第28話 連戦
「『火球』! 『火球』! くっ……鬼龍院先輩! 東から新手のオークが5匹こっちへ向かってきています! 」
僕は停車しているバギーを守るように立ち、後方からやってくる5匹のオークの足もとを狙い魔法を放ち足止めをした。しかしそのタイミングで発動中の探知魔法に、新たなオークの集団の反応が現れた。
僕はすぐさまバギーの前方で、4匹のオークと交戦中の先輩に新手の敵が接近していることを告げた。
「土御門君! やるしかないだろう! 君は後方のオークの殲滅に集中してくれ! 東の新手は私が対応する! 」
「はい! 『竜巻刃』! 」
僕は先輩に返事をした後に、足もとの火を消そうと立ち止まっている後方のオークたちへと竜巻刃を放った。
僕が放った竜巻刃は、4匹のオークをその範囲に巻き込み切り刻んだ。そして残る一匹に火球を放ち、後方から追いかけてきたオークを全て殲滅した。
くっ……やっぱり前衛がいないとMPの消費が激しい。
僕は残り半分となったMPの数値に眉をしかめ、MPポーションを取り出して飲んだ。そして前方のオークを倒し、東へと走り出した先輩の後を追いかけた。
日が暮れて森が闇に包まれてから6時間。
僕たちは次々とバギーの音に寄ってくるオークに苦戦していた。
夜の森は静かだ。そのせいで遠くまでバギーの音が響き渡り、四方からオークが次々と集まってくる。
そうなると前方からやってくるオークの数も増え、バギーからの遠距離攻撃だけでは道を切り開くことができないことが増えてきた。
そうなるとバギーから降りて戦うしかなくなるんだけど、そうしている間に置き去りにしたオークが追いついてくる。そしてその対応をしているとさらに新手のオークが現れるの繰り返しで、予想していたよりも先に進むことができないでいた。
僕はMPポーションを飲みながら先輩に追いつくと、先輩は恐らくオークウィザードの炎槍を受けたのだろう。左肩を焼かれながらもオークへと斬りかかっていた。
「先輩! ウィザードとアーチャーは僕が! 『ヒール』『プロテクション』『火球』! 『風刃』! 」
僕は先輩へとヒールを掛け、防御アップの魔法を念のため掛け直した。そして新たに魔法を発動しようとしているオークウィザードへと火球を放ち、その隣で弓を先輩に向けているオークアーチャーへ風刃を放ち牽制した。
「クッ……頼む! 『連撃』『縮地』! ハァッ! 」
「『竜巻刃』! 」
「いいぞ土御門君! これで終わりだ! ハアッ! 」
《ブギイィィィ! 》
「先輩! 肩の怪我は!? 」
僕はオークウィザードとアーチャーにトドメを刺したあと、最後の一匹を斬り倒した先輩へと駆け寄り肩の傷の具合を確認した。
「はぁはぁ……大丈夫だよ。もともとかすり傷だ。君の魔法でもう痛みもない」
「よかったぁ……」
「フフッ……今回は立て続けに現れてなかなかにスリリングな戦いだったな」
「はい。運悪く重なりましたね」
これまでなら前後のオークを倒したあと、東西からやってくるオークは牽制するだけで逃げることができた。でも今回はそんな余裕がなく戦うしか選択肢が無かった。
ここまで来る際に無理な突破を続け、1000あったバギーのHPも700まで減っている。オークキングのところまで、恐らくまだ半分くらいしか来ていないと思う。また無理をして突破をし、バギーを失うわけにはいかない。かといって毎回戦っていたら昼までにオークキングのところまでたどり着かない。
毎回戦うか逃げるかの難しい判断をしなくてはないないことから、僕も先輩も精神的にもかなり疲れていた。
「さて、急いで魔石を集めて戻ろう」
「はい。でもバギーのところへ戻ったら、少し休憩しましょう。こう連戦続きでは集中力が保ちません。思わぬ怪我の元になります」
本当は先を急ぎたい。でも僕より遥かに運動量の多い先輩に無理をさせることはできない。
「しかし……いや、そうだな。先ほどウィザードの魔法を避け損なった私が言ってもな……わかった。少し休憩しよう」
「ありがとうございます」
僕は提案を受け入れてくれた先輩にお礼を言い、急いで魔石を集めてバギーのところへと戻った。そしてマジックテントを展開して先輩に中に入ってもらい、僕は道端に落ちている魔石を集めてバギーの燃料タンクに入れた。
それから余った魔石を神ショップを開き換金し、使いきってしまったMPポーションを1つ購入した。
僕の今の最大MPは150。消費MP2分1のスキルを取得したから探知と風刃の消費MPは1になる。けど、プロテクションは2で火球は3。そして竜巻刃は5も消費する。それにいくら消費MPが1でも探知は常に掛けているし、前に進むほどオークはタフになってきているから、風刃ではもうほとんど牽制程度しか効果がなくなってきている。
そうなると火球と竜巻刃メインの戦闘となる。連戦により怪我もするようになってきたから、消費MP3のヒールもこれから頻繁に使うことになると思う。自然回復は1時間で10%ほどしかしない。これだけ連戦となると、回復したそばから使いきってしまう。
足らない……ほとんどトドメを刺さない戦闘だから、レベルはまだ1しか上がっていないし魔石も手に入りにくい。バギーの燃料にしても1時間に5つ魔石が必要でストックはもうない。MPポーションはパーティの命綱だから、買わないわけにもいかない。まさに綱渡りだ……
それでも前に進まなきゃ、そしてオークキングを倒さなきゃ。でないと現実の先輩が虫に喰われ死ぬ経験をすることになるんだ。
やるしかない。やるしかないんだ!
