第23話 召喚

 



「う……ん……あ……戻ってきた……ふあ〜あ」


 僕は夢の世界から戻り、べッドから身をお越し大きな欠伸をした。


「夢の世界の先輩とは結構いい感じになってたなぁ。この調子でもっと距離を縮めていきたいな。できれば現実の先輩とも」


 もう先輩と話す時にそれほど緊張はしなくなった。覗き魔の生徒撃退の時と図書室のことで接点を得られたから、なんとか僕から積極的に声を掛けて距離を縮めないと。そして高校生のうちになんとか告白までいきたい。先輩が大学生になったらその機会すら無くなりそうだし。


 そのためにはやっぱりカミヨムショップのあのアイテムに期待しちゃうよね。健康と魅力に身長アップなんて憧れるし。この三つがあれば成功率が上がると思うんだよね。


「あっ! そうだ! 今日からカミヨムショップ実装するって書いてあったんだった」


 僕は週末に見たお知らせを思い出し、ワクワクしながらドリームタブレットを開いた。


「お知らせ通知? えっと、1000ptの達成報酬か。やっぱり達成してたみたいだ。今度はなんだろ? 」


 カミヨムサイトを開くと、先に達成報酬のお知らせが表示されていたので僕はまずその内容を確認した。


 するとそこには『1000pt達成報酬を獲得しました。今後ドリームタイムが3倍になり、任意のタイミングでドリームタイムを終了させることができます。尚、余ったドリームタイムは次回に繰り越されます(1時間単位)』と書かれていた。


「ドリームタイム3倍に任意のタイミングで終了できるのか。これは嬉しいな」


 今まではドリームタイムの残り時間を気にしながら、タイミングを合わせて休憩を提案してとかだったからね。これなら僕のタイミングで夢の世界での冒険を終わらせられる。


 それにドリームタイム3倍ってことは夢の世界に30時間もいれる。今の先輩との関係なら、前みたいに無理して長時間戦うこともないからこれは嬉しいな。


 次の達成報酬は3000ptになるみたいだ。この調子で行けば3週間後には達成できるかも。どんな報酬なのか楽しみだ。


  「ポイントは1089ptか。いい感じだよね」


 フォロワーさんも202人に評価も25人がしてくれたみたいだ。相変わらずドリームポイントの比率が高いけど、フォロワーさんが増えた分1日に稼げるポイントが安定してきたかも。


 ランキングも196位と着々と上がってきてる。ただ、相変わらず負の感情丸出しのタイトルの作品が上に何個もあるけど。みんなストレス溜まってるんだなぁ。


「この162位のは復讐系なのかな? 美少女剣士を屈服させてその他の可愛い子たちも奴隷にって……なんというか欲望に忠実というか、これでも1420ptも獲得してるのか……話数は僕より少ないけど文字数は圧倒的に多い。僕の平均2000文字はやっぱり少なすぎなのかなぁ」


 ランキングにあった復讐と煩悩全開のタイトル作品を見て、僕の三倍の文量だったことから文字数が多い方がいいのかなとか不安を感じていた。


 それかドリームタイム中の行動が凄く良いとか? でもこのタイトルからしてどう考えても鬼畜なエロ系な気がする。


 まあ神様も色々いると思うし、そういうのが好きな神様がフォローしてるんだろうな。邪神とか。


「そんなことよりもショップを確認しよっと」


 ランキングは気にしたら負けだし、別に順位が低くてもデメリットがないから気にしない気にしない。


 ボクは220人もの神様が読んでくれてるんだから、その人たちに楽しんでもらえばいいやと気持ちを切り替えて目的のショップを開いた。


「やった! ちゃんと実装されてる。どれどれ………え? な、なにこれ!? 嘘でしょ!? ホントに!? 」


 ショップを開くと予告にあったラインナップに無かった商品追加されていた。そしてその商品を見た僕は見間違いなんじゃないかと画面に顔がつくほど近付きもう一度よく見た。



【カミヨムショップ販売商品】


 ○300G【 ドリームタイム2倍チケット】……ドリームタイムが2倍になる(達成報酬との重複可)


