第21話 ランキング

 


「やあっ! 」


 タンッ!


「仁科さんやるなぁ」


 金曜日の授業も終わり放課後に、僕は弓術部の見学にきていた。


 射場の外から多くの生徒たちに紛れてだけど、さっき仁科さんと目が合って手を振ったら嬉しそうに笑ってくれた。見に行くって約束したからね。


 そして部内の練習試合が始まり、白い上衣に黒い胸当てと黒の袴姿の女性が五人並んで順に30mほど先にある的へと和弓を射っていった。仁科さんは五人目だ。


 試合で仁科さんは全射的中させている。掛け声も気合いが入っていて、射った瞬間に当たると思わせるほどだった。


 弓術は弓道とは若干違い、古武術的なものらしく射る時に掛け声をかける。歩射や連射というものもあり、見ていて面白い。


「やあっ! 」


 タンッ!


 パチパチパチ


「また当たった! 凄いなぁ」


 結局仁科さんは全射的中させて周りの部員や観覧者たちから拍手を受けていた。僕もめいっぱい拍手したよ。弓術のことは未だによくわからないけど、彼女がこの一年頑張ってきたことだけはわかった。


 仁科さんは嬉しそうな笑みを必死に堪えながら射場から出たあと、僕の方を向いて小さく手を振ってくれた。


 本当は大きく手を振りたいんだろうけど、中学の時に怒られたからね。僕も顧問の先生に睨まれたことがあるし、ちゃんと学習していてなによりだよ。


 それから僕は弓術部を後にして剣術部へと向かった。


 昨日は図書室に呼ばれてヒヤッとしたけど、夢の世界の先輩に確認して恐らく予知夢か何かだと思ってたんだろうということがわかったから安心して行けるよ。


 でも昨夜マジックテントを出たあとは大変だったなぁ。


 先輩に引っ張られる形で、僕たちはただひたすら魔物を求めて森の中を走り回ってた。危なくチュートリアルの道から外れそうになって、何度も先輩を別の道に誘導したっけ。


 そしてレベルが上がって僕が『探知』の魔法を覚えてから、狩りは加速した。


 ゴブリンアーチャーやウィザードが出てきても、先輩は矢や魔法を回避して余裕で戦ってたよ。それはもう楽しそうに。ただ、一度だけ初見の時にウィザードの火球が先輩をかすったんだけど、その時はゾクっとするほどの笑みを浮かべてたっけ。


 綺麗だったなぁ。


 まさかそのあと10時間ずっと戦い続けるとは思ってなかったけど。


 休憩なんてお昼を食べる時と、二時間置きにトイレ休憩としてマジックテントを出した時くらいだったよ。


 このペースじゃ小説の進行速度に追いつきそうだ。どこかで調整しないと。


 いや、無理だろうなぁ。先輩イキイキとしてたもん。


 これは小説の進行を早くするしかないよね。土日で一気に書き上げないと。



 僕がそんなことを考えているうちに剣術道場へと到着した。


 人気の武道であり週末ということもあり、見学者はかなり多くて僕は後ろの方で隙間から先輩の姿を見るのがやっとだった。


 道場ではちょうど先輩は下級生に稽古をつけている時で、構えを直したり細かい指導をしていた。


 あれ? 先輩の顔色悪い?


 道場内で指導している先輩の顔が、僕にはなんだか疲れているように見えた。


 昨日はあんなに凛とした雰囲気だったのに……


 まあ女の人は色々あるし、こういう時もあるよね。


 僕はそのあとも20分ほど稽古を見てから家に帰ることにした。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「ただいまー」


「お帰り優夜。また部活の見学してきたの? 」


「うん、中学の時の後輩がうちの学校にいてさ、見学してきたよ」


「あら? もしかして日曜日とかに試合を観に行ってた弓術をやってる子? 」


「そうそう、特待生として入学してきててびっくりしたよ」


「すごいわね。確か仁科さんだったかしら? がんばったのね」


「相当がんばったと思うよ。今日も全射的中させてたしね」


「あらあら、優夜も嬉しそうね」


「まあね」


 僕はそう言って洗面所に行き手を洗い、部屋へと向かった。


 相変わらず母さんの記憶力は凄いな。仁科さんの話なんてそんなにした事ないのに。


 あの記憶力がなんで僕に遺伝しなかったんだろ。


 僕はそんなことを考えながら部屋着へと着替え、さっそく小説の続きを書くべくドリームタブレットを開いた。


「あっ、そうか。確か今日からランキングが実装されてるんだった」


 僕は朝に見忘れていたタブレット画面を開き、お知らせにランキング実装と書かれていたのを見て今日から実装されていることを思い出した。


「ん? もう一つお知らせがある……ショップも週明けから実装かぁ。これは楽しみかも」


 お知らせはもう一つあり、そこにはショップが週明けにいよいよオープンしますというものだった。


 前作のポイントもあるから、土日に頑張れば何かを買えるかも!?


 僕は前作で稼いだ200Gと、今の作品のポイントを換金すれば健康体を買えるかもと少し期待していた。


「ランキングはあんまり知りたくないけど、気にはなるよね……ちょっとだけ……うっ……トップは12000ptとか……」


 怖いもの見たさに近い気分でランキングを覗いてみたけど、いきなりトップのポイント数を見て一気に見る気が失せていくのを感じていた。


「タイトル的になれる系ぽいな。きっと何作も書いたことある人なんだろうな。あれ? ほかの人の小説のあらすじすら読めないのか……参考にしたかったのにな」


 ランキングはただポイント数と順位とタイトルが並んでいるだけの物だった。


 もともとこのカミヨムサイトでは、ほかの作者の作品は読めなかった。きっとほかの人の作品を真似したりして、似たような作品ばかりになるのを防ぐ目的なのかも。


「小説家になれるサイトも何かがヒットするとそれ系ばかりになるし、妥当といえば妥当だよね」


 神様もよく調べてるなぁ。


 僕は順位をスクロールしながら、そんなことを考えて気を紛らわせていた。


 そしてついに僕の作品を見つけることができた。そこにははっきりと『僕と先輩の異世界恋戦記〜憧れの先輩と召喚された世界は魔物溢れるとんでもない世界だった!〜』と書かれていた。


「あ、あった……622ptで236位か……こんなもんだよね。しかし人のことは言えないけど、長いタイトルばっかりだ。なんというか復讐系のものも多いし……」


 僕より上の順位の作品の名前に病んでる感じなのがあるのを見て、この作品に負けてるのかと少し残念に思っていた。


 うーん……話数的に僕より後から書いたのが多いのに負けてるとか……これはやっぱ意識しちゃうよね。


 でも、昨日の夜だけでかなりドリームポイント稼げたから、すぐに順位は入れ替わりそうな予感がする。これは頑張って更新して、夜も先輩の戦闘についていかないと。もうすぐゴブリンキングとの戦いだしね。


 僕はこの土日で小説を書いて、夢の世界でボス戦をやれば十分逆転できると考えていた。


「それにしても300位中236位か……300位が60ptということは、やっぱり最初の300台分の人しか書いてないっぽいな」


 あのあとネットで広告で募集をしたりはしていないみたいだ。


 あの時応募しておいて本当によかった。


 でもやっぱり順位とか表示されると意識しちゃうよね。先輩との冒険の物語がそれくらいの価値だと思われるのは嫌だし。ここは上位を狙って頑張んなきゃ!


 僕はそれから机に座り、外部キーボードを接続して小説の続きを書き続けるのだった。


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