第22話 信頼関係

 




 夢の世界の3日目。


 この日は先輩の後ろを付いていき夜遅くまで12時間ずっと戦い続けた。


 先輩のペースに付いていくのはキツかったけど、まるで水を得た魚のように生き生きと戦う先輩を見ていたら付いて行かなきゃって思えたんだ。


 おかげでレベルはかなり上がった。でも僕はもうクタクタで、トイレ休憩の時にドリームタイムがタイムアップした時は助かったとさえ思えたよ。


 そして現実世界で目が覚め、土曜日の休みということもあって一日中小説の更新と書き溜めをずっとしていた。総合ポイントが750ptを突破してランキングが上がったのも僕のやる気を後押ししていた。


 それから部屋で眠りについて夢の世界の夜の森で目が覚め、前日の続きからスタートして1時間ほど経過してやっと夢の世界での3日目の戦いを終えた。こんな夜遅くまで戦うことになるなんて、暗視のスキルを作ったことを少し後悔した。


 マジックテントでは先輩の手料理を食べてから、だいぶレベルアップしていたのでお互いに相談しながらスキルポイントで新しいスキルを取得した。そして順番にお風呂に入り眠りについて3日目の冒険を終えた。


 もうこの世界の身体はクタクタだったからすぐ眠れたよ。


 そして今朝マジックテントで目が覚めると先輩が朝食を作ってくれていて、冒険の準備をしてから4日目の冒険をスタートしたんだ。


 森に出てから数時間ほどすると、探知の魔法で今までにない数のゴブリンの反応を見つけた。


  僕はストーリーを思い出しゴブリンエリアの最後のボスである、ゴブリンキングがいる集落だと確信して先輩にボスがいるかもしれないとそれとなく伝えた。


 それから慎重に集落に近付き、集落入口にいたゴブリン6匹を奇襲して集落へと乗り込んだらゴブリンキングらしき個体が出てきたんだ。


 


「土御門君あのゴブリンキングは私がやる! 援護を頼む! 『威圧』! 」


「はい! 『プロテクション』『火球』『風刃』『風刃』 」


 僕はゴブリンの集落の奥に突っ込んでいく先輩に、防御力アップの魔法をかけた。それからゴブリンキングの背後で先輩の威圧のスキルを受け硬直している、ゴブリンアーチャー2匹とゴブリンウィザード1匹に向けて立て続けに攻撃魔法を放った。


 ゴブリンたちは何もできないまま僕の魔法に焼かれ、そして切り裂かれ倒れていった。


「さすがだ土御門君! いくぞ! 『縮地』! フッ…… 『二連撃』! 」


 《グギィィィ! 》


 先輩は護衛を失った体長180cmほどのゴブリンキングへスキル縮地で一気に間合いを詰め、スキル二連撃を発動し刀を横なぎに振り切った。


 ゴブリンキングは突然目の前に先輩が現れたことで動揺したのか一瞬動きが止まり、手に持つ錆びた大剣で防御することもできずに胴を二度切り裂かれ、下半身と泣き別れることになった。


「ふむ……こんなものか」


「『風刃』『風刃』……こっちも終わりました」


 僕は周囲にいたゴブリンを掃討した後に、先輩の隣へと移動した。


「土御門君。君の魔法のおかげで厄介な飛び道具を持つ、多数のゴブリンを相手にしても余裕だったよ。私一人では相当苦戦しただろう」


「僕一人だったらゴブリンキングには勝てませんでしたよ。一撃で倒すなんてさすが鬼龍院先輩です」


 僕だったら間合いを詰められたら終わりだ。先輩というアタッカーがいてこそ安心して魔法が撃てるんだ。


「縮地のスキルと二連撃のおかげだな」


「取得したばかりなのにもう使いこなしているのに驚きですよ」


 縮地は10m以内であれば一気に間合いを詰めることができる、瞬間移動とも思える強力なスキルだ。二連撃も攻撃が当たった場所に同じ威力のダメージを追加で与えることができる。