  ○800G ☆限定1人1個☆【プチ整形】……目、鼻、口及び歯並びのいずれかを思い通りの形にできる。


 ○1000G【健康体】……体質が改善し健康になれる。あらゆる持病が治る。


 ○1000G 【休載チケット(1ヵ月)】


 ○1300G 【減量体質】……痩せやすくなる。


 ○1300G 【記憶力】……記憶力がアップする。


 ○1500G【成長1】……身長が10cmアップする。


 ○1500G【成長2】……バストが1カップアップする。


 ○1500G【筋肉体質】……筋肉がつきやすくなる。


 ○1800G【魅力】……魅力がアップして第一印象で好感を得られやすくなる。


 ○1800G【因果応報】……悪意を向けてきた相手が相応の不運に見舞われる。


 ○1800G【召喚】……作品に登場する現実世界の人物の魂を召喚する。効果期間:連載終了まで


 ○2000G【ラッキースケベ体質】……1日一度ラッキースケベが起こる。


  ※【召喚】を使用後、現実世界に悪影響を与えた場合は効果を停止させることがあります。

  ※ 限定商品は定期的に更新されます。


「間違いない。召喚……現実の先輩をあの世界に呼べる? 夢の世界の先輩の身体に魂が入るってこと? つまり現実世界の先輩になるってことだよね? 」


 商品は当初のものより『プチ整形』と『休載チケット』と『召喚』の3つが増えており、僕はその中でも『召喚』の効果に驚きを隠せなかった。


 注意書きに現実世界に悪影響を及ぼせば無効になると書いてあるのは、ランキングのタイトルとか見てると変な人がいるからその対策だと思う。当然そういう人が悪用しようとすれば制限すべきだ。特に現実の女の子たちを奴隷にするとかうたっている作品には使って欲しくない商品だしね。


「うーん……魅力だ。凄い魅力だけど……まだまだこれを使うのは先の話だよね」


 召喚は凄い。けど本人の了承なしにいきなり呼ぶわけにもいかない。そうなると事前に先輩の了承を得ないといけない。


 なんて了承を取ればいいんだろ?


 僕の夢の中に招待してもいいですか? とか?


 言えるわけない! 高確率でこの子なに言ってんの? て思われるし、ロマンチック系厨二患者だと思われて愛想笑いで流されたら僕は立ち直れる自信がない。


 そうなるとドリームタブレットの話からしないといけないけど、これだってそうそう信じてもらえるような代物じゃない。もしも信じてもらえたとしても、やっぱり図書室のあの予知夢みたいなのは僕が原因だったのかと怒られる可能性だってある。


 それよりなにより誘う勇気が僕にはない。


「これは先輩ともっと親密になってからしか言えないよね」


 でも先輩と恋人同士になれたら夢の世界でずっとデートできるし、同棲もできるってことだよね。今は恋人同士になること自体が夢だけど……


「恋人がいる人はすぐにこれを買って、今夜にでも夢の世界でイチャイチャするんだろうなぁ。いいなぁ」


 僕もいつかきっと先輩を夢の世界に……


 今はそのために必要なアイテムを買うべきだよね。


 僕はショップの右上にある所持金の総額を確認して、いま買えるものを選ぶことにした。


「前作の200くらいあったポイントも合わせて1282Gか。『健康体』一択なはずなんだけど、この限定商品がすごく気になる……」


 プチ整形……僕は部屋の姿鏡に映る自分の顔を見て、もう少し鼻が高ければイケメン風になれるかもと心が揺れていた。


「せめて固定された商品ならいいのに、定期的に更新されるって……」


 いつ? いつなくなるの? こういうテレビショッピングみたいな売り方やめて欲しい。


 僕は昔読んだネットの記事に、女性は限定とか今だけという言葉に弱いと書いてあったのを思い出した。そしてこういうことかと身をもって実感していた。


 これは先にプチ整形を取るべきかな? そうなると残り682Gになる。1pt1Gだから、318pt稼げば『健康体』か。買える。1日平均110pt獲得してるから、今のペースなら3日でいける。でも3日後にさすがにラインナップが変わってるとも思えないし、やっぱり当初の予定通り健康体を取ってあとでゆっくり理想の鼻の形を考えて……