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「鬼龍院先輩! 100m先の正面にウィザード2含むオーク6! さらにその両側面の森から5匹ずつ道に出てこようとしている反応があります! 」
「土御門君! ここは強行突破だ! 止まれば囲まれる! 」
「わかりました! 行きますっ! 」
僕はバギーのアクセルを全開にしー、明るくなりつつある空をバックに前方で道を塞ぐように広がる6匹のオークへと突撃した。
ここで止まれば先ほど突破したばかりのオーク10匹も追いついてきてしまう。
ここも突破するしかない。しかし……
僕はサーチの魔法を発動し、バギーの残りHPを確認した。
【HP 360】
マズイ……これ以上オークの攻撃を受けるわけにはいかない。
「先ほど覚えたスキルを撃つ! 『乱刃』! 」
「はい! 」
先輩は後部座席で立ち上がり、つい先ほどレベル20になったことにより覚えたスキルを放った。
乱刃は飛刃の上位互換のスキルだ。命中率は落ちるけど、10以上の見えない刃を刀から放つことができる。
「よしっ! 土御門君! 道を開くんだ! 」
「すごっ! これなら! 『火球』『火球』! 」
僕は先輩のスキルにより全身を切り刻まれ、倒れようとしている中央のオークの足もとに向かって火球を放った。
レベル18になったことにより火力も上がった僕が放った2つの火球は、オークの足もとで爆発して道を塞いでいたオークを左右に吹き飛ばした。
そして空いたスペースへ僕はバギーを走らせた。
「土御門君! 頭を下げるんだ! 」
「はいっ! 」
しかし僕が倒れたオークの間を抜けようとすると、左右の森から4本の矢が飛んできた。
カンッ!
カンッ!
飛んできた矢は先輩が反応して2本を叩き落とすことに成功した。だが残りの矢はバギーへと当たってしまった。
『火球』 『火球』
僕は次の攻撃を撃たれないよう左右の矢が飛んできた方向に火球を放ち牽制し、なんとかその場から離れることができた。
「土御門君怪我は!? 」
「大丈夫です! ただバギーのHPは残り295になってしまいました」
「ギリギリだな……行けるところまでいくしかなかろう」
「はい……」
僕は先輩へと返事をしながらステータスを開き残り時間を確認した。
もうすぐ丸一日が経過する。ここまで疲労の限界から2時間の仮眠を取りはしたけど、それ以外ほとんど休んでいない。
ドリームタイム終了まで残り10時間。
オークウィザードとアーチャーの数が増えたことから、かなり進んだのはわかる。あとはオークナイトが現れれば、オークキングのいる集落が近くにあるという目安になる。
それまでバギーがもってくれればいいんだけど……
「大丈夫だ! 私たちならできる! 私と君なら必ずオークキングのもとにたどり着き、そして倒すことができる! 」
「はい! 」
僕は先輩の力強い言葉にを背に受け、不安な気持ちを吹き飛ばすように大きな声で返事をした。
そしてそれから5時間後。
バギーのHPをジワジワと減らしつつも、とうとう僕たちの目の前にオークナイトが現れた。
そのオークナイトは鉄の鎧を見にまとい、槍と剣をそれぞれ手にして道の中央で僕たちを待ち構えていた。
「あれが君が言っていたオークナイトか。やはりいたな」
「ファンタジーでは定番ですからね。さすがにあれは魔法では吹き飛ばせません。周囲に別のオークの反応は今のところありませんから迎え撃ちましょう」
「フッ……オークナイトの実力とやらが、どれほどのものか見せてもらおう! 土御門君は後方のオークウィザードとアーチャーを頼む! ナイト3体は私が……殺る! 」
「はい! 『炎槍』 」
僕はバギーを走らせながらレベル18で覚えた炎槍の魔法を発動した。
そして僕の頭上に浮かぶ3本の炎の槍を、オークナイトの後方にいるオークウィザード1体とアーチャー2体へ撃ち込んだ。
僕が放った炎の槍は真っ直ぐオークウィザードとアーチャーへと向かい、ウィザードが魔法を発動するよりも早くその身を炎の槍で突き刺し炎上させた。
