。


 僕の放った火球は先輩とオークキングの間に時間差で着弾し、なんとかオークキングを5mほど後退させることに成功した。


 そしてその隙に僕は倒れる先輩の前に立ち、杖をオークキングとへと向けた。


「先輩! 大丈夫ですか! 先輩! 」


 僕は背後で倒れる先輩に大声で呼びかけたが反応がない。


 マズイ……先輩は気を失っているみたいだ。HPは……大丈夫だ。傷は塞がっている。


 ゆすり起こしたいけどオークキングはもう目の前だ。膝をついていたもう一匹のオークナイトも立ち上がっている。先輩を起こすために背を向けるわけにはいかない。


 残りMPは20。炎槍2発と火球2発分しかない。


 僕の今のレベルの魔力値ではオークキングには致命傷を与えられない。オークナイトを倒すのがやっとだ。


 MPが満タンで動き回れれば勝ち目もあったかもしれない。いや、それでもレベル30くらいないと無理かも。


 今は先輩が気がつくまで僕がオークキングを足止めするしかない。先輩さえ動ければ勝ち目はある。


 怖い……


 賢者の僕がたった一人で、しかも至近距離でオークキングとオークナイトと戦うなんて……


 足が震える……


 僕一人で防ぎきれるか自信がない。間合いを詰められたら僕に逃げ場はない。


 死……


 ここは僕が創造した物語の世界だ。死んでも大丈夫なはず。


 それでも……怖いものは怖い。死んだことなんてないんだから……


 でも僕の後ろには気を失っている先輩がいる。


 この世界の先輩は本物の先輩じゃない。神様に創造された先輩だ。

 いくら先輩と同じ姿をして同じ記憶を持っていたとしても、目が覚めてこの世界でのことを知らない現実の先輩と話す度に、この世界の先輩は創られた存在なのだと嫌でも実感させられる。


 けど、それでもいま僕の後ろにいる女性……傷だらけのこの女性は、僕のわがままに嫌な顔一つせず付き合ってくれた。


 この女性が僕の知る、優しくて強い鬼龍院先輩でなくて誰だって言うんだ?


 戦っている時のあの姿は、僕が先輩に初めて会った時の姿そのものじゃないか。


 そう、後ろにいるのは僕が好きな先輩だ。だったら……


「僕が守る! 『火球』! 『炎槍』! 」


 僕は余裕の表情で歩いてくるオークキングとオークナイトの手前2mの位置に、火球を叩きつけるように放ち地面をえぐり爆発させた。


 そして土煙が上がり視界が悪くなったところに炎槍を放った。


 それは功を奏し一本の炎の槍が先輩との戦闘で破損したらしき、むき出しになっているオークナイト腹部を貫いた。そしてオークナイトは消えていった。それと同時に残り二本の槍はオークキングの下半身の鎧へと着弾した。


 炎槍はオークキングの鎧により阻まれたが、副次効果により腹部から下を炎に包みこんだ。


 《ブゴオォォ! 》


 しかしオークキングは下半身が燃えるのを構わず、憤怒の表情を浮かべ僕へ向かって駆けてきた。


「なっ!? くっ……『火球』『炎槍』! 先輩! 起きてください! 先輩! 先輩! 」


 僕は最低でも足止めをして時間を稼げると思っていたから一瞬慌てた。しかしすぐに剣を振り上げ迫ってくるオークキングの足もとに火球を再び放ち、三本の炎の槍を発動した。


 だがさすがに何度も使っている火球は見破られ、オークキングは横に飛び退き避けた。


 僕は心の中で舌打ちしつつも、飛び退いたことで一瞬動きが止まったオークキングの首へと最後の魔法を放った。


 その炎の槍はオークキングに当たったかのように見えた。しかし実際はオークキングはその場で半身になり二本の炎の槍を避け、最後の一本は剣により受け止めてみせた。


 駄目だったか……


 僕は剣を下ろし憤怒の形相で迫るオークキングへ腰に差していた短剣を構え、震える足に力を入れて駆け出した。


 短剣の扱い方は先輩に少し教わった程度だ。僕がオークキングと打ち合えるはずはない。


 けど、少しでも時間が稼げるなら。先輩から少しでも遠いところで足を止めることができるなら!


 僕は……


「うあぁぁぁぁぁ! 」


 僕は短剣を両手で構え、大声で叫びながらオークキングへと短剣を振り上げた。


「がふっ! 」


 しかしあっさりとオークキングの大剣により、僕は腹部を深々と突き刺された。


 そりゃそうか……短剣と大剣だものね……でも……


「まだ……まだ……いがぜ……ない……ぜんばいのとこへ……は……いがぜないっ! 」


 僕は腹部の焼きつくような痛みに耐えながらも、手を伸ばしオークキングの大剣の柄の部分を両手で掴んだ。


 オークキングはその僕の行動に焦ったのか、剣を抜こうとしている。けど僕はそれをさせない。HPは残り1割にまで減り、今も減り続けている。MPも無い。初級HPポーションも入れていたポーチごと大剣で突き刺されたみたいだ。


 この剣は抜かせない。この剣が抜ければ次は先輩が同じ目にあう。それだけは……それだけは絶対にやらせないっ!


 オークキングが僕を蹴りつけ、剣を抜こうとしているのを必死に踏ん張って僕は耐えていた。


 そしてついに背後から先輩のうめき声が聞こえた。


「うっ……」


「ぜんばい……よがった……立っで……ぐだざい……」


 僕が後ろへと首を向けると、身を起こし腹部を押さえている先輩の姿が目に映った。


 やった……先輩が気が付いた……あとはオークキングに先輩が殺されないように僕が……


 僕は先輩が気が付いたことで最後の力を振り絞り、激痛に耐えながら腕に力を入れ両足を浮かせ大剣の柄の部分へと絡ませた。


 これでこの剣は封じた……先輩……今です……今なら……


「つ、土御門……君? あ……ああ……なにを……何をしているんだ貴様ぁぁぁぁ! 『縮地』! 『二連撃』! あぁぁぁぁ! 」


 《ブゴオォォォ! 》


「うぐっ……はぁはぁはぁ……やった……」


 僕は鈍い音とともに掴んでいた大剣ごと地面に落ちた。そしてこれで勝てると、この世界の先輩が死ななくて済むと安心していた。


 大剣にはオークキングの肘から先が付いたままだったからだ。


 そう、先輩がオークキングの腕を切り落としたんだ。


 片腕と武器を失ったオークキングなんて先輩の目じゃない。


 ははは……僕の先輩は強い。寒い……なんでこんなに……ああそうか……死ぬのか僕……HPは……なんだ0か……そりゃ死ぬよね……頑張ったよね僕……これなら目標ポイントいくよね神様……お願いします……僕の好きな先輩を助けたいんだ……


 僕は急激に体温を失っていっているのか、全身に凍るような寒さを感じながらもオークキングと戦う先輩を見ていた。


 ああ……先輩は強いな……オークキングがズタズタだ……でも先輩……なんで泣いて……るの? 僕は先輩が戦って……いる時に見せる……美しくも……妖しい表情が好き……なんだ……先輩……この世界の……先輩……ごめん……なさい……僕はこんなに優しい先輩を……僕はこのあと……ごめんな……さい……」


 僕は泣きながら戦っていた先輩が、オークキングの首を切り落としたのを見届けて意識を手放した。


 この世界の先輩に懺悔しながら……



※※※※※※※※※※


やっとここまで来ました。


文庫本一冊分のつもりで書き始めましたが、少しオーバーしそうです。あと少しで

完結しますので、もう少しお付き合いください。


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