第27話 バギー

 




「き、鬼龍院先輩! 前方にオーク4体道をふさいでいます! 」


「承知! 土御門君は火球で散らしたあとは運転に集中してくれ! 」


「はい! 『火球』 」


 僕は後部座席で立ち上がり、刀を抜いた先輩に返事をしてから火球の魔法を放った。


 バギーを運転しながら放った直径1mほどの火の玉は、中央のオークの足元に着弾し爆発した。


 オークには爆発により飛び散った火の粉と小石が襲い掛かり、それに驚いたオークたちは道の両端に飛び退いた。


「いいぞ土御門君! 足を狙う! 『飛刃』! もう一回! 『飛刃』! 」


「抜けます! 」


 僕はオークたちの太ももが先輩の放った見えない刃によって切り裂かれ、片膝をついたタイミングで幅3mほどの道の真ん中をバギーで走り抜けた。


 森の中のこの道はチュートリアル用とはいえ、舗装されているわけじゃない。けどこのバギーなら、どんな悪路だって走り抜けることは可能だ。


「土御門君。今回も上手くいったな」


「先輩の正確なスキルのおかげです。揺れるバギーの上に立ったまま、二度の攻撃で4体のオークの太ももを切り裂くなんてさすがです」


 僕は後ろのシートに座り、片腕を僕の腰に回しながら楽しそうにしている先輩を前を見ながらも絶賛した。


「ふふふ、ありがとう。水に浮かぶ丸太の上で剣を振ってたからな。バランス感覚には自信があるんだ」


「水の上でですか!? 僕だったら立つこともできないですよ」


「最初は皆そうさ。私からしてみればこの悪路でバギーを運転できる君も大したものだと思えるよ」


「僕の場合はたまたま森の中で運転したことがあっただけですよ」


 小さい頃から父さんに連れられて、富士のバギー施設に何度も通ってた経験を生かせてよかった〜。


 そのおかげで時間短縮もできるしね。これも神様のおかげだ。


 僕はバギーのハンドルを握る手をチラリと見て、バギーの価格をあまりいじらないでいてくれた神様に感謝した。




 今朝先輩の協力を得ることに成功した僕は、マジックテントを出て神様ショップで初級HPポーションを6つと初級MPポーションを3つ。そしてこの2人乗りバギーを購入した。


 バギーは10万Zで、所持金の3分2をこれ一台買うのに使ってしまった。


 ちなみにHPポーション(小)は一つ3000Zで、飲むとHPを即時30%回復してくれる。


 MPポーション(小)は一つ10000Zで、こちらも飲むとMPを即時30%回復してくれるものだ。


 ただ、両方とも連続使用はできず、30分は間を空けないといけないという制限がある。


 バギーを購入した時は、突然現れたバギーに先輩は目を丸くして驚いていた。まさかファンタジー世界にバギーが現れるなんて思っていなかっただろうしね。僕が神様ショップで売っていましたと言ったら、何でもありだなと言って笑っていたっけ。


 そして先輩に作戦を伝え、運転経験があり遠距離攻撃しかできない僕が運転することになった。


 作戦とはバギーで進む間はオークの足止めに徹し、とにかく先に進むことを優先するという単純なものだ。


 僕が運転しながら魔法を発動して、先輩は後ろのシートで遠距離系のスキルを使いつゆ払いをする役割となる。


 ただ、こんなに便利なバギーだけど欠点がある。それは燃費の悪さだ。バギーを1時間走らせるためには、オークの魔石5個が必要になる。オークの魔石は換金すれば1個1000Zだから、1時間で5000Z燃料費がかかる。これはコンビニ弁当10個分に相当する。


 バギーを安く買うために制限をかける必要があったからこれは仕方ない。


 だから最初は出会うオーク全てを倒して魔石を回収した。それで20個ほどプールしてから、足止めをして距離を稼ぐ戦いに移行したんだ。


 出発してから5時間が経過した今のところは順調で、この調子なら明日の昼までにオークキングのところへたどり着けると思う。


 ただ、もうすぐオークアーチャーやオークウィザードが出てくると思う。そうなるとバギーはいい的になる。早期発見先制攻撃を徹底していかないと足を失ってしまう。


 このバギーはHPがあって、それが0になると消えてしまうんだ。その代わりHPがある限りは、タイヤに攻撃を受けたとしてもパンクしたりはせず走れる。


 ちなみにHPは1000で、当然ヒールで回復などはできない。そこまで設定しちゃうと高額になると思ったからしていない。


 僕はそんなことを考えながらも、こまめに探知の魔法を発動しつつ凹凸の激しい道をバギーで進んでいた。


 すると100mほど先の森の中から、僕たちが進む道に向かって複数の魔物が集まって来る反応があった。


 バギーは速いけど大きな音を出すから、魔物に見つかりやすいのが難点なんだよね。


「先輩! 100m先に6体の魔物反応があります! そろそろ弓や魔法を使うオークが現れると思うので注意してください! 僕が最初に撃ちます! 」


「承知した。ただMPが心許なくなってきた。次は降りて戦うことにする」


「はい! 援護します! 」


 僕は先輩にそう返事をし、進行方向にバギーの盾になりそうな物とバギーを置けるスペースが無いか探した。


 すると30mほど先に大きな岩と、その手前にバギーを置けそうなスペースがある場所を見つけた。


 僕は急いで岩へ向かい、その手前にバギーを置いた。そして先輩と一緒にバギーから降り、オークと思われる反応が近づいてくるのを待った。


 そして3分ほどして道に現れたのは、弓と杖を持つオークの集団だった。


 やっぱり現れたか。


 通常の棍棒を持つオークが3体に、オークアーチャーが2体。そしてオークウィザードが1体。


 先に飛び道具を使うオークを潰さないと!