しかしオークアーチャーへ向かった炎の槍は一本しか当たらず、残り一本はアーチャーに回避されてしまった。
「すみません! オークアーチャー残りました! 」
「構わんよ! バギーを止めてくれ! 鬼龍院小夜子……参る! 」
僕がオークナイトの手前でバギーを止めると、先輩は僕の頭を飛び越えてオークナイトへと駆けていった。
その時一瞬見えた先輩は
僕より疲労が激しいはずなのに、先輩はオークナイトを鋭い目で睨みながらも口もとが嗤っていたんだ。
これまでも何度も見たその表情に、僕は胸が高鳴るのを感じていた。
「援護しますっ! 『プロテクション』『火球』 」
僕は先輩の援護をするために防御の魔法を掛け、オークアーチャーの前にいる槍を持つオークナイトへと火球を放った。
そしてそれはオークナイトをよろめかせ、弓を構えていたアーチャーを吹き飛ばした。
「『乱刃』! 『剛力』『縮地』! ハアッ! 」
《ブゴォッ! 》
「凄い! 鎧の繋ぎ目を……僕も! 『炎槍』! 」
僕は嗤いながらオークナイトの剣を持つ右肘の鎧の繋ぎ目を狙い、切断した先輩に一瞬見惚れつつも炎槍の魔法を発動した。
そして頭上に現れた3本の炎の槍を、先ほど火球でよろめかせたオークナイトと、吹き飛ばされ片膝をついているアーチャーへと放った。
《ブオォォォ! 》
僕の放った3本の炎槍のうち1本がアーチャーを貫きその身を燃やした。しかし残り2本はナイトの足と胴にそれぞれ当たったが、鎧に阻まれ貫くことはできなかった。
だけどそれでもナイトをその炎で包み込むことには成功した。
その横では先輩が2匹目のオークの肩を下から切り上げて切断し、そのまま最初に肘を斬り落としたナイトへと向かいその喉へ刀を突き刺した。
その流れるような動きを見て先輩は大丈夫だと安心した僕は、炎に包まれ悶えているナイトへとトドメを刺すために竜巻刃を発動した。
しかしその瞬間。
オークナイトは炎に包まれながらも手に持つ槍を大きく振りかぶり、槍を僕の方へと投擲した。
僕は一瞬ギョッとしつつも横へと飛び、転げながらもその槍をギリギリ避けることに成功した。
ガンッ!
しかし槍は僕の後ろに止まっていたバギーへと突き刺さってしまった。
「しまった! ああ……バギーが……」
僕の視線の先にはHPが0になったのだろう。魔物と同じように消えていくバギーの姿が目に映っていた。
ああ……あと少しなのに……ここでバギーを失ってしまうなんて……
《ブオォォォ……》
僕には魔法により燃えながら切り刻まれ消えていくオークナイトの断末魔が、まるでざまぁみろと言っているように聞こえていた。
「はぁはぁはぁ……土御門君」
「先輩すみません。バギーを失ってしまいました」
僕は最後のオークナイトにトドメを刺し、刀を鞘に納めながら歩いてくる先輩に謝った。
「仕方あるまい。むしろよくここまでもってくれたものだ。バギーを失ったのは残念だが、まだ私たちには足がある。ここまできて止まるわけにはいかないだろう? 」
「……はい」
「なら魔石を回収して進もう。音が出ない分、オークとの戦闘は少なくて済むだろう」
「そ、そうですね。進みましょう。僕も死ぬ気で走ります! 」
そうだ。音が出ない分、オークに見つかる確率は低くなる。見つかったら逃げれなくなるけど、囲まれるようなことは少なくなるはずだ。
あとは死ぬ気で走るしかない。
大丈夫。この世界の僕の身体ならそれができる。
「ならば急ごう! 先へ! 」
「はい! 先へ! 」
そうだ。進むしかない。
進むしかないんだ。
そしてそれから3時間後。
必死に走り戦い続けながら先へと進んだ僕たちは、オークの集落と思える場所へたどり着いた。
ドリームタイム終了まであと2時間。
僕と先輩による、オークキングとの命懸けの戦いが幕を開けようとしていた。
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