 まだ取得したばかりのスキルなのに、その両方とも使いこなしている先輩の戦闘センスは本当に凄い。


「ふふっ、まだまだ練習が必要だけどな。それより魔石を回収してしまおう」


「はい! 」


 僕は先輩と手分けして、ゴブリンの亡骸があった場所に転がっている魔石を回収していった。


 しかしこんなに早くゴブリンキングを倒すことになるなんてね。


 これから先は巨体でパワーのあるオークが出てくるから、今までのようにはいかない。気を引き締めていかなきゃ。


「土御門君。どれくらいになった? 」


「えーと……全部で28000z(ゼニー)ですね。ゴブリンキングは2万Zでした。これで総資金が86000zですね」


「順調に貯まっているな。この調子で稼いでいけば魔法装備も手に入るな」


「そうですね! 先輩の魔法刀『村雨』を手に入れるために50万z貯めましょう! 」


「ふふっ、それはいずれでいいよ。まずは防具と魔法のアクセサリーからだ。いくら回復魔法があっても、即死しては意味ないからな」


「先輩の場合は攻撃は最大の防御って感じがしますけどね。矢を避けた時は驚きましたよ」


 確かに魔法の防具は耐久力がかなり高い。それに敵の攻撃を1日一度だけ守ってくれる指輪とかも神様ショップで買える。


 けど先輩はほとんどの攻撃を避けちゃうから、必要ないんじゃないかって思えるんだよね。


「ステータスが上がったからだよ。思った以上に身体が動くからできただけだ。今はそれが通用する相手だからいいが、今後もそういう敵ばかりとは限らんだろう? それになによりも君が攻撃を受けた時が大変だ」


「うっ……それを言われると……」


 確かに僕は装備制限で革鎧とかは着れない。昨日の夜に買った革の胸あてが限界だ。それに先輩ほど素早くないし、攻撃の避け方とかもわからない。うん、最初に死ぬのは僕だよね。


「ローブと革の胸あてしか着れないのなら、君の魔法のローブから買う。私のはそのあとでいい。君はこのパーティのリーダーだ。パーティの生存率を上げるのもリーダーの役目だろう? 」


「ううっ……はい」


 僕はレベル10になってパーティを組めるようになってリーダーになったことを突かれ、渋々頷くしかなかった。


「ふふっ、それだけ君を頼りにしているんだ。君にいなくなられては私一人になってしまうからな。この世界に私を置いていかないでくれ」


「はい! 先輩を置いて先に死んだりしません! 」


 先輩にいなくなられたら寂しいと思ってもらえてる! これが吊り橋効果というやつかな?


「ふふっ、私が守ってみせるさ。防具は万が一の備えだよ。さて、今のでレベルが上がっただろうから、確認してみよう。何かスキルを覚えているかもしれない」


「はい! ステータス」


 僕は先輩の言うとおりステータスの確認をした。




 土御門 優夜


 Lv.13


 職業: 賢者


 HP: 82


 MP: 80


 力: 33


 防御: 32


 魔力: 37


 素早さ: 37


 SP: 6


 魔法: 生活魔法・火球・風刃・プロテクション・ヒール・探知

 キュア・サーチ


 スキル: 空間収納(小)・MP消費減少


 加護: 創造神の加護(神ショップ利用可能)


 所持金:86000z



 うん、レベルが一つ上がってる。そして設定通り魔物の残りHPがわかる『サーチ』の魔法を覚えてる。次はレベル15で強力な攻撃魔法を覚えるからもう少しかな。


 先輩はどうだろう? 僕はステータス横のパーティメンバーである先輩の名前をタップした。

 これは事前にお互い好きに見せ合おうと話してあるから、先輩の了承済みだ。




 鬼龍院 小夜子


 Lv.15


 職業: 侍


 HP: 115


 MP: 15


 力: 40


 防御: 39


 魔力: 0


 素早さ: 87


 SP: 4


 職業スキル: 威圧・暗視・二連撃・飛刃


 スキル: 空間収納(小)・身体強化(弱)・身体強化(中)・身体強化(大)・縮地


 加護: 刀神の加護(刀神への昇格可能・HP減少時素早さ上昇)



 先輩もレベルが一つ上がって『飛刃』のスキルを覚えてる。これはMPを2消費するけど、遠距離攻撃ができる便利なスキルなんだ。僕の出番が減りそうだけど。まあ先輩はMP少ないから連発はできないから大丈夫だと思う。二連撃もMPを2使うしね。



「ふむ……飛刃か……MPを使うがなかなか使い勝手が良さそうなスキルだな。土御門君のサーチも今後は重宝しそうだ」


「恐らく今後はHPの多いボスとか出てくると思いますからね。あとどれくらいで倒せるのかわかれば戦いやすいですね」


「そうだな。終わりが見えないのと見えるのとでは、戦術が変わってくるからな。よし、それでは先に進もう。試し撃ちもしなければならないからな」


「は、はい……」


 僕はやる気満々の先輩に休憩しましょうなどとは言い出せず、黙って後を付いていくことしかできなかった。


 おかしい……もっとこういっぱい会話をしながら、和気あいあいと冒険するのを想像してたのに……


 僕は定期的に探知の魔法を発動し魔物のいる方向を先輩に教え、そこへ向かって戦っての繰り返しに想像していた冒険とかけ離れていることを感じていた。


 それでも先輩の手料理を食べて一つ屋根の下で生活できるんだ。夜は疲れて会話する気力がないけど、お風呂上がりの薄着の先輩を毎日見れる幸せを考えれば……


 うん、贅沢を言ったら駄目だよね。ちょっと戦闘好きの先輩だけど、しっかり付いていってサポートをしていくことが信頼関係を築いていくのに必要なんだ。続けていけばいずれ先輩と深い仲になれる。たぶん。


