第26話 戦う理由

 


 カチャッ


 ジュー


「ん……朝……?」


 僕はキッチンからの物音で目を覚ました。


 あ、そうか。昨日の夜は夢の世界で眠ってからタイムアウトしたんだった。


「起きたか土御門君。もうすぐ朝食ができるから待っていてくれ。ああ、卵と牛乳がもう切れそうなんだ。神ショップで補充しておいてくれないか? 」


「あ、はい! 買っておきます」


 僕はキッチンで料理をしながら振り向き声をかけてきた先輩に、そう返事をしてソファーから起き上がった。


 そして神ショップを開いて牛乳と卵を買い、冷蔵庫に補充した。


「ありがとう土御門君。もう少しで焼き上がるからソファーで待っていてくれ」


「はい。いつもすみません。料理もその……洗濯も」


「ふふふ、いいさ。私が好きでやってることだからな」


「ありがとうございます」


 僕は機嫌良さげにそう答える先輩に頭を下げてソファーへと戻った。


 この世界の先輩は上機嫌だなぁ。現実世界の先輩とは大違いだ。


 やっぱり別人……なんだよね。


 恐らく召喚を使ったら、いま目の前にいる先輩の意識は消えてしまうんだろうな……それって創造したキャラクターとはいえ、この世界の先輩を僕が殺すってことになるのかな……


 いや、入れ替わって消えてしまうのではなく、同化する可能性だってある。そのまま現実世界の先輩の魂と記憶だけ入る的な……それならここにいる先輩は先輩のまま……のはず。でもそうじゃなかったら……


 駄目だ! 深く考えたら動けなくなる。現実世界の先輩を救うにはやるしかないんだ!


 僕は深く考えるのをやめ、現実世界の先輩を救うことだけを考えて実行するしかないと自分に言い聞かせた。


 でもそのためには夢と世界の先輩の協力が必要になる。


 一週間で着く予定だったボスのところまで、1日半で着くようにするには相当な強行軍になる。全ては話せないけど、先輩を納得させ協力してもらわないと不可能だ。


 僕はどう説明しようか考えながら、朝食ができるのをソファーで待つのだった。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「ごちそうさまでした」


「土御門君。今日の朝食は口に合わなかったか? 」


「え? いえ! 美味しかったですよ! 」


 僕は目の前で少し残念そうな顔をしている先輩に、両手を振ってそんなことはないと答えた。


 いけない。考え事をしてたから顔に出たのかも。


「そうか。いや、食事中ずっと暗い顔をしていたから、嫌いなものでもあったのかと思ってな」


「そんなことないです! ちょっと考え事をしていて……」


「何か悩み事でもあるのか? だとしたらこの世界には私には君が、君には私しか頼れる者がいないんだ。一人で抱え込まず相談して欲しい」


「ありがとうございます鬼龍院先輩……その……実は……毎日ではないんですけど、どうやらこの世界で寝ている時に僕の意識は元の世界に戻れるみたいなんです」


 僕は考えた末にこの世界が夢の中の世界であることは伏せ、寝ている間だけ現実世界に戻れることにした。


 これなら全てが嘘ではないし、なんとか先輩を納得させられることができると思う。


「それは本当か!? 夢とかではないのか? 」


「いえ、この世界のように五体の感覚がありますので……元の世界で眠るとこの世界の僕の身体に意識が戻るみたいなんです」


「身体に意識が戻るというと、元の世界にも君が? 」


「はい。僕がいます。その……先輩もいました」


「私もか!? 」


「はい。いつも通り生活をしていました。恐らく召喚された時に元の世界に影響が無いように、僕と鬼龍院先輩がいることになっているのかと」


 ちょっと苦しいけど、こんなファンタジー世界にいるんだしなんとかいけると思う。


「つまり私がこの世界に来た時に、元の世界に私が創られたということか……なんともSF的な話だな」


「もしかしたらパラレルワールドに僕が行っている可能性はありますが、鬼龍院先輩がいることは確かです。それでその……実は元の世界で助けたい人がいるんです」


「助けたい人? 」


「はい。その人は凄く辛い思いをしていて、なんとかして助けてあげたいんです」


「フッ……土御門君らしいな。君は優しいからな。そうか、その助ける方法について悩んでいたのか」


「いえ、方法はもう決まってるんです。この世界で明日の昼ごろまでにオークキングを倒すことで、助けることができると思います」


 あと32時間以内に格上のオークキングを倒せば、高ポイントが入るはず。投稿した小説の評価とこのドリームタイムの評価が505ptを超えれば、先輩を助けることができる。


