第19話 呼び出し

 



「やった! 500pt達成! しかもフォロワー数も107人! 」


 僕は夢の世界から戻り、タブレットでカミヨムサイトを開いてポイントを確認していた。


 するとフォロワー数がかなり増えており、長時間夢の世界にいたせいかドリームタイムポイントも一晩で100pt以上獲得していた。その結果、総合Ptが506ptに増えていた。


「フォロワー数によるポイントが214ptで、小説の評価が11人。ドリームタイムポイントが250ptか……差し引くと僕の小説の評価な平均3ptということかな? 5段階評価で3なら良い方だよね。可もなく不可もなくってことなんだろうけど。感想は……やっぱ無いよね〜」


 いいんだ。続けてればいフォロワーも増えていくし、いつか感想をもらえるはず。


 今日も学校から帰ってきたら小説を書きまくって更新しないと。まだ小説は6話だし、これからドキドキワクワク展開が待ってるしね。そこで一気に評価が上がる……はず。


「あっ、お知らせが更新されてる……え? 明日からもうランキングが実装されるのか。総合ポイントで順位付けね……上位はフォローを得られやすくなるんだろうな。僕は多分下から数えた方が早そうだけど」


 総合ポイント画面を閉じようとしたら、お知らせが更新されていたので開いて確認してみた。するとランキングが明日から実装されるとの告知だった。


 詳細を見るとほかの小説投稿サイトと同じで、ランキング上位者はフォローが増えやすいというメリット以外には特に特典などはないようだ。


「ん? 注意書きのこれはどういう意味だろう? 」


 僕はランキングシステムの説明の下部にあった、注意書きの意味がイマイチよくわからなかった。


 そこには『ランキングの上位者には優先権があります』とだけ書かれていた。


「何かイベントとかやる時の優先権かな? ショップで数量限定商品が出た時とか? きっとそんなとこかな」


 多分ショップっぽいよね。凄い効果のある、例えばイケメンになれる商品とかあったら欲しがる人が多そうだし。高そうだから僕には手が出ないだろうけど。そういう時にモメないようにランキングで優先権を決めるんだろうね。欲しかったら面白い小説を書いて、夢の中でも神様たちを楽しませろってね。


 僕は手が届きそうな健康体になれるやつと、魅力が上がるやつが欲しいかな。健康になって身体を鍛えて、魅力を上げて告白って流れが一番成功率高いと思うんだよね。先輩の許婚のことは考えない。想いさえ通じればきっと何とかなる。と思う。


「でも500ptかぁ。今夜は10時間も先輩と冒険ができる。一緒に朝食を食べて戦って……」


『優夜〜朝よ〜まだ寝てるの〜? 』


「あっ! もう支度しなきゃ! 」


 僕が早くも夜のことを考えてウキウキしていると母さんが呼ぶ声が聞こえ、慌てて洗面所へと向かったのだった。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「三上、お昼だよ。起きなって」


「んあ? もう? 」


「数学の授業中に爆睡し過ぎだよ」


 僕は寝ぼけ眼の三上にそう言って呆れた。


「あ〜あのハゲの授業は退屈すぎなんだよな〜」


「これで僕と数学の点数が同じとか……理不尽だ」


「わはは! 要領ってやつだ! って、やべっ! 購買に行かないと惣菜パンが売り切れちまう! んじゃちょっくら行ってくるわ! 優夜は今日はここで食うんだろ? 」


「うん、今日は教室で食べるよ」


「なら買ったら戻ってくるわ! じゃあな! 」


「わかった」


 僕はあわてて教室を出て行く三上にそう言って見送り、カバンから弁当を取り出した。


「ゆ、優夜! 」


「どうしたの三上? 忘れもの? 」


「お、お客さんだ……」


 弁当を机に置いたところで突然教室の入口が勢いよく開き、今出ていったばかりの三上が現れ僕を呼んだ。僕が忘れ物でもしたのかと聞くと、三上は生唾を飲み込むような仕草をしたのちにお客さんとだけ呟いた。


「お客さん? 僕に? 」


 僕にお客さんなんて誰だろう? もしかして仁科さんかな?


 今日にでも練習見に来いとでも言いにきたのかも。ならあんまり上級生の教室の前で待たせたらかわいそうだよね。早く廊下に出なきゃ。


 僕はそう思って席を立ち三上のいる教室の入口に向かうと、三上が衝撃的な言葉を僕に投げかけた。


「ああ、鬼龍院先輩が話があるそうなんだ 」


「え? 」


 僕は三上の言葉に耳を疑い、次にドアの影から現れた先輩を見て固まった。


「土御門君。食事の時間にすまない。少し付き合ってもらいたいんだが、いいだろうか? なに、時間は取らせないよ」


「え? ぼ、僕にですか!? 」


 僕は先輩の言葉に混乱した。


 教室に残っていたクラスの皆も、驚いた表情で先輩と僕を交互に見ている。


「ああそうだ土御門君。君に用があって来たんだ。付き合ってもらえるかな? 」


「ぼ、僕に……は、はい! 行きます! 」


「ありがとう。時間は取らせないよ」


 僕はクラスの皆の視線を全力で無視して、小走りで先輩の前へと向かった。


 先輩が僕に会いに来てくれた! 理由はわからないけど僕に会いに!