『優夜〜まだ寝てるの? 遅刻するわよ〜』


「あっ! はーい! 起きてるよー! 」


 しまった! 迷ってたら学校に行く時間になっちゃった。


 僕は学校から帰ってからゆっくり考えることにして、朝の小説更新だけ済ませて急いで着替えた。


 そして大急ぎで歯を磨いてパンをかじりながら家を出た。


 それから登校中にスマホでモテる鼻の形をずっと調べていたんだけど、よく考えたら突然鼻が高くなったら三上とかに絶対整形しただろとか言われると思って整形を泣く泣く諦めることにした。


 僕にはまだ早かったんだ……帰ったら健康体を買おう。


 その次にポイントを貯めて魅力かな。身長もバレそうだけど、成長期で押し切るしかない。そして最終的にはラッキースケベを買いたいな。どんなに嫌なことがあった日でも、きっと幸せな気分で過ごせるに違いないと思うんだ。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「オッス! 優夜! どうしたんだよ、ギリギリなんてらしくねえじゃねえか」


「おはよう三上。ちょっと寝坊しちゃってさ」


 僕が一階の下駄箱で上履きに履き替えていると、三上がちょうど登校してきた。


 三上は毎日ギリギリのこの時間に登校してくる。毎日ギリギリに来れるならもっと早く来れそうな気がするんだけどね。本人にその気がないのはわかってるから、いちいち言わないけど。


「珍しいこともあんだな。それより朝練を終えた鬼龍院先輩をさっき見かけんだけどさ、なんか具合悪そうだったな」


「え!? 先輩が!? 」


 そういえば金曜日の放課後の部活動の時も調子が悪そうだった。風邪でも引いたのかな……


「ああ、目もとがな。なんか重そうだった。化粧して誤魔化してたけど、たぶん隈もできてると思う」


「目の下に隈……寝不足なのかな……」


 眠れないほど何かに悩んでるとか? 婚約者のこととかかな? あんまり好きじゃないっぽいし。


「たぶんな。それより急がないとセンセーがもう来るぞ? 」


「あ、うん……」


 僕は三上に言われて時計を見て急いで教室へと向かった。


 そしてなんとかホームルームに間に合い、午前の授業を終え昼休みになった。


 僕は先輩が心配で三上に今日は一人でお弁当を食べると言い、3年生の教室を少し覗きにいった。三上は全部わかってるって顔をして笑ってたけどね。


 でも廊下から見える3年C組の教室には、先輩もいつも一緒にいる女子生徒たちもいなかった。その後、何度か見かけたことのある屋上や中庭にも行ったけどそこにもいなかった。


 結局僕は教室に戻ってお弁当を食べることになった。


 それから僕がお弁当を食べ終わり、お昼休みもあと少しで終わる頃。三上が教室に戻ってきた。


「優夜。鬼龍院先輩が階段を踏み外して怪我をしたみたいだ。さっき保健室に運ばれているのを見た」


「ええ!? 先輩が怪我!? 」


 僕は机の前に来た三上から先輩が怪我をしたと聞いて、片付け途中だったお弁当箱を取り落とすほど驚いていた。


「大怪我とかには見えなかった。女子に肩を借りてケンケンして歩いてたから、多分捻挫か何かだと思う。夏の大会には間に合うと思うけど、らしくないよな。やっぱり体調が悪かったんだろうな」


「捻挫……先輩が……ちょっと保健室に行ってくる! 先生には具合が悪くなったとでも言っておいて」


「お、おい! 優夜! ったく、しょうがねえな」


 僕は居てもたってもいられず席を立ち教室を出た。


 あの運動神経抜群の先輩が階段を踏み外すなんて……


 僕ははやる気持ちを抑えつつ、早歩きで一階の保健室へと向かったのだった。






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