「土御門君! 」


「はい! 『プロテクション』『竜巻刃』 」


 僕は岩の陰から飛び出す先輩に防御魔法を掛けた後に、一番火力があるオークウィザードを中心に竜巻刃の魔法を発動した。


 僕が放った竜巻刃はオークウィザードを切り裂き、その隣にいたオークアーチャー1体も巻き込んだ。


 《ブヒヒヒィィン! 》


「ハァァァ……破ッ! 」


 そして背後の悲鳴に振り向いたオーク三体へ先輩が一気に間合いを詰め、一番先頭の棍棒を持つオークの腕を切断した。


 そしてそのまま後方にいたオークに先輩が斬りかかろうとしたところで、僕の魔法から逃れた1体のオークアーチャーが先輩へと弓を構えた。残りのアーチャーはウィザードと一緒に既に魔石となっている。


『火球』


 僕は生き残りのオークアーチャーへ、すかさず火球を放った。


 僕の魔法を胸に受けたオークアーチャーは破裂した火球の炎に上半身を包み込まれ、火を消そうと地面を転げ回った。


 火球だけじゃHPを削りきれないのはわかってる。でもそれでいい。


 僕の視界には前衛のオーク三匹を倒した先輩が、転げ回っているオークアーチャーへと駆け寄る姿が映っていた。


 先輩はオークアーチャーへと近付くと、その首に刀を差し込みトドメを差した。


「ふむ。ゴブリンアーチャーよりはタフだが、同じ連携でいけそうだな」


「はい。竜巻刃さえ当たればなんとか削れそうですね」


 竜巻刃は発動に少し時間が掛かる。先制するか、動かない後衛を攻撃する時に使うのが一番成功率が高い。


 強力だけど、なかなかに使いどころが難しい魔法だ。


「アーチャーとウィザードさえ処理してくれればいいさ」


「はい。オークウィザードの魔法を撃たれる前に倒すようにします」


 オークウィザードの魔法は火球の上位互換の炎槍だ。僕もあと少しで覚えられる魔法だけど、これをまともに受けたら僕たちのレベルだとHPの3分1は持っていかれると思う。そんなもの受けるわけにはいかない。


「頼りにしているよ。では魔石を回収して先へ進もう」


「はい! 」


 それから僕たちは魔石を回収してから再びバギーに乗り込み先へと進んだ。


 その後は途中でコンビニ弁当を食べて休憩をした時に、ステータスを確認したらレベルが上がっていた。


 先輩はレベル18に、僕はレベル16になっており、特に新たな魔法やスキルを覚えていない。僕が次に覚えるのはレベル18だしね。


 先輩はスキルポイントで斬鉄のスキルを取ろうか迷っていたみたいだけど、貯めて敵の動きがスローに見える心眼を取ることにしたみたいだ。これはスキルポイント20ptで取得できる。


 ちなみに現状のステータスはこんな感じだった。



 土御門 優夜


 Lv.16


 職業: 賢者


 HP: 95


 MP: 143(95)


 力: 40


 防御: 38


 魔力: 44


 素早さ: 43


 SP: 2


 魔法: 生活魔法・火球・風刃・竜巻刃・夜目・プロテクション・ヒール・探知

 キュア・サーチ


 スキル: 空間収納(小)・MP消費減少(2分1)・MP増加(1.5倍)


 加護: 創造神の加護(神ショップ利用可能)





 鬼龍院 小夜子


 Lv.18


 職業: 侍


 HP: 132


 MP: 20


 力: 52


 防御: 47


 魔力: 0


 素早さ: 102


 SP: 10


 職業スキル: 威圧・暗視・二連撃・飛刃


 スキル: 空間収納(小)・身体強化(弱)・身体強化(中)・身体強化(大)・縮地


 加護: 刀神の加護(刀神への昇格可能・HP減少時素早さ上昇)




 食事を終えた僕たちは、明るいうちにできるだけ先に進むために早々に出発した。


 それから8時間。僕たちは途中何度か戦いながらも、ただひたすら先へと進んでいった。


 そして日が暮れて夜となり、森は闇に包まれていった。


 いつもならここでマジックテントに入り休むのだけど、僕は夜目の魔法を、先輩は暗視のスキルを発動して夜の森をバギーで駆け抜けた。


 そしてこの夜。僕たちは、同レベルのオークと深夜に連戦することの厳しさを思い知ることになるのだった。



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