「この世界で魔物を倒すと、元の世界の人間を助けることができるということか? ちょっとよくわからないな」


「その……詳しくはわからないのですが、この世界で活躍すればするほど元の世界の僕の能力が上がるんです。助けたい人はもうギリギリで、明日の昼ごろまでにたくさん活躍しないといけないんです」


 僕は一番無理がある設定を先輩に話した。


 嘘じゃない。ポイントを得ることができれば、召喚という能力が使えるようになる。そうすれば先輩を助けることができるし。


「活躍をすれば元の世界の君の能力が上がるのか? それは……なんとも信じ難い話だが、君がそこまで真剣に話すのだ。恐らく本当なのだろう。ふむ……オークキングを倒せば活躍したということになるんだな? ならば一緒に倒しに行こうではないか」


「あ、ありがとうございます! ですがゴブリンキングを見つけるまでの時間から、オークキングが現れるのはまだ先になると思います。恐らく強行軍になりますし、オークキング自体もかなり強いと思います。そのうえゴブリンキングのように、手下を多く周りに置いている可能性も高いです。正直に言って命懸けの戦いになると思います」


 僕の言葉を信じて力を貸してくれる言ってくれた先輩に、罪悪感を感じながらもオークキングとの戦いは命懸けになることを先輩に伝えた。


「フフフ……命懸けの戦いか。それは望むところだよ」


「あ、ありがとうございます」


 僕は妖しい笑みを浮かべる先輩に、一瞬見惚れそうになりながらも頭を下げお礼を言った。


 やっぱり先輩には愚問だったみたいだ。凄く楽しそうだし。


「フッ……しかし慎重な君がそこまで無茶をして、命懸けで戦おうとするとはな……その人は大切な人なのだな」


「はい。僕にとってかけがえのない女性なんです」


「女性なのか……」


「あっ! は、はい……」


 しまった! ウッカリ女性だと言っちゃったよ……


「ふふふ、そんなに恥ずかしがるな。そうか……そこまで想ってもらえるとは羨ましいものだな」


「え? 」


「いや、なんでもない。ならばその女性を助けるためにオークキングを倒しに行こう。なに、私たちならできるさ」


「は、はい! ありがとうございます! あの、それでその準備のために今まで貯めたお金を全部使うことになってしまうんですが……」


「格上と戦うのだ当然良い装備が必要だろう。もともと君の防具のために貯めていたお金だ。好きに使うといい」


「ありがとうございます。ただ魔法の防具を買うにはまだ足らないので、強行軍に必要な物を買わせていただきます」


 今の持ち金は15万zだ。魔法の防具は20万zはする。だから寝る前にご都合主義で神ショップに追加した魔道具と、先輩の道着の上からつける防具やHP回復ポーションやMP回復ポーションを買うつもりだ。


 魔道具は起きた時に卵と牛乳を買う時に確認してある。色々と制限を付けたから、なんとか買える値段になっていて安心したよ。


「君にまかせるよ。それでは私は着替えてくるとするよ。フフフ……命懸けの戦いか………心が踊るな」


「はい! 僕もすぐ準備して着替えます! 」


 僕は楽しそうに脱衣所に向かう先輩にそう言い、神ショップを開いて必要な物を購入した。


 そして着替え終え、闘志を漲らせている先輩とともにテントを出たのだった。



 なんとか先輩の協力を得ることができた。


 あとはオークキングのところまで全てを振り切ってたどり着く……そして必ず倒してみせる!



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