 僕はただ嬉しくて犬のように尻尾を振って先輩の前に立ち、何かを言いたげな三上に満面の笑みを向けて先輩のあとを付いて行った。


 な、なんだろう? 僕に用ってなんだろう? もしかしてあの覗き魔の一件で僕に興味が? いやいやいや、それはさすがにあり得ないか。ちょっと浮かれすぎかも。


 でも行き先が校舎裏とかならもしかしたらもしかする? いやでも僕なんかに先輩からなんて……でもほかにわざわざ下級生の教室まで僕を呼びに来る理由が……


 僕は先輩の後ろをついて行きながら、先輩が僕を呼び出した理由を考え勝手にドキドキしていた。


 そして先輩は階段で一階に下りると、隣の第二校舎に繋がる連絡通路を進み階段を上り二階の図書室の前で止まった。


「図書室……ですか? 」


「ああ、ちょっと付き合ってくれ」


「は、はい」


 僕は図書室に何をするんだろうと思いつつも、ドアを開けて入っていく先輩の後を付いて行った。


 皇桜学園の図書室は広く、この第二校舎の二階の半分ほどの面積を占有している。

 参考書や文学、武術関連の棚の前には読書スペースが設けられており、昼休みや放課後などはそこそこ人が集まる。


 ただ、図書室の隅にある武術関連の書籍を昼休みに読みに来る人は少なく、読書スペースは無人なことが多い。


 先輩は図書室に入ると真っ直ぐその武術関連の棚のある方向へと歩いていった。


 僕は静かな人気のない場所で話がしたいのかなと、ドキドキしながら付いて行った。


「ここだったな。土御門君、悪いがそこの机の奥に座ってもらえるか? 」


「え? は、はい……」


 僕は先輩に指定された、5人が向かい合って座れる長机の一番端に腰掛けた。


 すると先輩は棚から武術関連の本を取り出し、僕の一つ隣りの席へと座り本を読み始めた。


 あれ? このシチュエーションはどこかで……


「ふむ……ふふっ……」


「え? 」


 先輩は本を数ページめくったあとに閉じて、少し考える素振りを見せた後に薄く笑ったと思ったら席を立った。


「いや、なんでもない。少し確認したいことがあったんだ。もうわかったから用は済んだよ。変なことに付き合わせてすまなかった」


「え? 確認したいこと? え? え? 」


「こっちの話だ。呼び出しておいて悪かったね。私のわがままに付き合ってくれてありがとう。お礼に今度購買で何か奢ろう」


「は、はあ……」


「ふふっ……変な女だと思うのも仕方ないな。今日のことは忘れてくれ。それでは私は失礼するよ。付き合ってくれてありがとう」


「い、いえ! そんな……」


 先輩は自虐的に笑いながら本を元の場所に戻し去って行った。僕はその後ろ姿を呆然と見送っていた。


 あれ? 付き合って欲しい場所って図書室? それに確認したいことって……あっ! 昼休みの図書室でこの席! それに先輩の座っていた席も!


「僕の小説のプロローグと同じだ……」


 僕がこの席に座っていたところに、一つ席を空けた場所に先輩が座り本を読み始めた。小説ではこのタイミングで足もとに突然魔法陣が現れるんだ。


 先輩は僕に先に座らせた。そして本を持った先輩が後から座って本を読み始めた。小説に書いた席と同じ席で……


 まさか……まさか先輩は夢の中の世界を知っている?


 僕がこの三日間、夢の世界で接していた先輩は本物だった? 先輩も夢の中で僕と冒険をしていた?


 そんな夢が三日間続いたから何かを確認しようとした? 僕が何かを知ってるんじゃないかと僕の反応を見てた?


 いや、でもおかしい。夢の世界の先輩はこの間の覗き魔のことは知らなかった。


 夢の中の先輩が現実の先輩なら知ってないとおかしい。


 それに夢のことは一言も言ってなかった。


 ならこれは偶然? それこそ不自然だ。先輩とまともに話したのは、おとといの覗き魔たちを捕まえたあの時が初めてだし……そんな先輩にとって顔見知り程度の僕を図書室に連れてくる? そして何を話す訳でもなく座っただけで用が済んだ? そんなの不自然過ぎる。


 でもいくらなんでも小説に登場させただけで、現実世界の本人の夢に干渉できるなんて信じられない。


 いくら神様でもそこまでするなんてことは……


 でも先輩の行動は僕の小説の中の行動そのもの。


 いったい夢の中の先輩は僕が創った先輩なのか、僕と同じように本物の意識が入っている先輩なのか……


 駄目だ。考えてもわかない。


 今夜夢の中の先輩に現実世界の意識があるか聞いてみよう。


 それでもしも現実世界の先輩の意識が入っていたのなら、先輩にドリームタブレットのことを話して謝ろう。そしてあの小説を書くのはやめて前作の世界に行こう。


 先輩と一緒にいられなくなるのは残念だけど、他人の夢に干渉なんてしたら駄目だ。


 僕はそう決意して教室へ戻ったのだった。




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