「土御門君。魔物はどこにいる? 」


「は、はい! 『探知』! 東に100mほどのところに1つ反応があります。ゴブリンでは無さそうです」


「新手の敵か。昨夜土御門君が言っていたオークという魔物かもしれないな。これは楽しみだ」


「オークは巨体でパワーがあるので要注意です」


「ふふっ、戦い甲斐のある相手ということだな。土御門君! 行こう! 」


「は、はい! 」


 いてもたってもいられず東に駆け出す先輩の後を、僕は必死に追い掛けるのだった。


  その後、初のオークとの戦闘も問題なくこなすことができた。オークが2体同時に現れてもなんとかなった。


 昼食を食べている時も思ったよりは苦戦しないでいられることに安堵していた。


 しかしそれから数時間ほど森を進み、今度はオークが3体同時に現れるようになった。


 辺りも暗くなってきていたとうのもあったけど、さすがの先輩もオークの攻撃を受け吹き飛ばされてしまった。僕は一瞬パニックになりかけたけど、牽制の魔法を放ちながら急いで先輩のところへ走った。そしてヒールを掛けながら魔法を連打してなんとかその場を切り抜けることに成功した。


 やっぱりオークはタフだ。斬りつけられても反撃をしてくる。


 僕は強くなり数が増えた敵に無理はいけないということで、先輩に今日はここまでにしましょうと言った。


 先輩の戦うペースと残りMPを考え、このまま戦闘を続けるのは厳しいと考えたからだ。


 僕はまだいけるという先輩に「まだいける」は「もういけない」ということの合図ですとラノベで聞いたことのある言葉を伝え、強い意志でマジックテントを展開して先輩を押し込んだ。


 テントに入ると最初は不満そうな表情をしていた先輩だったけど、お風呂に入って出てきた時に『止めてくれてありがとう』と言われて僕も気持ちが軽くなった。


 先輩が言うには、どうも先輩はギリギリの戦いを望んでるフシがあるらしい。さっきはパーティであることを忘れ、一人で熱くなっていたそうなんだ。そして頭を冷やして僕の判断が正しいと思ってくれたらしい。


『これからも私が暴走しかけたら止めて欲しい。頼りにしているよリーダー』とか言われて僕は舞い上がっちゃったよ。


 そしてそのタイミングでドリームタイムがタイムアップして、僕は日曜日の朝を迎えたんだ。


 総合ポイントは着々と増えていて、900ptを超えていた。ボス戦もあったしね。見ている神様も楽しめたと思う。


 その日も土曜日と同じく小説を書いて投稿して書き溜めもした。途中ゲームなんかもしたけど、なんとか3話分を書き溜めることができたよ。


 そして夜になり夢の世界で先輩の作った夕食を一緒に食べ、いつもより少し近い距離でお互いに雑誌を読んだりして過ごした。そろそろ神様ショップに電化製品を入れたくなってきたよ。先輩と一緒にDVD観るのとかいいよね。それとなく本編に追加してみようかな。


 そんなことを考えながらマジックテントで眠りにつき、4日目の夢の世界での冒険を終えた。




 そして目が覚めて夢の世界での5日目の朝。


 ドリームタイムが14時間あることを確認し、僕は先輩の作った朝食を食べてから準備をして森へと冒険に出掛けた。


 夜と違い視界が広いこともあって僕の魔法は当たりやすく、先輩も戦いやすそうだった。


 やっぱり暗視のスキルがあっても、日中ほどよく見えるわけじゃないからね。これから夜の戦闘はなるべくなら控えた方がいいと思ったよ。


 そしてレベルもとうとう15に上がり、僕が『竜巻刃』の魔法を覚えてからは戦闘が一気に楽になった。僕が竜巻刃で弱らせて、先輩がトドメを刺すという連携で次々とオークはを倒していった。


 もうこの魔法があれば5体同時に現れてもなんとかなると思ったよ。欠点といえば発動に時間が掛かることくらいかな。でも探知の魔法で先制攻撃できるからその辺は気にならない。


 その日は夕方まで戦って、暗くなったらマジックテントに戻った。先輩も素直に言うことを聞いてくれて、なんかお互いの信頼関係が強くなった気がして嬉しかった。


 そして夜は先輩といっぱい話して、コンビニで買ったトランプや携帯オセロなんかして遊んだ。楽しそうな先輩の顔が見れて幸せだったなぁ。


 それからもう寝ようということになって、洗濯を先輩にお願いして幸せな気分で床についたところでドリームタイムが終了したんだ。



 でもこの時の僕は知らなかった。


 現実世界の先輩が、悪意あるドリームタブレットの所有者により大変な目に遭っていることを……






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